第25日 異世界VS日本食 補遺の4 2.5次元の幻像
――宣伝効果があるサンプルというのは、本物にどれほど似ているかということではなく、イメージ喚起力の強さで決まる。
『食品サンプルの誕生』
いったい、文章をもって人に食欲を喚起せしめる表現とは可能であるのか?
そんな実にバカバカしいことを考えました。
わたし達が、ネット小説の世界でも使用するあの概念、いわゆる「飯テロ」は狙って引き起こすことが可能なのか? 必死に自分の思いつく限りの「おいしそうなシーン」を書いていけば読者のお腹がすくのか、それとも何か引き金のようなものを意図的に計画的に織り込んで読み手の欲望を操るのか。
と、そんなことを考えている時に本書『食品サンプルの誕生』を読みました。
身近でありながら、その歴史についてまとめられることの無かった食品サンプルについて、その誕生と歴史、進歩、世界展開、そして現在へと俯瞰できるよい本です。
なかでも興味深かったのは、よく「本物そっくり」と表現される「食品サンプル」が、宣伝媒体としての存在意義から言えば、けっして、「そっくり」を最終目的として作られてはいないのだと、書かれていたことです。
つまり「ビール」のサンプルを作るなら、ビールの本物そっくりなサンプルではなく、「ビールが飲みたくなる」サンプルでなければならない。
突き詰めるのは、実物の再現度ではなく、来店する人に食事の内容を想起させるのに適切な「記号」を揃えること。その記号の集合体が「食品サンプル」。
――なるほど。と、かっぱ橋で買ったオレオのキーホルダーを見ながら納得した午後三時。
では文字なら? 文章で人の食欲を刺激しえる記号があるなら、それはどんな言葉、描写なのでしょうか。匂いや感触か、調理の工程の説明か、素材の来歴か、食べた人の感動の様子、作り手の想い。それとも、なつかしい記憶。
――やはり、どこかにあるはずなのです。「おいしそう。」のトリガーは。
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