◆アリス・ドライブ その4
※書籍1巻、オーバーラップ文庫にて好評発売中です。
よろしくおねがいします。
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たかーい山!
しろーい雲!
今、わたしは幽神霊廟21層に来ています!
21層から30層にかけては高山のステージなんですね。
1合目から10合目がそのまんま21層から30層に対応してるという感じです。
ガーゴイルから聞いた話によると、今までと違って層の境目がありません。
そのままするっとボスの守護神のところまで辿り着けます。
一見簡単なようですが、道そのものが非常に険しいです。
岩壁を登らなきゃいけないようなところもあります。
『クライミングかー』
『標高はどのくらい?』
地球の単位に換算すると、5千メートルくらいだそうです。
『ガチじゃん』
『富士山より高いし、魔物が出ると考えると相当やべーよ』
『え、初めてでいきなり無酸素登頂するの? 5千メートル級の山を?』
むさんそとーちょー?
『標高が高くなればなるほど気圧が下がって空気が薄くなる』
『息苦しくなったり頭痛がする』
『体を慣らしながら登らないと高山病になるよ』
あ、それは多分大丈夫です。
常時回復魔法を使えば息苦しいの防げますから。
『チートだよ!』
『これはずるい』
『でも氷河の世界でもピンピンしてたしな……』
ふふふ……これでおわかりですね?
私のフィジカルと、この秘密ガジェットがあれば……!
通常であれば一週間近くかかるであろう高山地帯を、一日で攻略してみせますよ!
『なんだかわからんがすごい自信だ』
さあ、それではお披露目です、これがドクターアリス三号機です!
『おっ、今までで一番格好良い』
『サーフボード……っていうより、すごくでかいラウンドシールド?』
★☆★天下一ゆみみ:完成ご祝儀 \30,000★☆★
ご説明しましょう!
この盾の内部にはジャイロ効果を発生させるプロペラが4つ付いています。
カバーをオープンすると、ほら。
『穴開けた盾に産業用ドローンをくっつけただけじゃん』
はい、そんな感じですね。
で、これは乗り物というよりは補助器具です。
空を飛ぶ魔法を使える人のための補助輪、といったところでしょうか。
空を飛ぶためのスノーボードやスキー板という感じで、これ自体が推進力を持つわけじゃありません。あくまでふらつき防止をしてくれるだけです。
そして盾の曲面を利用して、様々な方向の風を受けて旋回したりできます。
じゃ……まずはホバリングからいってみましょうか……!
ポチっとな!
『おお……浮遊してる……!』
『今までで一番スタイリッシュじゃん』
飛行魔法は姿勢が安定しなくて油断するときりもみ回転したり墜落するんで好きじゃなかったんですが、これはバランス取りやすくていいですね……!
今までなぜこれがなかったのか不思議なくらいです!
ではちょっと出発してみましょうか。
BGMいじる暇がないので、みなさん勝手にノリノリのダンスミュージックとか掛けながら御覧ください。
『おっ、今までになく調子に乗ってる』
次は発進してみましょうか。
このまま斜面を駆け上がる感じで飛んでみましょう。
もちろんスピードも出していきますよ……それっ……!
『けっこう安定して飛んでる』
『エアボードってよりは小型のホバークラフトに近いのかな』
『倒木とか岩もすいすい避けてる。やるやん』
★☆★吉沢太一郎:ドクターアリス! 実験成功おめでとうございます! \10,000★☆★
スタチャありがとうございます!
見ましたかこのドクターアリス三号機を!
ところで今速度計を見ると、時速30キロくらいですね。
うーん、楽ちん楽ちん。
本来なら登山用の装備を持ってきて一ヶ月とか掛けてじっくり攻略するべきなんですが、この分だと半日かかりませんね。
いや、半日かけるのもちょっと配信としては長すぎますか。
ギアを上げていきますよ!
◆
えー、想定外のことが発生しました。
「想定外は、ええと、こっちのセリフなんですが……」
こちら、30層のボス、風神様です。
オーガ型の魔物の進化系だそうで、めっちゃ強いらしいです。
それで、風神様的にはこのドクターアリス三号機、アウトらしくて。
「すみません……。ウチでそういうのはちょっと……ルールの範囲外っていうか……」
いえ、こちらこそすみません。
「本来、飛行魔法も一定の高さになると無効化する結界があるんですよ」
あ、そうなんですか。
低空飛行してたから引っかからなかったって話なんですね。
「ジャンプするとかならともかく、そういうのは試練にならないんで……。攻略するために知恵を絞ってくれるのを否定したくはないんですけど、ここの階層については空を飛ばずに地に足つけて攻略するのも試練の一貫っていうか……」
だ、そうです。
「僕だけの判断で決定するのもアレなので、アリかナシか他の守護者と相談してみます。先の階層に進むのは結論が出るまで待っていただけると……」
一概にダメってわけでもないんですね?
「想定外なんでなんとも言えなくて……。ほら、幽神霊廟ってここを突破する力があるかどうかの試験みたいなものですので。あなたほど強ければスルーパスでもいいとは思うんですけど、そこはほら、制度的な建前ってあるじゃないですか」
なんかお役人さんみたいな……。
ていうかスプリガンとはけっこう認識違いますね?
「若い子はそんなもんですよ」
スプリガンも千歳超えてたけど若いんですね。
あ、でも、攻略を度外視するなら飛行してもいいですか?
高山エリアは見晴らしもいいし、撮影とかにもってこいですし。
「ええー……」
あっ、ダメな感じですか?
「木とか花とか荒らされたらやだなって……。僕、ガーデニング趣味なんですよ。東の方の山頂あたりは自分の好きな植物植えてますし、あと野菜とかも育ててます」
……けっこう文化的な生活送ってますね?
あ、じゃあこうしましょう。
大事な庭は傷つけたりしません。記録映像として残すだけで。
あと、特に管理してないエリアは遊び場として使わせてもらえたら嬉しいなって。
「そ、そうですか」
ダメです?
「そもそもこんな交渉しかけてくる冒険者の人、初めてですよ……」
それはそうかもしれません。
でも風神さんも割と、なんていうか……人見知り?
「はい……。今もめっちゃ怖いし、話しすぎて疲れました……。千年ぶりに会話したから喉痛いです……ごほっ、ごほっ」
あー……なんかすみません。
ところで、他にも聞きたいことが色々あるんですけど。
「えっと、人の話聞いてる……?」
◆
はい、ただいま部屋に戻りました。
風神さんとは交渉完了したところです。
『風神さんめちゃめちゃ疲れてたぞ』
『千年ぶりに会話したとか言ってたし』
『引きこもりに無茶させるなw』
いやー、そこは、もう、すみません。
風神さんみたいな守護者さんは珍しくてつい。
『ついではないが』
さて、先の階層に進めるかどうかはともかく、攻略に関与しないならばドクターアリス三号機は使っても大丈夫そうですね。
お礼としてデジタル一眼レフで植物の写真取ったら風神さんも大喜びしてくれましたし、あとで印刷してアルバムとか作って渡そうと思います。他にもガーデニング関係のものを渡したら色々と喜んでくれそうですね。
……ってわけで!
新たな遊び場が確保できましたよぉぉぉ!
『他人んちのお墓を秘密基地と認識するやべーやつ』
それを言わないでください!
確かにここはお墓ではあるんですが。
で、でも! そもそもの話ですよ!
この手の迷宮を攻略する冒険者たちを悪く言えば、みんな墓泥棒じゃないですか!
墓泥棒よりはワンパクなだけの配信者の方がマシです!
『そこは議論の余地があると思うなぁ……』
『そっちは冒険者が職業として成り立ってる世界でしょ!』
確かに、なんで冒険者なんて職業がこっちの世界で成り立ってるんでしょうね……?
刃物振り回して迷宮を攻略するのって、地球の感覚だともしかしてヤバいやつですか?
『そこに切り込んで良いんだ』
『深く考えてはいけない』
『ファンタジー世界の住民がメタ認識しないでくれ』
『それより今度は登山泊とかポータレッジとかやろうよ』
★☆★天下一ゆみみ:モ○ベルとコラボしてグッズ作れオラッ! \30,000★☆★
あー、登山グッズいいですよねー。
ボロボロのマント着て地べたに寝るより、ちゃんとした寝袋使いたいです。
ウルトラライト系の登山ウェアとかも着たいですし。
これからどんどんやること、やりたいことを増やしていきましょー!
今日のところはこのあたりで失礼します。
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まったねー!
◆
レストラン『しろうさぎ』の住居スペース。
そこのソファーに並んで座る誠とアリスは、激しく後悔していた。
ビールを飲み、そして誠が作ったホットスナックを囓り、げらげらと爆笑しながら自分たちが投稿した動画を眺めていたら、もう朝の7時だ。アリスが来て3日目というのに、今日もだらだらと過ごしてしまった。
物置となっている部屋を片付けてアリスの私物を収納したり、新生活の準備をするはずが、順調に予定が遅れている。
「あー、なんかごめん。けっこう酔った……」
「す、すみません、私もつい……楽しくなってしまって……」
ずっと会えなかった二人だったというのにそこにはロマンもへったくれもなく、パソコンモニタの前でぐでんぐでんになっている。
その周囲にはビールの空き缶や、料理を食べ終えた後の皿がゴロゴロと転がっている。
「か、片付けくらいしておきます……」
「酔っ払ってるし疲れてるだろ。もう今日はダメだ。一日休もう」
「す、すみません……なんでこうなったのか……」
「コンテンツ力が高すぎるのが悪い」
「なにせ、面白い女ですから」
誠の言葉に、アリスがにやっと笑う。
ソファーで肩を寄せ合い、毛布を被る。
「ま、今日はだらしなく過ごしちゃったけど……また明日から色んなことやってこうな」
「……はい」
返事をするアリスの口調がとろんとしている。
誠の方にも抗えない睡魔がやってきて、瞼が鉛のように重くなる。
やがて、二人の寝息が重なる。
こうして今宵も、自堕落に甘やかに過ぎていくのだった。
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