ブックカフェでコーヒーを

そばあきな

ブックカフェでコーヒーを

 最近、俺の家から電車に乗って十分ほどで行ける本屋がリニューアルして、横にカフェが併設された。


 飲み物や軽食をとりながら、店内の本を読むことができる今風のサービス。

 いわゆるブックカフェの形式になって、前よりも客が増えた気がするから、リニューアルの効果はあったのだろう。


 休日は電車に乗って、本屋の横に併設されたカフェに入り、そこでコーヒーを片手に本を読み進めるのが、俺の最近のお気に入りだった。

 電車で十分ほどの距離ということもあり、来ている客もなんとなく見知った顔が多い。

 俺の両親の知り合いらしい年配の人から話かけられ、少しだけ雑談をする、ということも何度かあった。


 しかし、今日は見知らぬ顔があった。


 長い髪を一つに束ねた、高嶺の花と噂されていても納得してしまうほどきれいな同年代くらいの女性。

 テーブルにつき、厚そうなハードカバーの小説を読む姿は、落ち着いた店内と相まって絵になっていた。


 ――正直言って、タイプだった。


 いつもの顔なじみの近所の人たちとは違い、この機会を逃せば二度と会えないかもしれない。


 声をかけようか、どうしようか。

 しかし声をかけたとして、何を話せばいいのだろうか。


 そんなことを考えていると、ふいに彼女のテーブルに置かれたスマートフォンの画面がチカチカと点滅する。

 その画面を見た彼女の表情がパッと明るくなり、そそくさと片付けして出て行ってしまった。


 その姿を目で追っていくと、カフェの外で俺とは違って明るそうな男と顔を合わせ、笑顔で何かを話す彼女が見えた。


 ――やっぱり現実は、フィクションとは違う。


 美人なのに放っておかれている高嶺の花なんておらず、もし一人でいたとしても、すでに相手がいると考えなければならないのだ。


 仲睦まじげに歩いていく高嶺の花と男を横目に、俺は少し冷めてしまったコーヒーをあおる。


 どうしてだか、先ほど飲んだ時よりも苦い気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ブックカフェでコーヒーを そばあきな @sobaakina

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ