033 だからみんな美少女になりたがるんだ
メビウスとモアが呆気にとられているのを良いことに、その金髪の美少年は続ける。
「知っての通り、おれのアニキはアーク・ロイヤル。その傘下に入れば良いって思ってるかもしれねぇけど──」
「いや、まず傘下というのが良く分からんのだが」
「MIH学園に派閥ってあるだろ? それの吸収合併版だよ! もうアーク・ロイヤルの弟としてない見栄張り続けるのは疲れたんだ! 頼むから、おれをアンタの庇護の元へ置いてくれ!」
「いやいや、意味分かんない」モアが反応を示し、「貴方自分で言ったこと分かってる? アーク先輩の弟だっていうんなら、あのヒトに守ってもらえば良いじゃん。なんか恨み買う真似でもしたの?」
「……。おれとアニキは関係が断絶状態なんだよ。腹違いだからか、もう数年会話してねぇ」
「腹違いなのか?」メビウスが興味を見せる。
「ああ。あのヒトは側室の息子だからな。おれの母ちゃんは本妻らしいけど。元王族だかなんだか知らねぇけど、なんでロスト・エンジェルスの家庭に母親が何人もいるのか分かんねぇ」
どうにも家庭環境に問題のある連中ばかり集まってくる。子どもの頃にはすでに両親を亡くしているモア、着払いで血がつながっているのかも分からない父親の元へ送り込まれたフロンティア、そしてロスト・エンジェルスと考えれば時代錯誤としか思えない家族に悩まされるケーラ・ロイヤル。
問題がない人間は存在しないが、問題だらけの人間は数多にいる。どこか寂しそうな目つきをするケーラも、喋り方がお通夜のごとく暗いモアも、皆メビウスが守らねばならない。
「分かったよ、ケーラくん。私の配下に加わりたいのなら好きにすれば良いさ」
「マジか! ありがとう!」
「えっ? 良いの?」
「別に減るものではないだろう。さて、目的を果たそうか」
モアがある程度回復したのを知り、メビウスは安心したような表情で共に街を歩いていくのだった。
*
「よう、アーク」
「やあ、ルーシ」
銀髪碧眼の幼女ルーシ・レイノルズは、たまたま学校で出くわしたアーク・ロイヤルにコーラの缶を差し出す。
「ん。ありがとう」
「すこし話そうぜ。暇だしな」
「良いけど、あたり一面に倒れてるこのヒトたち、ルーシがやったの?」
「まあな」
「魔力不足で脚ピクピクさせてるよ? まあ絡まれたんだろうけどさ」
ルーシはメビウスに敗れた。MIH学園の評定金額で圧倒的1位に君臨する幼女が、である。それが故、その幼女は絡まれやすくなった。いまも地べたには十数人の生徒が転がっている。
「それで? バンデージって生徒の正体分かったの?」
「おお。やはり誰かが入り込んでいると思っていたか」
「そりゃもちろん……」
アークはコーラに口だけつけ、ルーシをジロリと見据える。
「目の前に男から幼女に、しかも異世界転生してきたヒトがいればそれくらい疑いたくなるさ」
転生者ルーシはニヤリと笑う。
「ぼくは時々君がひどく羨ましいときがある。人間誰しもが美少女になりたいんだからさ」
「私は思ったことなかったが」
「なってみた感想は?」
「すこしばかり心にやすらぎが生まれたかもな。セラピーも週一回から一ヶ月に一回程度に減ったよ」
「でしょ? だからみんな美少女になりたがるんだ」
アーク・ロイヤルとは、すなわちこういうヤツである。
ロスト・エンジェルス最強の魔術師セブン・スターと囃し立てられても、同級生と会話しているときは(そのクラスメイトは10歳程度の幼女だが)普通の少年なのだ。
「分からねェなぁ。前世の弟も熱弁していたが」
「……。弟ねえ」
「ケーラのことが引っかかっているのかい? あの悪ガキ、この前はメリットに噛み付いていたらしい。もうすでにバンデージへ吠えているかもな」
「それならきっと、バンデージさんの子分になってるよ」
「なぜ?」
「もうアーク・ロイヤルの弟として粋がるのは割に合わないと感じてそうだし」
「かもな。あのガキはすこし強がりすぎだ」
「ねえ、ルーシ」
「あ?」
アークは写真を数枚ルーシへ投げつけた。
「ンだぁ、こりゃ」
「宇宙方面軍からの衛星写真。これどう見てもMIH学園一学年のモアちゃんの耳削ぎ落としてるよね?」
「フェイクつくるのは簡単だぞ」
「ぼくがそんなまどろっこしい真似すると思う?」
「思わないが、私はこんなこと一切やっていない」
「そう言うと思ったよ」
写真は魔術と技術のハイブリット品となっており、古めかしい紙の画は映像のごとく変わっていく。そこには、メビウスと衝突するルーシが映し出されていた。
「君、死にたいの? このバンデージって生徒、メビウス上級大将でしょ? いくら加齢で衰えたとはいえ肉体は若返ってるんだし、まさか敵うと思って挑んだ感じ?」
「オマエ、ナチュナルにヒトを煽る癖あるよなぁ……」ルーシは目を細め、「しゃーねェんだよ。あのモアってガキは私のビジネスの邪魔をしやがった。だから見せしめとして耳ちょん切ってやったらこのザマだ。いまじゃ勘違いして吹き上がったカスどもの魔力抜くだけの立場だよ」
「見せしめが必要なビジネスなんて聞いたこともないけど、ルーシはこれからバンデージさんやモアちゃんと対峙するつもりあるの?」
ルーシは強い溜め息をつき、タバコを咥えた。
「ねェよ。孫娘のほうはともかく、姉が厄介過ぎる」
*
人生始めてのクレジットカード決済。それを行った商品は義耳であった。
「12,000メニーとなります」
「クレジットカードで」
「……! はい!」
手慣れない動きとは裏腹に、メビウスの持っているクレジットカードの色は黒色だった。これはほとんどの場合限度額無制限を指す。
「どうだ、モア。良く聴こえるか?」
「う、うん!! なんなら元の耳より聴こえるかも!!」
「それは良かった。心の底からな」
「つかさ~、なんでモアさんは義耳つけてるの?」
「……。なんでアンタが残ってるのよ。ケーラ」
「おれ、いまミンティに追われてるもん。バンデージさんとモアさんが守ってくれなきゃ死んじゃう☆」
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