032 アンタみたいな小物、あたしのお姉ちゃんにはもったいないのよ!!
モアはその言葉らが一応彼女を励ますものであることを知った。12歳から軍人をやっている祖父と、高校卒業時点でセブン・スターになったとインターネットの記事に書かれていたジョン・プレイヤーとの価値観はあまりにも乖離している。しかし言葉へは申し訳程度に気を使っているように感じた。彼らなりにモアへは立ち直ってほしいのであろう。
「……。おじいちゃん、ジョンさん。あたしのこと見捨てないでくれる?」
「いままでもこれからも君の相手をし続けるよ」
「元々見捨てた覚えがねェけどなぁ」
白い髮で青い目を持つ少女と金髪の高身長青年が共に笑う。モアはその様子を見て、たぶんきっと大丈夫だろうと自分を無理やり鼓舞させた。
「分かった。
「ああ。おれァ仕事だ。家族水入らずで行ってきな」
「おお。ついに私もお姉ちゃんとして復帰かね?」
「うん。行こう」
それでもいままでとはまったく違うテンション。メビウスは不安を強く覚えながら、耳鼻科へと向かうのだった。
*
「何人か候補をまとめておいた」
「さすがはポールモールだな?」
あの戦闘から一週間。メビウス側にはやや傷口が残っているものの、この幼女ルーシの皮膚はすでに再生されていた。
葉巻特有の甘い匂いが立ち込めるCEO室にて、ルーシはポールモールからの報告書をタブレットで受け取る。
「ストライク家の令嬢『ラッキーナ』。アーク・ロイヤルの弟の悪ガキ『ケーラ』。大統領閣下の息子『ミンティ』ねえ」
「それ以外にも候補はいるが、有力なのはその3人だと思うぜ?」
「それぞれの市場価値は?」
「ラッキーナ・ストライクが4億6,000万メニー。ケーラ・ロイヤルが2億5,400万メニー。んで、ミンティはまだ公示されてない」
「ならラッキーナ・ストライクを叩くのが一番良さそうだな。市場価値が出回ってくれるおかげでやりやすいぜ」
「身体中の魔力に拒絶反応起こして暴発させる薬なら、もう準備できてンだ。あとはCEO自ら被験者を捕らえてくる番だぜ?」
「分かっているさ。計画はこうだ。暴発した魔力を使って小道具を強制収集。あの道具どもには意思が宿っていると言われるほどだしな。勇者並みの魔力を感じ取ったら一斉にロスト・エンジェルスへ現れるのさ」
ルーシとポールモールが独自の計画を建てている間にも、メビウスとモアは着々と北の街にたどり着いていた。
「……。おじいちゃんに買ってもらったメガネさ、もう踏みつけられて壊されちゃったかな」
一番ひどい頃に比べれば大分顔色も良くなってきたが、依然として口調はネガティヴである。そのためメビウスはメガネのケースをコートから取り出した。
「……! これは?」
「ルーシとの戦闘が始まる前に拾ったのじゃよ。私とモアの思い出など、このぐるぐるメガネくらいしか思い浮かばなくてのう」
年寄りじみた喋り方になったメビウスを一瞥し、モアはワナワナと震える手でメガネを手に取る。
「ありがとう……。本当にありがとう」
メビウスとモアの思い出は限られてくる。どれもこれも仕事人間になって家族をないがしろにしたメビウスの所為だ。
しかし、そんなメビウスとモアにも共通の昔話があった。それをこの白い髮の少女はなくさなかったのだ。
そんなふたりの前にひとりの少年が姿を現した。
「なーに街中で笑い合ってるんだ? 気色悪リィ」
不良風の頭が悪そうな話し方に反応を示さないふたりを見て、その不良少年は躍起になっていく。
「おーい。こっちの話聞いてるか? いや、聞いてねぇな。しゃーねぇ」
どうやらメビウスとモアが平和に過ごすことは当分できないらしい。意図的に金髪彗眼の少年を無視していたわけだが、拳銃を突きつけられた時点ですべて台無しになる。
「おもちゃじゃねぇことは知ってるだろ? 契約金寄越せ。それかおれと闘え。このケーラ・ロイヤルと!!」
男性の大声で震えていないか確認するが、モアはまったく怯んでいない。むしろケーラ・ロイヤルという少年の元へ一歩ずつ進んでいった。
「も、モア?」
「あ? オマエからおれとやり合おうってわけか──!?」
モアが空中に発生させたミサイルらしきなにかが、ケーラに直撃した。パラパラパラ……という警報とともに。
メビウスは思わず口を開け、モアではなくケーラの心配をしてしまう。
「アンタみたいな小物、あたしのお姉ちゃんにはもったいないのよ!!」
瞬間、音が弾けた。大爆発の時間である。一点に集中したパワーが分散し、熱波が肌をかすめる。耳障りな轟音が響き渡る頃、メビウスはケーラの元へ向かって駆け出していた。
「ごはあッ!? はあ、はあ……。なんだってんだ? チクショウ!!」
さしものモアも手加減したようであり、胴体が引きちぎれるほどではなかった。が、好戦的な子でないだけにこの攻撃はいわば憂さ晴らしのようなものだったのであろう。
「ケーラくん。いますぐ逃げたほうが良い。モアが本気で暴れ始めたら、私でも止められるか分からない」
「あ、ああ……!!」
とはいえ、
「お姉ちゃん、どいて。ソイツまだ息してる」
「息をしているだけだ。私を刺すだけの力が残っているとは思えん」
「そ、そうだ。もう闘う気はねぇ」
「ふーん……」
溜飲を下げたのか、モアは手も下げた。
ところが、ケーラが立ち去ろうとしない。こういう場面で情けをかけられた者は即座に撤収するものだが、この少年はそうしない。それになにかを言おうとしている。
「な、なぁ。妹のモアですらこんなに強ぇーんだったら、その姉のアンタはどれくらい強いんだ?」
「当然、お姉ちゃんはあたしなんかよりもっと強いよ」
「だったらおれを傘下に入れてくんねぇか!?」
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