018 メビウスの第二の人生はまだまだ続く。
目が点になる、とはこういう表情を指すのだろうか。クール・レイノルズとアーク・ロイヤルの顔は間抜けでしかなかった。
「え? メビウスさんMIH学園入るの?」
「同じことを何度も言わすな。すでに身分証明書の偽造を進めているし、私は本気だぞ」
「国家のトップに対して偽造罪を申告するとァ良い度胸ですね。まあ、おれはOBってことになるんでいまのMIHを知ってるわけじゃないしなぁ」
「まあ、大統領の時代からなにも変わってないと思います。実力史上主義、強さこそ美徳という考えは」
ただ、クールとアークはすぐ落ち着きを取り戻す。
金髪彗眼の美少年アークが知っているのかは分からないが、クールは知っている。メビウスは一度決めたことを決して翻さない。それにクールはOB。あまり関係のない話なのだ。
アークもクールの態度に同調した。セブン・スターという役職は年がら年中仕事が舞い込んでくる。どのみち、彼もまたMIH学園へはあまりいられないのだ。
「さて、クールよ。本当は手合わせ中に訊こうと思っていたが、君とスターリング工業とのつながりについてだな──」
*
『釈放されたの!?』
『されたよ』
『良かったー!! あれ正当防衛だもんね!! バンデージさんが勾留されたらと思うと……』
『悪かった』
『いえいえ!! バンデージさんがああしてくれなかったら、私たちにも危害が及んでいたかもしれないんです!! 謝る必要なんてないよ!』
メビウスは宝石店で出会ったラッキーナ・ストライクとのダイレクト・メールに明け暮れていた。
老眼だった目はすっかり見えるようになったのだが、どうしても長い文章を打つことに苦労する。キーボードもろくに叩けない人間にスマートフォンの文字入力を期待するほうがおかしい。
「しかし……メッセージ上では元気だな」
リビングでそんな作業に勤しむメビウスの元へ、モアが現れた。
「やあ、おじいちゃん。いや、お姉ちゃん」
「小遣いなら渡したはずだが?」
「違うよっ! ヒトのこと金食い虫みたいに言わないでよね!」
「じゃあ、なんの用だ? 君は自分の部屋が好きなのだろう?」
「いや~。あのさ、その、いまおじいちゃんにかけてる若返り薬アンド性別変換剤なんだけどさ」
「もう効能が切れてしまうのか?」
「うん。元々いたずらのつもりだったしね」
永遠なんて存在しないのだから、いずれはまた老人に戻る運命なのか。
「でもね、この一週間くらいを観察してさ、やっぱひとつ分かったんだよ。TSは世界を救うって」
モアは意味の分からないことを言い、なにやら錠剤を出してきた。
「これがTSの最終進化形態。ブリタニカの魔女がつくった“若返り薬”とあたしのつくった“性別返還剤”、そして魔術理論で見つけた化学成分を入れることで……寿命の限りTSライフを過ごすことができるんだよっ!!」
目を見開いて説明してきたモアにぎょっとしながらも、メビウスは微笑みを浮かべる。
「これをわしに飲めと?」
「うん!! だっておじいちゃん、少女生活楽しんでるじゃん!!」
メビウスの第二の人生はまだまだ続く。
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シーズン1おしまいです。よろしければレビューや良いねなどお願いします。
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