パンダ書店
福守りん
パンダ書店
高校からの帰り道。
一樹くんが、「シャポーの書店に行きたい」と言ったので、あたしもついていくことにした。
「電車、へいき?」
「へいきー」
電車とバスで帰るあたしを、気づかってくれる。やさしいなーと思う。
「見たい本、あるの?」
「うん。今日、でてるはず……」
『話題の本』と書かれた看板があるコーナーで、一樹くんが足をとめた。
「あった。これ」
うれしそうに、ハードカバーを手にとった。『パンダ辞典-パンダの謎を解きあかす!-』と書かれていた。
「……これ?」
「パンダが好きなんだ」
し、しらなかったー。
「そう、なんだ……」
ぶあついメガネの下の目が、きらきらしていた。メガネをとると、びっくりするくらいイケメンだったりするのは、あたしと、一樹くんだけの秘密……のはず。
「これ、楽しみすぎて、昨日パンダの夢みた」
「パンダの? どんな?」
会計の長い列に、二人で並んでる間に、一樹くんが、パンダの夢について語ってくれた。
夢の中で、一樹くんは、一頭のパンダに出会った。
パンダは、言った。「ついてきてパンダ」
つれていかれたのは、パンダの書店だったんだって。
店員さんは、全員パンダ。
本棚の本は、全部パンダ。
ワゴンにのせられて、売ってる雑貨も、みーんなパンダ。
「夢みたいだった」
「……夢だよね?」
「そうだった」
「あたし、それほど、パンダにはくわしくないけど……。
パンダって、かわいいの?」
「かわいいよ! おれも、くわしいわけじゃないんだ。
これで、パンダの知識を得ようと思ってる」
「へ、へえー」
「上野動物園に、パンダがいるんだ」
「いるね」
「今週の土曜、行かない?」
おっとー。デートのお誘いを、パンダの本を抱えた一樹くんから、してもらうことになるとは……。
「行くっ!」
「あ、次おれだ」
けっきょく、電車は十本くらい乗りすごした。
シャポーのカフェで、ふたりで、夢中になって、パンダの本を読んでたから。
パンダ書店 福守りん @fuku_rin
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