第四章 ~『男三人と成果なし』~

「――と、ここまでが私の初恋の思い出だ」


 レインが語り終えると、ケインは神妙な顔付きで何度か頷く。


「でもまさか、あのレインがサーシャくんを愛していたとはね」

「サーシャを知っているのか?」

「まぁね。なにせマリアくんの妹だからね……そんなことより、サーシャくんに会わなくていいのかい?」


 舞踏会に参加していることは、ケインだけでなくレインも知っている。だが彼は首を横に振った。


「失恋したのだ。再会すると未練が湧いてくるからな。それにしつこい相手は嫌われるだろ」

「君が相手ならそんなことはないと思うけどね」


 人当たりが良く、男性目線でも魅力的な彼ならば、少なくとも鬱陶しいとは感じないはずだ。


「君にアレックスほどの積極性があればな」

「俺の名前を呼んだか?」

「アレックス――戻ってきたのか」


 陽気な声で彼が肩を叩く。酔っぱらっているのか、酒の匂いが漂っていた。


「アレックスは勇敢な男だと褒めていたんだ」

「そりゃいい。俺は褒められるのが好きだからな」

「君は変わらないな……それでティアラとはどうだったんだい?」

「進展はなしさ。一緒に踊って終わり。俺はもう少し一緒にいたかったんだが、マリアを一人にするわけにはいかないとさ」

「振られたわけだね」

「振られてはいねぇよ。ただティアラが友達想いの優しい娘だってだけだ」

「確かに、告白もまだみたいだからね。振られてはいないか」


 アレックスは誰とでもすぐに仲良くなれるし、友好的な関係を構築できる。そんな彼でも告白は勇気がいるのか、まだその一歩を踏み出せてはいなかった。


「俺のことはもういいだろ。それよりもケインの恋人候補は見つからなかったのかよ」

「残念ながらね」

「ならパートナーのマリアとはどうなんだよ」

「僕と彼女は君が想像しているような関係じゃないさ。それに彼女も友人を大切にしている。邪魔するわけにもいかないだろ」

「つまり振られたわけだな」

「違う。僕は振られてなんかない!」

「ははは、振られた奴はみんなそういうのさ。まぁ、友人との交友を深めるのも悪くない。独身の男同士で一緒に帰るとするか」


 アレックスは二人の男たちの肩に腕を回し、談笑しながら帰路につく。舞踏会での収穫がなくとも、皆、どこか楽しそうであった。

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