第四章 ~『サーシャの懇願』~
(男爵家か……)
サーシャとは初対面だが、このような出会いは珍しくない。王家と繋がりを持ちたい令嬢から声をかけてくることはよくあり、その中でも男爵は貴族社会の中でも地位が低いためよくある話だった。
(だが、この娘……)
美人ばかりの貴族社会だが、そんな女性たちが霞むほどの華やかさがあった。凛々しい顔付きと、透き通るような銀髪に釘付けになる。
「レイン王子は結婚に興味はありますか?」
「曖昧な返事をするのも嫌だから、はっきりと答えるが、私が君に靡くことはない。他の男性を狙いたまえ。君の美貌なら、たいていの男は落ちるはずだからな」
「ち、違います! 結婚したいのは私ではありません!」
「ん? そうなのか?」
「私は私の幸せに興味がありませんから……」
貴族の令嬢は誰もが幸せを追い求めている。容姿に優れ、家柄に優れ、人格に優れた殿方との結婚を夢見ているものだ。
しかしサーシャは違う。どこか儚げな雰囲気が放ちながら、厭世的な言葉を口にする。
「君は珍しい人だな」
「ふふ、よく言われます」
「まぁいい、それで私の結婚の意思を確認したのはどういう了見だ?」
「実は私の姉を紹介したいのです」
「姉?」
貴族の令嬢は両親が縁談を探してくるのが一般的であり、妹が姉の相手を探すのは珍しいことだった。
「お父様が、お姉様の縁談を探すことはありません。あの人はお姉様を嫌っていますから。だから私が代理をしているのです」
「嫌っている? 実の娘なんだろ?」
「だからこそ厄介なのです。本当の父が別にいるのなら頼ることもできたでしょうが、お姉様には誰もいませんから」
「…………」
サーシャの思いやりに心が揺さぶられる。彼もまた、兄弟のアレックスを大切に想っており、自分と似た部分があると共感したからだ。
「お姉さんのことが大切なんだね」
「ち、違いますわ。私はただ屋敷から追い出したいだけで……」
素直になれないところが愛らしいと感じる。レインはサーシャに好感を抱き、妹に慕われる姉にも興味が湧いた。もしかしたら初めて人を好きになれるかもしれない。そんな期待を持ち始める。
「いいだろう。会おうじゃないか」
「ありがとうございます! ただ内密にでもよろしいですか?」
「公式な面会だとまずいのか?」
「お父様にレイン王子のことを知られると、きっと邪魔してきます。それどころか私と結婚させようとするかもしれませんから」
「その一言だけで、君の父親の人柄がよくわかるな」
「困った父なのです……だから私はレイン王子のことを悪く伝えますね。そうすれば、お姉様を不幸にするため、きっとレイン王子との結婚を望むはずですから」
王家との繋がりが手に入り、邪魔者のマリアを排除できる。きっとグランドは誘いに乗ってくるはずだ。
「万事承知した。君のお姉さんとは会わないようにし、遠目で様子を伺うことにする。これでいいかな?」
「ありがとうございます、レイン王子!」
無邪気に喜ぶ彼女に釣られ、彼もまた笑みを浮かべる。無意識の内に心臓が早鐘を打っていることを、彼はまだ気づかずにいるのだった。
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