第四章 ~『ジルの出迎え』~
リーシェラと別れたマリアは寮へと帰宅する。すると彼女の帰りを待っていたのか、入り口近くのカフェテラスでジルが出迎えてくれる。
「やぁ、おかえり」
「私を待ってくれていたのですか?」
「話したいことがあってね。時間いいかな?」
「私も丁度話がしたかったのですわ」
テーブルの上にはスコーンとアイスティが置かれている。事前にジルが用意してくれていたものだと察する。
「お腹、空いているかと思ってね。軽食を用意したんだ」
「さすがジル様ですわ。気配りまで一流ですわね」
「君は大切な友人で、想い人の姉だからね。これくらいはするさ」
ジルはスコーンに口をつける。美味しそうに味わう姿は、以前よりも自然だった。
「今のジル様の方が素敵ですわね」
「肩肘張らなくなったからだろうね。憑き物から解放された気分さ……でも、そのせいで、新たな面倒事が生まれてしまった」
「リーシェラですわね」
「ああ。私が上級司教を目指すことを諦めた原因が君にあると思い込んでいるようなんだ。何度も違うと説得したんだが聞いてくれなくてね。迷惑をかけてすまない」
「ジル様が悪いわけではありませんわ。だから謝らないでくださいまし」
「だが……」
「謝罪よりも聞きたいのは本心ですわ。本当に上級司教を諦めてよろしいんですの?」
「諦めざる負えないのさ。なにせリーシェラのような悪党を大聖女にするわけにはいかないからね」
上級司教と大聖女は一心同体だ。彼が上を目指すなら自ずと彼女も上の立場に就くことになる。パートナー制度がある限り、彼は上級司教を諦めるしかなかった。
「本当によろしいのですか?」
「幸いにも家が裕福だし、私はお金を稼ぐのも得意でね。生きていくのに困ることはないから、好きなように生きると決めたんだ」
「ジル様……」
「だから私は君を大聖女にする。それがこの国にとっても、私にとっても最良の選択だ」
ジルの能力はクラス内でも秀でている。そんな彼が味方になってくれるのなら鬼に金棒だ。
「まずはリーシェラへの対策プランを考えようか。彼女は必ず君を排除しようとする。その動きは止められないだろうからね」
「私は何をすれば……」
「後手に回っては不利になる。先回りして手を打つためにも、私はリーシェラの情報を集めていた。特に交友関係は入念にね」
「どうして交友関係を?」
「以前、彼女は一人で君に挑んで失敗している。もし次に動くなら仲間を募るだろうからね」
一度の失敗で学ばないほどリーシェラも愚かではない。新たな策を講じて、マリアを追放しようとするはずである。
「特にマリアは成績首位だ。敵の敵は味方を理由に同盟を組まれる可能性もあるし、神父であれば金を餌にされる可能性もある」
「でもリーシェラはそれほど資金力に余裕があるわけじゃ……」
グランドからの報酬に目が眩んでいたくらいだ。他人を裏切らせるだけの金を払えるとは到底思えない。
「それは知っているさ。でもね、一人だけ彼女の資金力でも動かせる人がいる。私はカイトを怪しんでいるんだ」
「ありえませんわ!」
カイトには何度もピンチを救われている。そんな彼が裏切るとは思えなかった。
「だが事実として、彼はリーシェラと頻繁に連絡を取り合っている」
「あれほど揉めたカイト様がリーシェラと連絡を……」
「私も最初は信じられなかった。冤罪を生み出そうとした確執は簡単に解消されないと思っていたからね。だからこそ注意したほうが良い。マリア、君は狙われる立場だからね」
「わ、分かりましたわ……」
カイトを信じたい。そんな想いを抱きながらも、彼の忠告を受け入れるのだった。
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