第四章 ~『ティアラからの誘い』~


 カイトがリーシェラと通じているかもしれない。不穏な情報にモヤモヤしたまま、朝を迎えてしまった。


(昨日はあんまり眠れませんでしたわ……)


 目の下には薄っすらと隈ができている。鏡の前で小さく溜息を零すも、すぐに気を取り直す。


(落ち込むなんて、私らしくないですわね)


 悩んでいても問題は解決しない。身支度を整え、教会へと向かう。いつもより早い時刻なため教室に一番乗りかと思いきや、カイトが席に着いていた。


「おはようですわ」

「おお、マリア。おはよう。随分と早いな」

「いつもより早い時刻に目を覚ましましたので……カイト様は?」

「こいつらに朝食をやりたくてな」


 窓辺には、カイトが配る餌を求めて小鳥たちが集まっていた。相変わらず、優しい人だと実感する。


(やっぱり何かの誤解ですわね)


 心の中に留めるより、ぶつかってみるべきだと、マリアは覚悟を決める。


「カイト様にお聞きしたいことがあるのですが……」

「俺に答えられることなら何でも聞いてくれ」

「リーシェラと仲良くしていると聞いたのですが、本当なのですか?」

「あ~、その件か……」


 気まずそうにカイトは頬を掻く。イエスともノーとも取れる反応だ。


「冤罪を押し付けられそうになったわけだからな。別に仲が良いわけじゃない。ただ仕事を受けているだけだ」

「仕事ですか?」

「俺は貧乏で金がないからな。バイトで霊獣の世話をしてやっているんだ」

「でもリーシェラの仕事を受けるなんて意外でしたわ」

「生きていくためには嫌いな奴相手でも折れないといけないこともある。それにさ、リーシェラの奴、霊獣の世話をしないんだぜ。放っておけないだろ?」

「ふふ、カイト様らしい理由ですわね」


 自分の感情よりも動物や霊獣たちを優先する。彼らしい判断だと微笑んでしまう。そんな二人に混じるように、ティアラがマリアの隣の席に座る。


「おはよう、楽しそうな話をしているな」

「カイト様のバイトの話ですわ」

「リーシェラの件だな」

「ティアラも知っていたんですのね」

「当然だ。なにしろカイトのパートナーは私だからな……もっとも私は金が欲しいなら、いつでも援助してやるつもりではいるのだがな」

「そんなヒモみたいな真似は御免だ」


 きちんと働いて稼ぎたいと、カイトは続ける。


「君は立派だな」

「俺なんかよりティアラの方がスゲーよ。貴族の令嬢として務めを果たしているだろ。確か今夜も舞踏会に行くんだよな」

「父上の顔を立てなくてはならないからな。だが本心ではやはり華やかな場は苦手だ。一人だとすることがなくて退屈でもあるしな」


 そう言い捨てるティアラだが、マリアと目が合い、何かを思いついたのか、パッと笑顔を浮かべる。


「そうだ! マリアも舞踏会に参加してくれないか?」

「わ、私がですか⁉」

「マリアは立派な貴族の令嬢だ。参加資格は十分にある」

「ですが舞踏会に着て行くドレスなんてありませんわよ」

「私のドレスを貸そう。頼む。一人だと寂しいのだ」

「ん~~仕方ありませんわね」


 華やかな場所はマリアも得意ではないが、親友の頼みである。断ることはできないと、舞踏会への参加を了承するのだった。


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