第三章 ~『デートの誘い』~


 教会で暮らし始めてから三か月が経過した。ここでの暮らしにも慣れ始めたマリアだが、授業を受けるだけの毎日に退屈していた。


(評価ポイント首位の座は取り返しましたが……)


 テストのたびに満点を取るマリアは圧倒的な評価ポイントを得ている。おかげで二位のリーシェラを追い抜いた。学生証のステイタスページを確認する。


――――――――――

総評:

 イリアス家のマリア。男爵令嬢。年は十二歳。魔力量は候補生の中でも優れており、学業成績も優秀。所属クラスはA。遅刻経験あり。


評価ポイント:

 150点


パートナー:

 ケイン神父

――――――――――


(ケイン様とパートナーになれたのは、大きな功績でしたが、担任と候補生の関係は変わりませんわね)


 最初から分かっていたことではあったし、それを承知でケインをパートナーに選んだのだが、しかしもう少し二人三脚で大聖女を目指したかった。


(教師ですもの。教え子たちに平等なのは理解できますわ。でも本音を言うなら、もっと一緒にいたいですわね)


 教室に視線を巡らせる。クラスの聖女とパートナーの関係を確認すると、それは両極端に分かれていた。


 恋人のように親密な関係性の者たちがいる一方で、不仲な者たちもいる。


 これは投票の結果、パートナーの選択が後ろの方だった者に顕著だった。きっと残り物を掴まされたという感覚なのだろう。


 一方、神父側も勝ち目の薄い聖女に選ばれたことを残念に感じていた。互いが失敗だと実感しているからこそ、関係性が改善されずにいたのだ。


(まだ仲が良いだけマシですわね……)


 少なくともケインと不仲ではない。ただ一緒にいられる時間が少ないだけだ。心の中で自分を慰めていると、ティアラが隣に座る。


「落ち込んでいるようだな?」

「小さな悩みですわ……それよりも今日はカイト様と一緒ではないのですわね」

「ただの別行動だ。喧嘩しているわけではない」


 投票数第二位はティアラだった。てっきりジルを選ぶと思われた彼女だが、パートナーにカイトを選択した。


 カイトはティアラを嫌っていたが、三か月の月日が彼らの不仲を改善してくれた。今では理想的な相棒となっている。


「ティアラがカイト様を選んだ時は驚かされたものですわ」

「ふふ、ジルを選ばない選択は間違っていなかったと、改めて実感しているよ」

「ですが、どうしてカイト様を選びましたの?」

「相性かな……彼の生き残ろうとするハングリー精神は、私に欠けているものだ。彼なら私の欠点を埋めてくれると判断したんだ」


 ティアラは大聖女になれずとも公爵家の令嬢として将来を約束されている。そのため必死になって戦うことが苦手だった。だからこそスラム出身であるカイトをパートナーとしたのだ。


「それに過去の罪滅ぼしもしたくてね……実は昔の私は粗暴でね。よく友人たちを泣かせていたのだが、その内の一人にカイトがいたことを思い出したんだ」

「ティアラ……」

「謝っても許されることではないかもしれない。だからといって、贖罪しないのも私は間違っていると思う。だから――彼を上級司教にする。それが最大の謝罪となるはずだからな」

「ふふ、ティアラらしいですわね」


 過ちは罪だが、償うために努力する姿勢を評価したからこそ、カイトもティアラとの仲を修復したのだ。良い人と友人になれたと改めて感じる。


「クラスの聖女たちとも仲良くなれると良いのですが……」

「マリアはクラス首位だからな。最大のライバル故に近づきがたいのだろうな」


 きっとまだ知らないクラスメイトの中にもティアラのような素晴らしい人格の持ち主がいるはずだ。そんな人と友人になりたいと願っていると、もっとも仲良くしたい人物が近づいてくる。


「マリアくん、少しいいかな」

「ケイン様!」


 多忙で話す機会さえ得られなかった彼が声をかけてくれる。それだけで飛び上がるような歓喜に包まれる。


「次の休みは空いているかな?」

「わ、私はいつでも暇にしていますわ!」

「なら良かった。僕も休みでね。パートナーとして一緒に王都の街を回らないかい?」

「よ、喜んで!」


 それだけ伝えるとケインは去っていく。その背中を呆然と見つめていると、ティアラが小さく笑みを漏らす。


「マリアも隅に置けないな」

「ち、違いますわ。あれは、きっと――」

「デートで間違いないな」

「~~~~ッ」


 恥ずかしくて口にできなかった言葉をティアラが形にしてくれる。第三者から見ても、あの誘いはデートだと映ったのだ。なら彼女の勘違いではない。


(ケイン様とデートだなんて、今から次の休みが楽しみですわ♪)


 早鐘を打つ心臓を意識しながら、鼻歌を奏でる。上機嫌のまま、変わらない日常を楽しむのだった。

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