第二章 ~『選択したパートナー』~
投票数一位のマリアは、優先的にパートナーを選択できる。彼女に投票した者、またそれ以外の者にとっても、誰を選ぶかは注目の的だった。
「一位の君はこの場にいる神父なら誰でもパートナーに選択できる。さぁ、マリアくん。誰を選ぶんだい」
「それは……」
マリアの中で候補は絞られていたが、まだ結論が出ていなかった。決定打を求め、崩れ落ちたリーシェラを見据える。
「パートナーを決める前に確認したいことがありますの」
「何を聞きたいのよ」
「どうして私をこれほどまでに敵視しましたの?」
「それは……」
遅刻の罰則があり、マリアは評価ポイント首位から転落していた。さらにマリアを追い詰める必要はなかったはずだ。
マリアの友人であるティアラへの私怨からか。それとも公爵令嬢としてのプレッシャーが彼女を駆り立てのか。
そんな疑問に対し、リーシェラは恐る恐る口を開いた。
「あんたの父親から頼まれからよ……」
「お父様に!」
「あんたが教会を辞めれば、王子からの結納金を半額貰える約束になっていたの。その金額は公爵令嬢の私でも十分すぎるほどの金額よ。乗らない手はないわ」
「だから私を追い詰めたのですわね……」
「投票で圧倒的に敗れれば、きっと自主的に教会を去ると思ったのよ。でもそうはならなかった。残念ながらね」
項垂れるリーシェラに同情してしまう。彼女は実家の公爵家から追い出されるリスクを背負っている。だからこそ保険として、一人で暮らしていけるだけの金を欲したのだ。
「私はどんなことがあろうとも挫けませんわ。嫌がらせにも屈しませんから」
「あんたは強いわね……」
「大聖女を目指していますもの。当然ですわ」
だからこそ誰にも負けないような優秀なパートナーを味方に付ける必要がある。絞っている候補は二人だ。
(最有力候補はやっぱりジル様ですわね。適正だけでなく学業や人格まで完璧な超人ですもの)
何度も助けられたし、ジル自身もマリアに選ばれることを期待している。彼を選ぶことは最良の選択肢の一つである。
(もう一人はカイト様ですわね)
適性や勉学などではジルより劣るが、彼にしかない才能もある。それはハングリー精神だ。どんな苦境でもスラムを経験してきた彼となら乗り越えられるはずだ。パートナーとして、二人三脚で立ち向かうなら、彼を選ぶ道もある。
(お父様の嫌がらせはこれからも続くかもしれませんし、立ち向かうためにも、この選択は間違えられませんわ)
視線を巡らせると、目が合った二人はどちらも真摯な視線を返してくれる。ただもう一人、意味ありげな瞳を向けてくる人がいた。
(ケイン様……でも、あの表情はいったい……)
ケインはパートナー選びが大切だと何度も念押しをしてくれた。それこそカフェでわざわざマリアのために時間を作ってくれてまでだ。
そこにはきっと特別な意味があるはずだ。思考を巡らせることで彼女は正解へと辿り着いた。
「ケイン様に確認ですわ。パートナーはこの場にいる神父様たちの中から選ぶのですわね?」
「そうだとも」
「それは誰でもいいと?」
「もちろんだ」
「分かりましたわ。私のパートナーは……」
皆が答えを待ち望んで、息を飲む。静寂を打ち崩すように、ある一人の男の名を呼ぶ。
「ケイン様でお願いしますわ」
ざわめきが教室に広がっていく。まさか担任であるケインを選択するとは思わなかったからだ。
「ケイン様は仰いましたわ。この場にいる神父様なら誰を選んでもいいと。ケイン様も間違いなく神父様の一人ですわ」
「だがマリア、さすがに無理がないか?」
ティアラが問うと、その疑問をケインが否定した。
「実はね、このパートナー選びは担任の神父も選択することができるんだ。歴代の大聖女候補の中で、この事実に気づけたのは君を含めて五人もいない。見事だよ」
「……それではパートナーを引き受けてくださいますの?」
「もちろん。というより、僕も君の助けになりたいと願っていたからね。いや~、君を助けて欲しいと毎日手紙が届くからね。あの人の期待に応えられて良かったよ」
「あの人?」
「とにかく、マリアくんにも味方がいるってことさ」
屋敷の使用人仲間だろうか。だとしたら彼らに感謝しなくてはならない。心の中で礼を伝える。
「でもね、僕は君のパートナーでありながら、担任教師でもある。平等に接するべき場面では君を優遇することはできないから。その覚悟でね」
「もちろんですわ」
「なら決まりだね。これからもよろしく頼むよ」
「こちらこそですわ」
マリアとケインは手をギュッと握り合う。尊敬する彼を味方に付け、彼女は大聖女への道を突き進むのだった。
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