第二章 ~『最終決戦の結果』~


 カイトが飛び出してすぐのことだ。ケインが現れ、教卓の前に立つ。


「さて、午後の授業を始めるよ」

「あの、カイト様が……」

「事情は聞いているよ。どうしても外せない用事があるから午後は休みたいとのことだ」


 それだけ告げると、ケインは授業を始める。随分とあっさりしているのは、授業の主な相手は大聖女候補であり、神父はオマケ扱いされているからだろう。


 前の席がポッカリと空いた状態で授業が進んでいく。彼の事が心配になるが、すぐにその考えを振り払う。


(カイト様は落ち込むようなタイプではありませんわね)


 苦境に立たされるほど燃えるタイプの人間だ。きっと今頃、無実の証拠を探している頃だろう。


 時間が過ぎていき、午後の授業が終わる。とうとう待ちに待った投票時刻がやってきた。


「みんな、覚悟はできているね」


 ケインの合図と共に手帳が輝き、投票数が反映されるページが現れる。リアルタイムで更新されるのか、既に投票を始めた神父たちの票が反映されていく。


(やっぱりリーシェラが一位ですわ)


 始まったばかりなのに、既に三票獲得している。マリアにも一票投票されているが、これは手を振ってくれているジルのものだろう。


 他の男子たちがまだ動かないのは、票の動きを伺っているからだ。静寂が包み込む教室。それを打ち崩すように扉が勢いよく開かれた。


「遅くなったな」

「カイト様!」

「無実の証拠を用意してきたぞ」


 彼の表情には自信が満ちている。皆、手を止めて、彼に注目を集めた。


「盗みの疑いを払拭できるんだね?」

「もちろん」

「なら君には無実を語る権利がある。是非、聞かせて欲しい」


 ケインの語調は強かった。遅刻の件でマリアが罠に嵌められたことに加え、今回の盗人騒動だ。


 証拠がないため裁けなかったが、彼も内心では怒りを感じていたのだ。


「まず結論から伝える。指輪の盗難事件はリーシェラの自作自演だ。本当は指輪なんて盗まれていない」

「う、嘘よ。私は確かに盗まれたわ」

「なら指輪をどこに置いていたんだ?」

「それは……机の上よ」


 教室がざわめく。貴重品を置くにしてはあまりに不注意だからだ。


「ふん、公爵令嬢の私からすれば安物よ。それにここは教会。盗まれると思っていなかったのよ」

「でも盗まれたと?」

「そうよ」

「だが俺は無実を証明できる。なにせ目撃者がいるからな」

「だ、誰よ、それは?」

「こいつらだ」


 カイトが手をパチンと叩くと、窓の外から小鳥たちが羽ばたいてくる。彼が昼間に餌付けをしていた鳥たちである。


「午後の時間、証人になってもらうために山の中を駆けずりまわっていたんだ。これだけの証人がいるんだ。信憑性も十分だろ」

「あのね、相手は鳥よ。証拠能力はないわ」

「だが俺は召喚士だ。こいつらと話をすることができる」

「あなたが間接的に鳥たちの通訳になると? 馬鹿らしい。自分に有利な証言に改竄するに決まっているわ」

「俺はあんたとは違う。そんな卑怯な真似はしない」

「どうだか。盗人の言葉なんて信用できないわ」


 二人の間で言い争いが続く。このままでは水掛け論で、カイトの無実を証明できない。


(何か手は……そうですわ!)


「ジル様、力を貸していただけませんか」

「私のかい?」

「はい。ジル様の職業適性は万能――どんな人の職業適性もコピーできますわよね」

「なるほど。そういうことか」


 鳥たちの証言に信憑性がないのは、話せるのがカイト一人だけだからだ。しかしジルは彼の召喚士の適性をコピーできる。


 もう一人話せる人物が増えれば、今回の問題は白黒はっきりすることになる。


 適性をコピーしたジルが小鳥たちと何度か会話を重ねる。神妙な顔付きで話を聞く彼とは対照的に、リーシェラの表情は青ざめていく。


「分かったよ。彼らはすべてを目撃していた。机の上に指輪は最初からなく、カイトくんも無実だそうだ」


 雌雄が決する。リーシェラはその場で泣き崩れ、カイトはガッツポーズを決めた。


「さて、投票を再開しようか」


 ケインに催促され、手帳の票数が更新されていく。マリアの票数が如実に伸びていく一方で、リーシェラは、三票のまま動かなかった。


(終わりよければすべてよしですわ)


 投票が終わり、マリアの圧倒的な勝利で勝負は幕を閉じた。大聖女へとまた一歩近づいたのであった。


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