第二章 ~『リーシェラと早朝散歩』~
ティアラと別れたマリアは、初日の疲れが溜まっていたのか、すぐにベッドで眠ってしまった。
いつもより早い時刻の就寝と、フカフカのベッドのおかげで、身体が羽のように軽い。起き上がり、窓の外の景色を眺めると、まだ日が昇ったばかりの時刻だった。
(散歩でもしましょうかしら)
部屋にいてもすることがない。気分転換がてら、寮の周囲を歩く。自然に囲まれているおかげで空気も美味しく感じられる。
(あれは……)
視線の先に、リーシェラがいた。クラスで二位の成績で、ジルをパートナーに狙っている関係上、彼女はマリアに対して敵愾心を抱いている。
気づかれずにやり過ごしたい。そんな願いは虚しく、足音に反応した彼女が振り向く。
「あなたも散歩?」
「そんなところですわ」
「ふん、あなた、私のことが嫌いでしょ?」
「そんなことはありませんわ」
「取り繕わなくてもいいわ。私もあなたが嫌いだもの」
「…………」
歯に衣着せぬ物言いにたじろぐ。遠慮しないのは長所だが、彼女の場合、度が過ぎているように感じた。
「怒った?」
「別にそんなことはありませんわ……」
「ふふ、私って正直だから。でもね、あなたの能力は認めているのよ。どう? 私の下僕になるつもりはない?」
「え、遠慮しておきますわ」
「断るなんて薄情ね。ティアラとは仲良くしているくせに」
「ティアラはあなたとは違いますもの」
「あら? 私とティアラは似た者同士よ。彼女とは長年の付き合いだから間違いないわ」
「幼馴染ということですの?」
「どちらかというと悪友ね。公爵家の令嬢同士で年齢も近かったから、悪戯を楽しんだりしたものよ……でも、ある事件が原因で二人の友情は壊れたけどね」
「事件?」
「知りたいでしょ。なら私の下僕に――」
「なりませんわ」
どこまで真剣なのか分からない。正直、苦手なタイプだ。早くここから離れたいとの気持ちが沸々と湧き上がってくる。
「朝の準備がありますから、私はこれで……」
「そう焦る必要はないじゃない。始業時刻が30分後に変更されたんだから」
「そうなのですか⁉」
「知らなかったの? なら私に感謝してよね。朝の30分は貴重よ。その分、ゆっくり過ごせるのだから」
「親切にありがとうございますわ」
棘が強いだけで、そこまで根は悪い人ではないのかもしれない。少しだけ彼女に興味が湧いた。
「あなたは、どうして大聖女になりたいんですの?」
「公爵家に生まれた者の義務だからよ。もし脱落者になれば私は実家に顔向けできなくなる。それほどに高貴な血筋のプレッシャーは強いのよ」
「負けられない理由がありますのね」
「あなたにもあるの?」
「私も負ければ行き場がありませんわ。それに好きでもない人と結婚することになりますの」
「そう……大聖女は一人しかなれないけど、お互い頑張りましょう」
「もちろんですわ」
二人は瞳に闘志を燃やす。ライバルとして認め合った瞬間だった。
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