第二章 ~『ティアラと自室』~


 ケインと別れ、食事を運んできたティアラと合流し、マリアはこの短い時間に起きた出来事を語る。


「ふむ、ジルがパートナーに立候補か。悪い話ではないな」

「ですが、ケイン様は慎重に選べと」

「時間はまだある。じっくり考えればいいさ」

「そうですわね」


 談笑しながらカフェでの食事を終え、マリアたちは自室へと向かう。どんな部屋なのかと期待に胸が躍り、自然と足取りも軽くなっていた。


「私の部屋はここだな」


 廊下に等間隔で並ぶ部屋の前で足を止める。入口の扉の表札にはティアラの名前が記されており、それ以外は他の部屋と変わりない。


「公爵令嬢でも与えられる部屋は変わらないのですわね」

「候補生は平等に優遇されるということだな」

「室内も同じなのかしら?」

「良ければ私の部屋と比べてみるか?」

「お願いしますわ」


 ティアラの部屋を見た後で、自室を確認すれば、部屋ごとの違いを知ることができる。


 事前に渡されていた鍵で扉を開くと、ティアラが先導する形で部屋に入る。足を踏み入れた先には、瀟洒な空間が広がっていた。


 絨毯の上にキングサイズのベッドが置かれ、赤みを帯びた高級材木の机と椅子も用意されている。


 さらに大窓から学園の緑豊かな光景を一望することもできた。憧れがそのまま形になったような室内に感嘆の声を漏らす。


「素敵なお部屋ですわね。私も自室を見るのが楽しみですわ」


 待ちきれないと、マリアは廊下に出ると、表札から自分の部屋を探そうとする。だがティアラがそれを止めた。


「先ほど確認しておいたが、マリアの部屋は私の部屋の隣だ」

「ということは、角部屋ですわね」


 端の部屋なら隣人との付き合いも片方だけで済む。しかもその相手とは友人であるティアラなのだ。


 面倒事が少なくて幸運だと、意気揚々と部屋の鍵を開けて自室に足を踏み入れる。


 内装はティアラの部屋と変わらない。違いがあるとすれば、家具の配置くらいのものだ。


「男子の部屋も同じなのかしら?」

「ここまで豪華ではないだろうが、暮らすに不自由しないだけの部屋は与えられているはずだ」

「詳しいのですわね」

「私も大聖女を目指している。情報収集は怠らないさ」


 ティアラは向上心を面に出そうとしない。だが彼女もまた手強いライバルであることに代わりないのだ。


「ティアラは誰をパートナーに選ぶんですの?」

「ジルが理想ではある。最も能力が高いのは彼だからな」

「そうですの……」

「だが遠慮するような真似は止めてくれ。マリアが組むべきだと判断したなら、迷わず彼を選びたまえ」

「ティアラ……ありがとうございますわ」


 友人の心遣いに感謝する。彼女のためにも、後悔のない選択をしなければと心に刻むのだった。


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