第5話 短期目標2 自給自足ー森の獣は危ないやつばかり
【短期目標その2自給自足ー森の獣は危ないやつばかり】
『ロベルト、エレーヌ。僕のもう一つの短期目標は、自給自足だ』
『なるほど。毒対策ですか』
城からも料理や食材を支給されるけど、
いつ毒が混入されるかわかったもんじゃない。
今まで無事に過ごしてこれたのは、
毒を判定する魔道具があるからだ。
しかし、全ての毒に反応するとは限らない。
城には毒見係もいるけど、
彼らに気の毒だし、遅延性の毒もある。
だから、料理は素材から自分で調達し、
自分で作る必要がある。
『それもあるんだけど、城の料理がまずすぎる』
『そうなんですか?前まで不満なんて聞かなかったんですけど』
『祝福“料理人”を授かったからか、急に僕の舌が敏感になってきたんだ』
城の料理。
パンはまあまあの物が出てくる。
ちゃんとした白いパンだ。
少し固いけど。
だけど、肉が全然ダメ。
固い。
臭い。
しょっぱい。
この世界では
肉は血抜きも不十分なまま、
干し肉か塩漬け肉にされる。
では新鮮な生肉だとどうか。
野生の肉など固くてうまいもんじゃない。
氷魔法もあるのに、使わない。
氷魔法を使う人が少ないのと、
魔道具にしたところで、
大量の魔石を使うことになる。
毎日の食事に大切な魔石を
湯水のように使うわけにはいかない。
だけど、前世日本の記憶のある僕は、
このままだと餓死するか、高血圧で死んでしまう。
だから、訓練を兼ねた森での狩猟。
僕には生き残りの大切な行動なのだ。
【森の狩人デビュー】
『坊っちゃん、いいですか。狩りのコツは中・遠距離攻撃。それから、敵の正面に位置をとらないこと。特に大きな獣は。攻撃をはずしたら一目散に逃げること』
近接攻撃では獣には勝てない。
ましてや魔獣は獣よりも5割増しで強いとされている。
正面を避ける理由は、
仮に致命傷を与えても獣はしばらく動けることが多い。
そうなると、慣性でこちらにつっこんでくる。
また、中途半端な攻撃は、敵の攻撃力を上げてしまう。
手負いの獣になるのだ。
だから、いざという時のために盾を作ることにした。
三人分である。
サイズは僕は体を覆える程度。
ロベルトとエレーヌは弓の邪魔にならない程度。
土魔法で作成した。
盾を構えた時に、全身を風魔法ソリッドエアで
覆うようにできる。
一種の魔道具である。
◇
『坊ちゃん。私達が前衛を務めます。バックアタックに気をつけてください』
『わかったよ』
『では、獲物の発見は私が行います。風下から攻めますから』
ロベルトは田舎の男爵家出身で、
狩りを小さい頃から嗜んでいた。
そのせいか、彼は目がいい。
100m先のぶどうの房を見分けられる。
風下から攻めるのは、狩りの常道。
においを敵に知らしめないためだ。
『坊ちゃん、100m先に一角うさぎ発見』
『どこ?』
『あそこの倒木の陰です』
そう言われてもわからない。
『ゆっくり近づきますよ。頭を低くして』
30m近くまで近づいた。
ここまで来ると、僕にも対象が見える。
一角兎は、時々周囲に目をやりながら、
こちらに背を向けて草を食べている。
『坊ちゃん、復習です。一角兎と言えども大変凶暴です。襲ってきたらとにかく正対を避けること』
『うん』
『あの額の長い角にやられると、致命傷になることもあります。まっすぐ突っ込んできますから、避けるのは楽です』
森の獣は激しい生存競争にさらされている。
だから、弱い獣はいないと言っていい。
全ての獣が獰猛で油断ならない。
『じゃあ、風刃いくよ』
僕には4属性が発現している。
しかも、中級魔法でも使えるものがある。
でも、僕には昔から風魔法が発現していたためか、
風魔法が一番しっくりくる。
中でも、風魔法風刃。
文字通り、風の刃で対象を切り裂く。
初級魔法ではあるけど、使い勝手がいい。
現状では、有効射程は50mほど。
射出してからも、僕の意思で軌道を変えられる。
『はい。私どもでフォローします』
『風刃!』
僕は一角兎めがけて風魔法を発射した。
風の刃は一直線に一角兎に向かい、
兎の首を切断した。
『お見事!』
『ふう』
僕は手が汗ばんでいることに気づいた。
知らず知らずのうちに随分と緊張していた。
◇
『お坊ちゃま。次は熊ネズミ。まずいですね、かなりの集団です』
熊ネズミは子犬程度の大きさのネズミで、
攻撃手段は尖ったげっ歯。
そして、要注意なのは奴らが集団生活を送っていること。
雑食性であり、肉も食べる。
『坊ちゃん、木の上へ』
奴らに囲まれると、連携して襲ってくる。
大変危険だ。
だから、見つかったら一目散に木の上に登る。
『バシュッ』『バシュッ』『バシュッ』
3人は木の上から、僕たちに殺到してくるネズミを
一体ずつ排除していった。
ちなみに、エレーヌとロベルトは弓である。
このネズミ、数は多いのだが、
あまり美味しくない。
よほど空腹でなければ遠慮したい。
ただし、毛皮は市場でそれなりに売れる。
城からは最低限の生活費しか渡されていない。
だから、現金収入は是非とも確保したいのだ。
獣はロベルトが素早く解体する。
僕とエレーヌも解体を教えてもらい、少しずつ練習する。
『うう』
僕は解体が苦手だ。
『お坊っちゃま、慣れですよ』
エレーヌもロベルト同様、
小さいときから狩猟に慣れている。
田舎の貴族は毎日の糧のために狩猟を必ず行う。
当然、解体にも慣れている。
結局、狩猟デビュー日は、
一角兎4頭と熊ネズミ23匹を獲得した。
そういや、兎の数え方を羽とすることがある。
あれ、違和感ありまくりだよね。
由来もはっきりしないし比較的新しい数え方だという。
羽・頭・匹、なんでもいいらしいから、
僕は頭を使っている。
なお、初日の狩猟で新たにスキルが発現した。
○狩猟スキル
狩猟スキルは以下のサブスキルを伴う。
探査スキル(動物を見つける)
気配操作スキル(自分の気配を消す)
マジックバッグ(獲物を回収する)
また、風魔法風刃に追尾機能がついた。
獲物をターゲッティングすると、
自動的に獲物を追いかける機能である。
マジックバッグは容量が大きそうだ。
この中に入れると、時間経過が起こらない。
つまり、腐ったりしない。
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