第3話 正妃と次男1

【正妃と次男】


 王の子供は5人。

 全て男子である。


 この国では、長子が後継者になることが多い。

 この場合の長子は1番年長の子で、男子女子を問わない。

 これは習慣的なもので、絶対ではない。

 ある程度、実力者を選ぶ余地を残している。

 

 長男ライリー:側室の子。体が弱い。

 次男ユベール:正妻の子。優秀。

 三男マッシュ:側室の子。性格が弱い。

 四男ボックス:側室の子。頭が弱い。

 五男ジュノー:側室の子。超優秀。


 こうなった場合、

 誰を王に選ぶべきか?


 三男・四男はまっさきに脱落している。

 長男は病弱で、ベッドに伏したままだ。

 次男は優秀で、正妻の唯一の子供だ。

 次男が『自分こそは』とイキルのは無理もない。

 

 問題は五男である。

 王室史上最高の頭脳の持ち主、

 神の子との噂があるぐらいだ。


 ただし、五男の母親は亡くなっている。

 母親の実家も男爵家で財政的にも弱い。

 しかも、祝福で“料理人”などと、

 王室的には超はずれを引いてしまった。


 後継者はほぼ次男が獲得する。

 多くの人がそう考えていた。



『ユベール。失敗しましたね』


『母上、大変申し訳ございません。私どもの手の内で最も優秀な魔導師を専任したのですが』


『失敗の原因は?』


『魔導師は、ジュノーに魔法の結界が生まれている、と言い逃れをしております』


『まあ、みっともない。わかってますね?』


『はっ。すでに処理してあります』


『実力者を失うのは痛いですが、責任を取らねばなりません』


『家族もろとも責任をとってもらいましたから、大丈夫です』


『でも、祝福が料理人になるとは思いもしませんでした』


『はい。そのような下々のものが受けるべき祝福を仮にも王室の一員であるものが受けるなどと、なんと恥知らずなことでしょう』


『私たちは少し慌てましたね』


『仕方ありません。逆に祝福が大賢者だとかとなると、非常に困ったことになりました』


『ですね。警戒の最も緩むときが教会から出てくるときでしたから、狙撃はあのタイミングしかありませんでした』



『母上、今後はいかに致しましょう』


『王室的には、ジュノーの祝福は伏せろとの通達が来ています。が、こっそり、市井に情報を流しましょう』


『王国中に、ジュノーの劣等ぶりを周知させるのですね』


『陛下もジュノーが15歳になったら、外に出すことを明言しておられます』


『彼の継承権は事実上霧散したことも周知させるのですね』


『私達が噂の元ということは知られてはなりませんよ』


『当然です。が、このような噂は簡単に広まるでしょう』


『ただ、気を緩めてはなりません。再度の暗殺の機会を持ちましょう。狙撃、毒殺、爆殺、あらゆる手を考えましょう』


『そうですね。母上のおっしゃる通り、油断をせずに万全を期します』



『母上、長男は大丈夫でしょうか』


『あれは毒の散布がうまくいきました』


『はい、奴の部屋に気づかない量の毒を毎日散布したのですね。奴が病弱なのが良かったです。看護婦をこちらの手の内にできました。実家がらみで因果を含めたのが上手くいきました』


『終わったら処理はしっかり行います』


『まかせますよ』



『ところで、お前も春から魔法高等学院生。入学試験の結果も上々ですね』


『はい、母上。魔法、剣、学業、全てに1位を取りました』


『うむ、陛下もお喜びです。私も鼻が高いですわ』


『光栄です』


『いいですか、次期王として、完璧な姿を見せていくのですよ』


『おまかせください、母上』


 正妻は、自分の息子に小さいときから

 “英才教育”を施していた。

 息子はそれに応え、“優秀な”少年に成長した。

 すでに12歳にして、

 かような応答のできるものになったのである。


 一般的にはかなり黒い性格、

 まるで少年らしさは伺えないが、

 それは正妻とて同じであった。

 宮中を逞しく生き抜いてきたメギツネであったのだ。


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