第2話 転生したら王子様だった2

【転生したら王子様だった2】


『エレーヌとロベルト、心配をかけてすまない。記憶は正常だよ』


 エレーヌとロベルトは僕の護衛かつ家庭教師だ。

 エレーヌはメイドの役割もする。


『お坊ちゃま、私どもがついていながら大変申し訳ございませんでした』


『狙撃されて、よく無事だったんだな』


『坊ちゃんが事前に風魔法で結界を張っておりました。それと、エレーヌの回復魔法で応急措置を』


 エレーヌは初級回復魔法の持ち主だった。


『そうか、エレーヌは命の恩人なんだな。心から感謝するよ。遠距離からの魔法狙撃。誰にでもできる技じゃない。とりあえず、防御を固めるぞ』


『は、厳重に警備を……』


『いや、僕の風魔法を使う。ソリッドエア!』


 ソリッドエアは防御結界を張り巡らす風魔法。

 空気の層を作り出して、物理・魔法両方からの攻撃をシャットアウトする。


 僕はこの魔法で建物自体を防御した。


『坊ちゃん、防御魔法はクラウドではありませんでしたか?』


『祝福を受けたことで僕の能力がいろいろ開花したみたいだ。風魔法も中級レベルが使えるようになったよ。それに風魔法だけじゃないんだ』


『というと?』


『僕は4属性魔法が発現したよ』


『え、4属性もですか?』


『ああ。料理人っていう祝福は案外便利みたいだ』


 料理人。


 この祝福は、料理に必要なスキルを与えてくれる。

 で、祝福料理人のスターターキットが4属性魔法だ。


 4属性魔法は、火・水・風・土魔法。

 現状で中級レベルまで使うことができる。

 それぞれ料理に必要だということで発現したのだ。



 それにしても、ワクワクするぞ。

 祝福“料理人”。

 メニューを注視すると、説明が表示される。


『料理を拵えるための全てのスキルを用意する』


 僕はジャンクフードを食べ過ぎた結果、メタボになり、

 結果は転生することになるのだ。


 なのに、料理で生きていけと。

 なんて挑戦的な祝福なんだ。


 よし、わかったぞ。

 この世界は、僕に“正しい”ジャンクフードを作ることを求めているのだな。


 その挑戦を受け止めるぞ。


 うーむ。

 かなり違う気もするのだが、僕は反省のできる男だ。


 今世ではメタボになって心臓発作?なんていう、

 あんなみっともない真似はしないからな。


『だけど、ロベルトとエレーヌ。僕に4属性が発現したことは黙っていておいて』


『どうしてですか』


『いや、ダメ男だと思わせておきたい。下手に強力なスキルを持つと、敵もますますエスカレートするし』


 4属性魔法だといっても、

 現時点ではせいぜい中級の入り口にいるぐらいだ。

 敵に油断させておいて、その間に対抗できる力をつけよう。


 ◇


 さて、謁見室。


『体はもう大丈夫か』


『はい、父上』


 父上とは国王陛下のことだ。


『犯人は全力で捜している。見つけ出したら、極刑に処するからしばし待て』


 犯人は身近な人のような気がするけど。


『で、改めて聞くが、おまえの祝福は“料理人”で間違いないのだな?』


『はい』


『なんと、嘆かわしい。おまえは神の子かとも囁かれておったのに。蓋をあければ、そのような下賤の職業とはな』


 武術系、魔導師系でない職業は軽く見られている。


『誇りある王家の血筋からかのような粗忽者が生まれたとは。やはり、おまえの母親の血かの』


 そういうのは、正妃だ。

 王の正妻。


 僕の母親は下級貴族の出ではあるのだけど、稀に見る美貌の持ち主だった。

 3年前になくなってしまったが、はっきりと記憶している。


 というか、僕には生後まもなくからの記憶がある。


『これでも私の弟と呼ばなくてはならないとは』


 こいつは次男。

 正妻の息子である。

 なかなか優秀な男らしいが、顔に酷薄さが現れている。


 僕を狙撃した黒幕はおそらく正妻と次男だろう。

 後継者レースを盤石のものにしたいのだ。


 ただ、僕の祝福が料理人だったことで、僕への当たりが弱くなるといいのだが。


『まあよい。腐っても余の息子だ。いいか、魔法高等学院卒業までは面倒を見よう。その先は自活の道を歩め』


 おお、ラッキー。

 後継者争いなんてまっぴらごめんだ。


 そもそも、後継者になるつもりがない。

 そんながんじがらめの生活は勘弁して欲しい。

 僕はジュノー・クノールだ。

 でも、精神的には前世の日本人のほうが強い。


 とにかく、12歳になれば魔法高等学院に通える。

 そうすれば、この城から離れて暮らすことになる。

 少しは楽になるだろう。

 それまで、じっと我慢だ!


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