36-2Over The Ragnarok~魔王城防衛戦

ーーーー ○あああ ーーーー


 なんのために生まれて、なにをして生きるのか。


 こたえられるか、君は?


 僕は、いやだ。答えたくない。


 だから君よ、今を生きろ。


 熱い、こころ、燃やすんだ。


 だから、君は、きっとなれる。


 そうだ、笑おう。


 うれしいのだ、生きるよろこびが。


 たとえ、継ぎ目と心臓が傷んでも。


 嗚呼、ジョー、カリー、メロー。


 やさしい、君達は。


 逝くんだ。みんなの希望、叶えるために。


ーーーー ミーシャ・ヴァーミリオン ーーーー

Bravers stopwatch 90:57:27


 俺は左手薬指の指輪を外す。

 

 俺の力をそこそこ封印していたらしい指輪。


 関係無く力を使っていた気がしたが、ちゃんと封印してくれていたらしい。


 しかも、外した時、封印していた時間に対して、覚醒時間が付与されるんだとよ。


 それも10時間。


「……みーくん的には、これでもまだ足りねぇっつーんだろ?」


「そうだね、ミーシャ。それでも、足りている気はしない」


 ぬあー、みーくんの俺に対する呼び方が変わった。


 これガチモードだわ。


「だって聞いてよ。僕は概算で100時間って出しただけであって、ピッタリ100時間じゃないんだよ? さすがに1割はズレないと思うけどさ……」


 ふぇ〜ぇ。


「ロスタイム最大10時間かよ」


 みーくんは黙って頷いた。


 『動季同期するハート』が使えりゃ何とかなるんだが、結局クールタイム明けなかったからな。

 もう絶望しかねぇし、笑うしかねぇよ。


 それでも、俺はみーくんの両頬を叩くように掴み、深いキスをする。


 もちろん、マウストゥマウスだ。


 悶えるみーくんだが、離しゃしねぇ。


 1分経過したくらいで、俺がモジモジしてきたから解放してやる。


 無言のまま、口を尖らせ、去るみーくん。


 ボソッと二言。


「ありがと。元気出た」


 ありがと。俺も元気と色んなヤル気出た。

 あーもう可愛いなぁみーくんは!


 でも、こんなひと時は終わりを告げる。


 城門前の爆発するような音によって。


 俺は、広い庭園で、待ち構える。


 勇者ああああが、見えた。


 横に立つみーくんに一直線だ。


 俺はみーくんを抱え、全速力で魔王城内部の大講堂へと突入する。


 何もない、誰もいない、ただ広いだけの講堂。


 逃げていても、勇者ああああの方が3倍速いからな。

 長距離は逃げられねぇ。


 だから、登壇したところで、勇者ああああに、みーくんを投げ渡す。

 受け取った勇者ああああが、少し困っているように見えたのは気のせいだろうな。


「ま、僕のニセモノなんだけどね。久しぶりに僕のコピーを作ったよ」


 チューした後に去った本物のみーくんが舞台袖から出てきて、『魔王の系譜』を左手に持ち、『錬金術』を起動する。


 一瞬だけ止まった勇者ああああを、真っ黒な液体の球の中に沈める。


「クックック、石炭を高温乾留して作ったコールタールだよ。完全に動きを止めることができないなら、その動きを最小限までこっちが制限してあげる」


 X線か何か分からん装置で中を見る限り、勇者ああああはまともに泳げてすらいない。

 効果はあるな。


 だが、それでも、真っ直ぐにみーくんへと向かう。


「やっぱり、魔王の系譜のある方へ動くね……」


 そう言いながら、みーくんは浮く球体の反対側に歩く。

 勇者ああああは、みーくんの方に体を向けて、ゆっくり泳ぎ始めた。


「なぁ、結局はぐらかしてきたけどよ。いい加減教えてくれて良いんじゃねぇの? 『魔王の系譜』が壊されるとどうなる?」


 みーくんは、少し黙って、それから口を開いた。


「本来は壊せないはずなんだよね。破れないし燃やせないし。それが壊されるってなると……まぁ僕死んじゃうんじゃない? 僕よりも優先して狙ってくるくらいだし」


 軽く言うが、やっぱりそうだよな。


「なんか、この魔王の系譜、ちょっと特別みたいだから、下手すると世界が滅ぶかも?」


 冗談っぽく笑うみーくん。


 その考察は確かにあった。


 だっておかしいだろ?


 サウス・マータの『魔王の系譜』に、勇者ああああは目もくれねぇ。

 勇者の教典としての役割を果たさせたせいか?


 どうにせよ、改めて、また調べる必要がある。


 ただ、それは今じゃねぇ。


「みーくん、とりあえず、これからどうする? 2時間くらいはこのままでイケそうだが」

「いや、そんなに保たないよ。1時間くらいじゃない? ちょっと次の様子見てくるね」

「行ってら」


 俺はみーくんから中身真っ白な魔王の系譜を受け取って、そのちっちゃな背中を見送って、勇者ああああを誘導し続けた。


ーーーー ミシェリー・ヒート ーーーー

Bravers stopwatch 91:26:10


 避難は終わった。

 ウチも避難済みや。


 でも、若干名のアホゥ共がまだ魔王城に残っとる。


 そんのアホ代表がギリや。


「ここは私の城だ。危なければ勝手に出る。それまで放っておけ」


 こんなことゆーて、魔王城の調理場に籠もっとる。


 一応説得役にラナ料理長を残しちゃおるけどな。


「いざとなったら、ちゃんと逃げるの。だいじょーブィなの」


 ってブィサインされても……不安しかあらへん。


「ま、ジェイド様が何とかしてくれるぴょん!」


 あの兎はいったい何なんや?


 ギリにくっついてベタベタと……。


「あー、なんか腹立ってきたわ。ちょっと、ギリを連れ戻しに行ってくるわね。あとは任せたわよ。シッシ、テンテン」


 フラフラになりながらも戻ってきてくれて、即座に避難のお手伝いさせたところ悪いんやけど、全部ぶん投げさせてもらうわ。


 ウチらの魔力、片道分しか残してなくて、もう無いやて?

 歩いて行くからええよ。


 片道7時間ちょい? 上等や。


 あのアホギリを掴まえるんには、ちょうど良い準備運動やな。


ーーーー ミーシャ・ヴァーミリオン ーーーー

Bravers stopwatch 92:38:59


 やべぇやべぇ。


 俺はすぐにみーくんを呼ぶ。


「そろそろ抜け出す? ……ぉお、やるねぇ」


 飛んできたみーくんが見たモノは、コールタール球に渦が巻かれていた。


「いきなり回転し始めて、こうなった」

「遠心力でも、渦に飲まれても、どっちでも脱出されるね。ちょっと球をクルクルしてみようかな。えいっ」


 みーくんがコールタールの浮いた球を渦とは反対に回す。一瞬だけ渦は弱まるが、勇者ああああは自分の身体を反対に回転させ、さっきより渦をでかくする。


「こりゃダメだ。次の準備はオッケーだから、叩き落とすね」


 みーくんは、大講堂の下に大穴を開け、勇者ああああをコールタール球ごと叩き落とす。


 俺達はタールに勇者ああああが絡まっている間に所定ポジションに移動した。


「さぁ、作戦名『バブル様を見てる』に引き続き『魔鉱石は砕けない』作戦、スタート! さぁ、ここまで辿り着けるかな?」


 この3ヶ月、一生懸命みーくんが貯めてきた巨大魔鉱石。これを繋ぎ合わせて作った巨大迷路。


 突破できるもんなら、突破してみやがれ!


ーーーー フーリム・D・カーマチオー ーーーー

Bravers stopwatch 92:42:19


 私は今、アイシテルミッツの丘にいるわ。


 もう、ここから動くなって、ジェイドに言われたわ。


 当然、私達はゴネたんだけど、代わりに戦況を見せるって。

 全世界に、その戦いを見せているの。


 一言で言えば、地味よね。


 延々と勇者ああああを足止めしているだけだもの。


 でも、勇者ああああと対峙したからこそ分かる。


 それがどれだけ大変で、ジェイドの手口がどれだけエゲツないかって。


 だって、魔鉱石の迷路よ?


 頭おかしいでしょ?


 そもそも加工なんてできないし、傍で魔法なんて使おうものなら、魔法使った者、死んじゃうかもしれないのよ?


 っていうか、いつから魔王城の地下があんなに改造されてたの?

 そもそもいつ採取してたの?


 心を読める私が知らないってどーゆーことなのよ。


 私、自慢じゃないけど、知り合いの秘密全部知ってることが取り柄みたいなものなのよ?


 それが、ジェイドの前ではナニ?


 普通の女のコな訳?


 もうホント、やだ。


「好き、ジェイド」


 こんな時に、何を言わせるのかしら?


 絶対に、結婚してもらうもん。


 だから、絶対に、負けないで、ジェイド様。


ーーーー ミーシャ・ヴァーミリオン ーーーー

Bravers stopwatch 95:39:41


 おぉ、このラビリンスで3時間近く稼いだな。


「にしても、エゲツないな。この迷宮」

「まぁね。だって勇者ああああの初期位置からここに繋がる道無いし」


 地下に張り巡らせた全長20kmに及ぶ大迷宮は、床から天井、もちろん壁に至るまで全部が魔鉱石だ。

 俺かみーくんじゃねぇと加工できねぇ。

 実質やったのはみーくんだがな。


「過去の僕に感謝だね」


 魔鉱石の貯蓄はあったが、過去のみーくんが送ってくれたブループリントで一発よ。

 設計図ってスゲェな。


 だが、勇者ああああが動きを止める。


 さっきまで、真っ直ぐ行って、ぶつかって止まるを繰り返していたのに……不穏だな。


「……壁を殴り始めた? んん? ヒビ入った? んげっ!?」


 魔鉱石が割られ始めた。

 しかも、そこから、真っ直ぐ、最短距離でココに来るじゃねぇの。


 みーくんは慌てて星ノ眼を近付けて確認する。


 ずっとステータス・フルオープンだからな。


ああああ Lv1001×3

力:1000000(×3)  魔力:1000000(×3)

『封』『勇者X3』『アンドリュー・パンマーチ(右)』『ジョー・クッパアマン(央)』『カリー・パンクエアー(左)』『メロー・アンナ姫の心(繋)』『全テヲ砕ク者』『暴走覚醒』『攻撃の無力化』『全魔法・状態異常無効化』『魔王の系譜ブレイカー』『コノ命尽キルマデ』『闘ウコトヲヤメナイ』『ス●ー■ス・フ▲◎ー✖ン』

感情ステータス:『負けナイで』『あ』『あ』『あ』


 フゥッ! やっちまったなぁ!


「称号スキル増えちゃった……」


 これにはみーくん、お手上げデース。

 俺もお手上げだっつーの!


 それにしても『負けないで』ってなぁ。


 みーくんが眉間にしわ寄せたまま、魔力エンジンを始動する。

 俺もエンジン温めとこ。


「ミーシャ、スイッチ、準備」

「は? まだ当分こっち来ねぇだろ?」

「……来た」

「うそーん」


 直後、極厚のガラスが砕ける音がして、勇者ああああが飛び出してきた。


 構えていたおかげで、アクセルは即ベタ踏み。


 俺もみーくんも、ジェットエンジンを積んだゴーカートで急発進する。


 勇者ああああの指が、みーくんに触れるか触れないかのところで、みーくんが突き離す。


『予定より早いなぁ』


 インカムからみーくんのボヤきが聞こえる。


『これ突破されたら次がラストだっけ?』


 俺の質問に、みーくんは困ったように笑った。


 安心しろ、みーくん。

 みーくんだけは、何があっても、俺が必ず守ってやる。

 みーくんが、俺に、そうしてくれたようにな。


『この【マジゴーカート∞】作戦で4時間……いや3時間だろうなぁ……』


 みーくんの見立ては厳しいな。


 つっても、地下に張り巡らせた全長64kmのロングコースだろ?


 どんな手使って勇者ああああが潰してくるか……。

 想像できるか?


 残念だが、俺もみーくんも、入院中に散々ゲームしてたのに、忘れちまってたんだよな。


 ゴメンな、みーくん。


ーーーー ミシェリー・ヒート ーーーー

Bravers stopwatch 98:30:53


 やっと中庭に着いたで!


 あー、疲れたわぁ。


 戦況も膠着しとるみたいやし、今ならたっぷりギリに説教できるやろ。


 にしても、星ノ眼で見よるけど、ジェイド様もミサもさすがやな。


 ごーかーと? に乗りながら、おーとどらいぶもーど? にして、あんちまてりあるらいふるとかゆーでかい銃担いで、勇者ああああを全然寄せ付けへん。


 これなら時間まで逃げられ……ん?


 勇者ああああが、突然速度を落として上を見上げた。


『みーくん!? なんで勇者ああああは止まった!?』

『分かんない! でも、上を見てたよね!? 上……上……』


 ジェイド様もミサも、その景色が上下反転する。


『マッズイ! ショートカットだ! ミーシャ、飛んで!』

『もうコース把握したのかよ! チートだチート!』


 ジェイド様とミサは飛び降り、ゴーカートが進んだ先で爆発しおった。


 そこには、勇者ああああが、ゴーカートの燃料に塗れて燃えとった。


 ジェイド様とミサも、慣性の法則に逆らって、ようやく止まったところやな。


『じゃあ、先に上行くから! ハートのエース連打しといて!』

『もうやってら!』


 ハッ、戦況眺めとる場合ちゃうやん!


 ギリを早く何とかせんと、本格的に城が戦場になる!

 その前に、連れ出すんや!


ーーーー ミーシャ・ヴァーミリオン ーーーー

Bravers stopwatch 98:33:13


 やべぇよな。


 あと1つ。


 それはどう頑張っても1時間しかもたねぇ。


 あとは細々とした小技はあるだろうが、それで何時間もぶつかれる訳がねぇ。


 だが、やるしかねぇんだよな。


「みーくん、ラストステージ、ステンバーイ!」


 俺とみーくんの決めた暗号が、最後の舞台を起動する。


『ビューティフォー』


 みーくんを追って脱出口から地上に行こうとする勇者ああああ。


 残念、それはみーくん専用の脱出口で、それ以外のヤツが入るとな……。


「発射されるんだぜ! いっけぇ!」


 マスドライバー2が、勇者ああああを真上に撃ち出す。


 作戦名『打ち上げ花火、下から見るか、下から撃つか』開始だぉらぁ!


 俺も別ルートで地上に出る。


 花火のような連射音が、天に向けて放たれる。


 みーくんは、ガトリングをぶっ放していた。


 毎秒50発の弾丸が、勇者ああああを地上に落とさない。


 もちろん、それだけじゃダメだろうからな。


 俺もみーくんの隣で、電気をチャージし、コインのような弾を、発射する。


「レールガンでも喰らえぇ! っふぅ!」


 発射された超電磁砲の弾は見事命中し、勇者ああああを更に打ち上げる。


「みーくん、あと一時間! とにかく、粘るぜえ! ヒャッハー!」


 俺はこの一時間、笑い続けた。


 みーくんも、笑ってくれた。


 これが、最後かも、しれないからな。


ーーーー 夕暮 美紗 ーーーー

Bravers stopwatch 99:44:43


 弾切れだ。


 勇者ああああは、その身体をかなり崩壊させながらも、未だ健在だった。


 あーあ、負けちまった。





ーーーー Norinαらくがき ーーーー

ジェイドくん、やるべきことは全部やりました。

隠し玉は、もうありません。

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