36-1Team The West~魔王城前防衛戦

ーーーー ○□ああ ーーーー


 メロー姫と、カリーの声が消えた。


 そのおかげで、私は自我を取り戻した。


 ここは、どこか、理解するのに時間が掛かった。


『アンドリュー、どうやったら止められる!?』


『分からない。身体が言う事を聞いてくれないんだ』


 アンドリューから、初めて弱音を聞いた気がした。


 いつも眩しいくらいに明るくて、真っ直ぐなアンドリューが……。


 人間と魔族が協力して、私達を妨害する。


 まるで進むのを少しでも遅らせるように。


 ドラゴンですら、愛を叫ぶ。


 愛しき人間のために。


 嗚呼、美しい。


 しかし、けがらわしい。

 もちろん、そうさせている私達がだ。


 ……どうして、こんなことに……。


 こんなことをするために、私達は生まれたのではない。


 早く、誰か、止めて。


 誰でも良い。だから――。


 ああああ。  


ーーーー ヌエ・ウルオス ーーーー

Bravers stopwatch 82:02:44


 まさかこんなに早く『急成長』を、また使われるなんて思ってなかったなー。


「ねぇ、父さん、知ってる? 急成長を使うって、私に呪いを付与する必要あるよね? つまり、私、痛い思いしないといけないよね? 虐待だよね? もうジェイドおじさんに言いつけるからね!」


「で、でぇじょうぶだ! ジェイド様に、許可は取ってある!」


「え? ホント? じゃあ、私をキズモノにしちゃった責任、ジェイドおじさんに取ってもーらおっと! 私、ネーサーさんみたいにウェディングドレス着てみたいなぁ。えへへ~」


「ドレス!? 結婚!? ジェイド様とは言え魔王と!? さすがのあっしもそいつだけぁ……ごふっ!」


 おっと、調子に乗り過ぎましたぁん。てへっ。

 母さんがニッコリ笑ってる。

 アムさんに『ボディ、ヤれ。それで許す』って言ったの、私聞こえたからね?


 アムさんが居たのを見た時、ちょっぴり心配したけれど、連携の心配は無いね。


「ゲンタ、ヌエ! 遊んどる暇は無いぞぇ!」

「あっしぃ!? そんなぁ……」


 父さんが情けない声で抗議している。

 なんか、みっともない。


 でも、サランママの言う通り。


 音が、近付いてきた。


 ルナさんが、『Legend of Yggdrasill』の起動を完了する。


 魔王城内にいた魔族が、私達のために魔力を分けてくれるんだって。


 フランお姉ちゃんと、フランのパパが、勇者ああああを止めるために、叫んでる。


 ふふっ、フランお姉ちゃん、ジェイドおじさんのこと、大好きだもんね。


 声が枯れるくらい、大好きなんだよね。


 大丈夫だよ。


 あとは私が、私達が、何とかするから!


「呪い解放【参多留本サンダルフォン】、起動だよ!」


 父さんも、母さんも、起動する。


 その称号スキルをもう一度。


 今度は、家族みんなで、本気の全力だよ!


 ジェイドおじさん、ちゃんと見ててね!


ーーーー ルナ・ティアドロップ ーーーー

Bravers stopwatch 82:05:14


 私が『Legend of Yggdrasill』を起動した直後でした。


 大きくなったヌエちゃんのスキルが起動します。


「あっしらも行くぞ! 『交天使い【実華恵留ミカエル】』起動せよ!」

「はい、ゲンくん。『交天使い【佐麻得瑠サマエル】』、起動!」


 続いて、ゲンタさんとオリシンさんのスキルも起動します。


 大きな天使が、3体、並んで立ちました。


 顔のない、機械とは違った無機質なフォルムの天使。


 どうして天使って思ったのか、よく分からないけれど、見て天使って分かるくらい、綺麗で眩しい存在でした。

 あと、名前が天使だしね。


 勇者ああああは、龍になっているドランさんとフランちゃんを、最後に押し退け、瞬時に城門前まで迫りました。


 とにかく、速い。

 まずその速度に、私達は対応を余儀なくされます。


「ふっふーん、掛かったなぁ!」


 でも、ヌエちゃん達は、対抗策があったようです。


 サンダルフォンを基点に、ミカエルとサマエルが前に出て、勇者ああああを囲います。


 すると、勇者ああああは、空へと落ちました。


 すぐに、大地に向かって落ちます。


 天地をひっくり返す。

 それを繰り返しているような光景です。


「これこそ、世界に与えるデバフ! 効果範囲は狭いけど、三位一体の技、『天変地異』だよ! 勇者ああああに直接効果が無かろうが、世界に効果を与えれば良かろうなのだぁ! アーッハッハ!」


 ヌエちゃんが悪の女幹部みたいに高笑いしています。


「ヌエ、尊い……」

「この歴史的尊さを切り抜いて納めたい……ジェイド様? 写真とやらが? 現像してあげる? こ、これは!? オリシン!」


 口元を抑えて鼻血ブーのオリシンさんに、写真がどうのこうのと呟くゲンタさん。

 ジェイドくんが何かやってるのかな?


 あ、星ノ眼から写真がプリントされてきた。


「「家宝にいたしますぅ!!」」


 ゲンタさんもオリシンさんも、土下座して感謝しています。


「余計なことに魔力消費しないでほしいなー。ジェイドくん……」


 私は空を睨みます。

 まぁ、ジェイドくんならこの程度の魔力、1分も掛からず回復するんだろうけど。


「全くその通りじゃのぅ。緊張感が全く足りておらん」


 プリプリしているサランさんですが、写真が気になってしょうがないのはバレバレだよ?


「ジェイド様の人心掌握術は素晴らしいっちゃ……これでやる気を引き出させるっちゃね……めもめも」


 アムさんはジェイドくんの気まぐれに一々絶賛してるし……。


 でも、そうなのかな?


 結局は、みんなの気力でちょっとずつ想定外の遅れを取り戻してるもんね。


 じゃあ、私には何をしてくれるのかな?


 ジェイドくん、ほんのちょっとだけ、期待しちゃうからね。


 ……やる気、出てきたよ!


ーーーー アム・ノイジア ーーーー

Bravers stopwatch 86:51:08


 4時間は過ぎたっちゃね。


 勇者ああああは、相変わらず3体の天使に弄ばれているっちゃ。


 時々勇者ああああが変な動きをするっちゃから、それを雷でさせないように攻撃しているっちゃ。


 まだ余裕に見えるっちゃけど……。


「このペースだと、あと5時間は保たないと思いまーす!」


 生命線は、勇者ルナの魔力回復っちゃ。

 それがあと5時間……魔王城内で10時間の戦闘、できるっちゃ?


 魔王城には、もうジェイド様とミサしかいないっちゃ。

 魔族は全員、避難済っちゃね。


 ……四天王ミシェリーが近くにいるくらいっちゃ?


 ミシェリーと言い、ルナと言い、ウチがちょっと回復して魔王城に帰るって言った途端に飛び付いて来たっちゃ……。


 まぁルナのおかげで魔力満タンで戦えるから良いっちゃものの。


 ミシェリーを連れて帰った意味は……避難の陣頭指揮という意味では良かったっちゃかね?


 連れて帰る人選の間違いは無かったことも評価のポイントに入れてもらうっちゃ。


「? また変な動きっちゃ。ふんっ!」


 紫電一閃。

 勇者ああああの腕を斬る。

 もちろん、斬れないっちゃ。でも、顔に当てようとした手を叩き落したっちゃ。


 余計なことはさせないっちゃ。


 とにかく、時間を稼ぐっちゃ。


 ヌエからヨシッのハンドサインっちゃ。


 この調子で、最低あと5時間、頑張るっちゃよ。


ーーーー オリシン・ウルオス ーーーー

Bravers stopwatch 90:54:21


 私は、迷っていました。


 救われたとは言え、魔王に。


 ヌエも、サランもです。


 宴で知りました。


 こんな魔王も、いるんですね。


 平和をこよなく愛する魔王ではないですが、守るべき者、戦うべき事を理解できる魔王など、決していないと思っていました。


 何より魔王が憎くてしょうがなかったはずのゲンくんまで、ジェイド様と呼んでいることに驚きました。


 皮肉ではなく、自然に、そして敬意を持って、そう呼ぶ彼。


 ジェイド様は例外なのか、それとも恩人だからか、それはまだよく分かりません。


 ヌエにいたっては、まるで若大将に恋する乙女です。


 思わず味見……コホンコホン……応援したくなっちゃいます。


 だからでしょうか?


「魔力が回復できなくたってぇ! 私の魔力が尽きるまではぁ! ぜぇったいにぃ! ここは通さないんだからぁ!」


 魔力が底を突きかけ、『天変地異』を維持できなくなりそうになった時、参多留本の腕を参多留本自身に喰わせて、無理矢理魔力を維持します。


 交天使いは、その巨体にダメージを負えば、それ相応の痛みもヌエ自身に返ります。

 両腕から血を流しますが、サランが治療を……。


「すまん、ヌエ。もう血を止めるだけの魔力しか残っておらんのじゃ。もう……回復はできん。無茶を、これ以上の無茶はするでない!」


 サランの魔力も、魔力回復に回してくれていましたから。


「オリシン! あっしらも!」


 ゲンくんの思い切りの良さには、いつも助けられてるよ。


 私は、ゲンくんの実華恵留の動きに合わせ、佐麻得瑠の腕を喰らわせます。


 腕が千切れそうになる程の激痛。


 ヌエが、か細い声でヤメテ、と言っていますが、それは私達のセリフです。


 ね? ゲンくん。


ーーーー ゲンタ・ウルオス ーーーー

Bravers stopwatch 90:57:27


 オリシンの言う通りでさぁ。


「言いたいこたぁ山程あるが、ともかく、あと30分! 勇者ああああを、ここに留めるぞぉ!」


 1分でも、1秒でも長く、このトンデモ勇者をここに留める。


 それがあっしらの、せめてもの恩返し。


 魔王ハーゲよりは、魔王ジェイドの方がマシ。

 死に掛けの身体で、そんなことを考えていた。


 宴でも理解したが、ジェイド様が根っからの魔王だってこたぁ分かったよ。


 ただ、憎めねぇ。


 殺す、壊す、奪い去る、それが魔王のやることだと思っていた。


 宴を思い出す。


『必要があれば殺すし、壊すし、奪い去るよ。でも、それが必要な時って、どんな時かな? たいてい、殺されそうになるか、壊されそうになるか、奪い去られそうになるか、だよね? 良いよ? いつでも掛かっておいで。返り討ちどころか、兆候が見られたら……いや、挑発してきただけで、末代まで後悔させてやるもん』


 思わず笑っちまった。


 なんだ、この魔王、大事なものを守りたいだけなんだってな。


 それで、ヌエどころかあっしらまでも助けてもらった。


 ありがてぇ。


 この命、少しだけなら懸けて良いと思えるくらいには感謝してんだ。


 だから、今がその時。


 勇者ああああが、天変地異の結界から抜け出そうとする。


 『真・時空両断斬り』


 一度だけ、勇者ああああを結界に叩き落とす。


「勇者のくせに、何やってんだぁああああ!」


 あっしの最後の叫び。


 届かないのは知ってやす。


 ただ、右目から溢れる涙が、あっしに何かを訴えていたような……そんな……気がした。


ーーーー Norinαらくがき ーーーー

アンドリューとジョーが、自我を取り戻しました。

さす勇。


しかしながら、肉体の自由は利きません。

タナシンのウィルスに蝕まれているからです。

ジェイド印のナノマシンも、攻撃の無力化のせいで効きません。



〜予告〜


次回、最終決戦。


Over The Ragnalok黄昏 を 超えて〜魔王城防衛戦

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る