36-0魔王様、焦る
修復されて綺麗になった魔王城謁見の間。
僕は星ノ眼で戦況を見ていた。
少し苛立っていたとは言え、まさか僕の口からこんな言葉が出てくるとは思わなかったよ。
「うーん、この『勇者ああああ』め……。あ……」
もう魔王のセリフじゃん?
「みーくん……ぶふっ、魔王のセリフ……ブフッ、死亡フラグ……ブフフッ……」
横で美紗が腹を抑えて笑いを必死に堪えている。
笑っちゃいけない状況と理解していても、堪えきれていない感じだ。
「だからこそ、すでに4回以上もこの勇者ああああに負けてるんだろうね」
ネーサーのおかげで無限残基を確保できているからこそ、こうして少しだけ楽観的にもなれる。
だけどなぁ。今、この状況はかなりのベスト環境なはずなんだよなぁ。
最果ての地からサウス・マータゲートまでの時間が想定外に早かったけれど、みんなのおかげで思ったより取り戻した。
でも、僕の想定では、この魔王城内決戦でさえ10時間は持たせられない。
スタージェイラー2号機こと『GONE』もドランやフランの砲撃の間に混ぜ込んで使い切っちゃったし。
「あと18時間……これはさすがに厳しいなぁ」
僕が普段の2倍頑張る?
ふっ、ここぞという時に2倍のパフォーマンスを出せる人間……魔王でも良いや……いないでしょ?
「それでもやるしかないのかなぁ……」
僕は天を仰いだ。
「やれるだけやろうよ、ジェイドくん! まだ諦めるような時間じゃないよ!」
「そうです、ジェイド様。少なくとも、まだ戦える者はいます。その者達を結集して戦えば、数時間は……きっと……」
「アムも回復したからやれるっちゃ。もうちょっと、活躍するっちゃ!」
ルナとミシェリー、アムが僕を励ましてくれる。
でも、根性論と希望的観測は不要だ。
アムに関しては失敗を取り戻したいという気持ちがヒシヒシと伝わってくる。ネイの分も取り返したいんだろうなぁ。
別にアレを失敗とは思ってないけど……。
ん?
そんなに怖がらなくても良いんだよ?
ちょっと怖い目をしてたかな?
だって僕だってボヤいていた訳だし。
あー、ダメだ。
焦りの感情が表に出ちゃう。
ルナとミシェリーに僕の解説をしにいく美紗を見て、僕は申し訳ない気持ちになり、溜息を吐いて俯いた。
そんな時、あまり聞き覚えの無い声が掛かった。
「そうでさぁ、ジェイド様。あっしらに、お任せくだせぇ」
「うふふ、一宿一飯の恩義……少なくとも掛ける五で、まずは返させていただきますわ」
一瞬、誰?
と喉まで出ていたことはナイショ。
僕の目の前には、ヌエを抱いたゲンタ・ウルオスとオリシン・ウルオスがにこやかに笑い、立っていた。
「まだ帰ってなかったん……みたいな顔しないでくだせぇよ」
あ、ごめん。顔に出てたかな?
「状況を見るにー……帰ったところで。でしょう? それに、そもそも帰る場所は、まだ有りません」
オリシンの言う通り、サウス・マータの龍の墓場をウェスト・ハーラの生き残りに提供する予定ではあるが、まだ予定のまま。
少なくとも、この戦いが終わらなければ、ゲンタもオリシンも、始めることすら出来ない。
「勝算は? 具体的に」
「ありやす。あっしも、オリシンも、勇者としては弱いでさぁ。ただ、それは相手を弱体化させることに特化してるからでさぁ」
「ですが弱体化は、勇者ああああに効果はありません。てすので、私達に弱体化……デバフを掛けます」
んん?
途中まで分かった。
最後だけ、全く分からない。
「ヌエは、どうやって覚醒したか、御存知の通りでさぁ」
……なるほど。
「ゲンタ、オリシン。城門前を任せる。ルナ、サランを呼んで、魔力の回復を。ミシェリーは、魔王城内の全魔族に避難命令を。もちろん、ルナに魔力を全部預けてからね。アムは……せっかくだし、城門前で一緒に戦っておいで。ただし、みんな、生き残ること、それを前提に戦ってね」
美紗が僕の横に立つ。
残りの皆は、僕に跪き、無言で立ち去った。
「ちょっとだけ、希望が見えたな」
美紗はこういうけれど、僕は違った。
「それでも、あと1つ、足りないよ」
だけど、美紗は否定する。
「ちげえよ、あと1つ、それで足りるんだ」
言い方の違いだけだけど、ちょっとだけ、希望が見えた気がしたよ。
ーーーー Norinαらくがき ーーーー
ジェイドくん、初めてのガチのピンチと気付く。
普段からピンチには陥ってるんですけどね。
本人的に、まだこんなのピンチじゃないって思っている節ばかりでした。
今回は、肌も勘も思考も全て危機に染まっております。
さぁ、もうちょっとだけ、続くんじゃ!
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