35-3Million Chaser~サウス・マータ、追走戦

ーーーー ○あ◇♡ ーーーー


 アンドリューやみんなの声がした。


 私には聞こえた。見えないけれど。


 行こう、共に。


 例え、身体中が痛くて、両手足が動かなくても。


 世界の希望を守るため、必ず魔王の系譜を壊すんだ。

 

ーーーー ポン・デ・ウィングーーーー

Bravers stopwatch 25:41:30


 星ノ眼から、魔王ジェイドの声がした。


 そう思ったら、次は戦闘音と、ミーシャの声。


『ちくしょー。すまねぇが、あとは任せたぜ!』


 ミーシャがやられた?


 いや、抜かれただけっしょ。


 いやいや、それだけでも有り得んっしょ。


 だって今、ミーシャ覚醒中じゃん?


 それが即ヤられるって……。


「ッ!? ポンよ! 構えぃ! 来るのである!」


 地上にいる閣下は慌てたように声を上げ、構える。


「え? 閣下、ここ100kmは離れてるんすよ?」


 俺っちは荒野の上空にいる。『龍の城』『天空の巣』を同時に展開して、完全に守りを固める。


 龍の侵攻さえも防ぐ光の壁と、龍の鱗すら貫く防衛システム。

 これは覚醒ミーシャですら、簡単には抜けない。

 つまり、勇者ああああすらも止められるっしょ。


「雷が……近付いてくる?」


 雷の柱が遠くから、何本も、段々と、近付いて……っ!?


 何かが『龍の城』にぶつかると同時、『龍の城』が全て砕け散った。『天空の巣』も起動するが、その何かに発射される時には、もうその何かは居なかった。


 今のが、勇者ああああ?

 俺っち、全くの役立たずで終わ……。


「よくやったのである! ポン!」

「ナイス足止めっちゃ! 行くっちゃよ! ネイ!」

「今こそ、全力である! 天下百日(−99日)起動せよ!」


 そこに現れたのは、魔王アム・ノイジア。

 俺っちや閣下と共に、この場で待機してたんだが、予定時刻を過ぎてんのに来ないってなって様子を見に行っていた。


 それが勇者ああああと一緒になって帰ってきて、いきなしコレかよ?


 龍の城にぶつかって止まった衝撃で僅かに足が浮いた勇者ああああは、その浮いた足のままで、魔王アムと閣下の目にも止まらぬ連撃を受け続けた。


ーーーー ネイ・ムセル ーーーー

Bravers stopwatch 25:45:05


 なるほど、これは厳しいのである。


「ポンよ! 残った力、その大半を、地形の破壊用に残しておくのである! ぬおおおお!」


 いくら斬ろうが傷すら入らぬ。

 手を剣で弾こうが、重心を移動させ、体のみで僅かずつ、進んでくるのである。


 アムとの連携ですら、今この場で持たせるのは5分が関の山であろう。


 ゆえにポンに指示を出す。


 すぐに飛び立ち、遥か上空で待機しておるな。


「アムよ。もうしばし、踊るのである」

「ふふっ、ネイもたまには、良いこと言うっちゃ」


 アムと吾輩は、微笑む。


 こんな時だからこそ、勇者として、微笑んではいけない。

 アムをこんな場に帯同させることすら、望んでいないはずなのに、である。


 アムと闘えることが、吾輩は楽しいと心より感じるのである。


 魔王ジェイドに影響されたか?


 いや、違う。


 吾輩の、元からの……性根であろう。


 まさに、勇者失格。


 じゃが、それでも剣を振り続けるのである。


 全ては世界と、アムのために。


 この力、尽きるまで。


ーーーー アム・ノイジア ーーーー

Bravers stopwatch 25:50:09


 この勇者、強過ぎるっちゃ。


 全力の雷剣でズバズバ斬ってるはずっちゃ。


 それなのに、傷はおろか素手で雷剣まで握り潰して来るようになったっちゃ。


 雷剣はすぐに作れるっちゃけど、あんまり雷を消費したくないっちゃ。


 ネイの息も上がっているっちゃね。


 そろそろ潮時……。


「やっと追い付いたぁ!!」

「アム! ネイ爺さん! 待たせたな!」


 空からジェイド様とミサが降って来たっちゃ。

 素晴らしいタイミングっちゃよ。


「行くぜぇ! みーくん!」

「はいよ! 美紗! 『錬金術』ブループリント、起動せよ! 『ブラックアルカの牢獄』」


 二人が両手を地面に叩きつけた瞬間、アムもネイも渾身の一撃で勇者ああああを数センチ浮かせ、後退したっちゃ。


 そこに現れたのは人一人がスッポリ収まる黒い箱っちゃ。

 中には勇者ああああが閉じ込められた。


 でも一撃で、勇者ああああはその左腕を貫通させるっちゃ。

 

「まだまだ連鎖するよ! 今の内に後退! 勇者ポン! ありったけの魔法で地面に大穴を! 入口は狭く! 中は広く! 壺みたいな大穴を何層にも! できるだけ掘ってね!」


「んな無茶なぁ!」


「頑張れポン! お前にならできる! できたら俺のお気に入りメイドちゃん一人を紹介してやろう!」


「まっかせろぉ!」


 アムだけじゃなく、ジェイド様も白い目をポンに向けているっちゃね。

 ジェイド様も苦労人だっちゃ。


 当のああああは、更に大きな黒い箱に閉じ込められていたっちゃ。

 破って出てもまた黒い箱……気が狂いそうな技っちゃね。

 しかも回転してるっちゃ。

 その内どこに向かってるか分からなくなるっちゃよ。


「これでもそんなには持たない。だから予定を繰り上げてゲート前に移動する! 良いね?」


 ジェイド様の指示は絶対。


 もちろん文句は無いっちゃ。


 ここからゲートまでで10時間食い止めるはずだったっちゃけど、全然ダメっちゃね。


「これは僕に責任がある。音速どころじゃないよね。まさかの速度だった。下手すると移動時間の換算分を全部削り取られるかもしれない……」


 ジェイド様の渇いた笑い。


 全然笑えないのはみんな分かってるっちゃ。


「まぁ思うようにいかねぇ方が楽しいだろ?」

「いや、楽しいとか言ってる場合じゃ……ふひっ」


 それはダメっちゃジェイド様。


 たまに恐ろしい笑顔を見せることがあると聞いたことはあるっちゃけど、コレのことっちゃね。


 ……知りたくなかったっちゃ。


 正直、ジェイド様と戦うことがなくて、本当に良かったっちゃ。


ーーーー Norinαらくがき ーーーー

現時点で、勇者ああああの平均移動速度は、

だいたい時速1800km,秒速500m設定です。

最高時速は更に5倍設定です。

つまり、止め続けなければ加速します。

アムは雷速(秒速340m)なので、雷を撃ち続けて足止めしながら追い掛けました。

サウス・マータ、ノース・イートは地球と同サイズ設定(半周約2万km)です。

何もしなければ3〜4時間でノース・イート魔王城に着いちゃいます。


ジェ:じゃあ僕が逃げた方が良くない?

Norin:ジェイドくん秒速7.7kmですもんね。

ジェ:そうだよ。衛星軌道だもん。ISSと一緒。

Norin:…………。

ジェ:……マジデ??( ゚д゚ )ウソヤン

Norin:察しの良い子は……。

   まだまだ続きます!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る