35-2最果てのFrontline~最果ての地、包囲戦

ーーーー あ□◇♡ ーーーー


 やめるんだ、魔王!


 あれ? 声が出ない。


 みんな、どこにいるんだ?


『私はここにいます』

『おいらはここだぜ』

『私は、ここだよ?』


 みんなの声が、頭に響く。


 傍にいるんだね。感じるよ。


 じゃあ行こう。


 でも、ずっと、光が僕らの行く手を阻む。


 そこに魔王がいるのは分かっている。


 壊すんだ。魔王の系譜を。


 救うんだ。僕らの手で。


 イースト・キーンを。


ーーーー ノウン・マッソー ーーーー

Bravers stopwatch 11:58:03


 最果ての地に来たよっ。


 禍々しい場所だなっ。


 何というか、死臭がする。


 そこに絶えず光がズドーンって落ちてるなっ。


『ノウン、見せ場よッ! ここで、死ぬ気でアピールよ! ご褒美は何でも! だから、みんなも同じ事を考えるはず! 第4夫人を目指して頑張りなさい!』


 相変わらず母ちゃんはうるさい。


 でも、うるさいけど、今回はヤるよっ。


 だって、ジェイド様、作戦会議の終わりにこう言ったんだよ?


「みんな、作戦は決行するけれど、生き残って。必ず、生き残って欲しい。生きてください。お願いします」


 ジェイド様が、初めてみんなに頭を下げた。


 魔王ジェイドとして、配下と勇者、その全てに。


「当然、対価は用意する。全員が生き延びたら、何でも1つ、各一人ずつお願いを聞くよ。もちろん、今の僕にできるお願いにしてね? ちょっとくらいなら、ハードなヤツでも頑張る」


 そして、全員が生き残ることに対価を用意した。


 今になって母ちゃんがこのテンションになってるけど、その場にいた全員、言葉が出なかったんだよ。


 だってそうだよなっ?


 全員が生き残ることが難しい敵。


 そいつと、戦わないといけないんだ。


 ジェイド様は笑って、みんな逃げても良いよって、言ってくれたけど、じゃあジェイド様はどうなんのっ? って話。


 一人でも戦うって?

 死んじゃうじゃん、ジェイド様。


 そんなの、あたし、無理だかんなっ!


「ジェイド様は、あたしが守るっ」


 だからこそ、先陣切っての一番手になった。


 なのに、どうして……。


「どーしてジェイド様もここにいんのっ!?」


 ジェイド様はテレテレしながら、ニコニコしていた。

 もうこの際、あたしの気持ちとか聞かれてても良いしっ。

 どーせ分かってるだろうしっ、どーせ後で分かることだしっ、母ちゃんが予約? しに行ってたみたいだしなっ!


「僕は現場監督と『星ノ眼』を各所に設置をね。それに、何かあった時に『核魔法』一発くらいぶち込んどきたいし」


 笑顔のままでちょっと怖いよジェイド様。


 もちろん、ジェイド様だけじゃない。


「ミサとショーコもいるのなっ」


 ショーコは運び屋だよなっ? だから居ても分かる。


「何か勘違いしているようだけれど、私の役目は戦闘要員よ。今回は」


 睨んでくるショーコ。

 でも、そんなに怖くないよっ?

 ショーコ単独とは話す機会あんまり無いけど、アイとの繋がりでそこそこお茶した仲だからなっ。


 今回は活躍できると思って気合入ってんだろっ。


 なんでも、アイとミサを見てたら子供欲しくなったんだとさっ!


「もうすぐスタージェイラーの充電が切れるよ。ノウン、準備は良い?」


 私は頷き、二言。


「ジェイド様、見ててよっ! 母ちゃん、サポートお願いッ!」


 そして私は、大地の切れ目に飛び込んだ。


ーーーー ブレン・マッソー ーーーー

Bravers stopwatch 12:00:00


 我が娘ながら天晴あっぱれよ。


 その心意気、私も見習わないと。


 大地の裂け目に飛び込む直前、ジェイド様がノンちゃんを爆破する。

 でもすぐに癒やして完全覚醒。


 そこに『マリッジゴールド【炉心融解】』を起動。


 スキル内容は簡単に言えばバーサーク状態。


 攻撃力はおおよそ3倍。


 つまり、勇者ああああと理論値でほぼ互角。


 だからこそ、ジェイド様のみならず、全員一致でノンちゃんを一番槍にしたわ。


 不安要素はタイマンでやって負けた時、ノンちゃんは死んじゃう。

 でも、誰かが付添えば巻き添えを食う。


 だから光の最高位精霊である私が付添いを志願した。


 私が憑いていればノンちゃん飛べるし、メリットしかないもの。


 それなのに……光速移動できるショーコちゃんはまだしも、ジェイド様とミサちゃんまで来ちゃうのはどうなのかしら?


 リスクしかないと思う……のは私だけ?


 もっとも、結果論だけれど、ノンちゃんにとっては良かったみたい。


「ジェイド様、スキ……あたし、マモル……」


 バーサーク状態でもジェイド様に愛を紡ぐ。


 もうノンちゃん愛おし過ぎるわ。


 でもね、勇者ああああは、仄暗い闇の底から、本当に一瞬で、ノンちゃんの顎を下から殴り付けた。


「アマイッ!」


 本来なら一撃で意識が飛ばされるところ、ノンちゃんは自ら顔を上に向けてダメージを軽減した。


 勇者ああああの足を掴んでいたノンちゃんは、そのまま十数回転ぶん回して、再び亀裂の底に投げ落とした。


 そこから先、ノンちゃんはバーサーク状態のまま構え、集中する。


 勇者ああああが目にも止まらぬ速度で飛び出して来る度、殴って叩き落とす。


 速度が上がる。

 もう、ノンちゃんに休む暇は無いわ。


 場所を変えて飛び上がる勇者ああああに対し、先回りして叩き込むを繰り返す。


 もはや連打。


 もはやラッシュ。


 大丈夫、ノンちゃん。

 こんな大役、あなたにしか任せられない。


 誇りなさい。

 あなたは、もう超えている。

 魔王最強の側近と言われた、このブレン・マッソーをね。


 だから、頑張れ!

 負けるな! ノンちゃん!


ーーーー ショーコ・ライトニング ーーーー

Bravers stopwatch 12:03:08


 一体何が起きているの?


 目にも止まらぬ速さで動くノウン。


 勇者ああああが飛び上がってきたかと思えば、ノウンがもう打ち落としている。


 光速移動を発動すれば何とかなるかもしれないけれど、たった10秒程度抑え込むだけの私に価値なんてあるの?


 そもそも、ミサもジェイドも、腕を組んで黙ってニヤニヤしながら戦況を眺めている。


 余裕さえ見えるわ。


 見えているというの? この戦いを?


 私だけが、違うの?


「やべーな、みーくん」

「ヤバいね、これ。全然見えないや」

「ホント、マジそれ超ウケる」


 ……危うくコケるところだったわ。


 そうなの。二人も見えていなかったのね。


 良かった……じゃなくて、良くないと思うのだけれど。


「ショーコ、切れ目の上に移動してー」


 私はジェイドの指示通りに動く。


 疑問は後。この行為に何の価値があるかなんて、後で分かること。


「そこ! 合図したら光速化して真下をぶん殴ってね! ……はいッ!」


 言われた通り光速化して殴る。


 何かに当たった。


 すぐにノウンが来て、ドドドドと効果音が付きそうな程のラッシュを叩き込んでいる。


「ジェイド、今、私は何をしたの? 何か殴った感触があったのだけど?」


「え? 勇者ああああを殴ったんだよ? たまにノウンを休憩させてあげないとね。持久戦だから。美紗のハートのエースでちょっとならコース誘導できるから、あとはタイミングで上手くやっていくよ」


 ジェイドは私にほほえみ、ミサは私に向かってニシシと笑う。


「逆お手玉ならぬヨーヨー作戦ってな。精度上げるにはショーコ姉も必要ってことだ」


 ああもう。この子ったら。


「そーゆーことだね。さぁ、目標まで12時間、やるよ!」


 ジェイドの掛け声に、私もミサも頷いた。


ーーーー 夕暮 美紗 ーーーー

Bravers stopwatch 25:34:48


 さ……さすがに疲れてきたな。


 みーくんは平気そうに見える。


 なんだかんだ体力あるんだよな。


 ショーコ姉はもう温存。『光速移動』はもう12秒使用した。

 なぜかもうちょっと使えるらしい。


 ブレン曰く、光の最高位精霊が傍に居るとその恩恵で光系のスキルや魔法が強化されるんだとよ。


 てへって説明された時は一瞬だけ殺意湧いちまったよ。


 ということでショーコ姉は移動用に温存。


 ただまぁそのおかけで、こうして目標を越えて抑え込めてるんだがな。


 ショーコ姉の代わりは、みーくんのスタージェイラー。

 ちょっとチャージしては撃ってるから威力はあんまり無い。

 ホントにショーコ姉の代わり程度だった。


 ノウンも息がマラソンの後みたいになってる。

  

 肩で息をして、痰の絡んだ激しい呼吸音がここまで聞こえてくる。


 それでも、ああああを殴り続ける。


「さすがにそろそろ限界かな。スタージェイラーのチャージも間に合わないし」


 みーくんが呟くと同時に、俺は全力で後退する。


 タイミングがよろしいことに、今から『黄昏時』だからな。


 ショーコ姉を姫抱っこして全力おさらばだぜ。


 本当は戦いたかったが、一人で戦うのはダメとみーくんに念押しされてしまった。


 特に初戦は絶対にダメらしい。


 だから、慣らしの為にここに来た。


 俺の出番はもうちょい後だ。


「みーくん、退避完了だ!」


『了解。ブレン! タイミングを合わせてノウンをシェルターに! 行くよ! 3! 2! 1! 核魔法、起動!』


 星ノ眼からカウントダウンが聞こえた直後、みーくんから聞いた通りのレシピで簡易のシェルターを作って避難する。


 時間差で背後から衝撃波が襲い来る。


「とんでも……無い威力ね。これを出会い頭にヤラれかけたの?」


 俺はショーコ姉に頷いた。


「……本当に、味方で良かったわ……」


 俺はもう一度深く頷いた。


 さぁ、これでもうちょっと足止め出来んだろ。


 ポンとネイ爺さんにバトンは上手く繋げ……。


『ヤバい! 美紗! ハートのエース!』


 は? みーくんの声がしたと思ってシェルターから顔を出す。


 目の前に、勇者ああああが居た。


 そして、頭を掴まれ、地面に叩き付けられた。


 そのまま、勇者ああああは駆ける。


 どこへ?


 当然、サウス・マータのゲートに向かって。


 もう、止められない。


「ハートのエース! ぬぉらぁ!」


 それでも、足掻く。


 かち上げられた勇者ああああだが、加速していて、ちょっとジャンプしたに等しい動きだった。


「ちくしょー。すまねぇが、あとは任せたぜ!」


 俺の言葉に応えるように、遠くで雷鳴が轟いた。


ーーーー Norinαらくがき ーーーー

勇者ストップウォッチのイメージは24。

なんでタイマーじゃないのかって?


ふふふっ。


勇者ああああ、第一関門突破、尚も爆進。


なぜジェイドをすぐに狙わないのか?

魔王の系譜を魔王城に置いてきております。

勇者ああああの行動優先順位は、ジェイド自身よりも魔王の系譜破壊の方が上です。

進行の妨げになる場合は、さらに順位が上となりますが、核魔法は勇者ああああに効果無しでした。


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