35-0魔王様、問い詰める

 僕は食堂に戻ってきたギリに正座させていた。


「ねぇギリ? 報連相がどれだけ重要かっていう説明は散々したよね? それとも聞いてなかった? ごめんね、何度も繰り返すせいだよね。今回完璧に叩き込むね。完璧だよ? 完璧。完璧の意味、分かるよね?」


 全員の前で正座をさせているが、ギリ1人にそんなことはさせない。


「もちろん、ギリだけに言ってるんじゃないのは分かってるよね? ブレン・マッソー、アイ・スクリーム、『狂』の魔王マザー・ムーンサイドも同罪だよ?」


 光の最高位精霊ブレン、妻序列2位のアイだって等しく罰する。勢いでムーちゃんこと、『狂』の魔王も正座させてしまったけれど、まぁ何とかなる……よね?


「なぁ、ジェイド。あたいも正座して怒られる必要性あんの?」


 ぉん?


「アイ、精霊の動きに敏感なはずだよね? いつの間にか精霊がいなくなってたって? じゃあその段階で僕に言うべきじゃないかな?」

「だってウェスト・ハーラとの戦闘もあって避難したもんだとばかり思ってモニョモニョ……」


 アイは語尾をすぼめていった。


「そういう意味ではブレン、君の罪はとても大きいよ? 『獄』の魔王ハーゲ・マルドゥーンとの戦闘開始時にはもう『滅』の魔王と接敵していたんだってね? 僕に一言何か言うくらいの暇はあったよね?」

「だってジェイド様、アイちゃんとにゃんにゃん……」

「優先順位も分からないの?」


 ピィと小鳥の鳴くような声と共に黙るブレン。


「流れでワタシも正座してるぴょんけど、付き合う必要あるぴょん? 『滅』の魔王オメガノを倒したし、スッとお仲間に入れてくれて良いぴょんよ?」


 僕はフサフサのうさ耳を右手でまとめて掴み取り、舐めるように息を吹きかけながら言った。


「調理場に居たんでしょぉ? 真っ先に食堂においでよ。『滅』の魔王の首なんか無くったって、『狂』の魔王が降伏してくるんだよ? それだけで十分なの。自分にどれだけの価値があるのか分かってないのかなー?」

「ひぃぅ! 耳、弱ぃぴ……はぅふ! やめ……やめるぴょ……んんクゥ!」


 正座が崩れ、ヨダレを垂らしながら倒れ込む魔王ムーちゃん。

 そんな気は無かったのに、ちょっとエッチな感じになっちゃったじゃん。

 アイもブレンも目を見開き過ぎじゃないかな?

 

「ジェイド様」


 ギリも何かあるみたい。

 でも、正座のまま頭を下げている。

 土下座ですねこれは。


「責任は四天王参謀であるこのギリ・ウーラにあります。いきなり『狂』の魔王と遭遇して降伏されるという意味不明な事態に陥り、思考が鈍っていたのもただの言い訳です。全責任、及び処罰は全て私が受けるモノと思います。どうか、他の者にはどうか容赦を」


 ……ハァ~ぁ。


「まぁ結果として大戦果だから、罰どころか御褒美をあげるんだけどね。でも許されるのはネーサーのおかげだよ? 繰り返されてきたからこそ、この大戦果に辿り着いたの。次はない。分かったね?」


 ギリは顔を上げて頷き、ブレンとアイもコクコクと頷いた。


 僕はムーちゃんに回復魔法を掛けて立ち上がらせる。


「ねぇ、知っている情報を全部吐いてほしいんだけど」


 これから、僕は本気でムーちゃんを問い詰めるよ。拷問だって辞さないつもりだ。


「へい、ボス! なんなりと申し付けるぴょん!」


 え? 結構アッサリ吐いてくれそうだな。


 っていうか、僕ってボスなの?


 美紗がさっきから腹を抱えて笑っている。

 とても苦しそうだから、腰をくすぐってあげよう。

 

「ん? でもタナシン様を瞬殺したぴょんよね? あと何か聞くことあるぴょん?」


 その通り。『染』の魔王、タナシンは僕のナノマシン型ワクチンでこの世から消した。


「僕、ちょっと思ったの。タナシンは弱い」


 みんな、何か言いたそうだけど、グッと堪えている。

 だから、僕は続ける。


「油断しないために伏せておいたんだけど、ここまで4回してるの。タナシンと戦った感じ、100回に1回は勝てると思うんだよね。これから先は全勝確定だし。でも、ここまで500回以上死んだ」


 なぜ? とみんなの顔に書いてある。


 聞きたくないけれど、聞かなきゃならない。

 みんな、逃げずにココに残ってくれるだけで、立派だよ。


「ほとんど情報が送られて来ないから、僕ですら余程焦っていたんだと思う。でも、今回は違う。ギリを叱れるくらい、圧倒的速さでクリアした。何が起きるかは、必ず『送る』し、全員無傷なら、この回で完全勝利を遂げてみせる!」


 と、僕だけが息巻いてしまった。

 みんな不安で萎縮しているね。


 だからこそ、こんな時に僕の横に立てるのは、君しかいないんだよ。

 美紗。


「実際どうなんだよ? 過去とは言え、みーくんだぞ? 何かあるだろ?」


 僕は、過去の僕が託した設計図を見せる。


「このブループリント、明らかに不要なモノが多かった。もしかすると、これの使い所がこれからなのかも。用意は出来てるんだけど、どこで使うべきか……」


 本当は、美紗と作戦会議をしてからが良かったんだけどなー。


 天から……いや、厨房の奥から声がした。


『はーひほー! 俺サマはもう死ぬが、貴様らに、絶望の権化を、見せてやるんだぁ!』 


 チッ! ナノマシンがまだ食い切れていなかったか!


 魔王タナシンはもう死ぬ。

 それは間違いない。


 しかし、震える世界、黒い感情がなだれ込んでくる。


 これが絶望? 笑わせる!


 いつだって、僕は乗り越えるよ!


「ジェイド、『絶望予知』が発動した! 私の指差すところに設置して!」


「何を!?」


「どこか遠くに飛ばすやつ!」


 ネーサーの言葉を聞いて、僕は笑った。


 今までは、前哨戦。


 ここからが、本番みたいだ。


 そして、絶望の権化が、降り立った。




ーーーー Norinαらくがき ーーーー

タナ:はーひほー!

   ラスボスは、オレサマではない!


ジェ:どうせ大したやつじゃ……


タナ:イカしたオレサマが、何のオマージュか!?


ジェ:…………。マジで? Norin、マジで?


Norin:(๑´ڡ`๑)テヘペロ


ジェ:いつかその内絶対シメる(#^ω^)



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