34-2伝説の軌跡2~魔王を打ち砕く者

ーーーー ギリ・ウーラ ーーーー


 魔の森の真ん中に来た。


「おーぅ、激しくヤッてるぴょんねー」


 木々が勝手に倒れ、地面に穴が開き、魔力障壁のおかげでまだ無傷だが、何も見えんぞ。


「もはや精霊戦争ですぴょん。ギリ様は、危ないので少し離れているぴょん」


「だったらなぜ連れてきた?」


「ワタシがオメガノを殺すところを見てもらわないとジェイド様に報告できないぴょんよ?」


「確かにそうだが! ぬあっ!?」


 死ぬ!? 今、足元に穴が開いたぞ!?


「ま、ギリ様も死なないように見てるぴょんよ? じゃーねっぴょーん!」


 ムーちゃん……呼べるか!

 魔王ムーンは飛び跳ねながら森の奥へ消えた。


「逃げた訳ではないようだが、このままここに留まれと?」


 ふざけるな。私は離れるぞ。


 しかし、すぐ後ろに見知った顔の女が倒れていた。

 意識はあるようだな。


「勇者アイ、貴様どうしてここに? いや、元は精霊だったな」


 ふっ飛ばされてここに来たようだな。

 すぐに体を起こし、頭を振って、こちらを見る。


「四天王のギリじゃん。あたいはジェイドに言われて増援に来てんの。ギリこそなんだよ? 遊びに来た訳じゃないんだろ?」

「いや……連れて来られた」

「誰に?」

「『狂』の魔王に」

「はぁあ?」


 分かる。誰でもそう言うし、逆の立場でも同じ顔をするだろう。


 しかし、戦闘が森の奥で激化した。

 その音を聞いて、アイも聞く耳を持ったようだ。


「掻い摘んで說明するとだな。斯々然々」

「丸々隈々と……んなこと信じろったって……」


「ぴょんぴょーん! 触らせるぴょーん!」

「さぁせるかザマァス! いきなり裏切るだなんて! タナシン様に言い付けてやるザマス!」


 遠くで声がした。


「一旦信じるしかねぇな……」


 アイは頭を抱えているが、私も頭を抱えたい気分だ。


「じゃあギリもあたいと来い。『精霊化』は付近の人間や魔族にも効力がある。個人差あっけど、ギリなら見えるくらいになるだろ」


 アイが『精霊化』を起動する。


 すると景色が一変した。


 光と闇が入り混じり、その間を攻撃魔法が行き交う。


 魔王ムーンは戦場と言ったが、戦場も戦場……最前線の死地ではないか。


「……やや闇の力が強いか」


「そーだぜ。あたいが来る前はもっとヤバかったよ。せっかくだ。ギリも手伝え! そーらよっと!」


 アイは氷魔法を闇の部分に撃ち込む。

 するとその部分が光に変わった。


「見ての通り、精霊間の戦いは陣取りゲームな。精霊に適した環境を完全に構築すれば、『滅』の魔王、オメガノ・サークルに勝てる。最終的にはオメガノも倒さなきゃならんが、闇を完璧に塗り替えればオメガノも弱体化する」


「つまり、闇以外の魔法をあの闇に撃ち込んでいけば良いということだな?」


「そーゆーこと。あとオメガノの攻撃、生身で受けたらマジで一撃死だからちゃんと障壁張っとけよな!」


 そう言って、アイは離れていく。


「勇者アイ、どこへゆく!?」

「んぁ? ノウンのママんとこ!」


 ん? ブレン・マッソーだと?

 あの御方は随分前に戦死したはずでは?


「ノウンから聞いてねぇのかよ! 今、光の最高位精霊になってて、ママが踏ん張ってくれてるから何とかなってっけど、結構やべぇの! 余裕できたら手伝いに来いよな!」


 ……最近ノウンが何も無い空に向かって叫んでいることが多いと思ったが、そういうことだったのか。


 私も、知らぬことが多いな。

 四天王なのに。


「まぁ、ここまで来て何もせぬ訳にもいくまい。闇以外の魔法は不慣れだが……どれどれ」


 色々と魔法を試した結果、光魔法が一番闇を塗り替えられるようだ。


 端から隈無く塗るとしよう。


ーーーー ブレン・マッソー ーーーー


 全てはノンちゃんの……我が娘の幸せのため。


 そのためだけに、私は光の精霊となり、『滅』の魔王、オメガノ・サークルと対峙する。 


「滅びとは再生ザマス。再生と滅びは表裏一体。それが解らぬ者に、救済を! ザーマッス!」


「うっさいぴょん! ゴリラは黙って触られるぴょん!」


「だーれがゴリラざーます!?」


「誰がどう見てもゴリラぴょん。ねぇ?」


 うさ耳の女に相槌を求められる。


 光の精霊は嘘を付けない。


「ゴリラが化粧しているだけよね」


 誰がどう見てもゴリラなのよね。獣人だと思うけれど、別にゴリラでも良いじゃない。


「ほらぴょん。ゴリラが化粧して不細工になっただけって言ってるぴょん」


「そこまでは言っていないわ!」


 あ……。


「ウホホーッ! 語るに落ちたざーます! そこまで……ということは、つまりそう思っていたというのとザマス! ウホッウホッ! ウホホホホーイ!」


 ドラミング……どう見ても威嚇よね。


「ブレンママ、なにやってんのさ?」

「アイちゃん! この子敵なの!? 味方なの!?」


 救いのヒーロー、勇者アイちゃん。

 来てくれなかったら、とっくの昔に消されていたわ。


「一応味方っぽいな。『狂』の魔王、今は味方としてオメガノを任せて良いか?」


「嫌ぴょん。ワタシを手伝うぴょん。実のところ、オメガノもお前らもほとんど見えてないぴょん」


 その割には正確にオメガノに突っ込んでいっているような……。


「第7感、マッスルセンスによる直感も、魔王相手には厳しいぴょん。だから手伝うぴょん」


「いやコイツ何言ってんだし。ブレンママ、コイツやっぱ役に立たなそう……」


「あなた、『狂』の魔王と言ったわね。見かけで判断していたわ。ごめんなさい。あなたのとんでもないインナーマッスル。この私が見過ごすとは一生の不覚。名前を伺っても?」


「……光の最高位精霊のくせに、やけに存在を感じると思ったらそういうことぴょんね。質はワタシより遥かに良いぴょん……。ふっ、世界は広い、広過ぎるぴょん。ワタシはマザー・ムーンサイド。ムーちゃんで良いぴょん」


「分かったわ、ムーちゃん。私の名前はブレン・マッソー。ナイスバルク」

「そちらこそ、ナイスバルクぴょん」


 ガッチリと腕を組み、その細腕からは考えられない重厚な筋肉を感じたわ。

 実際、私は精霊だから腕は組み合えないのだけれど、筋肉があれば関係無いもの。


「終わったザマスか? まさか光の最高位精霊のくせして筋肉おバカだなんて……良かったザマスね、マザー。『脳筋』仲間ができて」


 私とムーちゃんは、同時にオメガノの斜め下前方に潜り込む。


「『脳筋』はぁ! 褒め言葉ぴょん! だがしかぁし!」

「筋肉を侮蔑することは、この私と……」

「ワタシが許さないぴょんんんんんぉらぁ!」


 腹を殴った衝撃がゴリラ……おっといけない、オメガノを貫通する。


 でも、私の拳しか通っていない。


「チッ! サービスでワタシの攻撃も通すぴょぉぉぉん!」


 オメガノは闇の障壁でムーちゃんの拳を止めていた。


「させないザマス! 至近距離『滅びーむ』喰らうザマス!」

「掛かってこいやぁ! ぴょ〜んんんんん!」


 マズい! 下級精霊が一瞬にして消し飛ばされた謎のビーム攻撃。

 これを受けてはさすがにムーちゃんも……。


「ぐふっ……ふっ、こんなもんかぴょん!?」


 後退りこそしたけど、耐えた!?


「なっ!? 威力がガクッと落ちているザマス!? なぜザマス! 闇の勢力は拡大の一方ザマスよね!?」


 ハッとした顔で、森の精霊勢力を確認する。


 精霊通信から声がしたわ。


『ふぅ、やはり色塗りは四隅を抑え、外周から内側に塗るのが楽し……いや、効率的だな。ふんふんふふーん♪』


 ギリちゃん……。ちょっとオバさん惚れちゃいそう。


「さすがギリ様ぴょん。この短時間で6割塗ったぴょんね」


「いやおかしいザマス! 我が勢力もそんなに弱い精霊は居ないザマスよ!?」


「ギリ、意外と強いんだよな。『永久なる暴風雪』」

「ハッ!? いつの間……に……」


 アイちゃんが氷魔法でオメガノを凍らせる。


「ッ! こっれしきの氷魔法で、止められるのは僅かザマスよ!?」


 しかし、すぐに割られる。


「でも、十分よね?」

「行くぴょんよ!?」


 私とムーちゃんで、オメガノのサイドを挟む。


 そして……。


「おりゃおりゃおりゃおりゃおりゃおりゃおりゃおりゃおりゃおりゃおりゃおりゃおりゃおりゃおりゃおりゃおりゃおりゃおりゃおりゃあ!」

「ぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょぉん!」


 私とムーちゃんの拳が嵐のようにオメガノを襲う。


「ぬおおおおお! ザマス! ふおおおおお! ザマスぁあああ!?」


 障壁も所々に穴が空き、体を捻ってムーちゃんの拳を避けるまでになっている。


 私の拳をまともに受けているから、ダメージもそこそこ溜まっているはず。


 このまま、筋肉で、押し通す!


「ぐぬおおおお! こ、こんな脳筋どもにぃ! ヤラれてたまるかザーマス! 『萌えよ円』起動するザマス!」


 突然、オメガノの周りを囲むように淡い光の障壁が現れる。

 いくら拳を叩き込んでも、ヒビすら入らない。


「ウーッホッホ! ザーマスザマス! 『萌えよ円』は、Kawaii存在しか通ることができない特殊障壁ザーマス! 分かってると思うザマスが、筋肉バカ共は微塵も可愛くないとだけ言っておくザマス!」


「ふざけんなぴょん! 逃げるなんて魔王じゃないぴょん! さっさと出てくるぴょん!」


 ムーちゃんが殴る蹴るの攻撃を行うけれど、まるで反応無し。


「ウーッホッホ! ザマァ見ろザーマス! 負け兎の遠吠えは気持ち良いザマスねぇ!」


「ぐぬぬぬぴょん!」


「アタクシにKawaiiと認められないなら、アタクシが解除するか、元々入り込むかの2択ザーマス!」


 あら? ということは?

 私は下をチラッと見る。


『なんだこの円状障壁は? 閉じ込められたのか? 出られんぞ!?』


 ギリちゃん、ギリちゃん。今、ブレンおばちゃんはあなたの脳内に直接語りかけています。


『ぬお!? ブレン様? お久し振りです。まさかノウンに憑いておられたとは露知らず……知っていればご挨拶に伺ったのですが』


 あらあら、いつも律儀ねぇ。

 でもね、今はそんなことより、ギリちゃんの最強技を真上にぶっ放して欲しいの。


『え? 真上に、ですか? ですがそんなことをしたら魔法が数日使えな……』


 早くしないと三夜連続マッスルマーチ……。


『サターン・ナイトフィーバー!』


 ギリちゃんの魔法が打ち上げられた。


 ギリちゃんのこの魔法、基本的に避けられないのよね。

 しかも、状態異常耐性貫通有り。

 効かないのは、ジェイド様くらい?


「ウーッホッホ! マザー、どうタナシン様にチクってやろうザマス? まずはその耳を切り落とし、筋肉を削ぎ、それから……『滅びーむ』固定、ディレイ化。10秒。『パペット化』起動」


 突如として、オメガノは両手に収まるゴリラ人形となった。


 そして落下する。


 落下し切る前に、自らが発した『滅びーむ』で、その首を飛ばした。


 ギリちゃんによる『狂乱』の状態異常ね。


「さ、さすがギリ様っぴょん……。ワタシが言うのも何だけど、『狂乱』はやっぱりエゲツないぴょんね。南無ぴょん南無ぴょん」


 手を合わせるムーちゃん。


 それにしても、『滅』の魔王、強敵だったわ。


 さすがの私も、1人では絶対に勝てなかった。


 ムーちゃんと目が合う。


「同士よ、これからヨロシクね」

「こちらこそぴょん、師匠、ヨロシクぴょん」


 あら? 嬉しいわ。

 ノウンを弟子にしようとしたら母ちゃんだから嫌だって言われちゃって……。

 でも、弟子は魔王。私も精進あるのみね!


ーーーー ギリ・ウーラ ーーーー


 よく分からん内に『滅』の魔王を倒してしまったようだ。


「ギリ様、大活躍だぴょん! この勢いで魔王タナシンもやっつけるぴょん!」

「ギリちゃん、魔王を倒せるなんて、立派になったわね。そう言えば魔王を倒すって昔から言ってたけど、念願叶って良かったわね」

「……ギリ、すげぇな。ジェイドが一目置く理由も分かるぜ」


 褒めちぎっても何も出んぞ……。


 もう魔力もスッカラカン。


 だから、魔王ムーンの両手を掴んで飛んでいるのだが。

 

「ジェイド様にどう説明したものか……」


 下手をすれば叛逆罪だが、オメガノを倒しているので、死罪は免れる……はず。

 まぁ良くて……。


「個室キッチンだな、ふふふっ」


 おっと、これは良くない。


 下心を丸出しにしていては、ジェイド様に隙を突かれてしまうからな。


ーーーー Norinαらくがき ーーーー

『滅』の魔王、オメガノ・サークル。

由来:オメガの……サークル……うあああ!

見た目、ゴリラ獣人。マザーの称号『狂』に『具現化』を施し、タナシン生み出して制御不能となり下についたおマヌケ魔王。でも強い。


イースト・キーン魔王ステータス一覧。


オメガノ・サークルLv1000

力:10 魔力:100000(+500000)

『滅』『魔王』『Kawaii時覚醒』『具現化』『パペット化』『萌えよ円』『滅びーむ』『Kawaiiジャスティス』


マザー・ムーンサイドLv1000

力:12000(×100→×10) 魔力:10

『狂』『魔王』『お触りカウンター(狂)』『いつでも筋肉バーサーク』『発狂時覚醒』『発情時超覚醒』『お願い筋肉』


タナシン・ヒアーオールLv1000

力:1(×?) 魔力:1(×?)

『染』『魔王』『増殖時覚醒』『必ず侵入』『遺伝子合成』『ウィルス形成』『分身放出』『高速サイクル』『突然変異』『パンデミック』


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