34-1伝説の軌跡1~魔王と打ち解ける者

ーーーー ギリ・ウーラ ーーーー


 夢を見た。

 やけにリアルな夢だった。


『僕のためじゃなくて良い。料理のためだ。僕の知識、もっと欲しいんでしょ?』


 ジェイド様と、厨房で、イースト・キーンの魔王と対峙している夢。


『それはそうだが……』


『無理強いはしないけど、僕と仲良くなった方が、効率良いと思わない? ラナみたいに』


『それはそうなのだが……』


 やけに歯切りの悪い私に、それでも推してくるジェイド様。


『じゃあ今なら特典。ギリの部屋にも個別家庭用キッチンを作ってあげる』


 それでほだされる四天王とは一体何なのであろうな。


 私は見事に買収され、『魔王の忠臣』を得ていた。


 もちろん夢。


 のはず……なのにだ。


「ステータス・オープン」


ギリ・ウーラLv1000

『魔王四天王』『魔王の忠臣』『?????』『?』『大魔導師』『全属性最大強化』『【魔王方陣】グルメグルーヴ』

力:20000 魔力:80000



 魔王の忠臣がある。


 なぜだ!?


 あと、なぜ『?????』がある!? 『?』もあるぞ!? なぜだ!?


 もちろん他にもスキルはあるのだが、非表示設定だ。

 フルオープンではないからな。

 自分でオープンできる物の設定くらいできる。


 はぁ。


 溜め息も出るに決まっているだろう?


 夜中の0時にエマージェンシーコールで呼ばれたかと思えば、私は来なくて良いとジェイド様に言われ、今は一人厨房にいる。


 イースト・キーンの魔王共が攻め込んで来ているのに参謀である私が不要だと?


「私は見放されて……いたらこのような設備を与えてくれる訳が無いな」


 ピカピカの厨房。

 人造大理石の調理場に、大型オーブン、冷凍庫と冷蔵庫、保温庫まで完備。排気システムも文句無し。害虫対策も衛生対策も、全てジェイド様により改善し、料理をする上では嘗てない天国のような場所になっている。


 もはや、この場所以外で傑作料理を作れる気がしないな。


 ……となると、やはり私の役割はそういうことか?


 戦闘後の食事の用意……それならラナがいるではないか……。


 いや、ウェスト・ハーラ戦でラナを酷使してしまったからな。

 そのために、ということか?


 であればしょうがない。


 私しかラナの代わりはできないからな。


 ハッ、なるほど。

 直接命令するとラナも気を遣うからな。


 だからヒッソリと私がココに来れるよう仕向けたのか。


 上司としての器があるとは認めんが、女の扱いはさすがジェイド様と言ったところか。

 少しは見習わなければ。


「よし、では戦闘ということは激しい運動をするも同義。最高級のごちそうプロテインを作って待っておいてやろう! 『グルメグルーヴ』起動せよ!」


 ふむふむ、分岐鎖アミノ酸とグルタミンを多めに配合し、筋肉へのタンパク質吸収を促進するために糖類も必要か。味を整えるのに使えるな。ビタミンB群も必要……味をどうする? フレーバーを使うか。


 やはり料理は良い。


 嫌な事があっても没頭できる。


 良い香りでリラックスし、時には食して食欲と味覚に癒やしを与える。


 しかし、夢の内容は悔やまれるな。

 まぁ、ウーサー……いや、ネーサーの話からすれば夢ではないのであろうが、ここで私専用のキッチンを所望するとなったら恥ずかし過ぎて死んでしまうだろう。


 自室にもあれば人目を気にせず好きに調理が……夢が広がるな。


「む? 砂糖が切れたか。確かこの戸棚に……」


 私は砂糖の袋を取り出し、元いた調理場所に戻る。


 戻ったのだが、何だこのウサ耳は?

 ハッ!? 


「コイツ! 今作り途中の特性プロテインを!?」


「なんだこの激ウマ水はぴょん!? お前、これで未完成ぴょん!? 失礼したぴょん。飲んだといっても一口ぴょん。続きをどうぞぴょん。完成するまでは、絶対に邪魔しないぴょん。魂と筋肉に誓うぴょん」


 誰だコイツは?

 と、喉まで出かかったが、女のような細腕が一瞬だけ10倍に盛り上がったところを見て黙る。


 魔王3体に攻められていると聞いた……。その1体か?


 私は、減った分量を計り直し、それに合わせた砂糖を計量して入れる。

 そしてシェイクしながら問う。


「貴様、魔王だな?」


「だったら何ぴょん?」


 ……死ぬ。下手な動きをすれば、私は確実に殺される。

 間違いなく魔王の殺気。

 ジェイド様や魔王アムに通ずる力を感じる。


 このまま作り続けて完成させないとしても、私が完成させる意志が無いと見れば同じ事。


 そうなれば、結果は変わらん。


 ならば……私は風魔法をシェイカー内部で起動する。

 使用するのは微々たる魔力。これくらいなら挑発とも取られまい。


 目的は気泡潰し。

 本来なら、シェイクしてしばらく放置しておくだけなのだが、この魔王はすぐに飲むつもりだろうからな。


 気泡だらけでは飲み心地が悪いし、何より空気のみで腹に圧を与える。


 あまり気にしなくても良いとは思うが、相手は魔王。

 魔王の舌を、呻らせてこそのギリ・ウーラ。


 私はシェイカーからグラスに注ぐ。


 それを魔王に差し出す。


「匂い、良しぴょん。味は……さっきよりウマいぴょん!? くっ……コイツ、殺すつもりだったのに、殺すには惜しいぴょん。筋肉が、ウマいとぴょんぴょんしているぴょん……。一時の命か、一生の筋肉か。うむ! ここは筋肉会議だぴょん! ちょっと待つぴょん!」


 訳の分からんことを言っているが、私は生かされているということだけ理解した。


 ただ、何の会議だソレは?


「上腕二頭筋! 『もちろん筋肉』と言っているぴょん……。大胸筋! 『命より筋肉』言い切ったぴょんね。ドクンドクン……ハッ、心筋まで『オール・フォー・筋肉、筋肉・フォー・オール』なんて、そんな……ぴょん! お前は肥大したら困るぴょん! 胸鎖乳突筋、僧帽筋まで筋肉賛成……ヨシッ……筋肉会議、全会一致ぴょん!」


 何語を喋っている?

 分かる言葉で話してもらおう!


「名乗り遅れたぴょん。ワタシは『狂』の魔王、マザー・ムーンサイドぴょん。条件は、1日三食+運動・戦闘後に筋肉の筋肉による筋肉のための料理を出すぴょん。そうすれば、お前の下についてやるぴょん」


 なんだと!?

 いや待て。罠の可能性も……。

 無いな。いつでも私を殺せるのに殺さない時点で交渉の余地がある。


「飲料も可能か?」 

「何言ってるぴょん!」


 チッ、質問すらNGだったか!

 これで終わっ……。


「ベター、いや、ベストぴょん!」


 魔王マザーは、拳を握り、熱く語った。


「胃や腸に負担を掛けず、こんな風に摂取できるのなら文句無いどころか大感謝だぴょん! ほら、ワタシの全筋肉がすでに歓びの痙攣を起こし……いでてててぴょん!」


 ただっているだけではないか。


 確かジェイド様考案の薬が……あった。


「これを飲むが良い。痙攣時に服用する薬だ。回復魔法は筋線維まで回復するからな。これを飲めば、痙攣により受けたダメージをそのままに炎症を鎮める。つまり」

「筋肉が鍛えられるぴょん!? 飲むぴょん!」


 割と即効性がある薬なので、ものの1分程度で落ち着いたようだ。


「食事だけでなく、医療もできるぴょん? お前、いや確かギリ・ウーラと言ったぴょんね?」


 名乗っていないのになぜ名前を知っている?


「ギリ様、筋肉の英雄ギリ様。未熟なワタシに、筋肉の導きをぴょん」


 変な二つ名を付けるな。


 だが、殺されることはもう無い……のか?


「とにかく、これからよろしくお願いしますぴょん」


 手を出してきた。


 とりあえず手を取って、握手する。


「さすがぴょん。『お触りカウンター(狂)』すら効かないとは、恐れいったぴょん。ギリ様、筋肉に反しないことであれば、何なりとご命令くださいぴょん。これより、ノース・イートの陣営に加わりますぴょん」


 物騒な単語ばかりだが、これで良かったのか?


「もちろん、これだけで信用していただけるとは思っていないぴょん。だから『滅』の魔王、オメガノ・サークルをぶっ殺しに行くぴょん」


 私は訳も分からぬまま、魔王マザーに連れられ、魔王城を出た。


「ワタシのことは、ムーちゃんと呼ぶぴょん。マザー呼ばわりはあんまり好きじゃないぴょん。まだ独身だぴょん」


 聞いてもいないことを言われても、困る。


ーーーー Norinαらくがき ーーーー

野生の『狂』の魔王が現れた!

→プロテイン入りシェイカーを差し出す

ムー:テーレッテレー( ゚д゚ )ウマピョン!

ムーちゃんは仲間になった


ムー:ヨロシクぴょん

Norin:で、では名前の由来を……

ムー:名前の通りぴょん。ムーンサイド、狂う。ムーンだからウサギぴょん。

Norin:もう少し分かりやすく……

ムー:オマージュ的に、オマエ死ぬぴょんよ?

Norin:……次回もギリくん頑張ってぇ!



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