32-2驚くべき恩寵、そして――

ーーーー 夕暮 美紗 ーーーー


 やっと鼻血が治まってきた。


 ネイじいさんと魔王アムの件は不意打ち過ぎた。


 ショーコ姉だけじゃなく、アイもちょっと鼻血出してたな。


 ふふ、ようこそ、コッチ側へ。


「で、みーくんどーすんの?」


 俺、ずっと似たようなセリフしか言ってねぇな。


 だって楽しいんだよ。


 今日のみーくんキレッキレだから、俺が思い付かねぇ面白いことばっかやってんの。


「ふふふ、これで魔王アムが仲間になってー、ついでにネイも他の勇者も完全にコッチ側になってー、今回の件でサウス・マータの僕に対する評価も鰻登りでー、さらにはノース・イート……いや、世界中の人々の僕に対する人気も絶頂に……これで怖がられることなくサウス・マータのトルサマリア王国やルーブムンク王国に遊びに行ける……」


 ……みーくん、そういやこの3ヶ月、旅行に行きたいとか結構行ってたな。


 ちゃんと言っておこう。


「魔王ブレッド、俺の目の前にあるモニター以外の全モニターをみーくんの顔にして映せ」


「ハッ、ミサ夫人、畏まりました」


 夫人……良い響きだな。


 ブレッドに頼んで、モニターはみーくんの可愛らしい笑顔が映し出される。


「みーくん、現実を見ろ。しょうがねぇとは言え、ウェスト・ハーラを星ごと消し飛ばしたんだ。どこに怖がられねぇ要素があるって?」


 俺とみーくんが見るモニターに映るトルサマリア王国やルーブムンク王国の王族達、及び国民は、みーくんの笑顔を見て発狂し、逃げ惑い、気絶する者さえ居た。


「そんなあああぁあぁぁあ!」


 自業自得に決まってんだろ。

 ここにいる全員頷いてんぞ。


「あとの処理もどうすんの? ウェスト・ハーラの一万人も何とかしなきゃだろ? ノース・イートに住まわせるのか?」


「うぅ……それも良いけど、本人達の希望も聞きたいんだよね。ゲンタ、オリシン、住みたい地域とか無いの?」


 いつの間にか3歳児くらいまで縮んだヌエを抱っこしたゲンタとオリシンがこちらにやって来て申し訳無さそうに言う。


「何から何まで申し訳ねぇ。あくまで希望だが、できれば龍脈が近いとありがてぇ」

「森が近くにあれば……いっそ森の中でも構いません。魔獣の狩猟が出来ればとても嬉しいのですが……」


 ま、魔獣の狩猟?

 勇者だけで狩っていけんの?

 って顔を俺がしてたんだろうな。


「あっしら、勇者以外でも魔獣狩れる奴ら多いんで……さっきのモニター? 見たところ、ざっと100人くらいは狩れる奴らいましたんで」


 ウェスト・ハーラの住人バケモンばっかりかよ。


 俺達勇者でも、暮らして行くなんて無理……あ、場所。


「みーくん、龍の墓場は?」

「……僕も同じこと考えてた」


 え? そんな場所あるの?

 みたいに顔をキラッキラさせてるゲンタとオリシン。


「ドラン、ワイバーン・モバイルシステム起動して。監視用に交代で見張り出してたよね?」

「ハッ、こちらに」


 ドランからモニターを受け取り、それをゲンタとオリシンに渡す。


「おお! 魔力が、溢れて……濃いな。こりゃ、ウメェ魔獣が育ってっぞぉ」

「木々もしっかり育って……間引けば農場もすぐにできちゃいます」


 なんか目の色変わって……実は戦闘民族かぁ?


「見たところ、あっしら全然行けるヤツですわ!」

「当面の食料などをお貸しいただければ、魔獣産の肉や森の果実をお納めできると思いますー。うふふ」


 まぁ、俺達ですら手を焼く場所に人の手をいれてくれるなら願ったり叶ったりなんだが。


「じゃあ、お願いしよっかな」


 みーくんが良しなら文句はねぇよ。


 今度、どんな狩猟してるか見に行こ。


 いやー、みーくんと居ると本当に退屈しねぇわ。


ーーーー ミシェリー・ヒート ーーーー


 ジェイド様が、ウチを無視して戦後処理をしとる。


 そういう風に見とるヤツはおらんな?


 おったら消し炭やで?


「ホムラ、おばあちゃん……」

「はっはっは。ジェイド様は不思議な魔王様だねぇ。星を消す程におっかないと思えば、驚くべき恩寵を与えて下さる。ミシェリーは、ジェイド様の子を産まないのかい?」

「ルナに消されるで?」


 冗談でもそれを言うのは止めときぃや。

 ルナのアホ毛レーダーが一瞬コッチ向いたやん。


「ははっ、ミシェリーにその気がないなら良いさね。しかし、これは当分消えそうにないねぇ」


 ホムラ婆ちゃんだけやない。

 他の歴代魔王様も、なんとなしに居心地が悪そうや。


「初めての魔王様も居られるため、改めて自己紹介を。私はミシェリー・ヒート。第4代ホムラ・デス様の孫にして、四天王兼総司令であります。1つ確認させていただきたい。魔力は、あとどれだけ有りましょうか?」


「私は丸一日……無いくらいだねぇ。日付が変わるくらいか?」


 ホムラ婆ちゃんの言葉に、全ての魔王様が頷きよる。

 魔力の繋がりを見る限り、魔力を共有しとんやな。

 そんでもって、同じように魔力を消耗しとるんやな。


 魔王ハーゲが消えてもーたのに、これだけの魔力が残っとるのは……ルナのせいやろな。


「ニトレート様に質問です。もう魔力吸収は使えないのですか?」

「魔王ハーゲが消えてから、スキルは全て使用不能だ。今や我らはスキルの無い一介の下級魔族。下手をすれば人より弱いかもしれん。カカカッ」


 自虐的に笑うニトレート様。

 ホムラ婆ちゃんがおらんかったら、プライドもあるやろぉから『焔帝』で黄泉送りにしてあげても良かったんやけどな。


「そうであればせっかくです。少々お待ちを」


 ウチはジェイド様の下へ行く。


 そして膝を付き、微笑みかける。


「ジェイド様、ウチはホムラ婆ちゃんを盛大に見送りたいんや。せっかくの再会で、ウチのワガママなんやけど、今日一日、宴をさせてもろぉてええやろか?」


 無礼も承知。

 でも、これは本心で、私の願い。


 私は知っている。

 

 ジェイド様は聡明で、敵には容赦せず、もっとも相応しき魔王様だということを。


「あ、やっぱり魔王ホムラってミシェリーの……え? おばあちゃん!? てっきりお姉さんか、母親くらいだと思ってたよ」


 そら言い過ぎやジェイド様。

 ホムラ婆ちゃんが、あらやだそんなウフフとかゆーてメスの顔になっとるやないか!


「良いよ。宴。1日暇させる訳にもいかないからね。ついでに戦勝パーティーだ! 皆の者! 魔王ジェイドによる勅命である! 宴の準備に取り掛かれぇ!」


 でも、こーゆーところ、ホンマ好きやで、ジェイド様。

 ありがとな。


ーーーー ???? ーーーー


 魔王ジェイドの命の下、太陽が真上に差し掛かるところから、盛大な宴が開かれた。


 歴代魔王は、初代チゥ・ファウスト、5代マッハ・ゴースリー、13代ジェイソン・フライデー、16代バウアー・トゥーザ・ビンボーを除く者達が、話に華を咲かせ、当時の噂やその真相を曝露し、大いに盛り上がった。


 リモートで参加していたネンキーン王、皇帝ヒャッハー、法王キレーヌは一様に机を叩いたという。


 しかし、過去の歴史あっての今があることは、誰もが承知している。


 今が良く、未来が明るいこの瞬間だからこそ、最後は全ての者が笑っていた。


 ジェイドは思う。


「そう。僕はこんな未来が欲しかった。今、ようやく、手にできたのかな? でも、まだまだだよ」


「なんだ? まだ欲しいもんあんの? みーくん。贅沢は体に良くねぇぞ」


「そう言う美紗は食べ過ぎじゃない?」


「今日くらい食わせとけって。何か、腹の子も食べられるだけ食べとけって言ってっから」


 美紗の腹に手を当て、微笑むジェイドは、服の上から、その腹に優しいキスをした。


 歴代魔王達を涙と共に見送り、宴の余韻が覚めやらぬままに眠りにつく。


 次の日、何気ない日常が始まる。


 もちろん、イースト・キーンとの戦いに向けて準備を怠らない。


 午後九時。


 血だらけの謁見の間でジェイドは叫んだ。


「グッバーイ! ノース・イートォ!」


 美紗の死体を蹴り飛ばし、100発の核魔法をノース・イート魔王城及びその主要箇所に、全て落とした。





ーーーー Norinαらくがき ーーーー


お ま た せ し ま し た !


す ご い や つ !(全☆滅)


このまま無双すると思った?


残念、文字通り、紛れもなく全滅しました。


かつて主人公含め全滅を迎える物語があっただろうか。


多分、無い!(いや、絶対ある)


え?


次、どうするのかって?


おたのしみぃ!

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