32-1魔王だったらできること

ーーーー ギリ・ウーラ ーーーー


 ジェイド様の回復を受け、右腕で石化した魔王アムを担ぎ、左手でジェイド様の足を掴ませていただき、ノース・イート魔王城へと帰還した。


 サウス・マータの勇者共も、慈悲深いジェイド様の回復魔法を受け、自力でこちらに向かっている。

 もうしばらくは掛かるだろう。


 随分と破壊された謁見の間であるが、ここまで攻め入られて魔人的被害無しとは大戦果に他ならん。


 ジェイド様やミサと共に降り立ってみれば、全ての者が平伏していた。


 誰に対し?

 もちろん、ジェイド様に対してだ。


 気持ちは分かる。


 歴代魔王様と言えど膝を付いてしまう気持ちは、とても分かる。


「あれ? まだいるの?」


 ジェイド様に声を掛けられた魔王様面々がビクついている……。


 ミシェリーが耳打ちしているのは……ミシェリー?

 いや、第4代魔王、ホムラ様か。


「ハッ、もう少し魔力が残っておりますので。せっかくならと……消えたくても消えませんので……」


 魔王様が魔王様に敬語……気持ちは分かる。


 僅か数十秒で星を消し去るジェイド様だからな。


 私は眠っていたのでは? だと?


 ジェイド様と魔王ハーゲの闘いのど真ん中にいたのだぞ?

 眠れる訳が無いだろう!


 目覚めたところで体は動かなかったがな。


 あの光景、間近で見てしまった。


 正直に言おう。見たくなかった。


「早く天に召されたぃ……」


 ホムラ様のボヤきに、他の魔王様達も頷いている。


 諦めろ。気持ちは分かるが。


「そう。じゃあゆっくりして逝ってね。それと……」


 ジェイド様はまるで来客が如く魔王様に声を掛ける。

 まぁ、ジェイド様に無茶を言う魔王様など、この期に及んで居まい。


 しかし、魔王様でない者が、ジェイド様に近付いて、膝を付ける。


「魔王ジェイド……サマ、此度は、魔王ハーゲを討伐していただき……同胞らの仇をとっていただき、まっこと、ありがとうございやした」

「サランから先程伺いました……ヌエのことまで、感謝しても、し尽くせません」


 ウェスト・ハーラの勇者……だったか。

 腐食した肌、抜ける髪、もう動くだけで、死が早まるのは見て分かる。


 そして、2人は平伏して、願いを乞う。


「どうか……ヌエを。お頼み申す」

「ヌエの面倒を……今後ともお願い致します」

 

 また勇者の面倒を見ることになるのか……んん? 成長している? いや、一時的なものか。魔力の減衰が著しい。もう直、ヌエは赤子に戻るだろう。

 まぁ、ジェイド様も扱い慣れているようだし、私も最近ようやくあやせるように……。


「断る」


 よって、そう邪険にすることも……は?


「え?」

「そこは引き受けていただけると……」


 死にそうな勇者もビックリではないか。


「対価を貰うよ? 色々と。僕、魔王なんだからさ」


 ほほう、ジェイド様。

 今尚、この光景は全世界に投影されている。


 敢えて反感を買う理由も無いだろう?

 融和政策を取るなら悪手ではないのか?


「じゃあどうすれば……」


 途方に暮れる勇者ゲンタ。


「簡単なことだよ。僕に忠誠を捧げて。二人ともね」


 この状況で? どういうことだ?


「約束しよう。想像しながら聞いてね。僕に忠誠を捧げてくれたら、ヌエが幸せに暮らし、素敵なパートナーを見つけ、結婚式を挙げる。それを二人に見せることを約束しよう。二世帯住宅も建てると良い。孫も産まれ、三世代で暮らすんだ。みんなで笑い、みんなでご飯を食べ、みんなで寝る。戦いのことも忘れ。幸せに、平和に、暮らすんだ」


「そんな夢のようなこと、本当に?」


 悟った勇者オリシン。

 最期に、夢を見させてくれている。


 そう思っているのかもしれない。


 だが、それは違う。


 ジェイド様は、元よりそんな魔王様ではない。


「僕は『みんなと僕で幸せに暮らす』そのために、魔王になったんだ。夢じゃない。現実を、君達の手に。さぁ、選択せよ。僕の手を取るか、否かを」


 ジェイド様の笑顔に、二人は顔を見合わせ、同時に手を取った。


 勇者に祝福の光が降り注ぐ。

 月の光が図ったかのように。


「ステータス・オープン。あっしに『魔王の忠臣』が……」

「ゲンタ、顔が……戻って……」

「オリシンも……どうして?」


 二人とも、元の人間に戻った。


 ヌエが、黙って駆けて、2人に飛び込む。


「ありがとぉ! ジェイドおじさん、ありがとぉ! 大好きだよ! ジェイドおじさんも、お母さんも、お父さんも! サランママも、みんなも、ダイスキだよぉ! うわあぁああん!」


 ヌエは、わんわんと泣いた。


 もちろん、それを咎める者はどこにもいない。


 今だけだ。好きなだけ、泣くが良い。


ーーーー アム・ノイジア ーーーー


 一部始終見ていたっちゃ。


 だって、このサターンナイトフィーバー?


 石化って外側だけっちゃもん。

 身体が動かせないのは、麻痺しているからっちゃね。

 息は出来るっちゃよ? 口や鼻に小さな穴がたくさん開いてたっちゃ。


 親切設計過ぎる魔法っちゃよ。

 もっとも、無傷で捕らえられたとも言えるっちゃ。


 アム、何されるっちゃ?


 ……煮るなり焼くなり……その程度で終われば幸せっちゃよね?


 ウェスト・ハーラを消した魔王ジェイド……。そしてウェスト・ハーラの勇者を完治させた魔王ジェイド。


 ウチの願いのためなら……ネイには申し訳無いっちゃけど、命は惜しくないっちゃ。


「ごめんね、ヌエ。本当はもう少しそのままにしてあげたかったんだけど、魔王アムの処遇について、勇者ゲンタ及び勇者オリシンの話を聞かなきゃならないんだ」


「ぐすっ、いえ。愛するジェイドおじさんの……いえ、将来の旦那様のためだから、オッケー! でも、すぐに返してね! 頑張って魔力の消費を抑えておくから!」


 なぬっちゃ!?

 こんな幼気いたいけな少女も魔王ジェイドに心酔っちゃ!?


「なんか段々とグレードが上がってないかな? ゲンタ、オリシン、そんなに警戒しないで。ちっちゃい子が将来パパのお嫁さんになるっていうのと一緒だよ?」


「いえ、私としては、文句無しと言いますか、むしろ乗り換えを検討させていただくと言いますか、ヌエより先にと言いますか……」

「お、オリシン?」

「ゲンタ、冗談ですよ? うふふ」


 あらあらウフフみたいなことを言っているオリシンっちゃけど、マジな目付きっちゃよ?


「夫婦の話し合いは余所でお願いするね。君らに聞きたいのは、魔王アムとの戦闘についてだ。どうして殺されなかった?」


 ……さすが魔王ジェイドっちゃね。

 そこに気付いていたっちゃか。


「魔王アムとあっしらが戦う時、少し話をした。サランがヌエを連れて逃げた後にだ」

「端的に言えば、1万の城下町に住む人間が盾にされていると。魔王アムを殺せば、その人間達も死ぬ。魔王アムを傷付ければ、その傷を1万の人間も受ける。勇者を殺らねば、結局は殺されると」


 事実っちゃね。

 それがハーゲの『ニニン蛾』の本来のスキル効果っちゃ。対なる蛾を殺せば、その蛾とリンクした者は死ぬ。


「1万人を救うために、残った人類を見捨てた?」


 魔王ジェイドの言い方は酷いっちゃ。

 でも、ある意味で事実、ある意味で大間違いっちゃ。


「違います。後で知ったことでは有りましたが、私達の攻め入られた城下町が、最後だったのです」


 勇者オリシンの言葉に、勇者ゲンタも頷き、俯いたっちゃ。


「マジかー。ハーゲって強かったんだね」


 アムの攻撃も全然通らなくて、すぐに呪いを受けたっちゃよ。


「なるほどね。じゃあ、あの荒野で固まっている1万人が、ウェスト・ハーラの全ての生き残りってことか」


 魔王ジェイドは、空に浮かぶ映像を見上げるっちゃ。

 映し出される荒野には、今なおアムが連れてきた1万の軍勢が石化していたっちゃ。


「よし、決めた。魔王アム、聞いていたよね?」


 アムの石化が瞬時に解除されたっちゃ。

 麻痺もないっちゃ。


「聞いていたっちゃ」


 その時、空から閃光が降って来たっちゃ。


「アム!」


 ネイがタイミング悪く戻ってきたっちゃ。


「ネイ、話は後っちゃ。今は、魔王ジェイドからの裁きを受けるところっちゃ」


 元気そうで良かったっちゃ。

 ネイの顔が最後に見れて良かったっちゃよ。


 何か言いたげなネイっちゃけど、血が出る程に拳を握り締めて、口を縛っているっちゃ。


「最悪君を殺さなきゃならなかったけれど、その必要は無いということが分かったよね? どうすれば良いか、一連の流れからも分かるよね? さぁ、僕に忠誠を誓ってもらおうか、魔王アム」


 ……ほぇ? どういうことっちゃ?


 アムが今のまま死ねないのは分かったっちゃ。

 アムが死ねば生き残ったはずの1万人が死ぬからっちゃ。


 一連の流れもまぁ分かるっちゃ。

 勇者ゲンタとオリシンみたく治るっちゃよね?

 

 でも待つっちゃ。

 肝心な、忠誠の誓い方が分からんっちゃ。


 誰か、誰かヘルプっちゃ!?


 あ、確かフーリムとか言う読心の要警戒ハーフエルフっちゃ!

 ナイスっちゃ!


 ん? ちびっ子に耳打ち?

 あぁ、確かフランとか言う四天王っちゃね!


 トコトコとコッチに歩いてくるっちゃ。


 そして、アムにヒショヒショと教えてくれ……うぇ!?

 そんなことしなくちゃ忠誠が誓えないっちゃか!?


 勇者ゲンタとオリシンは……元々、子の件で忠誠値は貯まってたっちゃよね。


 アム、忠誠値ゼロっちゃもん。

 ネイ……ごめんっちゃ。


 アムは、魔王ジェイドに歩み寄り、忠誠のキスを、その唇に捧げたっちゃ。


 感想? 若い男の子の唇はヤバ美味っちゃ。


ーーーー ルナ・ティアドロップ ーーーー


 そろそろ、私、言っても良いよね!?


 ジェイドくんがさぁ!

 人工ブラックホール作っちゃうとかさぁ!

 人としてどうなのかなって!

 もう魔王だよね!?


 ……ジェイドくん魔王だった。


 そんなことはどうでも良いの!


 元は私の魔力だぞ、って横にいる魔王ニトレートがなんか言ってるけど、そんなの関係ないもんね!

 でもそんなの関係ねぇもんね!


 大事な事だから2回言わせてもらうもん!


 私はスッとジェイドくんの背後を取る。


「ハッ!? ルナ、いつの間に!?」


「ジェイドくん、申し開きは?」


「ぼくぅ!? 今の流れからして、フーリムからのフランだよね!?」


「あの二人はセーフなの! だって元はと言えば、忠誠を誓えって言ったジェイドくんじゃん! 魔王みたいにふんぞり返っちゃってさ!」


 え? 僕魔王なんだけど、みたいな顔をするジェイドくん。


 3回目を言わせる気かな?


「アムのちゅーで、忠誠は誓えなかったっちゃ?」


 モジモジしながら頬を赤らめないで欲しいなぁ!

 カッワイイから!

 私の怒りが有頂天になるから!


 あ、ネイさんが膝から崩れ落ちてる。


「ネイ! 大丈夫っちゃ! チューはジェイド様に捧げるっちゃけど、アムの初めては全部ネイにあげたっちゃ!」


 ぉん? ぁんだって?

 

「魔王アム、私は『月』の勇者、ルナ。あなた、いくつ? ネイさんとの初めてはいつ? もちろん、最後までヤッた記念日のことだよ?」


 私は有無を言わさず魔王アムに答えさせる。


「あ、アムは今22っちゃ。ネイとは、その……鬼族の成人になる18の時に、媚薬と誘惑で襲ってもらったっちゃ……」


 テレテレしている魔王アム。

 やることはやってる魔王アム。


「勇者ネイ・ムセル」


 私はネイさんの後ろに立つ。


「勇者なら耐えろ。ギルティ」

「え? 吾輩が!? なぜあぼばばば!」


 飛び切りの電撃魔法を浴びせてあげたよ。


「ふぅ、ふぅ、ハァ~ぁ……」


 少しだけ、冷静さを取り戻しました。

 あの勢いでジェイドくんも仕留めたかったけれど、これはネイさんが悪い。

 一番悪いのは私だって?


 乙女の心を察せぬネイさんの罪は激重だよ?

 どうすれば良かったのかって?

 さっさと婚姻届を出せば良かったの!

 どこに出せって?

 私に出して! 受け取りのハンコくらい、いくらでもついてあげる!


「見て分かる通り、僕の陣営で一番怒らせちゃいけない者は、分かったよね?」


 コクコクと頷く魔王アム。

 ジェイドくんも失礼しちゃうなー。


「で、話を戻すよ。結果として、これでウェスト・ハーラのゾンビ軍団は元の一般人へと戻れた訳だね」


 ジェイドくんは荒野を映すモニターを見ます。


 人々は、人としての姿を取り戻し、皆一様にして平伏していました。


「魔王アム、こうなることを予想していたの?」


 ジェイドくんの声がいつになく真面目です。


 確かに、誰かが治せなきゃ、延々と苦しみが続くだけだもん。


 でも、魔王アムは首を横に振りました。


「希望的観測はあったっちゃ。でも、期待はしていなかったっちゃ。それこそ、悪魔にアムの命を差し出すくらいのことをしないと、こんな奇跡は起きないと思っていたっちゃ」


 魔王アムの頬に涙が伝います。


「アムは、ただ逃げていただけっちゃ。人間を傷付けず、アム自身を傷付けず……いつか、必ず破綻することも分かっていたっちゃ。でも最後まで、逃げるって、決めたっちゃよ。逃げ切れなくなった時、それがアムの最期って、決めていたっちゃ」


 その言葉を聞いたジェイドくんは、ニッと笑いました。


「見事だ、魔王アム。ゴールの見えない地獄から、よく僕のところまで逃げてきた。僕の部下になった以上、君の幸せを1つ叶えるとしよう。ネイと一緒にこの魔王城で暮らす……で良いかな?」


 魔王アム……アムちゃんは、頷き、泣いて、また頷き、へたり込んで頷き、大泣きして、ありがとうって言いながら泣いていました。


 ジェイドくんが、私の横に来て、ネイさんを完全回復します。


 ネイさんは、ジェイドくんとアムちゃんを交互に見て、困惑しています。


 ジェイドくんは、黙ってネイさんの背中を押しました。アムちゃんのところまで。


 2人は、一瞬だけ目を合わせます。


 そして2人は、互いに抱き合い、涙を流していました。



ーーーー Norinαらくがき ーーーー

魔王×勇者カップル、ここにも爆誕!

あしながおじさんかな?

イメージ的にはそんな感じです。


ヌエちゃんも良かったね!

ヌエ( ゚д゚ )ワタシモッオジサントッチューシタイヨッ!

ミサ(*´∀`)オレトカンセツチューシヨーヤー

ヌエ(゚Д゚)ヤダー!ヘンタイミサキライー!

ミサ(*´Д`)ハァハァ(((((((`ω´ノ;)ノ キャ~!!


ジェ&ゲンタ&オリシン:仲が良さそうで何より(ほっこり)



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