31-1伝説の礎~勇気を持って挑む者

 何が勇者だ、笑わせる。


 我が名はギリ。


 ギリ・ウーラ。


 四天王の一人にして将来魔王の座につく者だ。


 魔王を倒す意志のある者としての勇者であるなら、間違ってはいないがな。


 しかしだ。


 今、想像を絶する場面なんだぞ!

 どんな境遇にあるか教えてやろうか?


 外では雷が鳴り響き、この調理場の器具なんかまともに動きはせん。


 こんな状態でお料理教室?


 で き る 訳 が な い だ ろ う !


「ギリさん、早く避難を」


 料理教室のサポートスタッフやら受講に来てくれた人間どもから避難しろと声を掛けられる。

 ええい、鬱陶しい!


「私は最後で良い! 私は魔族だ。貴様らよりは頑丈にできている。それにこの要塞には至る所に避雷針を設置してある。魔王アムに勘付かれていない今なら安全に退避できる。スタッフは誘導。それ以外の者は速やかに、走らず、避難せよ!」


 ジェイド様のアドバイス通り、避雷針なるモノを設置しておいて正解だったな。


 魔王アムの攻撃で勇者は瞬殺だったが、この要塞は持ち堪えている。


 ただ、……私は機材を見渡す。

 システムキッチン、人工大理石カウンター、浄水器、特大オーブン、保冷庫に冷凍庫……他にもジェイド様が新調してくれたものがたくさんある。


 私はもう一度外を見て、飛行魔法を行使した。


 目的地には、すぐに辿り着いた。


「お前は何者っちゃ? どこかで見たこと……いや、そんなことはどうでも良いっちゃ。そこを退くっちゃ」

「却下だ。魔王アム、貴様にあの要塞は破壊させん」


 私の目の前で、魔王アムがたたずむ。


「どうしてっちゃ……思い出したっちゃ。お前はノース・イートの四天王のはずっちゃ。どーして、サウス・マータの民を守るっちゃ? 人間は、憎くないっちゃか?」


 民を……ましてや人間を守る気などサラサラ無いのだが。

 傍から見ればそう見えるか。


 別にサウス・マータの民草がいくら枯れようが――。


「奴らは、そうだな。紛れもなく人間だ。憎いのは当然だ」


 私の言葉に身構える魔王アム。

 どういうことだ?


「しかし、私の作った料理を美味いと言ってくれる。そして、恥ずかしながら、普通の人間で初めての『同士』だ。魔族でも憎いヤツはいるだろう? 人間にも憎いヤツはいる。しかし、そうでない奴もいる」


 魔王アムの拳から力が抜けるのを見た。

 ……なるほど、勇者ネイに聞いた通りか。


「そうではないヤツには、私の作る料理で美味いと言わせてやりたいところだ……いや、憎いヤツこそ、私の料理で美味いと言わせてやるべきか? くっくっく、さぞかし愉快な光景だろう」

 

 私の想いに、魔王アムの口の端が僅かに上がるのを見た。


 ジェイド様は言っておられたが、魔王アムは操られておらず、自らの意志で魔王ハーゲに従っているということの裏付けが取れたな。


 もっとも、何らかの制約は受けているのだろう。


 それが嘗ての魔王様に施されたモノなのか、別のモノなのかまでは現時点で分からん。

 謎のモニターで戦況は確認できたが、情報が不足している。


 どうにせよ、私のやることは1つだけだ。


「そういう訳だ。私の背後に在る要塞は、私が必ず守って見せる!」


 ん? どこかから歓声が聞こえる? 

 別にサウス・マータの民を守ると言っている訳ではないのだが。


 要塞にはまだ使っていない未知の調理道具が山のようにあるからな。

 使わずして放棄など、勿体無いにも程があるだろう?

 また用意してくれるとはジェイド様も仰っておられたが、相当唸っていたとテンテンやフーリムより聞き及んでいる。

 さすがの私でも、ジェイド様が懸命作ってくれた私が欲しいモノを無碍にすることなどできんからな。


 次期魔王の話とはまた別問題だ。


「ところで魔王アム、先程から放っているのは攻撃か?」


「……アムの10万ボルトがまるで効いていないっちゃね。そこの『閃』の勇者と言い、何か仕込んでるっちゃ?」


 私が考え込んでいる間に背後から心核に向けて何発もの雷撃が飛ばされている。

 しかし、押されるような感覚はあるが、ダメージは微塵も無い。


 ジェイド様考案のラバースーツ……とんでもない防御性能だ。

 もっとも、首より下のみであるからな。

 頭部に直撃すれば、勇者ショーコのように身動きが取れなくなるだろう。


「まぁ構わないっちゃ。もう一度言う。そこを退けろっちゃ」

「繰り返す。却下だ。通りたくば、私を踏み倒してゆくが良い」

「じゃあ――」


 次の瞬間、魔王アムは私の眼前にいた。


「そうするっちゃ。『100万ボルトの瞳』」


 アムは目を見開く。私は咄嗟に両腕で顔をガードする。


 強烈な閃光が視界を覆い尽くすが、幸いダメージは無い。若干腕が痺れるくらいで、数秒もあれば回復するだろう。


 魔王アムは、元いた位置に戻っていた。


「称号スキルもほぼノーダメっちゃか。ノース・イートに入るまでは使うつもり無かったっちゃ。でも、ここで使うっちゃ」


 魔王アムは両手で何か握るようにして振り上げる。


「行くっちゃ『雷之軍勢【キャプテン・サンダー】』」


 雷の大剣が突如現れ、私に向けて振り降ろされる。


 避けることなどせん。

 もはや目で見えるだけで、身体はついていかんのだ。

 それが雷速。

 そうであるなら、予備動作より次の攻撃を見極め、予め防御する他あるまい。


 私は、土魔法で作った盾をすでに構えており、雷の大剣を受け止める。


「クッ、重いぃっ!」


 大魔法使いである私が近接攻撃を受けるなど、つい最近のことだからな。

 天敵ジャックに渡り合うためにソコソコ鍛えており、この3ヶ月では、その本人からも指導を受けた。


 付け焼き刃ではあるが、十分だ。


「魔王アム、その程度であるなら、私をここから退かすことはできんぞ?」


 息は上がるが、魔王アムの雷なら防げる。

 魔王アムは、剣術の類は知らないようだ。素人の剣筋。この程度なら、どこまで防げるかは知らんが、少なくとも善戦はできるだろう。


「……そうっちゃね。少なくとも、そうするしか無いのは事実っちゃ。四天王ギリ、お前を無視して進むことは、サウス・マータに希望を残すことになるっちゃ。ちゃんと、お前を倒して、先に進むっちゃ!」


 魔王アムは、天空のモニターを見て、私を見て、強く断言した。


 私がサウス・マータの希望?

 訳の分からんことを。


 しかし、私から逃げないのであれば、勝機はある。かなり部の悪い賭けにはなるがな。


「『雷之軍勢【カーネル・サンダー】』これなら、どうっちゃ!?」


 チッ、段階強化スキルか。

 黄金の雷から、真っ白な雷へと変貌したその大剣は、空へと浮かび、3本の剣となって回転しながら私に襲いかかる。

 傍から見れば円盤に斬り刻まれるようにしか見えんだろうな。


 私は、ジェイド様より託されたラバーシールドなるブヨブヨの盾を取り出し、その円の部分に叩き付ける。


 ガラス細工の砕ける音がすると同時に、その3本の雷の剣は消えた。


「これが最大っちゃ。『雷之軍勢【ジェネラル・サンダー】』」

 

 紫電を纏った魔王アムは、やけに細い剣を携え、構えていた。

 どこかで見たことが……刀? ジェイド様の言っていた日本刀か!?

 細いクセに頑丈で切れ味がとんでもないと聞いた!


 マズい、斬られる訳には……!?


「カミナリ斬りっちゃ」


 一瞬だった。

 身体が斬り刻まれる感覚。


 しかし、私の身体は無傷。


「さすが、これにも耐えるっちゃね」


 ラバースーツなるものがズタズタにされてしまった。


 これではもはや、雷に対する防御能力は無いに等しいだろう。


 同じ攻撃を受ければ、確実にやられる。


「この技は、アムの雷を消費しない代わりに1日1回しか使えないっちゃ。見事、本当に、見事っちゃ」


 なんだ?

 これてオシマイか?

 ふっ、サウス・マータの元魔王と言えどこんなものか。


 ジェイド様がどれだけ規格外か、よく分か――。


「誰にも見せたことない本気、ネイにすら見せたことない本気を、今ここで見せてやるっちゃ!」


 ファッ!? おいやめろ!

 今、完全に降参の流れだっただろう!?

 これ以上は本当に、死んでしまう!


「『サンダーシリーズ』起動するっちゃ! 四天王ギリ、敬意を示すっちゃ。全九技、耐えられたら褒めてやるっちゃ!」


 褒めるだけなら要らんわ!


 問答無用と言わんばかりに雷が轟く。


 次の瞬間、静寂が訪れた。


 地面が光る。光の草が生えてきた?


「草じゃないっちゃよ。Final One Charge『Thunder Garden』」


 サンダー・ガーデンと唱えた瞬間に、見渡す限りの大地から雷が蠢く。


 私はすでにボロボロになっているラバーシールドを大地に叩き付けて乗る。

 

 私の乗る場所以外の地面から天に向けて雷の槍が突き上げられた。


 喰らえば一撃で戦闘不能。

 二撃も喰らえば死ぬ。


「Final Two Charge『Thunder Sein』」


 容赦無く、魔王アムは次弾『サンダー・ザイン』を放ってくる。


 ラバーシールドは焼け焦げ、次イケるかどうかなど誰が見ても分からん状態だ。


 私は避雷針の設置で余ったアース線を土の下に挿す。

 これにどれだけの効果があるか分からんが、無いよりマシだろう。


『アナタハ、ソコニ、イマスカ?』


 ……精霊の声だと?


 答えるべきか、答えぬべきか。

 答えるとして、どう答えるべきか。


 一番時間を稼ぐ選択肢はどれだ?


 ……相手に合わせるのがベスト……と、乙女ゲーなる選択肢の解答講座を勇者ルナが開いていたな。


 であるならば!


「もちろん、私は此処にいる!」


 よし、これで時間を稼げ――。


『ワタシト、イッショニ、ナリマショウ』


 声がしたかと思えば頭から光が降ってくる。

 身体の自由が効かない。


 麻痺していると言って良い。


「雷の精霊による同化現象っちゃ。……まだ意識を失っていないっちゃね」


 雷の精霊による同化攻撃だと!?


 ふざけおって!


 しかし、身体中を走り回る電流が、土に向かうのを感じる。


 アース接続のおかげで、死ぬことは無さそうだな。


 そう思ったたところで、光のような雷は消えた。


「Final Three Charge『Thunder Dive』」


 ただし、もう次だ。


 間髪入れず『サンダー・ダイブ』と唱えられた後、波のような雷が押し寄せる。


 私はしゃがみ、痺れて震える手で、土から出る突起物を掴む。


 流されぬよう堪えることが精一杯だった。


「生きてるだけで立派っちゃよ。そこから一歩も動かずとは……次っちゃ。Final Four Charge『Thunder Knight』」


 雷の騎士!?

 まだ立てない。

 肩口に向けて剣を突き立てられそうになるが、体をひねる。

 肩から刺されることだけは避けた。


 しかし、太腿から大地に、雷の剣は貫通した。


「? これは効くっちゃね。……はぇ!? 消えたっちゃ……」


 雷の騎士は消えた。

 チッ、そろそろ気付かれるか?


「ちょっと確かめるっちゃ。合せ技、行くっちゃよ! Final Five Charge『Thunder Birthday』、Final Six Charge『Thunder Marche』」


 立て続けに『サンダー・バースデー』『サンダー・マルシェ』と唱えた魔王アムは、私に近付きながら雷の球を浮かべ、微笑んでいた。


「生まれたての雷っちゃ。新鮮な雷の市場っちゃ。売切れになるまで、たーんと食べるっちゃよ?」


 そうして、私の見渡す周囲から、ポコポコと雷球が生まれては私に襲い掛かってくる。


 右手だけはそこそこ動くようになったので、ボロボロのラバーシールドを持って叩き落して行くのだが、またすぐに私に向かってくる。


 ホーミング性能か、鬱陶しい。


 しかし、私の下の土に吸い込まれるように消えていく。


 ハッキリと、魔王アムにも見えたようだ。


「そこにあるっちゃね。アムの雷を無効にする何かが。Final Seven Charge『Thunder Yaz』」


 初めて見せる怒りの顔だな。


 その証拠に『サンダー・ヤアズ』と喚ばれた雷龍は、怒りを表す赤の雷を以て、私に向かってきた。


 正しく言えば、私の下の地面に向けて。


 猛烈なエネルギーにより、土の中から金属が砕ける音がした。


「ふーん、これっちゃか? アムの雷を飲み込んだのは……避雷針? 土の中に埋めていたっちゃ? こんなものがあるっちゃね」


 いつの間にか、再び目の前にいた魔王アム。

 その指先が、額に当てられていた。


「これが要塞の至る所にあるっちゃか? 道理で要塞が落ちない訳だっちゃ」


 心が、読めるのか!?


「遅いっちゃ。でもよくやったっちゃ。ご褒美に、生で相手をしてあげるっちゃ。Semifinal Charge『Thunder Live』」


 その指先から放たれるは、極大の雷エネルギー。

 まともに喰らえば、炭どころか消し炭だろう。


「ん? まだ生きてるっちゃね? あぁ、これっちゃか」


 最後の希望、身体の前面に張り付けていたアース線まで取り外される。


「これが最期っちゃ。The Final Charge『Thunder World』」


 感覚のない左手で、魔王アムの手を掴んだ。


 しかし、放たれる『世界』を称する雷。

 

 僅かな時間だったに違いない。

 しかし、何千、何万もの雷をこの身に受けた気がした。


「……黒炭っちゃね。本当に、褒めてやるっちゃ。最後まで使わせたのは、お前が初めてっちゃ。本当に」


 勝ったくせに泣きそうな声を出すな。

 魔王なら、せめて誇らしげに笑うが良い。


「もっとも、まだ、死んで、いないがな!」


 そして、敢えて言わせてもらおう。


「私の、勝ちであるとな」


 驚く魔王アム。

 そして、飛び退いたつもりなのだろう。


「……足が!?」


 私の目の前から、動けずにいた。


「ごふっごふっ、身体中を煤だらけにしおって。不思議そうな顔をしているな? くくくっ、体内にもアース線を仕込んでいた。各臓器を通して足までな。人の身体とは不憫なモノよ。心核だけでなく、各臓器にダメージを負うだけで死が見えるのだからな。あと、心を読むのが下手くそだ。戦闘中に心を読まれることは、いつも想定して動いているからな」


 フーリムが大元ではあるが、最近はジャックもだからな。

 この3ヶ月、無駄にスパルタだった気もしたが、全て、役に立ったな……。


「それとだ。疑問に思わなかったのか? 私が、一切の反撃をしていないことを」


「魔力反応はあったっちゃ。だから、何か企んでいるとは思ってたっちゃ」


「やはり私の魔力を感知していたか。これもジェイド様の読み通りだな」


 ジェイド様は、電場形成ができるならレーダー機能も搭載できるよね、とか何とか言っていた。


「だから私は、貴様に確実に攻撃を与えるため、私の目の前の地面に、全魔力を込めた魔法を設置した」


「今、魔力が消えたのは、お前が死んだんじゃないっちゃね。魔法が、発動したっちゃね」


 もう一度、私の目の前に、魔王アムが、確実に来ると踏んでな。


「その通りだ。『サターン・ナイトフィーバー』が発動した。喜べ、石化の大当たりだ。死にはせん」


 魔王アムは、ホッとしたような笑みを浮かべていた。


「それは良かったっちゃ。ふふっ、じゃあ、あとは任せるっちゃ」


 ん? 何を言っている?


「後ろの不死者10000人は、アムと運命共同体っちゃ。死なない石化なら、何とかなるっちゃ。その間に、ハーゲを、頼むっちゃ」


 魔王アムの石化が進むと同時、向こうに見える不死者共も石化していく。


 人質だったとでも言うのか?

 ……不死者が?


 まだ何かあるようだ。


 こちらの様子は見えているのだろう?


 ならば、後は何とかするが良い。


 さすがの私も、魔王とやり合うのは、疲れ……た。


 久々に、大地のベッドで、眠るとしよう。


 私は魔王アムの石化を見届け、眠りについた。


ーーーー Norinαらくがき ーーーー

四天王ギリ VS 魔王アム


決 着 !


アムの技について?

何がやりたかったかは大体の想像がつきますよね。


答え合わせのため、とりあえずステータスどーぞ。


アム・ノイジアLv1000

『雷』『魔王』『雷之軍勢』『サンダーシリーズ』『雷魔法雷化』『100万ボルトの瞳』

力:1000(+100000V) 魔力:20000(+10000A)


雷之軍勢:カーネル(大佐)ジェネラル(将軍)キャプテン(大尉)

カーネルをやりたかっだけ。


いけ! アム! +万ボルトだぁ!

100万ドルの夜景+○万の瞳(ジャパ〜ン♪)

サンダーシリーズ。ラとガをメインに後は必死に考えました。ザインはマーク。○ァフ○ーです。


タイトルを赤色にできなかったこと、幸運に思うが良い!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る