30-2『子』の勇者は勇者の子

ーーーー サラン・ハミンゴボッチ ーーーー


 ジェイド様は、妾からヌエを取り上げて言った。


「見ていて分かったことがある。ヌエを二人に渡そう。ゲンタ、オリシン。ヌエはここだよ」


「ジェイド様! それはならぬ! ヌエが! 死んでしまう!」


 妾は必死じゃった。


「おいこらジェイド! てんめぇどーゆーこ……は? いや確証なんかねぇだろ! ヌエになんかあったら! なんとかする? いやなんなかったらどーすんだよ!」


 ゆえに、ジャックの言葉が耳に入ってこなかった。


「ジェイド様がそーゆーなら、あたしは信じるよっ。だってジェイド様だしっ」


「じゃあノウン、サランを少しお願い」

「りょーかいっ!」


 ノウンの目が怖かった。

 だから、思わず障壁を張った。


 じゃが、ジェイド様が、手を突っ込んで、指を弾く。

 すると、障壁が粉々に砕け散る。


 妾の障壁が、まるで菓子の細工のように散った。


「ハッハッハー! 面白いじゃん! さすがオリジナル! 一つも仕事をしない魔王共をどうやって煮てやろうかと思ったけど、全員、そこで見ていろ。まずは勇者に『子』を殺させてやる! ショータイムだ!」


「ほぇー、本当に僕じゃん。調子に乗ってる僕ってこんなの? えー、やだなー、魔王っぽい」


 ジェイド様は、ハーゲの感想を述べながら、ヌエを高く放り上げた。


「ヌエ、ヌェェエエエ!」


 妾は叫ぶ。


 でも、誰も動かない。


 いや、飛び掛かるのはゲンタとオリシン。


 頼む……頼むから……。


「……『薄刃蜉蝣』」

「……『愛庵冥伝』」


 親に、子を殺させるなぁあああ!


 ゲンタの技でヌエは大量の血を撒き散らせ、オリシンの鉄の箱……中が棘だらけの箱に入れて、閉じられた。


 空に浮く箱から、滴る血。


 間違いなく、ヌエの血じゃ。


「早く! 早くヌエを助けるんじゃ! まだ、まだ間に合う!」


 妾はノウンから逃れるため藻掻く。


 じゃが、逃れられぬ。


 妾は、顔を覆い、そこから目を背けた。


「クックック、はぁ~あ、面白かった。これで意識もあれば良かったんだけど、『破ー梟』だけじゃ無理だもんなー。『十≡加』も重ねて使えれば良かったのに。見てよ、さぁ開け、子の死体はどうなった?」


 妾は、耳さえも塞ごうとした。


「アリガ……トゥ。ノース……魔王」

「感謝……ヲ……北ノ……魔王ヨ」


 ふと声がした。

 目を開く。


 そこには、抗って、口を開くゲンタとオリシンの姿があった。


「ゲンタ! オリシン!? お主ら、どうして!?」

「モウ……ダイジョウブ」

「サラン……ソナタニモ、感謝ヲ」


 混乱しておるのは、妾だけではなかった。


「はぁ!? なんで!? 『十≡加』はともかく、『破一梟』で自我を取り戻すなんて有り得ない! 死者を操るスキルだぞ!」


「死んでないんじゃなーい? だったとかさ」


 混乱するハーゲに、笑うように論じるジェイド様。

 怒りに顔を歪ませるハーゲじゃったが、すぐに悪魔の笑みとなる。


「別にぃ、それがどうした!? 子は死んだ! ヌエちゃんだったかなぁ? それが、結果だ! それとも何? 子を殺して、親だけ助かる算段だった訳? ハハッ! 勇者ゲンタ、勇者オリシン、勇者の名が廃るねぇ!?」


 ハーゲの言うことに、微動だにしないジェイド様とゲンタ、オリシン。


 いや、ハーゲすら見ていない。

 上を見て、微笑んでいたのじゃ。


「ハーゲ、お前は何も知らなさ過ぎる。だから、1つだけ教えてあげる。ヌエも、だ」


 ジェイド様がそう言った瞬間じゃった。


「『急成長』起動、『優性遺伝』起動、『呪縛時覚醒』起動、ジェイドおじさん。私を信じてくれて、ありがと」


 子供の声がした。

 その声は、幼子、少女と段々に、歳を重ね、成人前の女性くらいの出で立ちになった。

 

「魔王ハーゲ、私はお前を赦さない。父さんと母さんを、こんな姿にまでしたお前を絶対に。でも、私ではお前を倒せない。せめて、『子』の勇者として父さんと、母さんを救いたい。ジェイドおじさん、それでも良いかな?」


「うん……良いよ。ヌエの好きにすると良い」


 心なしかジェイド様が苦しそうに見えるのぅ。何かハーゲによる攻撃を……。


「おじさん呼ばわりは、キツいんだけど……」


 あ、そっち。

 ……ヌエ、もっと言ったれ。


「はんっ! たかが『子』の勇者1人に何ができる!? アム、聞こえるな!? そっちの『破一梟』を全部切って、僕のありったけを勇者に回す! その間にそっちもケリを着けろ! 動けぇえええ!」


「グガガ……ヌエ、早く、我ラヲ……」

「一思いニ、早ク……」


 ハーゲの仕業により、ゲンタとオリシンが刀を抜く。抵抗しながらも、抗い切れておらぬ。


「大丈夫だよ。父さん、母さん……合わせて。『呪い解放【参多留本サンダルフォン】』」


 ヌエは、称号スキルを唱えた。


 その背には純白の翼が生え、頭の上には光の輪。

 天から落ちる光が、ヌエのみを照らす。


「ハヤク……ヤルンダ、ヌエ」

「トドメを、私達ニ……」


 ゲンタとオリシンの苦しみは、何も変わらぬ。


「やっぱり、無理か。サンダルフォン、貴方の『兄弟』に、手を」


 ヌエは大きな光の手を出現させ、それぞれの手をゲンタとオリシンの頭に乗せる。


 撫でるように、優しく、包み込むように……。


 すると、ゲンタとオリシンの頭上に、称号スキルが現れおった。


『交天使い【実華恵留ミカエル】』

『交天使い【佐麻得瑠サマエル】』


「私のサンダルフォンは、このスキルを強制起動する! いくよ、父さん、母さん!」


 ヌエが叫ぶと同時に、ゲンタとオリシンに、ヌエと同じような翼が生える。

 ただ、その翼は白と黒のまだら模様じゃった。

 黒の方が、やや多いように見える。


「やっぱり、私だけじゃ……足りない! サランママ! ありったけの回復魔法を! 父さんと母さんに!」


「ま? うぇ!? ぬぇえぃ! 分かったのじゃ! 『エリクシール』起動!」


「ヌゴァアアアア!」

「アアエアアエア!」


 回復魔法を行使する毎に、ゲンタとオリシンの叫び声が響く。


 何かに、耐え忍ぶ声。

 見れば、その体は、朽ちて腐っているようにも見えた。


 仮死状態とジェイド様は言っておったが、肉体の死は確定しておる。

 魂の死を、仮死状態にしたのじゃろうな。


 ならば、せめて、ヌエの手で送らせてやるのじゃ。


「ヌエ! 一気に行くぞぇ!」

「うん! サランママ! せーのっ!」


 そうして込めた全力の先は、癒やしと回復の光が、謁見の間一杯に広がっていったのじゃった。



ーーーー ヌエ・ウルオス ーーーー


 たくさんの光に包まれた大きな広間は、すぐに元の暗がりに戻ったわ。


 ジェイドおじさんが、こっち見てる。


 女たらしだけど、とっても良い人。


 みんな怖いって言うけど、怒らせたら怖いだけだよ。魔王より。


 だからモテモテなのかな?


 私も将来の旦那様をジェイドおじさんにしたら、父さんや母さんは喜んでくれるかな?


 魔王なんかに、娘はやらんって、父さんには言われそう。

 母さんは、父さんと一緒の時は反対するだろうけど、後でコッソリ応援してくれそう。


「私の覚醒時間は長くないんだぁ。あと1分か1時間かは分からないけど」


 力が段々と抜けていくのが分かる。


 『急成長』は呪いの力を受けている時しか発動しない。切れたら、元の赤子に私は戻る。

 父さんと母さんから受けた呪いの傷は、だいぶ効力を失っていた。


「だからお願い。それまでで良いから、父さん、母さん……私をギュッとしていてね」


 私は動かなくなった父さんと母さんを抱き締めた。


 冷たい身体。

 何をどうやっても、これ以上は戻らない。


「へへっ、ヌエは将来、こんなべっぴんさんになるんだな。あっしに似なくて良かったもんよ」

「うふふ。おかしーなー? この麻呂眉、ゲンタくんにソックリな気がするけどなー? ふふふ」


 父さんと母さんが、最後の最期に帰ってきた。


「おかえりなさい。遅いよ、父さん、母さん」


 顔を上げたい。でも、涙が止まらなくて、涙を吹いたら顔を上げようと思っているのに、次から次へと、溢れてくる。


「す、すまんな、遅くなった」

「あらあらー、許してって言っても、許してくれなさそうねー?」


 バツの悪そうな声色の父さんと、のほほんとしている母さん。


 いつもの2人が帰ってきたわ。

 知ってるんだよ?

 私は、生まれて数ヶ月しか経ってなくても、いつもの父さんと母さんくらい、知ってるんだから。


 ありがとう。


 こんな時間を、こんな時にくれて。


 ごめんね、ジェイドおじさん。


 本当に、ありがとう。


ーーーー Norinαらくがき ーーーー

今更ながら(忘れてたなんて書けない)

ゲンタ・ウルオス

オリシン・ウルオス

ヌエ・ウルオス

由来:○の○を越えてゆけ

ウルオスは?

ゲンタより……ケンタウルス……ダメダオモロナイ……

HIRAMEKI!!( ゚д゚ )ウルオス!

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