30-1魔王の帰還

ーーーー ドラン・ハミンゴボッチ ーーーー


 第7代ハーピー・ラーキー様、第10代キャプテン・フリューゲル様、嘗てお仕えした魔王様と、私は張り合っております。


「ドランって……こ、こんなに強かったかしら?」

「そこの勇者娘ちゃんといい……この時代の魔王じゃなくてヨカッタ……そもそもなんで勇者と四天王がボクらの相手をしてるんかな?」


 全てはジェイド様のおかげでございます。


 無限に称号喰らいを使えますからな。


 勇者ルナも七星天の霹靂の3セット目です。


「ええい! ドラン! ルナもである! さっさと仕留めてコッチを何とかするのである! ぐぎぎ……」


 下からウーサーの声が聞こえて参りますな。


 恐らくは、必死過ぎて気付いておられないのでしょう。

 勇者ルナですら、2セット目からワザと外しているというのに。


「……来られましたよ。間もなくでございます」


 私はにこやかにお伝えします。


「「「「「「ようやくか」」」」」」


 6名の声が同時に響きます。


 気付けば、そこに立っておられました。


 私は戦闘を止め、跪いてお迎え致します。


「お疲れ様、ドラン」

「勿体無き御言葉。おかえりなさいませ、ジェイド様」


 そしてジェイド様は言いました。


「とりあえず魔王全員一発ぶん殴ってやるから」


 そこから先は阿鼻叫喚の巷でございました。


 もちろん、逃げ回るのは歴代魔王様のみでございます。


 まず、ハーピー様とフリューゲル様が爆破魔法で空から叩き落され、ウーサーが止めている三魔王様には『特製指向性ダイナマイッ』と記載された筒が放り込まれました。

 丸焦げで御座います……。


 最後、ルナが相手取っていたニトレート様ですが……。


「フフフ、我が魔力譲渡の魔法、受けてみよ! 貴様が大したこと無い魔王であれば、受け取った瞬間死ぬことになるだろう! しかし、生きるのであれば莫大な魔力を手にし――」

「まだ口上続く?」

「いいえ! どうぞお受け取りくださあい! じゃなくて、死ねぃジェイドォ!」

「もう良いから。茶番だって、もう分かってる」


 ジェイド様は、ニトレート様から魔力を受け取り次第、ニトレート様を爆破します。


 6名の歴代魔王が、地に伏します。


 ですが、皆様……御言葉ですが、下手な演技でございますよ。


 ジェイド様は、元物見櫓にいるブレッド様に目配せします。

 ブレッド様が腕で大きく丸のサインを出しました。


「とっくに切ってたな? まぁ良いや。みんなの願いは、ぶん殴ってやること。そして、見届けること。その2つで良いね?」


 ジェイド様は問います。


 丸焦げ……というより、煤だらけになったバイセコー様から、声がしました。


「スマナイ、今代の魔王ヨ。ジェイソンも、止めてヤッテクレ。魔王城の破壊、望んでイナイハズだ」


 喋り終えたバイセコー様の両腕がボロボロになって砕け落ちます。


「分かったよ。でも、もう喋らなくて良いからね。それ以上崩壊したら、結末を見れなくなる。だから、後は僕に任せて」


 小さなジェイド様の背中は、とても大きく見えました。

 私が仕えているのは、史上最高の魔王様でございます。


「……なぁジェイドよ。まさかとは思うがここにいる魔王ども……」


 ウーサーもようやく気付いたようですな。

 とても疲れた顔で、ジェイド様に尋ねております。


「そうだよ。みんな、なんとかしてハーゲをぶん殴ってやりたいの。バウアーがそうするつもりだったみたいだけど、僕で良いってさ。だから、行ってきます。んじゃねぃ」


 そう言って、ジェイド様は駆け出しました。


 それを見送るウーサー、ルナ、私。


「私、魔王がこんなに良い人達だなんて知らなかったよ。ちょっと感動、うるうるだよ!」

「ただ他の世界の魔王に自分ちの庭を荒らされたくないだけであろう!」

「今は、それで十分でございましょう?」


 ウーサーは、キッとこちらを睨みます。

 ですが、すぐに溜息を1つ。


「過ぎた事、歴史を紐解けば、伝え方、教わり次第で敵味方は入れ替わる……であるな。未来のため……とは言え、気が済まんのである。もうこーなったら、ジェイド、ド派手にかましてやるのであるぞ!」


 ウーサーも、ジェイド様を応援するようですな。


 どのような結末を迎えるか、今から少し、楽しみでございます。


ーーーー ヒデオ・ラッシュ ーーーー


 もうダメだぜぃ。


「グゴオオオオオ! ゴロズ! コロズ! ミナゴロずゥゥオオオオ!」


 発狂した魔王ジェイソン様は、刃が回転する巨大な機械を持って振り回す。

 足を失って転がり回りながら。


 食堂に予備として配備してあったライオットシールドでも3秒しかモタなかったぜぃ。

 シールド無かったら首チョンパだったぜぃ!


 アサルトライフルも30発しか無かったもんで、両足を撃って吹き飛ばすのが精いっぱいだったぜぃ。


「よくやったの。ヒデオ、ちゃんとジェイド様に戦果、言っておくの」


 横で料理長が誉めてくれっけど、生きて帰れやすかね?


「ひでおー! よくやったぁ! ほめてつわかすー!」


 フラン様、それはジェイド様の真似ですかぃ?


 フラン様が合流してくれたおかげで、なんとか膠着状態に出来たんだぜぃ。


 足を吹き飛ばすのは、実弾5発で十分だったんだぜい。両足で10発。

 でもよぉ、再生するのは反則だぜぃ!


 弾切れになったところで、終わった。と思ったらフラン様が来てくれたんだぜぃ。

 再生しようとする足を溶かしてくれたおかげで、何とか生き抜けたんだぜぃ。


「そろそろじかん。もっかい、いってくる!」


 それでも再生速度が落ちるだけだから、もう1回溶かしてくるっつーフラン様。


 食事の机をひっくり返してバリケードにしてっけど、見つかり次第色んなもん投げて来やがるからなぁジェイソン様。


「あ、ジェイドさま!」


 フラン様の声がして思わず顔を出す。


「料理長、ヒデオ、フラン、よく持ち堪えたね。ジェイソン、君には悪いけど、先に眠っていて。おやすみ」


 ジェイド様は、優しい声で仰られると、ジェイソン様を爆発四散させちまった。

 一撃……さっすがジェイド様だぜぃ。


「ゴメンね、料理長。後片付けが大変になっちゃって」

「構わないの。被害は最小限であったと思うの。片付けは、ヒデオ氏にも手伝っていただきたいと思うの。宜しいですか?」


 へ?


「僕の近衛部隊を全部使って片付けよう。という訳で、ヒデオ、みんなを集めて片付け、ヨロシクね」


「かしこまりやしたぁ!」


 ジェイド様直々の命令。

 こいつぁ、みんな気合入るだろうぜぃ!


「じゃあ、僕は行くから」


 おいらも、料理長も、フラン様も、片膝を付いてジェイド様を見送る。


 その背中は、静かな怒りを秘めていらっしゃる。


 そんな風に見えちまったぜぃ。


ーーーー ノウン・マッソー ーーーー


 ……強いなっ、ウェスト・ハーラの勇者だけあって、少し圧されてるっ。


 真正面から殴り合えば絶対に勝てる。


 でも、ゲンタ、オリシンとか言う操られている勇者は、変なスキルばっか使ってくる。


「くっそ! チャチな攻撃ばっかりしてきやがって!」


 ジャックもイライラが溜まってきたなっ。


「……『土呂土呂どろどろ』」


「うげっ! また来るぞっ! ジャック!」

「分かってらぁ!」


 ゲンタがスキルを発動する前に飛び上がる。


 あたしもジャックのいた場所が泥々になってぬかるみになる。


「……『真・時空両断斬り』」


 ゲンタがあたし達を追って飛び上がり、連続でスキルを放つ。

 防御無視の斬撃。

 喰らったら真っ二つ。


「うぉらぁ! 何度も同じ手ぇ食わねぇつってんだろ!」

「ナイスジャックゥッ!」


 ジャックが横から蹴り入れてくれておかげでなんともないよっ。


「……『朱ノ片羽あかのかたはね』」


 そんでもってオリシンから追撃スキル。

 赤い羽があたし達の周囲にキラキラと舞う。

 これ自体に害は無いよっ。


「……『印銅鑼インドラ』」


 問題はコッチなっ!

 オリシンから電撃が放たれる。

 真っ直ぐこっちには来ない。


 周囲に舞う赤い羽に反射して、予測不可能な方角から電撃が飛んで来る。

 

「ノウン!」

「任せろぉっ! うりゃりゃりゃりゃー!」


 だから、連続パンチで羽ごと殴って吹き飛ばす。


 そして、地面に着地。


 でも、このパターンの後が問題なんだよなっ!


「……『薄刃蜉蝣うすばかげろう』」「……『愛庵冥伝あいあんめいでん』」


「サランっ! 逃げてっ!」

「だからなんでそっち行きやがんだぁ!?」


 ゲンタとオリシンは、必ずサランに攻撃する。


 小さな虫みたいな刃は何とか追い付くジャックが斬り刻み、でっかい鉄の箱は私が潰す。


「……すまぬ! ジャック、ノウン!」


 サランも盾出して防いでくれてるから無傷だけど、サランだから無傷なだけで、他のヤツだったらとっくに戦闘不能だと思うなっ。


 謁見の間から逃げれば良いじゃんって?


 何度も試したよっ!


「次は、窓かー。後でどうせ全部壊すから直すのもったいないんだよね。でも、逃げちゃうならしょうがないよね。ソイル、塞いで」


 まーたニセジェイド様ことハーゲに邪魔されたっ。


 あんのハーゲ、絶対に分かっていてやってるなっ。


 サランの背負う子が、ゲンタとオリシンの子だって。


 相手がゲンタとオリシンじゃなかったら、ハーゲたけなら、私は『狂化』で絶対ハーゲを倒せる。


 でも、それが出来ない。


 悔しいなっ。


 力だけあっても、勝てない。


 ジェイド様に教わったはずなのに、全然、あたしっ、ダメダメだなっ。


「よくやった。ジャック、フーリム。僕の言う通りにして。あとは任せよ。その二人を何とかしよう」


 塞がれた窓が爆発して、ジェイド様が謁見の間に戻って来た。


ーーーー 夕暮 美紗 ーーーー


 俺とアイは苦しんでいる。


「うがぁっ! 息が……できねぇ……もう、限界だぁ……」

「く、……くっ! こ、こここんなところで、死にたく……ないよ……じゃなくて……ないぜ」


 おいこらアイ。

 下手くそ過ぎんだろ。


 もっとこう……気合入れて苦しむ演技しねぇと。


「あ、ジェイド帰ってきたぜ」


「いきなりケロッとし過ぎだろぉ!?」


「もうちょっと効いてるフリしてくれないカシラ? 今は向こう向いてるから大丈夫だけど、まだ崩壊シタクナイノヨ?」


「あいたたたた! ちょ! 肩! あぅふぅん! あでででででで!」

「貴女の肩のお肉、しっかり解してから食べてアゲルワー」


 魔王ヘイトに肉を引き千切られる勢いで肩を揉まれる。

 メッチャ痛い。でも結構気持ち良いかも。


ーーーー ミシェリー・ヒート ーーーー


 おかしーおもーたわー!


「……お祖母様……まだ続けますか?」

「ミシェリーはどうしたい?」


 ウチと婆ちゃんはお互いに全力で炎をぶつけ合い、睨み合いを続けとった。


「恥ずかしくなってきたので、止めたいです」

「ふふ、ふふふ。孫の恥ずかしい顔、もっと見ていたいところ……」

「最終奥義を使いましょうか? 泣きますよ?」

「さすがの私でも無傷ではスマンから止めよう。肉体的には何ともないが、魂にカルマを背負うのはマズい。あの世で息子や嫁にイビられそうだ」


 炎は止んだ。


 そして、婆ちゃんに抱き締められた。


「大きくなった。強くなった。良い土産話が出来た。しばらく、このままで良いか?」


 何も言わへんわ。言えへんわ。


 ウチ、もう動かへんからな。

  

ーーーー フーリム・D・カーマチオー ーーーー


 オクターブ・エトダース。

 私の目の前で人肉パーティーを開いたトラウマ魔王。


 でもね、思い出した。後から聞いた話。


 勇者が魔族を挽肉にして食べたって話を聞いて、なんでそんな残虐なことができるのか。

 同じ事をやればその勇者の気持ちが分かるかもしれないみたいな実験パーティーだったの。

 あとは人類軍に対する見せしめ。


 そうよね。

 今、なんとなく思い出したけれど、幼かった私。そしてこの魔王オクターブもキラキラしながらゲロゲロしてたもんね。


「ごろにゃーん、サキュバスのテンプテーションはよく効くニャァ」


 お腹出して服従のポーズしてるけど、良いの? あなた魔王でしょ?

 テンテンも興味津々でお腹ナデナデしてるし!


「インギュバスのテンプテーションも中々じゃない。ふむ、良いお茶の淹れ方よ。精進なさいな」

「ハッ、お誉めに預かり光栄です」


 シッシとへイジュンなんかお茶してるし。


 さっきまで迫真の演技で苦しんでたのは何だったのよ。


 私が演技だから合わせて、なんてシッシとテンテンに言ったからダメだった?


 ジェイドが下に戻ってきたくらいからダラけ過ぎじゃない?


 まぁ良いわ。


 後はジェイドが何とかしてくれる。


 だから、任せたよ! ジェイド!


ーーーー Norinαらくがき ーーーー

敵だと思ってたら味方だったパターンですハイ。


もっとも、ジェイド陣営が弱ければ、壊滅させた上で油断しているハーゲを葬る算段でした。


通信手段は2代目ブレッドの能力で問題無しです。

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