30-0魔王様、撃つ

 星ノ眼とブレッドから提供されたモニターを眺めて呟く。


「戦況最悪なんだけど。くふふっ」


 いやー、笑ってる状況じゃないけど、笑わずにはいられないよね。


 歴代魔王を13体+ウェスト・ハーラの勇者2人を操る魔王と、どう戦えって?

 ハーゲ・マルドゥーンも防御力に極振りみたいだし。痛いのそんなに嫌なの?


 しかも、ネイはボロ負け。


 戦線1つ崩壊してる上での盤面練り直し。


「そんなことしてる暇があったら、みんなにアドバイスした方が良いんだけど――」


 残念ながら僕も正確なアドバイスを贈れる余裕は無い。


 僕は音速で走る列車の上に立っていた。


「ええい、チョコザイな! コレでも、喰らエエェェ!」


 僕の乗る高速で走る列車の上と、前方に展開されるレールに向けてバウアーの拳の波動が放たれる。


 僕は錬金術で前方のレールを回収し、左に線路を張り替えた。


 減速なしの高速カーブ。

 本来なら脱線必至だけど、空中にレールを貼れるから関係ない。

 脱線しないよう、レールを傾ければ良いだけだからね。


 進路は自在。障害物の木や岩は前方の尖らせた障壁で粉砕。

 通り過ぎたレールは錬金術で即回収。

 線路は続くよ、どこまでもってね。

 

 僕が開発したのはこの無限列車だけじゃない。


「いっくよー! 『クーマ』装填……完了! 撃てぇ!」


 24cm砲弾が、列車先頭の砲台から放たれる。


「ふんっ! コノ程度の物理攻撃、我が肉体の前ニハ無力! ん? ぶへぇっ!」


 24cm砲弾は片手で弾かれたけれど、80cm砲弾はバウアーの横っ面に直撃した。


 アレは痛いね。


「いよぉしっ! 『クーマ』だけじゃないよ? 『グスタンフ』もいるからね」


 僕は列車を2台運用している。

 どっちも列車砲。

 ロマンの塊だよね。


 今僕が乗ってる九マル式カノン、通称『クーマ』とカール・グスタフこと『グスタンフ』。


 この2台の列車砲がバウアーの相手だ。


 僕? 運転手と砲撃手に専念するよ。


 だって最弱の魔王だからね。


 最弱じゃないって?


 これ見てよ。


「ステータス・フルオープン」


ジェイド・フューチャーLv2222

『超』『魔王』『全属性魔法使用可』『錬金術』『全テヲ砕キ穿ツ者』『木?魔法(装填完了)Lv2161』『星ノ眼』『超??技術Lv2192』『?体新?Lv1960』『未来○』

力:10 魔力:10000


バウアー・トゥーザ・ビンボーLv1000

『魔王』『魔法使用不可』『魔力無効化』『力の真髄』『魔力を力に』『力の波動に目覚めし者』

力:1000000 魔力:10000


 魔力は一緒だけどさぁ。

 力の差が10万倍。

 僕が10万人いても勝てないって何なの? 魔王なの? 魔王だったね。僕も魔王なんだけど?


 泣いても良い?


 ハァ~ぁ。


 だから、僕が勝つ方法は錬金術しかない。


 錬金術で近代兵器を作って科学の力で勝利する。

 それでどこまで通じるかだけど。


 いや、勝たなきゃならないんだけどね。

 自国で核なんて使いたくないし。


「ええぃ、鬱陶しき歯車共ヨッ! フヌオオオオ!」


 グスタンフに連続波動の拳が放たれる。

 連打ってレベルじゃない。

 マシンガンじゃん。


 リモート操作じゃキツイなぁ。

 すでに小破。大破まで時間の問題。


「しょうがない。いくよ、『ミュラー』」


 僕は車両の上に乗せていたクーマを錬金術で撤去し、車両内に潜めていた『ミュラー』を起動させる。


 ミュラーも、グスタンフと同じ80cm砲弾を発射できる。


「エ? チョ!?」


 バウアーはビックリして手を止めちゃった。


「それは悪手だよ」


 僕はニッコリ笑って、大破寸前のグスタンフとミュラーから同時に最後の砲弾を発射した。


ーーー バウアー・トゥーザ・ビンボー ーーー


 この人間の子供のような魔王……いや大悪魔か……こんなのが魔王とか世も末であろう。

 人魔歴1000年なら、暦の上でも世も末か。


 魔王の我がなぜそう思うか?


 見ろ、此奴のステータス。

 

ジェイド・フューチャーLv2222

『超』『魔王』『全属性魔法使用可』『錬金術』『全テヲ砕キ穿ツ者』『木?魔法(装填完了)Lv2161』『星ノ眼』『超??技術Lv2192』『?体新?Lv1960』『未来○』

力:10(防御貫通) 魔力:10000(+1000000+???????)

感情ステータス:終末時計を減らすか戻すか考え中


 此奴、ただの魔王では無いぞ。


 魔王以上の何かをしでかす輩であるぞ?


 初代チゥ様はこんなとんでも魔王を望んでおられたのか?


 ……まぁ我ですら役立たずであるなら納得も行くが。


 レベルが1000を超えるのか……。


 それが、条件か?


 ふふん、であるならば、最強である我を、少なくとも超えてゆけ!


 巨大な砲台がもう1つ存在したことに、ほーんのちょっぴり焦ったが、2つの砲弾が同時に放たれようが、両手に波動の力を込めれば止められる!


「フゥン! コレゾ、我が力。最強の力でアル! さぁ、次ハどうする!?」


「やっと完全に止まってくれたね」


 魔王ジェイドは、笑っていた。


 先程までの、にこやかな笑みではない。


 我が、人類に力を見せていた時に、人類が恐怖で震える。力だけではなく、魔王の表情のみで、それを体現したかった。

 色々と試したが、そんなもの、一朝一夕で身に付くものでは無い。


 我は、砲弾を受け止めながら、その時の人類と同じ顔をしていただろう。


 魔王の恐怖の笑みに、震える絶望の顔を。


 何が最弱だ。笑わせる。

 ステータスの、数値だけだろう。


 誰だ? こんなシステムを作った者は?

 地獄に落ちて来い。


 絶対に、我が直々に、全力で、ぶん殴ってやる。


ーーーー ジェイド・フューチャー ーーーー


 やっと止まってくれた。


 僕は笑顔だったが、過去に無いくらい口角が上がっていたかもしれない。


 多少の修正は利くんだけど、修正の必要がないくらいドンピシャだったら、みんな僕と同じ顔になると思うよ?


 僕の目標として、如何に『バウアーが空を見ないようにするか』が重要だった。


 なぜなら、僕の本来の武器は空にあるから。


 どうして、列車砲は強力なのに流行らなかったか知ってる?


 主戦場が、陸から空に移ったからだよ。


 空で猛威を振るった近代兵器。


 もう分かるよね?


「Intercontinental ballistic missile、略称ICBM。この弾道ミサイルに、どこまで耐えられるかな?」


 僕は、ここに来る途中で飛ばしていたノース・イート周回中の弾道ミサイル一発を、狙い通りバウアーの顔面にお見舞いしようとした。


「さあァァアアセルカアアア!」


 両手で止めていた80cm砲弾を弾く。無理矢理やった代償に、指を欠けさせた。そこから、力いっぱい、右腕で振り被り、殴って迎撃しようとする。


 バウアーの拳と弾道ミサイルがぶつかる。


 爆発。

 風魔法を展開し、爆煙を吹き飛ばす。


「なんのぉ! なんのコレシキィ!」


 右肘から先を欠損しただけ?

 ウッソでしょ?


「じゃあもう一発! うてぇ!」


 僕はもう一発お見舞いした。


 バウアーは、左腕で同じことをした。

 左腕を吹き飛ばしただけで、まだ耐える。


「マダマダァァァ!」


「マジで? じゃああと2発」


 角度を変えて2発おかわり。


 でも、バウアーは蹴り上げ、回し蹴りで、それぞれの脚を失いながらも凌ぐ。


「ドーした!? ジェイド・フューチャー! コレで、オシマイではナイだろう!」


「――御名答! これが、ラスト一発だ! どこで受け止めるかな!?」


 予備弾を全部使わされるとは思わなかった。


 でも、最後の一発は、ヘッドバット。

 強烈な頭突きだよね。

 だって爆風がバウアーの後ろに行かないんだもの。


 それでも、バウアーは頭の片側を凹ませるだけで耐え切った。


「フフ、フハハハハ! 我が、ニンゲンであれば、コレで死んでいた。だが、我は悪魔の魔王ナリ。核さえ無事なら、ドウトデモなる!」


 そう言って、胸の核を僕に見せ付けてくる。


「弱点、そこなんだね。いけ。『ゴーン』」


 僕は銃で撃ち抜く素振りを見せた。


 空から真っ直ぐ光が落ちる。

 

 その拳大の光は、正確にバウアーの核を貫き、破壊した。


「……見事……今代の……魔王ヨ……」


 バウアーは、地に落ちた。


 僕が用意した大型秘密兵器の完成品、全部使わされちゃったよ。


 スタージェイラー2号機こと、『Guardian Of North Eat』、通称『ゴーンGONE』まで使わされるとはなぁ。

 

 美紗にすら言ってないから、後で怒られるかもね。


 僕はそんなことを考えながらも、警戒してバウアーに近付く。


「核失っても生きてるじゃん、ふふっ」


 僕は思わず笑ってしまった。


「ククッ、死んでヲルわ。今は『不死者』でアルからナ」


 バウアーも、悪魔の顔だから不気味だけど、笑顔なことくらいは分かる。


「まだ続ける?」


 バウアーは首を振った。

 僕も分かる。戦う意志が無いことはね。


「モウ立つ気力も無イ。これ程の、血肉湧く闘いハ、久し振りデアッタ。途中まではツマランかったが、最後は、実ニ良かったゾ」

「お褒めに預かり光栄でございます、前魔王様」

「ヨセヨセ、我に勝ツ者が頭ヲ下げるナ。我の立つ瀬モ考エロ」


 そうは言うけど、バウアー、ずっと笑顔じゃん。

 どんだけ楽しかったのさ。


「少し待テ。ジェイド、渡すモノがある」


 そう言って、バウアーは波動の力を使い、懐からカードキーを取り出す。


「初代チゥ様より、魔王ノミに受け継がレシ鍵デアル。魔王図書館に入口ガアル。お前ナラ、探せばスグに見つかるダロウ。説明もシナイ。どうせすぐに分かる。ナニより、モウ時間ダ」


 バウアーは語るだけ語り、勝手に終わろうとしていた。

 僕は文句を言ってやりたい気持ちになったが、足元から灰になっていく様子を見て悟った。


「ハーゲの命ずる役目ヲ熟せぬ者ノ末路カ。魔王ジェイド・フューチャー、頼みガあル」


「なに? 思いっ切り、ハーゲをぶん殴って来いって?」


 バウアーは、もう何も言わなかった。


 ただ、ニッと笑っただけ。


 だから、僕も何も言わなかった。

 バウアーに背を向けて歩く。


 拳を空に突き上げて、僕は去った。


 そして僕は、色々と理解した。


 僕はチラッと視線を落とす。


「ブレッド、まずはお前だ」


 モニターの向こうで、第2代魔王が引き攣った笑みを浮かべていた。


 そりゃねぇ?

 僕にはその権利があると思うな。


 どうしても嫌だと言うのなら、代替案、待ってるよ。


 そうして、僕はこの地を飛び立った。


 全速力で、僕の、みんなの魔王城へ。


ーーーー Norinαらくがき ーーーー

ブレ:代替案を用意致しました

ジェ:申せ

ブレ:ノース・イート美女トップ50のあられもない静止画及び動画を。

ジェ:僕がそんなものに釣られるとでも(#^ω^)?

ブレ:ミサ夫人特集もございますが?

ジェ:(*´∀`)ショウガナイナー

ーーーーーーーー

ミサ:( ゚д゚ )オイブレッドΣ(゚Д゚)ア、シンダ

ミサ:(*´Д`)ミークンシリーズヨコセ(*´∀`)カシコマリィ!


以上、星ノ眼を通じた裏取引現場でした。

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