29-3涙の再会

ーーーー ネイ・ムセル ーーーー


 サウス・マータを移動中、空に巨大なモニターが現れおった。


 そこから漏れ出る声を聞けば、今、ノース・イートには魔王が溢れ返っていると?


 世が世ならば、阿鼻叫喚の地獄であろうな。


「閣下、向こうが心配?」


 心配するショーコの息が荒い。


「ショーコ、お主は自分の心配をするのである。ジェイドの指示通り、後方にて待機せよ」


 ショーコは一礼して、遥か後方へと消えた。


「来るんすかね、魔王アムは」


 ポンは少し離れた位置にあるウェスト・ハーラへのゲートを見てボヤく。


「必ずや来る。油断しないよう気を張っておれ」


「そうだゾ、ポン。ワレら勇者が3人居ようが、それで魔王アムと同格。閣下もいるが、敵は『雷』の魔王。雷速でやって来るゾ。電光石火の一撃、油断すれば死ぬゾ」


 ロドラの言う通りである。

 奇襲の戦法を取るなら、ショーコ以上に厄介である。

 ショーコは光速であり、速度も威力もショーコが上であるが、如何せん光速のままだと命中精度が悪いのである。

 それが雷速であれば、威力、命中精度、どちらも申し分ない。光速や雷速など、吾輩にしてみれば誤差でしかないのである。


「大丈夫っちゃ。そんなこと、アムはしないっちゃ」


 気が付けば、手の届きそうな所で、金髪碧眼の少女――アム・ノイジアは立っていた。


「アム……久しいの」

「ネイも、元気そうで良かったっちゃ」


 吾輩は、剣を抜いて構える。

 アムも、稲妻を纏う。

 吾輩の目が霞む。アムの目も涙が溜まっておるように見える。


「サランより、伝言を聞いたのである」

「あの龍、約束を守ってくれたっちゃね。……ここにいるのが、答えっちゃ?」


 作られた微笑。

 そこに宿るは、悲哀であった。


 これ以上の問答は無用。

 もう、吾輩からは何も言えぬ。

 

 声が、震えかねん。


 吾輩は、剣を振り上げる。


「初めましての勇者もいるっちゃね。アムは、アム・ノイジア。『雷』の魔王っちゃ。アムの役目は、ノース・イートまでの道を開くこと。命までは取ったりしないっちゃ」


 ロドラ、ポンも剣を抜いて構える。


「だから、そこを退けろっちゃ!」


 声を震わせて叫ぶアムの纏う稲妻が弾け、荒野の至る所で雷が轟き始めた。


ーーーー ミシェリー・ヒート ーーーー


 ウチを泣かしにきとんか? 


「クククッ、まずはこの魔王城を焼いてあげよう! 第4代魔王、ホムラ・デス! 僕の命に従い、全てを灰燼かいじんと化せ!」


 よぉ喋るニセジェイド様やな。

 せっかくの感動が台無しやわ。


「コイツを何とかできれば、みーくんとみーくんと3Pがデキッ、だめだ。こんなところで無駄に血を流す訳には――」


 鼻血ブーのミサがおるから台無しになる未来は変わらへんな。


「おぉ? 今代の魔王は人間か。ミシェリー……か? 大きくなったな」


 目を開いた婆ちゃん。

 元が人間に近い悪魔やったからな。

 ウチの面影……とゆーか、お婆ちゃんの面影が丸っ切りウチやんな。

 

 ウチの、ホンマの、婆ちゃんや。

 見た目はウチにちょっとシワが入っとる程度や。

 悪魔やけど若過ぎちゃうか?

 100歳のお祝いやったやん?


 もちろん、そんな軽口なんか叩けへん。


 涙も、一筋……コレっきりや。


「――良い覚悟だ。いくつか聞きたい。ミシェリーよ、レイズはどうなった?」


 レイズ・ヒートは、ウチのパパ……婆ちゃんの息子やな。魔王の子のまんまじゃアレやろうからって、婿養子でヒート家にいれてもろーたんやて。


「では簡潔に経緯を。『紅焔』が『みずうみ』の勇者に討たれ、仇討ちに向かいましたが相討ちとなりました。母は反撃に合い、『ながれ』と『とどろき』の勇者に討ち取られました。ヒート公爵家は、その際の損害を拡大させたとして、爵位を返上。これにより処罰を免れました。その後、一から叩き上げで、私は今、総司令の地位を承っています。『流』と『轟』は、私の炎の中です」


「そうか。立派に務めを果たしたか。フレアは、残念だった。二人の墓は一緒か?」


 フレア・ヒートはウチのママや。

 まだ泣けるんやな。死体やのに。泣いてくれるんやな。


「どうしたの? 早く燃やしてほしいんだけどなぁ? それとも、何もせずにまた死にたいのかなぁ!?」


 ニセジェイド様が叫ぶ……。ニセでも様つけるんが腹ぁ立つな。

 名前なんて言いよった?


 ハーゲやったかいな?


 こんのハーゲ! あとでほんま覚えとりぃや!


「もう少し、孫と話をしていたかったが……そうもいかないようだ。悪いがミシェリー、私には、やらねばならないことがある。そのためにも、私の『紅焔』で燃えておくれ」


 婆ちゃんのスイッチオンやな。


「残念ですが、この城には燃えてほしくないモノが沢山あります。ま、燃やすと言うなら、せめて死体くらいにしておいてください。なんならお手伝いしましょうか、お祖母様。私の『焔帝』はよく燃えますよ?」


「ほほぅ? 言うようになったじゃないか」


 冷静な口振りの婆ちゃんやけど、こめかみビッキビキやで。


「せっかくの再会だが、情が移ってはいけない……か。成長したな、ミシェリー」


 何か小声で聴こえたで?


 ウチ、ちゃんと聞こえるんやから、そーゆーことゆーんは――。


「そういう甘いところは、幼い時のままだ」


 耳元から婆ちゃんの声。


「ぬああっつぅ!」


 耳の下から首に掛けて焔が突き抜ける。

 辛うじて避けたけど、ウチの耳たぶ丸焦げやわ。

 髪も三分の一が燃えて消えた。


 火炎耐性抜群のウチが。


 首の皮がチリチリと焼けとる。火傷なんて、それこそ婆ちゃんにオシオキされて以来やな。


「よく避けた。さすがに片手間じゃミシェリーの相手は難しい。かかっておいで。全てを燃やすのは、孫と遊び終わってからだ」


 婆ちゃんが炎を纏う。

 すでに、床が真っ赤。いつでも溶かせることができるゆーとるよーなもんやな。


 ウチ、魔王だった婆ちゃんに勝てるんかいな?


「……勝つ方法はある。お祖母様、後悔せんときぃや!」


「ハッハッハ! それでこそ我が孫! 久し振りの現世だ! 存分に、燃やしてやろうぞ!」


 ウチの『焔帝』と婆ちゃんの『紅焔』が、音を立ててぶつかった。


ーーーー Norinαらくがき ーーーー

ノース・イート魔王年表(だいたい)

初代チゥ:0〜258

2代目ブレッド:258〜260

3代目ニトレート:260〜321

4代目ホムラ:321〜456

5代目マッハ:456〜500

6代目ヘイジュン:500〜521

7代目ハーピー:521〜596

8代目ビー:596〜618

9代目ギャラクシー:618〜645

10代目フリューゲル:645〜718

11代目ソイル:718〜747

12代目オクターブ:747〜836

13代目ジェイソン:836〜862

14代目ヘイト:862〜889

15代目バイセコー:889〜909

16代目バウアー:909〜999

17代目ジェイド:999〜


ジェ:2代目短過ぎない?

Norin:ただの覗き魔(王)だったので、ね?

ブレッド:当時の四天王(美女4名)により、焼き鳥にされてしまったよ。


P.S:就任期間は短いブレッドでしたが、チゥですら困難だったおおよその世界地図を作製した功績が有ります。

なお、無能な魔王は即殺の取り決めも、この時点で生まれました。


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