29-1ジェイドの首が宙を舞う

ーーーー ミシェリー・ヒート ーーーー


 あっらー、嬉しいわぁ。


 てっきり総司令ポジション、クビやと思うとったのに。


 なぜやて? ミサおるし、前回はフーリムが魔王代行やったしな。


 改めて任命されるのは、予想外やったし嬉しかったわ。


「ふっふっふ、そういう訳で、これからジェイド様からの指示があるまで、私が総司令として指示を出す。異論は? 今なら聞いてあげるわ」


 髪をかきあげ、腕を組んで少し威圧的な態度をとる。


 普段ならこんなことせんのやけど、ミサがおるからな。


 にしても、静かやなミサ。


「で、どうすんだ? 作戦会議すんのか、それとも打って出るか、何かすることあんだろ?」


「え? ウチが総司令なことに文句あらへんの?」


「ねぇよ。みーくんが任命したんなら何か意味あんだろーし、そもそも俺は司令塔より先陣切って斬り込む派だ。もっとも、今となっちゃ守り専門。味方の邪魔なんてしねぇように、それなりに立ち回るわ」


 ……なるほど、ジェイド様の見込む女だけはあるんやな。

 味方であることがこんなに頼もしく思えたことは今まで無かったもん。

 

「ならば良いわ。ただ待ち惚けするには時間が惜しい。二手に分けるわ。ミサ、アイ、フーリム、サラン、シッシ、テンテン、以上6名と私はこの場で待機及び作戦会議を行うわ。残りの者は速やかにカタコンベの確認を」


「って待て待てなのである! もう少し中身の話をするのである! そもそも、さっきのアレ……というか上からメッチャ覗き込んでくるアレはどうするのであるか!?」


 はぁ〜、ミサが聞き分け良くて良かったわぁと思っとったけど、そーいやウサペンもおったんやった。


「ブレッド様は脅威無しとジェイド様が判断された。事実、見られ、公表されるだけならどうとでもなる」

「いやなる訳ないであろう! 情報戦で全部抜かれるのは致命的以外無いのである!」

「長期戦ではその通り。でもねウーサー。短期決戦の場合、手を拱く方が不利よ。迅速に、敵に追い付かれない速度で行動する。地の利はこちら。敵の攻め手は全て潰す。そして、圧倒的な勝利を! 全世界に! 格の違いを見せつける!」


 ウチ、嘗てない程に、熱く語ってしもーたわ。


 だって許せへんし、もしかすると、ちょっとだけ嬉しいんかもしれへんからな。


ーーーー ウーサー・ペンタゴン ーーーー


 いやいやいやいや。

 言いたいことは分からんでも無いのである。


 ただ、見られっぱなしは不味いであろうと。


 我、何か間違っているか?


「みーくん、結構端折るからな。ミシェリーもみーくんに似てきやがった。俺から補足してやるよ」


 碌でもない補足だったら泣いてやるのであるからな!


「脅威なしは言い過ぎ。まだ『観られる』だけの『魔王』ならマシだってことだろ。それで分かるだろ?」


 いやサッパリ……ってアホ面してるルナと一緒にされたくないのである!


 出ている情報は、西の魔王はネクロマンサー。

 2代目魔王がその力で操られており、2代目の口振りからすると先代バウアーも操られている可能性が高い。


 で、まだ2代目魔王に観られるだけなら、マシ?


「観られるだけなら……あっ……」


 我は上を見る。

 2代目は、『観るだけ』しかするつもりは無いのであるか。

 死者を操るネクロマンサー。魔王が魔王を操るとなれば制限は必ずやある。

 現在、魔王2体を操っている状態であるか。

 他の魔王の死体を操っているのか。

 それを知らねばならぬということであるな。


「分かったようね、ウーサー。それを確認するためにも、貴方達にカタコンベを見てもらう必要があるの。生身以外で入れるなら『星ノ眼』で見てもらうのだけれど……」

「生憎、そもそもの特殊結界で許可した者と手持ちの荷物しか持って入れねぇからな。お、みーくんが臨時の許可証全員分発行してくれたぜ」


 ミサから許可証を投げ渡される。

 全員分あるのである。

 ジェイドめ、無駄に手際が良いのであるな。


「承知した。確かに受け取ったのである。それ故のこの戦力か、納得した。速やかに確認するのである。ゆくぞ! 皆の者!」


 我はドラン、フラン、ノウン、ルナ、ジャックを連れて謁見の間を出た。


 階段など使わん。


 窓から飛び降りる。


 カタコンベは地下である。


「ドラン! 場所は把握しているのだろう? 吹き飛ばすのである! 免罪の機会を与えてやるのである! 何なら口添えもしてやろう!」


 一瞬顔が引き攣るドランであったが、すぐに完全龍化した。


「約束でございますよ!」


 そして、ブレス一発。見事な穴が開いたのである。


「さぁ、乗り込めぇ!」


 我々が乗り込んだカタコンベは、想像を絶するモノだった。


ーーーー アイ・スクリーム ーーーー


 さすがに行動が早ぇな。


 何より安心感が漂ってる。


 楽観は誰もしてないし、油断もしてない。


 ミーシャも拳を握っていつでも心臓殴れるようにしてるな。


 あたいもアイスソード出しとこ。


「たっだいまー。ふぅ、疲れたー」


 え? ジェイド? もう帰ってきたのか?


「いやー、さすが史上最強の魔王。結構強かったよ。まぁ、それだけだったけどね。僕の爆破魔法の前じゃ無力だったね」


「無事なら無事って言えよな! ちょっと心配しちまったぜ!」


 あたいはジェイドに駆け寄ろうとする。


 でも、ミーシャに止められた。


「待て、アイ」


 小声で訴えられる。


「どうした? ミーシャ?」


 ミーシャは、ジェイドとフーリムを交互に見ている。目線だけを動かして。


 そのフーリムは、歯をガチガチと鳴らして震えながら、ミシェリーとテンテンの服の裾を力いっぱい引っ張っていた。


ーーーー フーリム・D・カーマチオー ーーーー


 戻ってきたジェイドは見た目もジェイド、心の中もジェイドなの。


『あれ? どうしたのフーリム? 顔色どころじゃなくて体調がとんでもなく悪そうだよ?』


 声もジェイド、仕草もジェイド、ちょっと困った時は右手の人差し指で頬を掻く癖すらジェイドなの。


「参ったなー。でも、フーリムの体調が優先だね。外傷なら治せるけど、精神的な気持ちまでは治せないからなー。シッシ、テンテン、二人でフーリムの介助を」


「……ハッ、畏まりました」


 答えたのはシッシだけ。

 でも、テンテンも命令通り私の背中を擦ってくれる。


「さて、それじゃ西の魔王をどうするか、話し合いの続きをしよっか」


 いつものジェイドの微笑み。

 間違えようが無い。

 ミサだって、ジェイドに対して全く違和感を持っていない。

 みんなの疑心は私のせい。


 だから、私が声を上げれば良い話。


 でも、それが出来ないの。


 声が出ないの。


 呼吸をするだけで精一杯。


 だって、こんなの初めてなのよ。


 ねぇ、ジェイド。

 どうして、私の目に映るジェイドのオーラが、私の視界いっぱいに広がる『赤』色なの?

 

 訪れる静寂。

 僅か数秒なのに、何時間にも感じる長さだったわ。


 その静寂を切り裂いたのは、徐ろに右手を上げるジェイドの後ろから現れた彼だった。


『Dear Boss.From death』


 ジェイドの首が宙を舞う。


「んなもん『敵』だからに決まってんだろぉが」


 窓から飛び込んできたジャックは、ジェイドの首を斬り飛ばした。


ーーーー Norinαらくがき ーーーー

BGMはこちらでお願いします。

(首が)飛んで飛んで飛んでまわ(°ε°((⊂(*°ω°* ∩)ジェ


ジェ:せめてナイスボートのBGMにしてよね!

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