29-0魔王様、魔王様と出会う

 僕はエマージェンシーコールを起動した。


 けたたましい警報が魔王城を駆け巡る。


 起動後、2分以内に魔王城謁見の間に集合するルール。

 3分後に僕が到着するまでに、主要メンバー全員の集合が原則。


 ご褒美はないけど、罰則有り。


 みんな揃ってる……ように見えるけど、テンテンは僕より後に入ったね。

 というより、僕の後ろをずっと歩いていたように感じたけど、どういうことなんだろう?


 罰を与えるかどうか微妙な判断だから、あとで美紗とアイに相談しよう。


 僕は玉座の前に立つ。腰は掛けない。

 何か空気が違う。


 何というか、舐め回すような視線を感じる。

 その中に混じる殺気。

 どうやって甚振ろうか楽しみにしていて、ウズウズしていて、それを必死に堪えている感じだ。


「確かに、いるね。何だろう、見えない。この気配、分かる者はどれだけいる? 見当が付くでも構わない。情報の提供をみんなに求めるよ」


 集まったみんなに問うけれど、首を傾げる者がほとんど。


 フーリムとジャックは僕の心を理解したのか、全く事情が理解できない者へと説明してくれる。


 明らかにみんなと違う顔をしているのは、フランとドラン。


 まずはドランから聞こう。


「何があった、ドラン? 冷や汗が吹き出しているように見えるぞ? それ程の何かがあるのなら、今申せ」


 え? どうしたの? すっごく切羽詰まってるように見えるけど……あ、呼んじゃまずいタイミングだったかな?


「も、申し訳御座いません。わたくしとしたことが、書類を……紛失してしまいました」


 土下座詫びのドラン……。


 なにさ書類って。


 それ今関係無……いや待てこういう時こそ確認だ。


「何の書類か速やかに答えよ」

「ハッ! カタコンベの清掃にあたり、通行許可の書類、及びその写しでございます」


 カタコンベ? あぁ、歴代魔王の墓所か。


 ごめん、関係無かったね。


 次はフラン。今日はちっちゃいモードだね。

 寝ていたみたいだし、しょうがないか。


 大丈夫、美紗に暴走なんてさせないから。


「なんか、くちゃい! 死体、走り回ってる、ニオイ!」


 …………。


 ごめん、ドラン、関係あった。


 うあー、マジかー。そーゆー系かー。


 西の魔王、やっばいなー。


「ドラン、すぐ答えよ! 歴代魔王の中に、気配を隠して偵察できる……もしくは優れた目を持つ者は居たか!?」

「は、はい! 目……目と言えば、『星ノ眼』を持つジェイド様及び2代目魔王『ブレッドツー・サークルウォッチ』様くらいでしょうか。『千望』の魔王とも呼ばれておられたので」


 僕は美紗に目を向ける。


「いや、ビンゴだろ。『星ノ眼』を城中に走らせてるけど全く見つからねぇ。そんな特殊能力、勇者か魔王だけだろ。味方にはそんなヤツいねぇからな。つったら西の魔王しかいねぇ。ただ、西の魔王がそんなショボいヤツなら勇者は負けねえ。少なくともサランっつー防御回復チートがいるなら尚の事だ。推定だけどよ、西の魔王はネクロマンサー……死者を操る魔王の可能性が高ぇ」


 僕は拍手する。

 意見は9割一致した。


 みんな僕と美紗を交互に見ているけど、ちゃんと分かってるのかな?


 一応、補足しとこうかな。


「ネクロマンサーとしての特殊能力だけじゃない可能性もあるよ。魔王アムが死者ではないことがその証明になっている。何らかの制約は受けているだろうけどね」


 もしくは僕の想像するネクロマンサーと違うか。


 ネクロマンサーに操られる死体って、意識無いことが普通って僕は考えている。


 それが違っていれば魔王アムもすでに……。でもネイの前でそれは言えない。


 今からネイの戦意を削いでしまえば、僕らは一気に窮地に陥るからね。

 

「で、ですが……。あくまでそれは推定。推定のみで動くにはリスクが大きいかと」


 ミシェリーの言葉はもっともだ。


「しばし待て」


 僕は浮遊魔法で真上に飛んだ。


 謁見の間の天井に爆破魔法で大穴を開け、ゆっくり近付く。


 魔王城謁見の間は、魔王城の割と高い所にある。


 12階建ての11階。


 じゃあ12階は?


 物見櫓だったけど、僕が改造して対勇者用迎撃兵器として作った『【魔貫光殺】Star Light Braver』が設置してある。

 みんなには勇者撃退ビームとだけ言ってあるけどね。


 その巨大な砲身を、外からコンコンコンと叩いた。


「やれやれ、隠れることには自信があったのだがね」


 そこから、黒のシルクハットに片眼鏡の鳥頭が出てきた。


 頭だけ鳥。鷹かな?

 身体は人間……ぽいけど、爪が異様に長いし、人間っぽい何か。


 何もない空に立ち、優雅に一礼する。


 随分紳士的な挨拶だなー。


「私は2代目魔王、ブレッド・ツー・サークルウォッチ。初めまして、自称最弱」


 うーん、この魔王(笑)


「初めまして。僕は現魔王、ジェイド・フューチャー。史上最弱の魔王だよ。それで、何か用かな?」


 僕は営業スマイルで臨む。

 せっかくだからね。

 何か情報が欲しいんだけど。


「用? 私の役目は観ること、そして観たことを伝えることのみ。そのために、再び生を与えられた。伝えるのは趣味ではないが、しょうがない。そういう役目なのだから」


 残念そうな声色。

 よく見れば、身体を動かし、口を動かす度に、何かポロポロと落ちていく。


「朽ちているんだね、その身体」

「役目以外のことをすれば、そうなるのだよ」


 ……そっか。


「私が君に伝えたいことはただ1つ。史上最強が、お待ちかねだ」


 そう言って、ブレッドは彼方を指差す。


 あの方向には何も無いはずだけど。


 ――いや、嘗てあった場所か。

 

「付き合う道理は無いけど、分かった。そっちはどうする?」


「殺さないのか?」


 不思議そうな顔をするブレッド。

 でも、僕は迷わず答える。


「死ねないなら殺すけど。観たいんでしょ?」


「筒抜けだが?」


 別に今更な案件だよね。

 西の魔王に、恐らく、ずっと筒抜けだった。


 だから満を持して攻め込んで来た。


 向こうの準備が整ったということ。


 もはや……というかだけど、今まで立てた作戦のほぼ全てが意味を失っている。


 そして何より――。


「ダメって言っても観る気でしょ? それこそ、抵抗してでも」


「クククッ」


 笑ってるってことは、そういうこと。


「観るだけなら結構。用が済んだら、これ押して」


 僕はブレッドにスイッチを渡す。


「これは?」

「一回だけ、このビーム砲を真上に向けてぶっ放すから」

「……ありがとう。受け取ろう」


 ブレッドは最初で最後の優しい笑みを見せた。

 シルクハットを少し深く被る。


「お礼に、要所は全て、全世界に放映しよう。サウス・マータの状況を含めてね」

「良いね。それじゃあ僕は行くよ。バイバイ」

「グッドラック」


 僕はブレッドに別れを告げて飛び立った。


「クククッ、今になって、この手が震えるか。死体でも震えるか。これはますます、見逃せないな」


 何か最後に呟いたみたいだね。

 もう豆粒だから聞こえない。


 僕は星ノ眼を起動する。


「今のやり取りが聞こえたよね? 僕はこれからソクシ山へ向かう。どうやら、最強の魔王様がお出ましらしい。僕が直々に対応する」


『みーくん、こっちどうすんの?』


 美紗からの指摘はもっともだ。


「僕が指示するよ。通信妨害を喰らってる訳じゃないし」


 僕は美紗のモニターをリモートで操作し、大画面にする。

 みんなの顔もよく見えるようになった。


「まず、すぐに魔王アムが動くだろうね。ショーコ、付き添いでネイ、ロドラ、ポンについて行って。出現したら光速移動で一気に。押し返すつもりで投入して」

『分かったわ』

『吾輩達も動くのである!』


 ショーコ、ネイは声を上げ、ネイに続く形でポンとロドラも追従する。

 4人が謁見の間から去ったところで、指示の続きを出す。


「残りの者は待機して。追って指示を出すよ。待機中に何かあれば、現場の指揮官に従って動いて。現場指揮は、ミシェリー・ヒート総司令、任せたよ」


『ハッ、任務承りました』


 ミシェリーの目が輝いてる。

 やる気があるのは良い事だね。


「これから少しだけ、集中する。終わるまで、頼んだよ」


 そして、降り立つ。


「次代の魔王ヨ、待ってイタ」


 どうやら、こうなることは予見されていたらしい。


「僕の名は、ジェイド・フューチャー。ノース・イートの現魔王だよ」


「我ハ、バウアー・トゥーザ・ビンボー。史上最強ト、言われた者ナリ。イザ、尋常に勝負セヨ」


「オッケー。それ以外の選択肢も無いし、史上最弱の力を存分に発揮してあげる」


 互いに笑顔。

 バウアーは悪魔の魔王なのかな?

 人のカタチはしているけど、僕の四倍くらいのデカさだし、顔はドクロっぽい。

 でも、笑顔だって分かる。


 僕も笑顔だ。

 きっと、美紗が悶絶する程の笑顔に違いない。

 いや、嫉妬するかな?


 美紗に対しても、なかなか見せない笑顔になっていると思う。


 でも、これだけは言っておこう。


 西の魔王は、消し炭……いや、炭や塵すら残さず絶対殺すから。

 

 だから、首を洗って待っていろ。


 僕は一歩を踏み出し、指を鳴らした。


ーーーー Norinαらくがき ーーーー

魔王バウアーのビジュアル。

正直、名前を考えた当初、再登場させる予定ありませんでした……。

頭に浮かぶのは金○の○ッシュ〇〇の○ンコティ○ティ○でした。それに足生やしたヤツっすね!

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