28-2開戦前の平和な1日(後)

PM0:00


ーーーー ドラン・ハミンゴボッチ ーーーー


 ふぅ、そろそろお昼ですかな?


 私は魔王城カタコンベ――地下墳墓の清掃を行っておりました。


 ここには、歴代魔王様が眠りについております。


 例外は初代チゥ・ファウスト様と先代バウアー・トゥーザ・ビンボー様のみ。


 この地下墳墓が造られたのが、2代目魔王様が亡くなられた後ですので、チゥ様の墓所はここではありませぬ。

 どこにあるのか、それは私でさえも知らないことです。


 バウアー様は……もう吹き飛んでしまわれた可能性が高いのですが、ジェイド様が吹き飛ばしたソクシ山の坑道のどこかで眠っておられるはずです。


 いつかは、こちらの墳墓へ遺体を運びたいと思います。

 どの魔王様も強大でしたので、肉体そのものは骨にもならず、綺麗なままの方が多いのですが。

 バウアー様もきっと――。


「ドーランー。お昼じゃぞー。……おぉ。ほぇー、ここが地下墳墓かぇ?」


 サランの声が地下墳墓に響きます。

 広さはそれなりにありますからな。

 とは言っても、魔王城謁見の間くらいの広さでしょう。

 ですから、すぐに見つかります。


「お、ドラン、お疲れ様じゃの」

「いえいえ、配慮、痛み入ります」

「ええい堅苦しい。妾とお主は夫婦じゃぞ? そこは素直になれば良いのじゃっ!」


 怒り口調ですが、笑顔のサラン。

 ですが、彼女は無理をしています。

 これから、ウェスト・ハーラとの戦いが始まるのですからな。


「……ええい! 無言で頭を撫でるな! ……もう、ちょっとだけじゃぞ」


 そう言って、私の胸に頭を寄せてきます。


 しばらくそうしていたでしょうか。

 おもむろに、サランは口を開きました。


「フランが産まれたのが150年前だったかの? それから何代の魔王様がここへ入ったのじゃ?」

「フランが産まれた時はジェイソン様でしたか。それからヘイト様、バイセコー様が入られました。バウアー様は訳有って、ここにはまだ、おられません」


 サランは納得したように頷きます。


「ジェイド様は17代目の魔王なのじゃな。チゥ様の墓所は見つかったのかぇ?」


 私は首を横に振りました。


「そうか……」


 サランはそれ以上、何も言いませんでした。


 そして、歴代魔王様の墓へと手を合わせに参ります。


 第2代、千望せんぼうの魔王、ブレッドツー・サークルウォッチ様。


 第3代、霊気れいきの魔王、ニトレート・イオンマイナス様。


 第4代、紅焔こうえんの魔王、ホムラ・デス様。ミシェリーの祖先でございますな。


 第5代、音速おんそくの魔王、マッハ・ゴースリー様。


 第6代、雨期うきの魔王、ヘイジュン・ブライドー様。


 第7代、運翼うんよくの魔王、ハーピー・ラーキー様。


 第8代、蟲幻こげんの魔王、ビー・ループ様。


 第9代、銀道ぎんどうの魔王、ギャラクシー・レイルロード様。


 第10代、大空おおぞらの魔王、キャプテン・フリューゲル様。


 第11代、深緑しんりょくの魔王、ソイル・グランド様。


 第12代、赤獣せきじゅうの魔王、オクターブ・エトダース様。


 第13代、金華きんかの魔王、ジェイソン・フライデー様。


 第14代、嫉嫌しつけんの魔王、ヘイト・バレンタイン様。


 第15代、鋼夜こうやの魔王、バイセコー・スチールナイト様。


 仮設置してある第16代――。


 壊力かいりきの魔王、バウアー・トゥーザ・ビンボー様の墓。


 私とサランは、手を合わせます。


「ジェイド様は、いつからカタコンベを解禁したのじゃ?」


 参り終えたサランから、質問です。


「今も出入りは禁じておられますよ」

「うぇ!? ドラン!? ってわらわもじゃぁ!?」


 慌て始めるサランですが、ちゃんと説明しておきましょう。


「ジェイド様の計らいで、掃除の場合は良しとなったのです。申請し、許可が下りればですが。随伴2名までとなっておりますゆえ、サランがこの場にいても問題はありません。そもそも、許可なく入ろうとすれば弾き出されるので侵入すら出来ませんよ」


「なんじゃあ……それをはよ言えぃ」


 余程安心したのか、へたり込むサランです。


「危うくジェイド様からとんでもないオシオキを受けるところじゃったわ……でへへ……」


 一応自重しているようですから、涎が出ていることは黙っておきましょう。


「ハッ! いかんいかん、フランを待たせてしまっておるのじゃ! 早く食堂に向かうのじゃ!」


 それはよくありませんな。


 少し早足で階段を上がります。


「パパー、ママー、おーそーいー」


 フランが階段を上がったところで座って待っていました。


「すみません、フラン。待たせてしまいましたね。ですが、迎えに来てくれても良かったのですよ?」


 フランは立ち上がって入口に触れます。

 バチッと音がして、弾かれました。


「行こうとしたけど、ムリだったの!」


「サラン、フランを」

「分かったのじゃ」


 私はフランをサランに預け、階段を駆け下ります。


 地下墳墓に戻り、様子を窺います。

 何の気配も、ありません。


「――気のせいですかな? ……申請者数を間違えましたか。昼食後に確認しましょう」


 私は戻って、サランに伝えました。


「申し訳ありません。私が申請者数を間違えていたようです。後で書類を確認します。フランも手伝ってくれますか?」


 むくれていたフランでしたが、少し機嫌を直してくれました。

 まだ足りないようですので、デザートにプリンを……料理長ラナにお願いするとしましょう。


ーーーー フラン・ハミンゴボッチ ーーーー


PM2:00


 フランとしたことが、プリンごときに釣られてしまうとは、不覚ッ!


 成龍になれる時間は延びた。


 でも、スヤスヤおねんねしてると幼龍に戻ってしまう。


 過渡期? っていうヤツだから仕方ないんだって。


 ジェイド様とモーニングコーヒーってヤツをしたいのに、朝起きたらちっちゃくなってるから気分台無しなの。


 ジェイド様はカワイイカワイイってしてくれるから良いんだけどねー。


 でも、ちっちゃいとミサがヘンタイになるからなー。

 フランを見てるだけで鼻血ブーだよ?

 ヘンタイって罵っても『ありがとうございますぶひー』とか言ってるし。


 ジェイド様もあんな女のどこが良いんだか。


 それにしても、空気が臭いなー。


 みんな緊張してるから?


 でも、なんか違うんだよねー。


 なんかこう……フランの腐乱は卵が腐ったヤツなんだけど、肉が腐ったような? でもないなー。なんて言ったら良いのかなー?


 腐った肉が動いて汗かいてるよーなヤツ!


 うん、コレコレ。


 それがね、すっごくうすーく薫るの。


 ずっと。


 3ヶ月前から。


 段々、最近、ハッキリ臭うようになってきた。


「くんくん、クサッ! あ、あそこ!」


 なんかいたよ?


 白と茶色のシマシマの羽根?


 うーん、なんかのトリ?


「とりあえず、パパに報告する? ジェイド様にしよーか? パパ、書類が見当たらないからって、探しにどこか行っちゃったし、ママもパパについていったし。ジェイド様、探そ」


 フランはジェイド様を探して魔王城を駆けた。


ーーーー ロドラ・コンクエスト ーーーー


PM3:00


 うーん、何かここ数日ツキが無いゾ。


「昨日まで7日連続【クリティカル倍化】のダイスロール成功は良いのだが……全部44て……」


 正直微妙ゾ。

 89以上が出ればそっちの方が良い。


 あくまで数値の上ゾ。


 感情的に、44が7連続は尻込みものゾ。


「サウス・マータのために、今が踏ん張りどころとは、知っているのだがな。ふぅ」


 ワレは今、魔王城庭園にてボッチ・ザ・ティータイム。

 いつもはポンと一緒だが、ああ見えてポンは社交性があるゾ。


 かわゆいメイドに声を掛けちゃあお茶しようだのと誘いまくっているゾ。

 最初はワレも一緒にいたが、いい加減疲れたゾ。


「ワレ、こんな勇者で良いのカ?」


 まさか魔王城の庭園でお茶を啜りながら勇者の在り方を考える日が来ようとは、勇者デビュー1か月くらいの頃のワレに言ったらどんな顔をする?


 ふざけるな、勇者しろ。


 と言われてオシマイだろうゾ。


 実際その通りゾ。


 サウス・マータでは、幾許いくばくかの日を過ごした。


 当然、それなりに仲を深めた人もいるゾ。


 トルサマリア王国、ルーブムンク王国、この2つの国には良くしてもらったゾ。


 リアーナ姫殿下や、フィオーラ姫殿下は元気にしておられるか?


 魔王アムを倒して、しばらくは王国間を行ったり来たりだったが、いつも懐かれていたからナ。


 サイコロを振る勇者が、さぞ面白かったのだろうゾ。


 二人とも、10才そこらのまだまだ子供。


「――よし、やるゾ」


 国を守る、サウス・マータを守る。

 そんな大層なことを考えるから沈んだ気分になるゾ。


 もっと身近に、守るべき者を明確にし、そのために奮い立つ者こそ勇者ゾ。


 少なくとも、ワレの知る少女2人の笑顔を曇らせることはしないゾ。


「――今日の【ダイスロール】デロデロ……デン、99」


 クリティカル倍化が乗ったゾ。


「悪くないゾ。これで、闘うとするゾ」


 ワレ想う、故に、勇者有り。


 ワレは立ち、素振りを始めた。


ーーーー ポン・デ・ウィング ーーーー


PM3:30


 なーんか、ロドラが黄昏れてんなァ。

 

 それが、ついさっき、吹っ切れた感じ。


 俺っちも素振りすっか?


 いや、ガラにもねぇことはしない主義っしょ。


 ウェスト・ハーラ戦に向けて、みんな準備万端……って感じじゃないのな。


 色んな魔族に声掛けて、人間みたいに十人十色。


 ヤル気満々な魔族もいりゃ、不安がってる魔族もいる。


 見た目も人間。


 魔族と人間って、何が違うんだ?


 っつーのをこの魔王城に居たら、ふかーく深く考えさせられるっしょ。


 俺っち的には?


 そりゃ、一緒だわな。


 魔王のジェイドもあんなだからアレだけど、俺っちやサウス・マータの人間、王族達と何も違わねぇっしょ。


 ジェイドも他の魔族も全くボロ出さねぇもん。


 まさに、素。


 俺っち、何を目指して勇者やってんだか。


 ここにいる魔族を殺すために勇者なんかやりたかねぇよ。


 まぁ、ウェスト・ハーラの状況を聞く限りじゃ、まとも? いや、普通の悪逆非道な魔王みたいだし、そんな魔王は全力でブッ殺すに決まってんだけどな。


 ――俺っちに魔王を倒せるのか?


 実力的にも、不安になる。


 俺っちと、アイと、ミーシャは、まだジェイド以外の魔王を知らねぇからな。


 閣下、ロドラ、ショーコにしても、魔王アムとジェイド以外知らないんだから、一緒みたいなもんか。


 本当に?


 不安が募っちまう。


 こんな時はっと。


「む? ポン、どうしたゾ?」


「いや、ちょいとな」


 俺っちがそれだけ言うと、ロドラは何も言わずに素振りを再開した。


 しばらく、一緒に素振りさせてもらうか。


ーーーー ショーコ・ライトニング ーーーー


PM4:00


 与えられた客間のテラスへと、傾き始めた日が降り注ぐ。

 柔らかく、心地良い光。

 昼寝には丁度良いけれど、今から寝入ってしまえば風邪をひいてしまう。


 それにしても、平和なものね。

 ここが魔王健在の魔王城なんて忘れてしまう程に。


 ロドラとポンはまだ素振り。


 元気が羨ましい。ちょっぴりね。


 私に元気がない訳じゃない。


 このままで、本当に大丈夫?


 そう感じるだけ。


 今回の戦争、私の役割は明確にして容易。


 戦力の即時投入と、即時退却のための高速運用。


 つまりは、運び屋ね。


 これだけの戦力がいるのだもの。

 特化できるなら、相手にとっては脅威でしかない。


 だから警報が鳴るまで待機。


「そんなに暇なら俺が相手してやるぜ?」


 開けっ放しの戸の向こうにあるベッドからミーシャの声。

 薄いシーツを腰から下に巻いたまま寝そべるミーシャ。本当に良いカラダ。


 ポンポンとシーツを叩いて誘ってくるけれど、もう十分でしょう?


「あと3回はイケる」


 ナニが、とは敢えて聞かない。

 ミーシャが私の無言で諦めたのか、別の話題に変えてくる。


「不安なんだろ? ショーコも」


「あなたも、ね? ミーシャ」


 少しはにかむミーシャ。思わず本音が出たのね。


「ふふっ、そういうところ、とてもカワイイ。もっとお姉さんに見せて?」


 嫌そうな顔をしているけれど、耳は真っ赤よ?


 最近ショーコ姉と呼んでくれなくて少し寂しかったけれど、ミーシャはやっぱりまだまだ子供……というより、成り立てのオトナ。


 まだ私に分がある。


「まだ今日は長い。ここからは、私がリードしてあげる」

「待て、俺はそんなつもりわぷっ!」


 ミーシャを胸に押し込んで、日が暮れるまで、ミーシャを可愛がってあげた。


ーーーー アイ・スクリーム ーーーー


PM5:00


 ミーシャとショーコは相変わらず。

 でも、珍しくショーコ主導だったな。


「なにそれくわしく」


 ジェイドも食いついてら。


 あたいはこっそり見たまま伝え――めんどくせぇな……精霊の力で映像を丸ごと見せた。


「――Rec……」


 なんつった?


 っておい、赤インクダダこぼれしてんぞ。

 魔王の執務室を血の海みたいにして良いのかよ。


「ったく、魔王なんだからしっかりしろよナ?」


「そうだね。僕としたことがこんなことで取り乱すとは……やっぱり美紗には甘々だよねぇ。もうちょっと何とかしないと、そろそろみんなに怒られそう」


 なんだ、自覚あんじゃん。


「ま、腹に子供いるし、子供が産まれたらまた変わってくるだろうぜ。その様子見て決めりゃ良いんじゃね? みんなも妊婦に厳しくはしねぇって」


「そっか。それもそうだね」


 で、ジェイドは何してんのかってーと、図面引いて駒置いて、それを動かしちゃー悩んでる。


 それをずっと繰り返し。


 曰く、物量で来られたら『核魔法』でしか対処できねーんだと。

 閣下と変な約束したばっかりに、サウス・マータに戦力を放り込めないんだとさ。


「分が悪い賭けになるなー。魔王アム……ある程度の対策は伝えてるし僕も講じているけど、それで十分かどうか……そもそもそんな状況になる事自体がマズイ展開だし……うーん」


 閣下にレクチャーしてたやーつ。


「その場にいた全員変な動きしてたやつな。足をピッタリ合わせて直立不動……からのしゃがみ込むーっての。アレ、ホントに雷魔法の対策になんの? 付き合い長い閣下ですら首傾げてたぜ?」


 傍から見ててちょーオモシロかったけどな。


「僕の杞憂なら良いんだけどね。対『雷』には最低限必要だよ。他にも僕の言った対策してくれてれば良いんだけど」


 まぁ閣下には無理だな。


 魔王アムに対して、閣下は絶対に何とかできると思ってる節がある。


 あたいも閣下なら絶対何とかしてくれるとは思ってるけど、絶対何とかの根拠なんかねぇもん。


 そろそろ日も落ちてきたな。


「なぁジェイド……」


「なーに?」


 キョトンとしたその目、精霊さえも虜にする魅惑の瞳だぜ。


「一応、今日はあたいが当番なんだけど……」


 自分で言うの恥ずかしいんだから悟れよな?


「……そろそろ、来るだろうなって、感じがするよ」


 ん?


 なんだか意味深じゃん。


「べべべつに嫌なら良いんだぜ? 腹に子供もいるしな」


 ジェイドにだってそういう気分じゃない時だってあるのは知ってる。

 実際やんわり断られることもそれなりにあった。

 でも、今日のはちょっとショック。


「ううん、ごめんね。こっちのこと。おいで、アイ。だからこそ、今日はアイにしたんだから」


 お? よよ?

 ちょ、待てよ。いきなり抱き寄せてくんなよ。優しく髪を梳くのも止め……いや、止めんな。


 あ〜ぁ、もぉ。やだ。


 人間って、本当にヤダ。


 こんなすぐに心が変わって、成長して、いっぱいの感情で、こんなに幸せを感じられんだもんな。


 こんなん、人間止められねぇよ。


 もし死んでも、次はまた人間に生まれ変わりたいな。


ーーーー シッシ ーーーー


PM6:00


 戦時体制の下、ボクの役割は2つだ。


 1つ、テンプテーションを使用して素早く動員を掛けたり、普段の欠かせない業務を最高効率で回す事。


 2つ、それでも手が足りなくなる場合、ボク自ら動く事。


 この2つさ。


 ボクはその任を果たすため、我が君ジェイド様の執務室の前で、夕食の配給カートを置いて待機。


 ボクは、ジェイド様から頂いた銀色の腕時計を見る。


「もう、かれこれ1時間か。我が君、優しい御方だネ」


 本当は我が君の顔を見たいと思っていたけれど、勇者アイに譲ろう。


 ジェイド様は中々に眠れていない。

 少しでも癒やして差し上げようと思ったけれど、やはりボクじゃ役者不足だ。


 ここはまた明日にでも改めるとしよう。


 我が君、ボクはクールに去ります。


 夕食には、保温魔法を掛けておきますね。


ーーーー テンテン ーーーー


同時刻


 勇者アイ、なんて勇者なのでしょうか。


 自らジェイド様にアタック。


 それも真正面から、しおらしく。


 でも、それまで。


 あとはジェイド様が、全部包み込んで下さる。


 私のテンプテーションが効果を発揮しない理由がよく分かりました。


 魅惑耐性特大なのですね。


 もう散々魅惑させられて、その都度相手をしておられたのでしょう。

 ミサを見ていれば分かりますし、実際に詳細もたっぷり……おっと鼻血が……聞きましたので。


 そうでなければ、勇者アイの嬌声がこんなにも幸せに満ち溢れたものになる訳がありません。


「……うら……やま……」


「はぅん……ジェイドぉ、なんか言ったぁ?」

「ん? 僕は何も? 何か聞こえた?」

「気のせい……みたいだな……んむ」


 あっぶない。

 ウッカリです。声が漏れ出てしまいました。


 ここはジェイド様執務室ベッドの下。


 今夜も現場研修です。


 いつもはもう少し遅くにステンバイするのですが、何か予感がしたので本日は早めに来ました。


 正解でしたね。


 今夜は、長い夜になりそうです。


 ささっ、私のことは気にせず続きをどうぞ。


ーーーー サラン・ハミンゴボッチ ーーーー


PM9:00


 長い1日じゃった。

 

 とても、とても平和な1日。


 明日はどうか分からんが、今日はもう何も無いじゃろう。


 月灯りの下の庭園で飲む茶は格別じゃぁ。


 ドランが書類を失くしたと真っ青な顔で書庫を漁っておるが、ドランもたまに抜けておるからのぅ。


 多分、枕の下にでも入っておるやつじゃろうて。


「ゲンタ、オリシン、ヌエは今日も元気じゃったぞー。ほーれ見てみぃ。やっと寝たぞ。かーわいい寝顔じゃろー? 麻呂眉なんてゲンタにソックリじゃし、口元なんてオリシンのまんまじゃぞ」


 妾の食事時や用事がある時はメイド達に預けるが、それ以外はヌエと一緒じゃ。


 安全な魔王城で、ジェイド様がいるからこそできること。


 平和であってほしい。

 じゃが、ゲンタとオリシンを取り戻すためにも、戦いは必至。


「形はどうあれ、必ずや二人を……ヌエの下へ」


 生きておれば万々歳じゃが、それは楽観し過ぎじゃ。

 せめて、戦後、二人の墓を、二人の故郷で、ヌエと共に作らねばな。


「さて、そろそろ妾も寝るとするかのぅ」


 少し冷えてきた空の下、妾はヌエを大事に抱いて寝所へ戻る。


 明日は、どんな1日に……なるじゃろう……な。


ーーーー 夕暮美紗 ーーーー


PM23:57


 俺は飛び起きた。


 周囲を確認する。


 何もねぇ。


 じゃあ、寝るか。


「って寝れる訳ねぇよなぁ!? あと3分くらい待てや!」


 結構な音量で叫んだにも関わらず、ショーコ姉……じゃなくてショーコが横で寝たままだ。


 揺すって起こす。


「なーにぃ? ミーシャ」

「着ろ。居る。でも見えねぇ。くっそ、どこだ!?」


 ショーコに服を投げつけ、部屋を飛び出す。


 目指すは一直線。


 魔王執務室だ。


「美紗? ダメだよ、走ったら」


 みーくん、それどころじゃねぇって言おうとしたら、口に指を当てられた。


 みーくんの横で幸せそうな顔して寝てやがるアイを揺すって起こす。

 そーだな。妊婦には優しくだよな。


「大丈夫。それくらいの余裕はあるよ」


 でもみーくん、ちょっぴりジェラシー感じちゃってるから、後で俺にも頼むわ。


「むぅん? あれ? まだ夜? ミーシャ? 今夜はあたいが当番だぜ? ……いや、良い。ジェイドやっちまえ」


 アイは悟った。

 そして、間髪入れず、みーくんが叫んだ。


「魔王城、緊急システム起動! 『エマージェンシーコール』」


 俺とアイが耳を塞いだ瞬間、空襲警報みたいなアラートが鳴り響く。


 5秒、そして音は止み、一気に静寂が訪れる。


 120デシベルくらいの音だからな。


 反動の静けさがヤバいわ。


「じゃあ、行こう」


 みーくんが、俺とアイに手を差し伸べる。


 俺もアイも、その手を掴んで歩き出す。


 魔王城、謁見の間までな。


ーーーー Norinαらくがき ーーーー

はい、100話目にしてノース・イート歴代魔王の名前が全部出ました。

2代目までは紹介済なので、第3代から。

名前の由来だけね!


3、ニトレート・イオンマイナス:NO3‾(ナンバースリー)

4、ホムラ・デス:四番ホームランバッター、死

5、マッハ・ゴースリー:○ッ○555

6、ヘイジュン・ブライドー:へーい○ュん6月婚

7、ハーピー・ラーキー:ハッピーラッキー777

8、ビー・ループ:蜂、∞

9、ギャラクシー・レイルロード:銀河鉄……ウワナニ

10、キャプテン・フリューゲル:フリュ……ツバウワナニヲ

11、ソイル・グランド:ソイル=土、グランド=土

12、オクターブ・エトダース:12音階干支1ダース

13、ジェイソン・フライデー:13日の金曜日

14、ヘイト・バレンタイン:憎きチョコの日

15、バイセコー・スチールナイト:ヌースンダバーイクデハ


如何に適当に名前を付けたかがバレますね!

ちゃんと名前考えたの初代とバウアーとジェイド君だけだってね!

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