28-1開戦前の平和な1日(前)

 AM 5:00


ーーーー ジャック・ザ・ニッパー ーーーー


 早く寝すぎちまった。

 もうバッチリ目ぇ冱えた。


 だってうるせぇんだよアイツラ。

 ジェイドの心聞かせろとか、女のキモチ聞かせろとか。

 お前ら勇者なんじゃねぇのかよ?


 ――いや、俺様が気を使われてんだよな。


 心が聞こえるってことは、隠し事が何にも出来ねぇ。

 そんなヤツの傍にいてぇか?


 俺様は、いたくねぇ。


 ただ、必要な力だ。

 ジェイドと渡り合っていくためにはな。


 鍛えていかねぇと……使い続けていかねぇとダメなんだ。


 俺様は、魔王城の庭園の空気を吸いに来た。


「あら? 珍しいお客さんじゃない。『なんだ生娘のフーリムか』じゃないわよ! むっつりジャック!」


 俺様と同じく相手の心を知る術を持つジェイドの女候補がいやがった。


 特に話すこともねぇから、俺様は背を向けた。


『喋んなくて良いから座りなさいよ。一応同業者だし、アドバイスくらいしてあげるわ』


 俺様は、青いベンチに腰掛けることにした。


『心の中身が見える――いや、あんたは聞こえるだったわね。こんな気持ちなのね。コツは余計なことを考えないことらしいわよ。ジャックなら私の質問に応えるだけで良いの。ギリやミシェリーはそうやって私に対応しているみたい』


 なるほどな。

 心を読まれるのは前提で一部を諦めるってことか。

 だが、それって読まれる側だよな。


『ジャックはまだ良いじゃない。称号スキル切れば聞こえないんだから。私は強制的にずっと見えるのよ? 顔を見なきゃ良いだけなんだけど、それじゃ生活できないし。顔を見なくても、色はどうやってもね……』


 青けりゃ味方で、赤けりゃ敵ってヤツか。


『そうそう。あまりにも周りが赤だらけで、5年くらい引き篭ってたこともあったわ。あの頃の私は幼かったのねー』


 その頃が若くて、今は老けたの間違いじゃねぇの?


『人間の〜ひき肉料理〜いつぞやのとんでも魔王が目の前で作ってくれたことがあるんだけどー?』


 すまん、やめろ。

 昨日の晩飯ハンバーグだったんだぞ。


『じゃ、言う事あるよね? 私って、カワイイ?』


 まぁぶっちゃけカワイイよな。

 ルナもなかやかカワイイが、俺様の好み的には……って変なこと考えさせんじゃねぇええええ!


『ふふふっ、まぁそういうことよ。私に対する評価、ありがとう。ジャックなんてカワイイもんよ。今までに、どれだけの劣情を向けられたと思ってる? 要は慣れ。それでも、心で会話するのはしんどいけどね』

 

 それにしちゃ、随分と楽しそうというか、吹っ切れてるというか、どういうことだ?


「最近の話よ、それ」


 急に喋んなよ。耳がビックリしたぞ。


「全部、ジェイドのおかげ。ジェイドと話す時だけ、『真詠』を忘れて話ができるの。たった一回。武闘会で私と闘った時だけ『赤』だった。それ以外ずっと『青』なの。ジェイドはずっと私の味方。当のジェイドは私の事なんて大して想ってくれてないのにね」


『いつかミサには初対面の時に〘一目惚れ:疑惑〙だったことを言ってやろうと思ってるわ、ぐふふ』


 想われてんじゃねぇか。


「そーなの……かな? えへへ」


 その笑った顔はジェイドに見せてやれよ……。


「……そうするわ。ゴメンね。相談に乗ってもらうつもりが逆になっちゃって」


「いや、正直助かった」


「あら? 素直じゃん」


 てめぇに嘘ついてどうすんだよ?


「それもそうね。じゃ、私は私なりに頑張るわ。ジャック、あなたも頑張りなさいよね。バイバーイ」


 そう言って、フーリムは去っていった。


「――ありがとな」


 俺様の呟きは届いてねぇ。


 誰の差し金かまでは分かんねぇが、わざわざ俺様にアドバイスするためだけに、フーリムはここに居た。


 実際助かった。

 気持ちも随分楽だ。


『べっつにジャックのために私が進んで勝手に早起きして待ち伏せしてた訳じゃないんだからね。って言いそびれたわ……。ま、言う機会が無くて良かったわよね! うん!』


 ……やっべ、スキル切んの忘れてた。


 俺様は耳に触れ、予想以上に熱を持ってることに気付いて頭を抱えた。


 こういう時はアレだ。


 二度寝に限る。


ーーーー ウーサー・ペンタゴン ーーーー


 AM 5:45


 少し前に目を覚ましていたのであるが、おっと、ジャックが帰ってきたのである。


 耳が赤い。


 ヤケに長いと思ったが、相当踏ん張ってきたようであるな。

 昨晩ハンバーグを食べ過ぎたことが原因であろう。


 スッキリしたところで二度寝するジャック。


 若者は羨ましいのである。


 我も見た目だけは10才そこらの小娘であるが、中身がアラフォーのせいか寝溜めが全く出来なくなったのである。


 老人の朝は早い?

 違うのである。


 オッサンの朝は早い。

 これが正解である。


「ジャック? ……完全に寝たのであるな。よっこらせっと」


 我は体を起こし、寝入ったジャックに配慮して部屋を出る。


 せっかくの魔王城。

 探検せねば勿体無いのである。


 とは言っても、まずはどこへ行くか。


 賑やかな方に行ってみるのである。

 

 ん?


 朝から会いたくない顔に出会ってしまったのである。


ーーーー ネイ・ムセル ーーーー


 AM 5:55


 こそこそと動く人影があった。


「何をコソコソと動き回っておるんじゃ……」


「コソコソとは失敬な!」


 柱から柱に身を隠しながら移動しておれば、十分怪しいのである。


「ネイこそ、そんな堂々としていては、ジェイド周りの偵察が出来ぬであろう」


 いつか来たるべき魔王討伐のための意気や良し。


「残念じゃが、此度の戦いが終わるまで、魔王ジェイドに不利になるようなことはしないつもりである。ウーサーこそ下手に嗅ぎ回ってジェイドの機嫌を損ねるでないぞ?」


「あれだけサウス・マータに手を出すなと言っておいてよくもまぁ……」


「だからこそである。サウス・マータに手を出すなと言うなら、吾輩もノース・イートに手を出さないのが道理であろう?」


「律儀なものである」


 元気で小生意気な娘じゃのぅ。

 魔王ジェイドの支配下であるのに勇者のこの自由さ。

 魔王ジェイドの企みを、吾輩のみで制御するのは不可能に近いわぃ。

 こんな弱気になるのも、全ては腹の虫のせいじゃ。


「まずは朝餉あさげである。ウーサーもそのつもりなのじゃろう?」

「そういえばモーニングはビュッフェ形式と言っていたな。ベーコンエッグ、ハニートースト、特にアメリカンコーヒー、久々に飲みたい。うーむ……」


 腕を組んで悩むウーサーじゃが、腹の虫が盛大に騒いだところで食堂に向かう決心がついたようじゃな。


「魔王城の兵站状況を知るにはモッテコイであるからな、じゅるり」


 作戦会議などでは、真面目な小娘な印象であったが、今は誰がどう見ても孫にしか見えんのである。

 

「む? 早く行くぞネイ・ムセル! ビュッフェということは、人気料理から消えるということであるからな!」


 裾を引っ張られる吾輩は祖父にしか見えないのである。


 そうして、ウーサーに引っ張られながら、食堂へと向かったのである。

 

ーーーー ラナ・ウェイバー ーーーー


 同時刻。


 今日からギリ君がお休みなの。

 

 半日こっちで準備して、午後からサウス・マータで料理教室の開催準備。


 本当は私も同行する予定だったの。


 でも、今は戦時体制。


 私は防衛拠点となる魔王城の兵站管理責任者。


 魔王軍の料理長として、この厨房から離れる訳にはいかないの。


「ラナ、料理長ラナはいるか?」


 朝の仕込みをしているところで、ギリ君の声がしたの。


「私はここなの。どうしたの? ギリ君?」


「だから皆の前で『ギリ君』と言うなと言っているだろう……」


 小声で文句を言われるけど、知ったこっちゃないの。


「ギリ君だって、最初に『ラナ』って呼んだの」


「わ、私は違う。つい、癖……そう、癖で出てしまうのだ」


 慌てるギリ君。

 からかうのはこれくらいにしておくの。


「ところで、どうした……の?」


 尋ねておいて何だけど、分かっちゃったの。

 だって、準備万端だから。


「ふっ、見ての通りだ。だいぶ早いが、そろそろ発つ。主な荷物はすでに運んであるからな。だが、その――」


 歯切れの悪い男には、勇者の力で背中を思い切り叩いてあげるの。


「ごぶふぅ! ぐっ、何を……」


「いってらっしゃい。こっちは任せるの。そっちは、任せたの」


 ギリ君のことだもの。戦時体制の真っ只中なのにとか、参謀なのにとか、しみったれた言い訳をしそうだった。

 だから、私は送り出すの。


 ギリ君は、フッと笑った。


「あぁ、そちらは任せたぞ。こっちは……任せろ」


 見送った背中は、ちょっとカッコ良かったの。

 帰ってくる頃には、ジェイド様くらいカッコよくなっていますように。


「おっと、フーリムというものがありながら私は何を? 一昨日の夜のことは置いとくの。さっさと仕上げに行くの。フーリムに嫌われないように」


 私はコック帽を被り直し、私の戦場へと戻ったの。


ーーーー フーリム・D・カーマチオー ーーーー


 AM6:00


 朝早くからジャックを励ましてたらお腹ペコペコだわ。


 柄にもない事をしちゃった感じだけど、ほっとけなかったってのも事実だしね。


 それに私の好感度も上がったでしょ?


 これで何かあってもジャックは私を助けてくれる!

 そのはずよね?

 きっとそうよね?

 私、見捨てられないよね?


「ハァ~ぁ、結構ナイーブになってるなーわたし」


 私は食堂の椅子に座り、テーブルに溶けそうな勢いで突っ伏している。


 普段の食堂なら邪魔になるからしないけど、まだ食堂開いた直後だから誰もいないし良いよね?


 ん? 誰か来た。


「ん? おぉ、読心術のフーリムではないか。おはようなのである」

「魔王代行であるか? ……魔王城であるならば当然であるか」


 精神年齢が高い連中が来たわね。


「あら、ごきげんよう。珍しい組み合わせじゃない」


 この二人を一緒に見る機会はあったけれど、二人きりっていうのは初めて見たわ。


「なーに、悪巧みなんぞしていないのである。魔王城の兵站事情や朝一の食堂の様子を見ておこうと思っただけである」


 半分だけ正解ね。

 ネイは私の真詠を警戒して無口だけど、それこそ無意味。


 無駄に早起きしちゃって寝られないからご飯食べに来たって言えば良いだけよ?

 私の口からは言わないであげるけどさ。


「そういえば、フーリムに1つ頼みがあるのである。その気が無いなら構わん。ジャックのことである。少しだけでも良いので、気にかけてやってほしいのである」


 いきなりねぇ。

 ウーサーは私に頭を下げてくる。

 もうやったとは、言わないでおくわ。


「大丈夫、せっかくの同士だもの。邪険にはしないわ」


 私がそう言うと、ウーサーはもう一度頭を下げた。


 律儀ね。


 そういうところ、嫌いじゃないわよ。


「それにしてもこんなに早くどうしたの? もしかして、新メニューの『お子様ランチ』を頼みに来たの?」


 とても白い目で見られる。


 分かってるわよ。自分で朝っぱらから誰に何を言ってるかくらい。


「ふふ、そろそろ来る頃だと思っていたの」


 ……ビックリさせないでよラナ。

 一昨日の夜もそうだったよね。

 いきなり後ろに立たないで。


「3人前なの。勇者ネイ、ウーサーも、まずは座るの。ジェイド様考案の『大人用お子様ランチ』。ルナやウーサーがきっと喜ぶって、ジェイド様は言っておられたの」

 

 そう言って出されたプレート料理には、ドーム型のチキンライス、スパゲティ、ミートボール、そして――。


「あーー! タコさんウィンナー!? 3つもある! みんな、おはようございます! ラナさん、私もお子様ランチ、お願いします!」


 朝から元気なルナがお子様ランチを嗅ぎ付けてやってきた。

 迷わず私の横に座ってくる。


 ウーサーとネイは対面に座っているわ。 


 ネイは珍しいものを見るようにお子様ランチを眺めているわ。


「ルナは分からんでもないのであるが、我が喜ぶ要素、あるのであるか?」


 ウーサーは子供扱いされたのが癇に障ったみたいね。

 顔を引き攣らせているわ。


「あ、そうそう。ジェイド様から言われていたコレを忘れていたの。出向者には専用のモノをあげてってジェイド様から……どうぞなの」


 ラナは、私のチキンライスの上に魔王城の旗を立てた。

 良いじゃない。可愛らしくて私は好きよ。


 ネイにはサウス・マータの国旗。


 ルナには白地に赤い丸。


 ウーサーには赤と白の横線に左上に青地で、そこに星? 何個書いてあるかしら。すごくたくさんの星が書いてあるわね。


「私のは、日の丸だね……」

「我のは星条旗である。星の数も50。ちゃんとやっているのであるな」


 ルナもウーサーもしんみりしてる。

 故郷が懐かしくなっちゃったって感じね。


「いただきます。ちゃんと、全部、美味しく食べるからね」

「ふんっ、これくらいでほだされてたまるかなのである。……美味いな」


 ま、喜んでるかどうかなんて、心を読まなくても分かるヤツよね。


「魔王であるのに、この心遣いであるか。これでは長期戦になっても士気は下がらないのである。吾輩もサウス・マータのため、アムのため……」


 ネイも燃えてるわね。


「さすがジェイド様なの。私も、負けていられないの。ね、フーリム」


 私は、一昨日の夜と同じラナの熱い視線から逃れるように急いで食べて、とんずらしたわ。


ーーーー ルナ・ティアドロップ ーーーー


 AM7:00


 ご飯を食べたら元気になりました。


 ウーサーとネイさんとの話も盛り上がったよ。


 それぞれの今の国の状況について共有したり、魔王城探検記録を公開し合ったり。


 ネイさんは最初黙っていたけれど、魔王城探検には食い付いてきたよ。


 ふふっ、探検はロマンだもんね。人間だもの。


 二人とは食事の後すぐに別れました。


 探検の続きをするみたい。


 フーちゃん?


 逃げ出した後、ラナさんに捕まって厨房の奥の仮眠室に消えていったよ?


 私はこれからノウンちゃんとテンちゃんと乙女会議。


 フーちゃん?


 みんなには、尊い犠牲だったって伝えておきます。


「おはよ、テンちゃん、ノウンちゃん」


 私は、ジェイド君の絵画や写真がビッシリでピンクフリフリのノウンちゃん部屋へとやってきました。


 ここが1番まともな場所だからです。


 テンちゃん部屋?


 ふ、フフフフッ……、成人でも立ち入り禁止の場所じゃないかナァ?


ーーーー テンテン ーーーー


 AM8:00


 作戦会議に華が咲きます。


 元々は対ウェスト・ハーラ会議でした。


 私達はそれ程強くない。


 ノウン様はぶっちぎりの最強格なのですが、どうにも自信を喪失しておられる様子。


 ですので、いかにジェイド様の役に立ち、この戦いに勝利するかを目的として話し合っていました。


 ですが、それも最初の3日間だけ。


 以降は、いかにしてジェイド様と結ばれるかと言う話題で持ち切りです。


「昨日、フーリムの話、すごかった。私達、参考にすべき」


 だから私は提言します。


「却下だよ、テンちゃん! 罠だよ! フーちゃんもう餌と化してるから! あとはミサちんに喰われるだけだよ!」


 ルナに、ものすごい剣幕で却下されました。


「ラナさんも堕ちてるんだよ!? ラナ☓フーちゃんのために売ったの! ラナさんが、ミサちんに! ジェイドくんのおかげで私は無事だったけど、ミサちんだけは……ミサちんだけは何とかしないと!」


 真っ赤な顔のルナ。

 怒りだけではないように見えます。


「でもさっ、ミサ。それでジェイド様と結ばれるなら別にアリなんじゃないかっ?」


 ノウン様の言う事はもっともです。


「アリかナシかのどっちかで言うならアリなんだよ? でも、それは、最終手段! 初めてをぉ! ミサちんに食われて良いのかなー!?」


 ルナが私とノウン様の顔に近付いてきます。


「確かに、初めて、ジェイド様……理想的。でも、現実、甘くない」

「だよなっ、テンテンの言う通りだよっ。ミサに初めてを捧げる代わりに、ジェイド様と結ばれるって願いが叶うなら、むしろ対価としては安いんじゃないかっ?」


「なんでえええぇ!!! なんでテイソーカンネンがこんなにも全然、まったく違うのカナァァア!!!」


 ルナが血の涙を流しながら吠えています。


「つってもなっ? テンテンやあたしとルナは立場も違うからなっ」

「はい。ジェイド様、魔王。私達、配下。魔王と配下、結ばれる。売れない夢の物語」


 私の言葉に、ノウン様は頷きます。


「だってジェイドくんだよ!? こんなチャンス、絶対無いよ!?」


 それには同意です。


「ジェイド様は、魔王。それも格別。今まで、いない、魔王」

「こんなに優しくて、強くて、カッコよくて、その上みんなに愛される魔王様なんて、あたし聞いたことないしっ」


 私達の言葉を聞いたルナは腕を組んで唸っています。


「……そっか。私からしてみれば高校時代のイケメン超優先生に、生徒から結婚してって言ってるようなもんか。付き合ってーとか、遊んでー、って話じゃないんだよね。そうだよね。ハァ~」


 ルナの頭から、プスプスと湯気が出ているように見えました。


ーーーー ノウン・マッソー ーーーー


 同時刻


 ルナの頭から湯気が出て3分くらい経った。


「あ、そっか!」


 ルナが何か閃いたみたいだな。

 ヤな予感しかしないぞっ!


「私がミサちん潰せば良いんだ! みんなで一緒に乗り込んで、私がミサちんを潰す。それでみんなはジェイドくんと結ばれる! 完璧、パーフェクトだよぉ私ぃ!」


 鼻息荒く拳を握ってるな。


「こら、ルナ、物騒なこと言うなよっ! 魔王軍四天王のあたしが言うセリフじゃないんだけどっ!」


「でも、そうすれば安心してジェイドくんと素敵なナイトを過ごせるよ? 今夜決行……はさすがに準備不足か。根回し含めて、最速明日の夜だね! 間に合わせるよ! じゃ、準備があるから! まったねー!」


「いや、オッケーなんて言ってないしっ! っていない!? あたしの目で見えない速さっ!?」


「ルナ、最強説、有力」


 テンテンは冗談で言ってない。

 まことしやかに囁かれているガチ話。


 ま、油断していたとはいえ、ミサを瞬殺だからなっ。


 あたしが知ってる限りでも、ルナが33勝5敗でぶっちぎりみたいだし。


「これから、どうされ、る?」


 テンテンに首を傾げながら聞かれるけど、特に何かすることがある訳でも無いんだよな。


「テンテン、今日は暇なのかっ?」


 テンテンは頷く。

 あたしもテンテンも完全に暇な訳じゃない。

 戦時体制で、いつでも臨戦態勢を取れるよう待機中なだけ。


「じゃあさ……」


 普段無表情なテンテンの口元が弛む。


「また、アレ、しますか?」


 そう、アレな。

 テンテンとあたしは、ヒミツの交換ノートを取り出した。


「ジェイド様に、シテもらいたいことリスト。なんか更新したっ?」

「もちろん、です。ノウン様も……なかなか、良い出来」


 あたし達は、2人してジェイド様への好きを膨らませていったよっ。


 光の精霊になった母ちゃんがヤケに静かだと思ったら、先にノートの中身を見てたみたいで、部屋の端っこで『我が生涯に悔い無し』って血文字を書きながら気絶してたよ。


 あ、起きたっ。

 野暮用で出掛ける?

 急に真面目な顔してどしたのっ?


 大丈夫、何とかするからって?

 鼻血出しながらそんなこと言われてもなっ?


 何かあるんなら、ちゃんとジェイド様に相談してよっ? 


ーーーー ミシェリー・ヒート ーーーー


 AM10:00


 ふぁ~あ、よぉ寝たわぁ。


 ってもう10時やん。


 モーニングビュッフェの時間終わってもーたな。


 ギリにゆーて用意してもらおーかな?


 あ、でもサウス・マータに行ってもーたよな。


 ラナは忙しそうやし……朝昼は一緒に摂ろか……ん?


「部屋の前にワゴンの気配……この匂いは、料理やな! ウチの好物パンケーキ! バニラアイス乗っけやん!」


 部屋の外にそこそこの冷却魔法で包まれたモーニングセットが置かれとったわ。

 他のモンなら難しいやろうけど、ウチならパンケーキだけを温めるくらい余裕のよっちゃんやで。


「ぐふふ、誰や誰や? こんなカワイイことしてくれるんわ? 良い子やったら好きになってまうでぇ?」


 おっと、小さなメモはっけーん。


『これより発つ。戦時中、参謀としては有り得ぬことであるが、この機を逃す訳にはいかん。申し訳ないが、後を頼む。詫びの品と思って受け取ってほしい。そして、帰ってきたら礼の品も用意しよう。何でも良い。考えておいてくれ』


 ギリからやん。


 ズッコケるところやったで。

 

 こーゆーところが無駄に真面目やから参謀が務まっとんよな。


「話も散々聞いとるっちゅーのに。ジェイド様がおったらだいたいナントカなるやん。心配性やなぁ」


 まぁ、おかげでこーしてパンケーキに有りつけるんやから、貰えるもんは貰ぉとこ。


 カートごと部屋に持って入って、いただきます。


 …………。


 あ、ウマいわコレ。


ーーーー ヒデオ・ラッシュ ーーーー


 AM11:00


 ドラン様から言付かった書類を、ミシェリー総司令に持ってきたぜぃ。


「御苦労、そこに置いてくれたら良いわ」


 総司令室に漂う甘い香り。

 でも、この部屋じゃねぇなぁ。

 隣の部屋は、ミシェリー総司令の私室だったか?


「あら? 私の顔に何かついているかしら?」


「いえ、何でもごぜぇません……つっても信用してもらえそうにねぇんで……えらいご機嫌な様子だったもんで、ちょいと気になっただけですぜ」


 これは、おいら試されてるぜ。

 上司の些細な変化を見逃さず……特に女性の細やかな変化を見逃すなと、妻に再三言われたぜぃ。


 だが、慌てておいらに背を向けて、顔をペタペタと触るミシェリー総司令。


 やっべぇ。気付いてなかったみたいだぜぃ。


「べ、べ別に大したことではないわ。ちょっと美味しいモノを食べただけよ」


 何かふんぞり返っておられるぜぃ。

 耳も赤い。

 余計なことは言わない方が良さそうだぜぃ。


「てっきり、心の通じ合った誰かから今一番欲しいモノを的確に貰ってニコニコしてるのかと思いやしたぜぃ。臨戦態勢下とは言え、息抜きも必要ですぜ。このことは、ちゃんと黙っときやすんで……では、失礼しましたぜぃ」


 ふぅ、無事に乗り切ったぜぃ。


 なんか途中からミシェリー総司令が固まって、どんどん赤くなっていったように見えたが、きっと気のせいだぜぃ。


ーーーー Norinαらくがき ーーーー

フーリムは真詠があるのに、性知識が無いのはおかしい? 勤勉なのに、知らないのはおかしい?


エルフD村での取り決め。


・フーリムに交配おせっせさせてはならない

(人間とエルフのクォーターなんて面倒見きれない)

・誤った知識を幼少期から刷り込む

(劣情を向けられたとは○っ○いとかぶ○○○とか)

・もしフーリムに尋ねられたら即座に背を向け逃走

・背けば親類諸共末代までエルフD村奴隷の刑


以上のことを徹底されており、背く者がいなかったため、フーリムの『真詠』ですら本質を誤認する状態にありました。


魔王が人間である場合のみ(むしろジェイドのみ)が、フーリムの受け入れが可能です。


魔王図書室にソレ系の書籍は無いのか?

全部ミシェリーの部屋にあります。


以上、裏設定。


あと、最近すごくPV数増えてます。

どう増えたか?

文字通り、桁違いです。

なにか、ございましたっけ?

ともあれ、ありがとうございます。

PV数もイイネも☆もフォローもコメントも全て、とても励みになるので、今後とも宜しくお願いします!

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