25-2戦後④ただいま、おかえり、ようこそ

ーーーー ミシェリー・ヒート ーーーー


 長かった。とにかく長かった。


 戦後処理も含めて4日と少しか外にいなかったのに、1か月ぶりに感じる魔王城。


「フーリム、テンテン、ラナ。あなた達の働きに感謝するわ。おかげで休みが3日、増えたわよ。みんなのおかげね」


 今にも倒れそうな三人だけど、口角が上がっているのが丸見えよ。


 でも、余計なことは言わない。


 事実として、戦後処理は思いの外早く終わった。


 なぜって? よく分からない理由だったわ。


 占領地域で皆が口を揃えて言うのよ。


『ノース・イート魔王国のメシはウマいらしい』


 って。意味不明よね。


 もう考えるのも疲れたわ。


 だから、解散よ。


 そして、自室。


「くぅ~! やっと溜め込んだ妄想を現実のモノとする時やぁ!」


 この時をどれだけ待ち望んだことか。


 私は服を脱ぎ捨てる。


 ジェイド様考案の冷蔵庫から、キンキンに冷えたこれまたジェイド様考案の炭酸麦酒をグラスに注ぐ。 


「『焔帝』起動」


 指先から出る炎で干物を炙り、口に放り込む。


 そこから、グラスを一気に煽って……。


「ぷっはぁー! たっだいまぁ!」


 ウチは寝巻きに着替え、久々に我が家、我が部屋で一心不乱に筆を動かさせてもろたわー。


 やっぱ、家が最高やな!


ーーーー ラナ・ウェイバー ーーーー


 戦後処理、大きな混乱も無く終わったの。


 なぜなら、みんな、従順だったからなの。


 間違いなく、ギリ君の功績なの。


「そうみたいね。まさかサウス・マータの臣民全ての胃袋を掴むとか……さすがね。ま、ギリは私が育てたも同然……じゅるり」


 私はフーリムと二人で食堂に向けて歩いていたの。


 涎を拭っているけれど、あなたがやったのは試食だけ……なんてことは口が裂けても言えないの。


「ラナ? 見えてる……よ?」


 あ、そうだったの。

 心の中、見られるんだったの。


 涙がみるみる溜まるフーリム。


 すかさず抱きしめるの。


「フーリムの感想、すごく大事なの。私もフーリムの笑顔に、救われたの。ギリくんも、きっと同じなの。だから、元気出すの」


「ダーメェエエエ! はーなーれーてぇええ!」


 どうして?

 ちょっとホッペにチュッてしようとしただけなの。


 これには私、ご褒美スイーツ作る元気無くなっちゃうの。


「ラナ、大好き。だから、ガンバレ」


 あ、天使なの。


 うん、頑張るの!


ーーーー フーリム・D・カーマチオー ーーーー


 危うく私が食べられるところだったわ。


 ラナってば、私のこと好き好きなんだもの。


 私だって別に嫌いじゃないのよ?


 むしろ両想いだし。


 でもね。


『スーハースーハー! 美味しい薫りなの。フーリムのほっぺで、フーリムのプニプニお肉を包んで、フーリムの……フーリムの……食べるの! いっただっきまーすなのぉ!』


 って真っ赤なオーラを出されながら、ちょっとほっぺにチューするだけだったのに、とか言われてハイそうですかってならないでしょ!

 

 ホント、ジェイドくらいなものよ。

 常に青のままでいてくれるの。


 当のジェイド?


 ふんっ! 知らないわ!


 だって今日は、ジェイドのことを忘れてヤケ食いする日なんだから!


 そろそろ他のメンツも来る頃……。


「あ、テンテンちゃん来た! おーい! こっちだよー! おっかえりー!」


 お妃さんに挨拶を終えたテンテンちゃんと合流。


「待たせた。でも、ジェイド様……うぅ……」


 くぁー! こんな可愛いテンテンを泣かせるなんて罪な魔王ね!


 魔王だからしょうがないのかな?


 そんなことないよね。


 だってジェイドだもん!


 あれ? ノウンちゃん遅れるの?


 しょーがないなー。


「じゃあ、一足先に、戦勝記念女子会! 始めちゃおう! おっつかれさまでしたぁ! カンパーイ!」


 私達はグラスをぶつけ合い、とにかく飲み食いしまくってやったわ。


ーーーー テンテン ーーーー


 ふふ、このポンコツサキュバスに、真っ当な評価が下された。


 ただ、それだけのこと。


「ジェイドさまぁ~、ヒック、ジェイドさまぁあ!」


 私はグラスに入ったブドウから醸造したらしいアルコールを煽る。


 私に必要なのは、血のような、ドキツイお酒。


「まらまらぁ! つぎぃ! もってほーぃ!」


「テンテン出来上がってるじゃない。まだ二杯目よ? え? ラナ、そんな真っ赤なお酒あったっけ?」


 私は、料理長から奪うようにジョッキを取り、一気に飲み干す。


「うひぃ~……ヒック! ジェイドさまぁ、どーして、あんなオンナと……旅行に……ガクッ」


「テンテーン!? だから! ラナ、何飲ませたの!? 潰れちゃったよ!?」


「トマトジュースなの。もちろん、ノンアル。ブドウじゃないのに……雰囲気に酔ってるだけだと思うの」


「……それでここまで酔えるってある意味才能ね。私もここまでぐでんぐでんになりたい……」


「かもん。介抱、お任せなの」


「ホドホドにしておくわ」


 心地良い酔の中、夫婦漫才みたいな掛け合いを聞きながら、私は夢で、ジェイド様に……逢いたい……。


ーーーー シッシ ーーーー


 インキュバスの王に報告を終えた。


 ボクのこれからの予定は、特に無い。


 それで良いのさ。


 テンテンは傷心の身。

 彼女の分まで働こう。


 さっき妃殿にも頼まれたからね。


 ジェイド様を想う余り、身を焦がす彼女は尊くて、美しい。


 妃殿には悪いが、歴代のサキュバスを通し、もっとも力を付けているのはテンテンだろうね。


 魔王城の雰囲気も素敵だ。


 このような場所で働けるボクは幸せモノだろう。


 今宵は、特に華やいでいる。


 戦後の無事を分かち合い、愛を改めて知る時でもある。


 今こそ、ボクらの活躍の場。


 久し振りに、ボクも現場に出るとしよう。


 なぜって?


 フッ、多少の嫉妬を……紛らわすためさ。


 ボクは、そんなに良いインキュバスでは無いからね。


 純粋の極みである彼女とは違うのさ。


 さぁ、寂しく過ごす仔猫ちゃん、ボクのところにおいで。

 今夜はキミを誰よりも、輝かせてあげるから。


ーーーー ヒデオ・ラッシュ ーーーー


 良いのか?

 おいら……いや、おいら達が魔王城に、来ちまって!?


「とうちゃーん! まおーさまのっ、へや! はやくー!」

「まってー! おねーちゃーん!」


 娘が駆け、息子が後を追い掛ける。


 ここは魔王城離宮から魔王城へと繋がる渡り廊下。


「ね、ねぇ、あなた。ホントに、ほんっとーに、何も悪いことしてないのよね? 敵勇者捕縛の功績を上げただけよね?」


「お、おう! あったぼうでぃ!」


 実は処刑前でしたとか言われても、文句なんて言える訳がねぇんだぜぃ!


「仮に悪いことして呼ばれちまってんなら、死んでも逃してやるぜぃ。そもそも、ジェイドさまはそんな御方じゃねぇって、何度も言ってるぜぃ!」


 声がデカくなっちまった。

 娘も息子も、怒られたと思ってしょげてやがる。


「悪かったな。とーちゃんもかーちゃんもキンチョーしてんだ。なにせ、とーちゃんに与えられた重大任務だかんな」


 子供達の目がピッカピカになっちまった。

 まぁ、嘘は言ってねぇんだぜぃ。


 おいらが受けた褒美任務は、ジェイド様の寝室の管理よ。


 ジェイド様が長旅に出られちまったからな。

 今夜一時的に帰ってくるらしいが、寝所は別に確保されてるらしい。


 ただ、ジェイド様の計らいで、家族と一緒に魔王城で過ごしながら寝室を管理してくれれば良いと仰られたんだぜぃ。

 むしろ寝室で寝て過ごせって言われたんだぜぃ。


 当然、子供達が幼く、管理どころかブッ壊す可能性も伝えたぜぃ?


「大丈夫だよ。危ないものは執務室だし、むしろ全部捨てるつもりだから、気にせず使って」


 どうして、おいらなんかに……。

 と思ったが……。


「僕の寝室の管理に関して、信頼できるのがヒデオくらいしかいないからね。子供達もいるなら、テンテンもベッドの底には入れないでしょ。フーリムも悪さはできないはず。これ鍵ね。戸締まりは魔王城の中と言えどちゃんとするように」


 お嬢はともかくとして、テンテン元帥ナニやったんでさぁ?


 ともあれだ。


 家族水入らずで、それも魔王城で過ごすなんて、滅多とない機会だぜぃ。


「噂の高級すいーつ……本当に食べさせてもらえるのかしら?」

「ぷーりーん! ぷーりーん!」

「はーにーと! はーにーも!」


 妻がすでに上の空。

 子供たちも大合唱でぃ。


 おいら達の扱いは、期間限定で四天王扱い。


 恐れ多いが、四天王の方々も全会一致で認めてくださったぜぃ。


 おかげで、しばらくは家族ともどもフリーパス。


 執事や侍女にも、上司としてきちんと振る舞えって怒られる始末だぜぃ。

 食堂に案内してもらってるところでな。


「あなた……愛してるわ……おいひぃ!」

「あんま~い!」

「はんぱーぐ!」


 ま、家族の幸せな笑顔が見れてんだ。


 大人しく、満喫してやりますぜ。


 ありがとうごぜぇます、ジェイド様。


ーーーー フラン・ハミンゴボッチ ーーーー


 たのしかった。


 こわかったけど、たのしかった。


 うれしかった。


「ただいまー!」


「おかえりなさいませ、フラン」

「おかえりじゃのぅ、フラン」


 おかえりって、言ってくれるから。


 でもね、ちがうよ?


「パパと、ママも!」


 ふたりは、ほほえみあって、ニッコリした。


「ただいま……でございます。フラン、サラン」

「だだいまじゃ……ドラン、フラン」


 ヨシ!


「おかえり! パパ! ママ!」


 フラン、パパとママにだきついた。


 なみだ、でてくる。


 パパも、ママも、なみだ。


 でもね、かなしくないの。


 うれしいの、あふれてくるの。


 フランが、ずっとほしかったもの。


 ぜんぶ、ぜーんぶ、ジェイドさまがくれた。


 フラン、きめたよ!


 だから、パパも、ママも、きょーりょくしてね!


ーーーー サラン・ハミンゴボッチ ーーーー


 二百年……は経っておらぬか。


 じゃが、それに近い久方ぶりの魔王城。


 成長した娘に迎えられ、二度と逢えぬと思っていたドランにもこうして逢えた。


 心より……笑っていても良いものかのぅ。


「サラン、ジェイド様も仰っておられましたが、今は英気を養う時。ウェスト・ハーラのことを忘れろとまでは言いませんが、色々と大変だったのでしょう。少しくらい休んでも、バチは当たりませんよ」


 一段と老けたドランじゃが、その優しい声色は変わらぬな。


「うむ、そうじゃな。この巡り合わせに、今は感謝を」


 妾はフランを胸に抱き、改めて再会の喜びを噛み締める。


「ねぇ、ママ?」

「なんじゃ?」


 上目遣いのフランは可愛いのぅ。

 目に入れても痛くないとはこのことを言うんじゃな。


「フラン、ジェイド様とケッコン……じゃたりない。ジェイド様のこどもつくる。どーしたらいい?」


 あまりにも突然のことに、妾の頭がパーンっと弾ける音がしたのじゃよ。


ーーーー ドラン・ハミンゴボッチ ーーーー


 素晴らしき心構えですぞ、フラン。


 まだ幼龍ですが、成龍への条件は満たしておりますゆえ、成龍ともなれば、バンバン子供を産めるでしょうな。

 もちろん、フランの気持ちが第一ですが。


「ドドドドラン!? どーゆーことじゃ!? どをしてフランが……ジェイド……様が魔王と言えど、『魅惑』をフランにかけるとはさすがの妾も看過できぬぞ!?」


 サランが慌てふためいております。


 しかし、全てを知らない故、仕方ありませぬ。


「サラン、今、この場には私達しかおりませぬゆえ、聞かなかったことに致します」


 サランが少し強張り、傍にいるフランも少し怯えさせてしまいましたな。


「少し、話をしましょう。フランも、聞いてくださいますか?」


「……うん」


 そして私は、サランがフランを産んですぐにノース・イートから去った後の話をしました。


 聞き終えたサランの目には涙……号泣と言っても過言ではありませんな。

 対するフランはにこやかな顔です。


「それならば仕方無いのじゃ! むしろ惚れるのも当然! いや、フランの夫はジェイド様しかおらぬな!」


 そうでしょうそうでしょう。


「ママは全力で応援するからのぅ! 実演……はさすがにできぬが、ふーむ、インキュバスの誰かに頼むかぇ? いや、せっかくならジェイド様にイチから手解きを受けた方が……ぐふふ」


 むむ、サランに変なスイッチが入ってしまいましたな。


「ドラン、もう少し詳しくジェイド様のことを教えてくれぬか? 魔王様とは言え、所詮は男。籠絡のてがかりはあるはずじゃ」


 目が据わっておりますな。

 ふふ、良いでしょう。


 時間に限りはありますが、それまでは、我が至高の主、ジェイド様について語りましょう。


ーーーー アイ・スクリーム ーーーー

 

 ほぇ~、ノース・イートの魔王城デッカイねー。


 サウス・マータの魔王城もそこそこのデカさだけど、薄汚いっていうか、アレだよ。

 いかにも魔王城って感じなんだよな。


 ここ? 王宮じゃん。


 サウス・マータの王城より立派じゃん。


 芝はフッカフカだし、花壇っつーより花園はなぞのだし、魔王城なのに明るいし、何よりめっちゃ良いニオイする……。


 あたい、勇者になる前は精霊だったんだけど、住めるぜ、ココに。

 しかも快適にな。


 ん?


 精霊いるじゃん(笑)


 しかも光の上位精霊。


「え? なになに? ジェイド様のせいで幸せ過ぎる。辛い。は? ぷふっ……どーゆーこと……くふふっ……だってよ! なぁーっはっはっは!」


 あたいは芝生の上で腹を抱えて笑い転げた。


「アイ、頭、大丈夫?」


 ショーコがガチ心配してるな。

 他の連中も視線が冷てぇな。


「精霊と話してた。光の上位だ。魔王城なのにだぜ? 笑うに決まってるだろー?」


 でも、笑えないのが他の勇者。


 光の上位精霊ってのは、邪念の無い場所にしか現れねぇんだなー。


 一部の裕福な貴族で稀に見かける程度で、あたいも900年放浪の精霊生活してて9回しか会ったことないもん。


「つまり、魔王城なのに、邪念がほとんど無い。その上、みんな幸せに過ごしてるってことだぜ」


 自分で言ってて何言ってんだコイツって気分になる。


「悪は、我々であるのかのぉ……」


 やっべ、閣下がしょんぼりモードになっちった。


「いやもういっそのこと開き直るしかねぇっしょ、閣下」

「ポンの言う通りだゾ閣下! 魔王アムを救い、サウス・マータに真の平和をもたらすこと! ワレらの新たな道! 皆で決めたことゾ!」

「せっかく魔王ジェイドとミーシャに招待を受けたのだもの。今後どうなるにせよ、今は楽しみましょう。それがサウス・マータの未来になる。きっと……ね」


 ポンとロドラは状況的に諦めてんな。

 ショーコは半ば投げやり。

 閣下は……しょんぼりしてるように見えるけど、希望の光が宿ってるってさ。精霊が教えてくれたぜ。


 ん? 光の精霊がビビり始めた。


 近くで何かよこしまなこと考えてるヤツいんの?


 あたいは見回す。


 ノース・イートの勇者ルナと、ノウン?


ーーーー ルナ・ティアドロップ ーーーー


 私、とーっても、迷ってます!


 だってだってぇ!


「あたし、ジェイド様のこと、こんなに好きだったなんて……自分でも思ってなくて……」


 涙ポロポロしちゃいながら、奥さんのいるジェイド様に想いを馳せるノウンちゃんが、尊い!

 見ているだけで胸がキューンってなる!


 空を見上げてたたずむノウンちゃんがね、絵になり過ぎちゃってね、声を掛けちゃったの。


 それが2時間前。


 ジェイド君に、他の女が寄り付かないように全力を注ぐつもりだった、けれど! ……迷う! 迷わざるをえない!


 だって、乙女の恋路はそれそのものが正義なんだよ!


 どこかの誰かみたく真っピンクな妄想を現実にしようって輩とは訳が違うんだから!


「……あたしも、ジェイド様との……妄想くらいするけどっ」


 ぬぁーんですってぇ!?

 でも、程度によるよね!?

 ……ピンク度合いは如何ほどに?


「……手を、繋いだり……頭を撫でてもらって、そのままギュッて抱かれたり……」


 それピンクじゃなくて真っ白ォ!


「ごちそうさまだよぉ! 純白過ぎて、ぐっ、発作が……カハッ!」


 全ッ然ッ、有り、アリ! ありがとうござぃます!

 尊すぎて吐血しちゃったけど、まだイケる!


「おいこら、ノウンに……ルナだったな? 精霊がビビってんだろー? 邪な話すんなよなー」


「はぁ!? 乙女の恋心がヨコシマなんて、精霊もたかが知れてるね!?」


 私、こう見えて喧嘩は買う主義だよぉ?


「え? 恋バナ? そりゃ光の上位精霊もビビるなー。逃げずにビビるだけだから、なんでかと思ったらそーゆーこと。ふーん」


 ぉん? 乙女バトルじゃないのかな?

 あれ? 光がシュンシューンって……。


「テーブル、イス、その辺で借りてきたわ。続き、ほら、座って」


 ショーコさんがいつの間にか白の丸テーブルとイスを4脚セットしてくれていた。

 仕事、速い、素晴らしい。


「まぁ、大体の事情、理解するわ。私達、異界の勇者から見ても、魔王ジェイドは魅力的。あの力、あの包容力。存在を知った時の安心感……父性が溢れている」

「だよなぁ。あたいにしてみても、光の上位精霊に幸せと言わしめるくらいなら、妾の端っこでも良いから住まわさてくれってなるぜ」


 おやおや?

 ジェイド君、また1つ罪を重ねたのかなー?


「別に無理して付き合わなくて良いよっ。もうだいぶ落ち着いたし、あたいはジェイド様に……たまに声掛けてもらって、『いつも頑張っているな』って微笑んでほしいだけなんだからっ!」


 ふぁぁああ! 眩しいヨぉ! 光と共に消えちゃうよぉ!


「光の上位精霊が光に飲み込まれて消えたァ!? いや、消えかけてる!? え? ナニナニ? 『光の最高位精霊になれそうだから成ってくる』だって? ふぁ!? 最高位精霊とか伝承でしか聞いたことないんだぜ!?」

 

「思わず光速化してた。時間……3秒延びた……」


 ……割と、仲間だね!


 その後、ノウンちゃんのピュアッピュアな話を聞き続け、私達は1人……また1人と、尊い死を迎えるのであった。


ーーーー ノウン・マッソー ーーーー


 あたしって、そんなにピュアなのっ?


 ただ、ジェイド様と一緒に魔王城散歩したいとか、休みの日……遠征がてらでも良いけど、色々見たいって言っただけだよっ?


 サウス・マータのグレートガリアシーズやスカイキャニオンって場所が良いみたいだなっ。


 今度、ダメ元でジェイド様を誘ってみよっと。


『ダメ元なんて弱気でどうするの! 他の子達みたいにグイグイ行きなさい!』


 母ちゃん!?

 最近見ないと思ってたら、また湧いて出たなっ!


 早く成仏しろよっ!

 娘の恋路を邪魔すんなっ!


『何を言っているの? 我が名は【光の最高位精霊ブレン・マッソー】よ! やっと精霊化できたわー。ちょうど条件を満たした光の上位精霊がやってきてねー』


 え? ヤッたの?


『怖いこと言わないでっ。昔の私とは違うのよ? むしろ頼まれたんだから。あなたの娘、眩し過ぎるからもうちょっと邪にしろって。ねぇ、私のいない間に、何を話していたのかしらー?』


 あたしは目線を逸らし、そのまま母ちゃんに背を向ける。

 そして決めた。


 全力で、逃げるんだよぉっ!


ーーーー ウーサー・ペンタゴン ーーーー


 ノース・イートの魔王城には初めて来たが、思った以上に思った以上であるな。


 法国の皇城も中々のモノだが、遥かに荘厳である。


 キレーヌ様は、さすがに法皇としてのメンツがあるため魔王城への招待を謹んで断っていたが、むしろ参考にすべきであると進言しておくのである。


「ジェイドがいねぇって分かってても、なんか落ち着かねぇな。逆に……くくっ、ジェイドがいねぇからかぁ?」


 隣にはジャック。

 変な冗談は止めるのである。


 その問いには答えられん。


 沈黙は肯定であるが、そう取られても構わんのである。


 事実、ジェイドの圧勝であった。


 形としては互角を装っていたが、死んでもフルリカバリー、大地をも貫く衛星レーザー……どうやったって勝てる訳がないのである。

 

 そんな魔王が味方にいる……。

 せめて勇者であってくれればと思うが、ジェイドは魔王で間違いない。


 自らの理想を叶えるため、手段を選ばないのはまさに魔王。

 

 それが、たまたま民の理想――平和な世界を叶えるために存在する勇者と一致する部分が多いため、魔王と手を組んでいるに過ぎないのである。

 もっとも、従属していると言った方が正しいかもしれんがな。

 同盟とは、そんなもんである。


「別に良いんじゃねぇか? それでも、結果として勇者の役割を果たせんならよ」


「そうであるな。たがジャック、勝手に心の声を聞くな」


 此度の戦で、大きな収穫があったとすれば、間違いなくジャックの得た能力であろうな。

 心の声が聞こえるのはチートも良いところである。

 味方にいるのは非常に心強い。

 何より、ジェイドの頭の中が分かるのは人類にとって貴重な能力である。


 繊細な舵取りも、ジャックのおかげで敷居が低くなった。

 大戦果と言っても過言ではないのである。


 こうやって心の声を聞かれることを除けばだが。


「意外と維持すんのが難しいんだよ。油断してるとちょっと風が吹くだけで切れやがる。だが、使ってる内に距離も延びてる。ウーサーには悪いが、たーっぷり練習台になってもらうぜ」


 ふっ、良かろう。


 ジェイドのことだ。

 こーゆー思考で、対抗してくるかもしれんぞ?


「おいウーサー止めろ俺様は一応硬派で通ってんだぞ」


 知るかなのである。


 おっさん時代に極めたピンク物語を、その心の耳で受け止めるが良い!


ーーーー ジャック・ザ・ニッパー ーーーー


 俺様は、ウーサーから逃げた。


 あったりまえだよなぁ?


 不必要な情報はカットしねぇと、俺様の容量が超えちまう。


 ただ、修行は必要だ。


 ウーサーは極端でいやがるからな。


 ん?


 サウス・マータの勇者が3人。

 男ばっかだな。


 俺様は挨拶がてら手を挙げる。

 手を挙げ返してきたり、会釈したりしてくる。


 こっちを嫌ってる訳じゃねぇな。


「よぉ、てめぇら3人だけか?」


「女子供は恋バナに花を咲かせているゾ」

「そっちの勇者と、ショーコ、アイ、あと四天王……ノウンだったか? その中に突っ込んでったよ」


 相変わらずのお花畑っぷりだなぁ。


「ここにノコノコとやってきて考えるセリフでもねぇか」


 俺様も今となってはルナと大して変わらねぇ立場なんだと自覚する。

 もう色々と諦めがついてくるな。


「何用か?」


 ジジイがキッと睨んでくる。

 ただ、それは一瞬だけで、目を伏せて溜息吐きやがった。


 俺様と一緒のこと考えたんだろうぜ。


「用って言う程のもんじゃねぇよ。同じよーに魔王様から御招待を受けた仲だ。仲良くしよーぜ?」


 睨まれた仕返しに安い挑発を吹っ掛ける。


 ジジイの目は何も変わっちゃいねぇな。

 それくらいの余裕は出てきたか。


 ただ、俺様が油断した。


「ジャーック、私とも仲良くしようではないか。せっかく4対1となったのだ。こってりたっぷりと絞ってやるとしよう」


 背後から首に腕を掛けられちまった。

 自分の腕を時で止めてやがるのか、ビクともしねぇ。


「ハッ、いきなりでこいつらがウーサーに付くとでも?」


 俺様は言い切って悪寒を覚えた。


「手伝え、ネイ・ムセル。ポンとロドラもな。ジャックの心を読む力。我々で使いこなせば女子のあーんな気持ちとかこーんな気持ちが聴き放題であるぞ?」


「そいつぁ良いこと聞いたっしょ」

「乗るか反るか……もちろん乗るゾ」


 あっさり二人陥落。

 おい、てめぇら勇者だろぉ?


 さすがにジジイは黙っているが、黙ってるだけだな。

 勇者だろ? 逡巡するのもナシだろ?


「ネイよ、自衛にもなるのである」


「――承知」


 うわ、ジジイも墜ちた。


「ぐふふ、ここは手狭であるな。広間に向かうのである」


 しばらく俺様は地獄を見ることになった。


ーーーー 夕暮 美紗 ーーーー


 やべぇよ。


 戦後処理は何とか堪えたけど、もうやべぇよ。


 俺のほっぺがたるんだまま戻らねぇ。


「どうしたの? 美紗、何か良いことあった?」


 みーくんは分かってて聞いてきやがる。


 だから、プイッと顔をそらす。


 それでも、お姫様抱っこされながら空を翔けるのは、何度やられてもニヤけちまう。


 それにしても『【星ノ看守】スタージェイラー』やべぇよ。

 今、みーくんはこの衛星から垂れたワイヤーロープを手に持ち、足に引っ掛けたまま俺を抱っこしてくれてんだけど、移動速度が半端ねぇ。


 この4日間でサウス・マータ何周したんだ?

 地図で見た場所はもちろん、未開の地まで完全網羅しやがった。


「無事にマッピングも終わったし、サウス・マータの人類のほぼみんなに挨拶できたし、あとはノース・イートでそこそこ頑張るだけだね」


 それをただの地図作成と挨拶って言うんだからな。


 くぅ、やっぱり3ヶ月差はでけぇな。

 この差はどうやっても縮まんねぇもん。


 ま、こうやってみーくんに張り付いて養殖……姫プするのも有りっちゃ有りか。


「美紗? ……待たせてごめんね。ノース・イートに行ったら、すぐに……するから」


「ふぇ? みーくん? ナニヲスルノ?」


 突然のイケメンボイスにキリッとした真面目顔。

 これ以上俺をトキメかせんな。


 そしていつものニッコリみーくん。

 あーもうカワイイなぁ。


「みーくんと一緒なら、もう何でも良いし。俺の帰る場所は、みーくんだもん。……ただいま、みーくん」


 みーくんを抱き締める。

 何となしに、感極まってきた。


「おかえり、美紗。ごはんにする? お風呂にする? それとも……ふふ。どうしたい?」


 典型的だなーおい。

 普通の答えを言うには惜しいな。

 何か良いアイデアを絞り出さないと。


 そんなことを考えている間にサウス・マータとノース・イートを繋ぐゲートに来ちまった。


 スタージェイラーはサウス・マータ限定だからな。

 ノース・イートでは移動速度が落ちる。


「と、思った? ざーんねん」


 みーくんは、俺の心を読んだかのように意地悪な笑みを作り、俺を抱え直して飛んだ。

 真上にな。


「ちょっ!? みーくん! バビューンって! 宇宙軌道!? ロフテッドか!? って高過ぎぃ! んにゃぁああああ!」 

 

 魔法って、すげぇな。


「ようこそ、ノース・イートへ。これが、史上最弱の魔王、ジェイド・フューチャーが統べる世界だよ」


 俺とみーくんの眼下には、地球のような青い星が、歓迎してくれるように、キラキラと輝いていた。


ーーーー Norinαらくがき ーーーー

日常突入の一歩手前。

こっそりと新キャラ:ブレン・マッソー

ノウンのママ

名前の由来。ブレイン(脳ミソ)

あとは分かるな?

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