25-0魔王様、話を聞く

 危うく大事な情報を聞き漏らすところだった。


 ウェスト・ハーラにいる魔王の情報が得られるなら、目先の僅かな危険くらいは目を瞑ろう。


 リスク対効果を考えれば、圧倒的に効果&利益があるからね。


 僕のやろうとしてることは、子供が交通事故に遭わないように、車を絶滅させようとしているに等しいことだから。


「まずは、サウス・マータの内情を簡潔に話すのである。想像がつくとは思うが、吾輩ネイ・ムセルが一番の古株である。次いでショーコ。魔王討伐の少し前にロドラ。魔王討伐後『魔王の系譜』によってアイとポンが召喚され、ミーシャが召喚待機状態となったのである」


「俺が召喚待機食らってたのは3か月らしいぜ。地球との差は1か月1年って感じだな」


 錬金術で作ったパイプ椅子に座るネイの説明に、美紗が補足する。


 つまり、美紗は20歳……姉さん女房か。

 今度お姉ちゃんって甘えてあげよう。


「そして……ここからは誰も知らぬこと。人類すら、勇者すら、魔族すら知らぬ。吾輩と、アムだけの秘密である」


 フーリムやルナの反応を見るに、だいたいの想像は付くんだけど。

 え?

 ホントに?


「吾輩と【雷】の魔王アム・ノイジアは……将来を誓い……婚約した仲であった」


 ウゥワァオォー。


 いや、僕、驚いてるよ?

 全然想像つかなくてアレだけど、多分魔王になった時くらい驚いてるよ。


 まぁ、勇者だけじゃなくて、ウーサーも白目剥いてるし、フーリムとルナとジャック以外はみんな一緒の反応してるよ。

 美紗ですらね。


 一番早く復帰したのはショーコ。


「待って。閣下待って。魔王アムは鬼でかなり人型に近い。でも、歳。魔王アム、閣下と初めて邂逅したの、幼かったって……。実際討伐した時も、ミーシャと同じか少し上くらい……」


 ん?

 それってつまりロリ――。

 

「婚約しようと言ってきたのはアムである! それも成長しきってからである!」


 真っ赤な顔で釈明している。

 まぁそれならセーフ……だよね?


「最初はただの冗談と思っておった。じゃが、逢う度に『もう少しで約束が』とか『これを何とかすれば約束が』と言われ、何度も何度も復唱させられた吾輩の身にもなってみよ」


 僕はネイの肩に手を置く。

 

「めっちゃ分かる」


 美紗を見ながら僕は言ったが、美紗は口笛を吹きながら目線を逸らした。


「吾輩もアムも、15年間、争いを続けているように見せ、裏では和平の工作をしておった。だってそうであろう?」


 ネイは遠い目をして言い放つ。


「吾輩が初めて単身乗り込んだ魔王城には、ただ角が生えただけの平和願う少女しかいなかったのである!」


 そして、地が震える程に拳を叩き付けた。


「勇者だから、魔王を殺せ! それが正しいと信じておった! じゃが、魔王だからといって、本当に、何も知らぬ少女を……手に掛けることなど出来ようものか! 当然、報告しようとしたのである。しかし、真実を報告出来んかった。吾輩が前線から退けば、他の勇者の刃がアムに届く。それを、知ってしまったのである」


 ふむふむ。僕が初めて勇者達と会談した時に似てるなぁ。


 チラッとウーサーを見る。

 手で目を隠された。

 法王さんもこの場にやってきていたのだが、ルナの後ろに隠れている。


「もちろん、演技の可能性もあったのである。じゃから、何度も、何度も、幾度となく、魔王城へと足を運び、アムと逢って、話をした。10年じゃ。10年間、アムはずっと平和を望み続けておった。戦端が開かれる度、大きな声を出して泣くのである。どう見ても、演技には見えんかった」


 ネイの目に薄っすら涙が浮かぶ。

 僕がティッシュを差し出したら、思い切り鼻をかんだよ。

 ゴミはその場で焼却処分。


「本格的に和平に向けて動き出したのは、ショーコが召喚されてからであるな。3年前である。元軍人のショーコは、吾輩との連携が良く、戦術の相性も格別であった。和平を邪魔するのは人類も魔族も同じだけ存在したのである。まずは、アム以外の魔族を排除することを優先した。アムは渋ったが、平和の為の必要最小限の犠牲として受け入れた」


 ネイの息が上がってきた。

 これからが、ターニングポイントか。


「本格的な魔王討伐のための準備が進む中、作戦決行3ヶ月前になり、ロドラが召喚された。魔王城侵攻そのものは開始されていたため、ロドラの称号スキルを検証しきれておれんかった……」


「閣下……つまり……申し訳……ないゾ……」


 ロドラに涙が溜まる。


「良い、ロドラ。勇者として正しいことをやったまで。他にも想定外の要素はあったのである。アムの取り巻き、そちらで言う所の四天王か。奴らは奥の手を隠し持っていたのである。魔王城内の魔族全員の『鬼神化』強制移行である。狂気化、すなわちステータス5倍と引き換えに、自我を失い暴虐の限りを尽す奥義である」


 うん、そこから先は聞かなくても分かる。

 大惨事以外のナニモノでもない。


「我々の危機を救ったのはロドラの『アブラカタブラ』、味方全員にバーサーク。気が付けば、我が腕の中に、アムの亡骸である」


 おぅふ、僕が逆の立場だったら魔王化するね。


「あっるぇ? ねぇ閣下。あたいが聞いた話だと、ロドラのおかげでみんな無傷の余裕の勝利じゃなかったかー? 我々の危機ってナニ?」


 1人だけ簀巻きにされているアイが、器用に立ってぴょんぴょんしながらネイに近寄る。


 ロドラもショーコも、嫌な汗を流しながらも、ネイの目を見ていた。


「おかしいであろう。僅かに優勢だったとは言え、拮抗していた人類と魔族の争いであるぞ? 魔族の切り札『鬼神化』まで使用され、どうして我々が……勇者以外の全ての兵士まで無傷で勝利したと思うのである?」


 え? 一般兵が無傷?

 それはおかしい。

 そんなことされたら、僕だって余程の準備がないと敵わない。


 ……こらこら、フーリム、泣くの早過ぎ。

 ジャックも僕が用意したティッシュを勝手に取らないで。


「アムの亡骸は手足が千切れ飛び、首の皮も一枚繋がっているかという状態であった。魔族共の亡骸に、アムの爪や指、足の指、角があった。吾輩は血だらけ。全て、アムの血である。当然、他の何者かが介入して、そうなった可能性もある。しかし、有り得ぬ。全て、アムが、そんな中で、自我を保ち、我々を守り、他の魔族を葬ったのである」


「いや、それだけで確証を得るには足りないよね。決定的な、何かがあったんだよね?」


 僕は問う。

 ネイは、唇を震わせながらも答えてくれた。


「鬼は18で成人とのことである。せがまれるのでな、指輪をくれてやった。金髪碧眼だったゆえ、紅なら映えると思い、似た色の柘榴石ざくろいしで輪から作った……。亡骸の口にな、入っておった。左手薬指の……その指ごとである。自我を失って、口の中に、その指だけが綺麗な状態で残っておるのは、どう考えても……うぅ……」


 ネイは耐えきれず泣き崩れた。


 それなら、僕だってそう思うね。


 僕はフーリムとジャックを見る。


 フーリムとジャックはすでにボロ泣き。


 ミシェリーは倒れたままだけど、他のみんなももらい泣きだね。


 捕まってる勇者達の頬にも涙が伝う。

 ネイの重責、立場、そういったことも理解しているから尚の事か。


 心を見聞きできるフーリムとジャックの2人もこういった反応をするなら、少なくともネイの言うことに嘘は無い。


 僕にしてみれば、それでネイを完全掌握できるなら全く以て問題無い。


 と、言う訳で。


 ネイの話はとりあえずここまで。


 僕はハンカチで目の周囲を拭き取り、次の話題へ。

 

 話はもう1つあるんだよね。


「じゃあサラン、君の話も聞かせてよ。ネイの話にも繋がる話だもんね」


「ハッ、ジェイド様の仰せのままに。しかしながら、どこから話せば良いのじゃ? 生まれから話そうかの?」


「ウェスト・ハーラに転送されてからで良い。簡潔にまとめちゃって良いよ」


 さすがに生まれてからは長そうだから、ご遠慮願います。


「ふむ。死んだと思って転送されたら元気だった、といったところからじゃな」


 腕を組んで悩むサラン。

 しかし、とあることに気付いたようだ。


「おっと、まず自己紹介じゃったな。妾はサラン・ハミンゴボッチ。現四天王フランの母にして、元四天王ドランの妻じゃ。妾に闘う力は無い。ただ、守りと回復だけなら……ジェイド様に次ぐ力を持っておる。それでは皆よ、よろしぅお願いしますじゃ」


 裾をつまみ上げるようにして一礼。

 優雅だけど、なんだか日本風にも見えるね。


 でも、どこからか、近いところで、赤子の泣き声がする。


「おぉ、すまんの。ヨシヨシ。この赤子はヌエ・ウルオス。『子』の勇者じゃ」


 サランは背中を見せてくる。

 生後3ヶ月くらいかな。首がまだ座り切っていない。

 おんぶしたまま宥めているけど、それじゃダメだよ。


「サラン、貸して。オムツじゃないかな? うぉっと、立派なプリプリだね。布オムツか……ほぃっと」


 僕はヌエと呼ばれる赤子を抱っこして、風魔法で浮かせながら、オムツをし換える。

 排泄物を燃やし、オムツを洗い、乾かして履かせる。


 いやー、魔法って便利だね。


「さ、さすがジェイド様じゃのぅ。やけに手慣れておるというか、もしや子でもおるのかぇ?」


「ふふっ、魔王になる前は病院暮らしだったからね。暇潰しがてら、子供のお世話しに小児病棟に行ったことがあるの。将来のためにね」


 視線を美紗に向けたら、顔を逸らされてしまった。

 ちょっと寂しいけど、耳が真っ赤なので許してあげよう。


「ステータス・フルオープン」


ヌエ・ウルオスLv1

力:1 魔力:1

『子』『勇者』『急成長』『優性遺伝』『呪縛時覚醒』『呪い解放』


 赤ちゃんだとこんな感じなんだね。

 

 すごく育て甲斐の有りそうな赤ちゃん。


 でも、そうしちゃイケない。何が悲しくて子供の頃から人殺しの技を身に付けさせなくちゃいけないのか。身に付けるなら、悪を成敗するカッコイイ必殺技にしなくちゃ。


 その場合、僕がヤられるパターンかな?


 まぁそれは置いといて。


 ヌエが落ち着いたところで、サランは再び語り出す。


「そうじゃの……。現状から話した方が分かりやすいじゃろ。今、ウェスト・ハーラは、人類滅亡の危機じゃ。下手をすると、もう生き残りはヌエだけかもしれん」


 ウェスト・ハーラは魔王優勢……どころじゃなく完全勝利か。なかなかのバッドエンドだねぇ。


「ウェスト・ハーラの勇者は『ゲンタ・ウルオス』『オリシン・ウルオス』の2人じゃった。国の名は『ヘーアン』という。その一国のみで、魔王国と渡り合っておった」


 一国対魔王国か。

 それが急に人類滅亡は早くないかな?


「両国は拮抗しておったが、妾が人類側に加わったこともあり、百数十カ年の魔王討伐作戦を経て、ようやく『堕』の魔王マーレ・アンデルスを倒したのじゃ」


 僕は、ニコッとサランに微笑みかける。


「ハッ!? 妾が強制転位した時、実質死の状態じゃったのじゃ! しかし、その時の『めぐり』の勇者に助けてもらったのじゃ! 恩を返す返さねば『龍』としての威厳が廃るのじゃ! それに人類のご飯美味しかったのじゃ! 白米、アーサーヅケ、タクアーン、ウンメーボシ、オチャヅーケとか、オハーギィ、ヤツハーシとか、ほれ! いろいろあるじゃろ!?」


 食べ物で買収されたっと。メモメモ。

 僕と一緒に料理長ラナも一生懸命メモを取っている。


 昔のノース・イートの食事事情はそんなに良くなかったみたいだからしょうがないか。

 それにしても、そこってもしかして京都かな?

 聞き覚えのある単語いっぱいだよ?


「……1つだけ、良い……かしら?」


 あれ、思わぬところからの質問だ。


「良いよ、勇者ショーコ。発言して」


「……身に余る待遇、感謝します。その魔王マーレ・アンデルスとは顔が3つ付いた石像のような魔王でしたか?」


「……その通りじゃ。野暮な話じゃと思うが、なぜ知っておるのじゃ?」


 僕も驚いたし、サランも驚いている。

 ショーコも当然驚いているが、答えの見当はだいたい付く。


「私の居た世界に、存在しておりました。と言っても、ずっと昔……100年以上前の話。文献で、見たことがあったので……」


 申し訳無さそうに身を引くショーコ。

 

 こういう情報が出てくるのは、本当に楽しいね。


 同時に腹が立ってきた。


 でも、顔には出さない。


 この問題はしばらく後だ。

 後で、美紗と一緒に考えよう。


「続けるのじゃ。『堕』の魔王を倒したは良いが、『魔王の系譜』を見つけられなかったのじゃ。結果『獄』の魔王の召喚を許し、人類滅亡寸前まで追い詰められることになったのじゃ」


 ふむふむ、経緯は分かったよ。


「あとは、人類がどうやって滅亡したのか教えて」


「滅亡ではなく、滅亡寸前じゃぞ?」


「『魔王の系譜』を見つけられず、1年と少し。完全に人類は浮かれておった。特にゲンタとオリシンが子を成し、産まれた子が長らく不在であった3人目の『勇者』じゃった。恐らく、そこを付け入られたのであろう。間もなく、街、都市、村の至るところで人が謎の死を迎えたのじゃ」


「死んだ原因は? 疫病?」


「不明じゃ。ただ、法則として前夜に『梟』の大群が現れること。そして死者に『呪い(不明)』が付与されておった。その時点で気付いた。魔王の仕業であると。他の魔族は滅殺しておるから、尚の事な」


 そんな分かりやすい痕跡を残すのはなんでかなー?


 僕なら徹底的に隠して、下準備も済ませて一気にドーンってやるけど……ん?


 あー、そういうことか。


「下準備と、陽動だね? 一気に首都をヤラれたでしょ?」


 サランは悲しそうに下を向いてしまった。


「そうじゃ。全て『獄』の魔王の陽動じゃった。ゲンタと妾で周辺都市を調べ、戻る間に急襲の報せが入ったのじゃ。『獄』の魔王は巨大な獅子の上に乗っておった。顔は夜であったのでまともに見れんかったが、どう見ても人型であった」


 お? 人型か。

 知能も高そうだし、下手すると頭脳戦だねぇ。

 くふふ、ちょっと楽しみ。


「……オリシンは、首都防衛のためニジヨ城にヌエとおったのじゃが、魔王の前には手も足も出せない状況で深手を負ったのじゃ。卑怯にも、民にばかり攻撃しておったようじゃ」


「推測ばかりだけど、確信する要素があったんだよね?」


「もちろんじゃ。至る所の家屋が破壊されておった。じゃが、民のほとんどは無事。避難中の民から、感謝の言葉を受けたものよ……。じゃが、ここから首都を捨て、撤退戦となる。呪いが発動したのじゃ。『呪い(破ー梟解読不能)』死者を操り、不死の兵士とすること。これにより、首都が壊滅……しそうになったのじゃが、オリシンの『暗濃雲あんのうん』により、首都そのものに結界を張ったのじゃ。結界内部の動きが全て止まる。時間停止みたいなものじゃな。魔力の高いものに内部で抵抗されぬ限り破られることはない。外部からも、そう簡単には……」


 あくまでその場凌ぎってことか。

 

「オリシンは妾がすぐに治した。じゃが、不死の軍勢が一斉に動き出したとあっては、こちらも考える時間が欲しかったのじゃ。撤退しながら安全な場所を探そうとした。『獄』の魔王には見つからなかったのじゃ。代わりに『雷』の魔王に見つかった」


 ここでようやく繋がる訳だね。


「どこにでもおる町娘にしか見えなかったのじゃが、自ら名乗り出た。『アムは【雷】の魔王っちゃ。早速っちゃけど、アムと取引っちゃ。半分逃がすっちゃ。代わりに、ネイに伝言お願いするっちゃ』とな。当然、聞き入れる訳も無くまかり通るつもりだったのじゃが、強い。撤退する時に『獄』の魔王から数発受けたが、比にならん力じゃった。逃げても追い付かれる。そう確信したゲンタとオリシンに命じられ『輪廻街道』を駆け、サウス・マータへと辿り着いたのじゃ」


 そして、話を終えるサラン。


 僕は一歩引き下がり、ネイにどうぞと手で合図。


「他に、アムはなんて言っておった?」


「何も」


「そうであるか……」


「ただ、妾の主観じゃが……目は死んでおった。オリシンが言うには、微かに助けを求める光が見えたそうじゃ。妾にはナンノコッチャであったが、一連の話を聞いて納得したのじゃ」


 頷くサラン。そして感謝のため頭を下げるネイ。


 顔を上げたネイが、しばらくサランと見つめ合う。


「魔王様!」

「魔王ジェイド!」


 うぉ、ビックリした。

 二人して急に大声出してナニ?

 え? 土下座?


「厚かましい願いなのは重々承知しておるのじゃ! じゃが、一刻も早く、ウェスト・ハーラに援軍を頼み申すのじゃ! 後生じゃ! どうか、どうか!」

「全てが終われば、吾輩の首を差し出すのである! 吾輩の首があれば、現サウス・マータを掌握するのは簡単である! どうか、アムを! アムに、人を殺させる前に……アムを!」


 なんとなく、こうなることは分かっていた。


 僕は周囲を見る。


 意識のあるものは、みんなしてほだされているね。


「無理!」


「「そこをどうか!」」


「みーくーん……」


 ほらー、裾を引っ張る美紗ワンコまでやってきた。

 僕、犬派じゃなくて猫派なんだけど。


 ハァ~、まぁ結論だけじゃこうなるよね。


「『今』は無理! この異界戦争は、まだ前哨戦なの! しかもノース・イートは宣戦を受けることしかできません! よって、あと3ヶ月程度は『待ち』しかないの! 何とかしてほしいなら、ウェスト・ハーラに行く手段を僕に教えなさい!」


 僕は正当な理由を説明しただけなんだけど、サランもネイも泣きそうな顔をしてくる。


 だから、もうちょっとフォローしておく。


「良い? 助けないとは言ってない。ウェスト・ハーラの勇者達も、『雷』の魔王も最善を尽くす。魔王の言葉を信じられないかもしれない。だから先に僕が協力するメリット伝えとく。それは『みんな僕の仲間にできるかもしれない』。つまり、利害一致の上で協力してあげるから、そっちも、宣戦受けるまでしっかり協力してね」


 二人は涙を拭いて頷いた。

 僕はネイの魔力縄を切る。


 そして、立ち上がった二人と握手する。

 謂わば、契約成立。


 フーリムとジャックがプルプルしているね。


 大丈夫だよ。


 戦争の後も、それなりに、面倒見てあげるから。


「か、かんにんジェイド様! 意識ふきとばしてもーた! ってどぅえぇえ!?」


 ようやく意識を取り戻したらしいミシェリーが、どえらい声を出して驚いている。

 目が飛び出そうだよ?


 斯々然々、と簡単に説明する。


「はぁ、『雷』の魔王とウェスト・ハーラの勇者をこちらの陣営に引き込むために協力を取り付けたということですか」


 お、さすがミシェリー、分かってるね。


 僕の一瞬だけ見せた魔王の笑顔に、ミシェリーも四天王の笑顔で、一瞬だけ対応してくれる。


「準備期間は3ヶ月もある。これだけの情報と、これだけの戦力が揃っていて、負けは無い。意味は分かるな?」


 僕は魔王モードでミシェリーに告ぐ。


「ハッ、必ずや……いえ、圧倒的余裕の勝利をジェイド様に報せるべく次戦の準備に……」


 え? 何言ってんのミシェリー。


「バカモノ! 我が求めるのは違う回答だ! ……はい、美紗」


 美紗はミシェリーと同じく片膝を付き、正しい回答を言う。


「ジェイド様、それはフラグですので、キッチリと圧し折るために、最初から、全力で、本気の戦のための準備を行います。そのために、ジェイド様も、最前線で、頑張ってくださいね。ついでに俺も前線に……」


「却下ね。でも、最後以外は正解。分かったなミシェリー。次の戦も全力だ。我も当然前に出る。そのつもりで全体の作戦を立案せよ!」


 んなもん分かるかっちゅーねん。


 ってブツブツ言ってるの聞こえてるよ?

 ワザとだよね?


 んー、僕の魔王としての威厳、落ちて来たかなー?

 仕方ない。

 伝家の宝刀……喰らえぃ!


「とは言え、しばらくは休息も必要だろう。7日程度で戦後処理を片付けるぞ。その後は、10日間の長期休暇を与える!」


 ミシェリーは、無表情だが、拳に力が入っているの丸見えだよ?

 

 ヒデオ達が遠くから聞いていたみたいで、仲間達と歓声をあげている。


 良かった良かった。


 …………。


 しかしながら、完璧超人ではないため、僕にも抜けがある。


 今の今まで、気付かなかった。


 ミシェリーが、キョロキョロ見渡していたのだ。


「そう言えば、ジェイド様」


 僕は嫌な予感がしたが、聞かずにはいられなかった。


「どうしたの? ミシェリー」

「ギリ、どこ行ってん?」


 僕はゆっくり空を見た。


 ごめん、完全に忘れてた。


 確か、魔法禁止エリアにすっ飛ばされてたよね。


 魔王国国葬の準備を指示するかどうか、しばらく頭を抱えて悩むことになった。


 でも、音信不通だった『星ノ眼』が、戦争終結宣言と同時に回復したんだ。


ーーーー Norinαらくがき ーーーー

ジェイド:マジ( ゚д゚)ヤッベ

ジャ&フー:(・д・)ジェイドのガチ焦り初めて見た

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