24-3戦後③真の勇者の真実
ーーーー ネイ・ムセル ーーーー
もはやここまで。
ミーシャは敗北し、あろうことか魔王の軍門に降った。
サウス・マータに知れ渡ること間違いなし。
その後、糾弾され、敗北の責を取ることになるのである。
吾輩の命一つではとても足りぬ。
じゃが、それは魔王ジェイドの情けにて解放されればの話。
僅かながら、力は戻った。
吾輩の称号スキル『天下百日(−60日)』の残り全てを捧げ、魔王に一矢報いるのである。
ミーシャをも圧倒する魔王に、どこまでのダメージを与えられるか分からぬ。
ただ、やらねばならぬ。
吾輩がやらなければ、誰も助からぬ。
吾輩も、そうすれば……。
「アム・ノイジア……今、逝くぞ」
天下百日を起動し、魔力縄を千切って立ち上がった瞬間であった。
「落ち着けってネイ爺さん」
ミーシャに、心臓を殴られる。
空気を殴り飛ばしているようにしか見えぬ動作で。
吾輩の決意と覚悟は、肉体と共に膝から崩れ落ちた。
「んー、僕としては……というか、普通に考えればかなりの高待遇だと思うんだけど、何かあるのかな? 無いなら殺したいんだけど。みんな、何かある?」
そう言って、縛られている勇者達に問う魔王ジェイド。
「ったり前っしょ! このままオメオメとサウス・マータに戻れば、その責任は全て俺っち達……特に閣下が取ることになる!」
「ちゃんと『そんなことしたら落とす』って言うから大丈夫だよ」
「みーくん理論ならそうだろうが、ポン君の言いたいことはちょっと違うぞ。地球でそんなことやってみろよ。別の形で勇者に対して『報復』が始まる。それこそ、みーくんが落とすかどうか迷うレベルのイジメがな」
「そっかー。うーん……」
悩む魔王ジェイド。
そして、安堵の息を吐くポン。
違う……そうではないのである。
吾輩はもう、負ける訳にはいかないのである。
負ける時は、全て……。
「ふぅん! 『天下百日(-70日)』起動!」
「だから落ち着けってネイ爺さん! どうした!? さっきからおかしいぞ!」
再び、ミーシャの手により片膝が地に付く。
それでも……。
「『天下百日(-80日)』起動ォ!」
「うーん、もう殺すか」
「待って! ジェイド! 私が話す! 『真詠』で見たから! 事情、全部話すから!」
「すまねぇジェイド! 俺様も悪かった! 変に話が拗れそうだったから言えなかったが、全部話す! だからジェイド、殺すのは待ってくれ!」
「私からもお願いジェイド君!」
魔王代行が……見た?
それでは、話が伝わるのも時間の問題。
であるなら……!
「天下ぁ百日ぃ!!(-90日)起動ォオオ!」
血を吐いてでも、命尽きようとも、為すべきことを為す!
生きて、恥を晒すより、幾分かマシである!
「いや、危ないから。ちゃんと殺してお……」
ミーシャが空を叩く。
吾輩の心臓は止まりかけておる。
しかし、足も手も止められぬ。
必ずや、この一撃を、魔王に……。
「申し訳ございません。ジェイド様にこのような場面ではございますが、お願いがございます」
吾輩の一撃は、腕のみを部分龍化させた四天王ドランによって止められた。
ジェイドは無言であるが、続きを要求しておるように見えた。
「妻のサランが、この件について、ネイ・ムセルに問いたいことがあるとのことです。私の褒美として、妻のネイ・ムセルに対し、問いと返答を許可していただけませんでしょうか?」
ジェイドは目を閉じ、深く思考する。
開いた目からは、吾輩に対する殺意は消えていた。
「他ならぬドランの頼みだ。ただし、サランにも報酬を与える気でいたが、それも無しで良いか?」
「構いませぬ。我が願い、叶えて頂き、感謝の言葉も御座いません」
「ならば許可しよう。サラン、前へ」
龍族の少女とも取れん女が、ジェイドに一礼し、吾輩の前に立った。
「妾はサラン・ハミンゴボッチ。簡潔に問う。先程、アム・ノイジアと言ったな? 妾の問いは1つ。そして伝言が1つじゃ。問いは『【雷】の魔王、アム・ノイジアについて、全てを話せ』じゃ」
……なぜ?
この龍は、【雷】の魔王が、アムであると知っておる!?
「そして、伝言じゃ。『アムはもう約束を果たせないっちゃ。ネイ、アムのことは忘れて、幸せになるっちゃよ。勇者を頑張り過ぎて、身体を壊すなっちゃ』。以上なのじゃ。……これで貸し借りは無しじゃぞ、アム」
「アム……生きて……なぜ……貴公は……」
アムの言葉。間違いなく、アムの……。
「妾はノース・イートで生まれ育ち、死と同時にウェスト・ハーラに召喚されたのじゃ。死を克服してな。魔王アムも同じではないかのぅ? 詳しい経緯はそちらの方が詳しかろう」
頭の中が追い付かぬ。
確かに、この手で……アムを……。
「ということじゃ、ジェイド様。今後のことを考えれば、勇者ネイを排除するデメリットの方が大きいと妾は思うのじゃが?」
ジェイドは拍手していた。
「いやー、ありがと、サラン。確かに生かすメリットの方が大きいね。死ぬ寸前まで痛めつけて回復してを繰り返して廃人にするつもりだったけど、そんなことしたら心も読めなくなっちゃってたよ」
…………。
そうか、どうにせよ、黙っていても、もはや同じであるか。
吾輩も、たった今、死ぬ理由が無くなったのである。
なんとしてでも、生きねば。
「語るのである……真実を。しかし、条件が1つ」
この期に及んで……等と言われると思ったが、ジェイドが他の者を手で制していた。
「今後、ウェスト・ハーラでアム・ノイジアと戦闘を行う場合、吾輩をまず前面に出せ」
「その条件を飲めば、全面協力してくれるんだよね?」
ジェイドの問いに、少し間を開けてしまう。
しかし、吾輩の意志は、一つしか結論を持てなかったのである。
「それで……良い」
「乗った。勇者なんだから、約束ちゃんと守ってよね。僕はちゃんと守ってるんだから」
吾輩は、魔王ジェイドの差し出した手を、少し迷い、その迷いを首を振って振り払い、掴んだ。
ーーーー Norinαらくがき ーーーー
雷の魔王、アム・ノイジア。
サウス・マータ元魔王。
雷の魔王っちゃ。
由来?
そんなの書いたら色んな意味で消し飛ぶっちゃ。
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