24-2戦後②今後の処遇

ーーーー フーリム・D・カーマチオー ーーーー


 ふふっ、ふふふふっ。


 ハァ~ぁ。


 ハァ……。


 え? ナニ? ため息ばっかり付くんじゃない?


 知らないわよそんなの。


 だって、だってだって、だってジェイドがぁ!


 ポッと出てきた勇者にぃ、プロポーズだとかぁ!?


 あーりえないでしょーがっ!


 ハァ。


 事情はそれなりに理解しているし、実際のところ私達から見ればポッと出なだけで、ジェイドからしてみれば元カノと元サヤ……ゴールインしただけだもんね。


『さぁて、さっさと片付けて美紗とイチャイチャしなきゃ』

『はーやーくみーくんと、イチャつきたーいなー』


 もうやだー!

 2人して真っ青な心の中なんて見たくなーいー!


 というかなんで青いの!

 私にしてみれば真っ赤に染まってもおかしくないよね!?


「フーリム、少し、控える。顔、出てる」


 テンテンに言われて手鏡を見る。


 私、とんでもなくニヤけてた。


 でもね、テンテンも一緒なの分かってる?


「サキュバス、好意や性欲、敏感。限定的に、心を読むに近いこと、できる」


 つまり? ふふっ、だめ、またニヤけちゃう。

 サキュバスのテンテンが、そういう反応をするなら、ふふっ、そういうことよね。


「ミサ、本気」


 思わず拳を握り締めちゃったわ。


 まぁ、ジェイドは魔王だし、側室の一人や二人、いないとおかしいもの。


 正妻の座を奪われたのはショックだったけど、正妻に拘る必要は無くなったとも取れる。


 今後は……。


「みんな仲間ね、テンテン」

「よろしく、フーリム」


 私とテンテンは、ガッチリと腕を組んだ。


 私達をヨソに、ジェイドは何をしているかと言えば、縛り上げたサウス・マータの勇者全員の顔を覗き込んでいる。


 何をしたいのかよく分かんないわね。


『全員目が泳いでるから、戦意は喪失していると見てイイネ』


 いや、ジェイドが魔王スマイルでどんな極刑を処してくるのかをビクビクしながら待ってるだけよ。


 しかも、その後はサウス・マータの人類滅亡くらいの覚悟をしているわ。


「さて、『黄昏』の勇者、ミーシャ・ヴァーミリオンに勝利した報酬として、サウス・マータ及び君達の全てが僕のモノになったんだけど……」


 縛られている勇者達は、一斉にジェイドを睨み付ける。

 でも、それ以上のことは無いわ。


 反抗して、状況が好転することなんて有り得ないから。


「とりあえず、今まで通りの統治で良いから。あ、美紗。飢饉とか疫病とか流行ってないよね?」

「そこんとこは問題ねぇよ。サウス・マータはきちんと自立してる。が、みーくんマジで?」


 呆気に取られるのは縛られている勇者達だけじゃない。

 私達だってそう。


「僕が得る報酬は1つだけ。それは美紗だ。あとのことは話し合って決めよう。僕がノース・イートの魔王として言うべきことは1つだけ。『今まで通り統治せよ』の1点だけだ」


 ……改めて、ジェイドの頭の中が見える私から見るジェイドが異質過ぎるのよね。


 問題は、ジェイドがたったこれだけの言葉で相手にも真意が伝わった気でいること。

 更なる問題として、ジェイドの言葉を額面通りに受け取ったとしても、全く問題ないということ。


 だから、ジェイドは『最弱』に見える。

 もっとも、ここにいる全員、ジェイドが最強の魔王であると理解しているわ。


 だから、みんな、何も言えない。


 私以外は、理解できていない。


 そう思っていた。


 切り出したのは、想定外の場所からだった。


ーーーー ジャック・ザ・ニッパー ーーーー


 まじかよ。『射矢角イヤホーン』はジェイドの心の声まで丸聞こえか。

 

 ほんわかしたガキのくせに、変なタイミングでいつも魔王化しやがるし、何かあると思ってたが、そうじゃねぇんだな。


 根っからの魔王。

 それが、ジェイド・フューチャーだってことが、俺様の中で決まった。これが結論だ。


 それを踏まえてジェイドに問う。


「なぁ、ジェイド。もうちょい細かいとこまで言っとけや。それが嫌なら、せめて『監視の上で……裏切ったら消し飛ばす』も付け加えとけ。後で出てくるゴタゴタをコッチに押し付けてくんじゃねぇ」


 ジェイドの目が薄くなる。


 そして、『殺害衝動時覚醒』が発動した。


 ジェイドは無言。

 

 だが、吐きそうなくらい空気が重くなる。


 俺様の力は、今まで見たこともねぇ数値になった。

 一瞬だけだがな。


 もう、目の前にはいつものジェイドが、にこやかな顔をしていた。


「そうだね。ジャックの言う通りだ。当然、サウス・マータには監視のため『【星ノ看守】スタージェイラー』は残すし、『核魔法』も今は1発だけ衛星軌道に乗せてある」


「うーわ、みーくん、うーわ」


 ミサが引いた言葉出してっけど、内心楽しんでやがるのは心の声聞かなくても分かる。

 コイツ、本当に勇者だったんだよな?


「ま、何が言いたいかというと、だいたいはジャックの言う通り。でも、別にノース・イートのお願いを全部聞けって言ってるんじゃないよ? 多少の損はこちらも受け入れる。だから、話し合って決めよう。というのは嘘じゃない。ただ、裏切ったら、ゲートを塞いで核魔法を全部落とすよ。っていう話。分かったぁ?」


 勇者ネイと俺様以外は、首をすぐさま縦に振る。

 ミサはご満悦だが、それ以外のヤツの顔は青い。もちろん、ウーサーもだ。


「でもね、ジャック。今、コレを話しちゃうとみんなが萎縮して僕だけの話になっちゃうの。もうちょっと後で話してくれると良かったなぁ」


 ジェイドは俺様の前で見上げてくる。

 まるで見下されてるような感覚に陥る。

 それでも、俺様は挫けねぇ。


「これで今後の運営に支障が出るようなら……って思ったけど、ネイさんが大丈夫そうだから気にしなくて良いよ」


『というか、聞こえてるってことだよね?』


 俺様は2つの意味で体がビクッと震えた。


『読むじゃなくて、聞こえてるのかー。良かったね、フーリム。仲間がデキたよ?』


「勇者ジャック。ちょっとだけ、本当にちょっとだけで良いから大人しくしてて」


 いつの間にか魔王代行の女が横にいた。


『これあんたのために言ってるんだからね? 勇者ネイのこと、何とかしたいんでしょ?』

『んぁ? 見たのか?』

『そりゃ見るわよ。ルナの頭がソレかジェイドのことしかないんだもの』

『あんの頭の中おっ花畑がぁ!』

『あんたも似たようなもんよ! 何焦ってるの? 力の使い所をちゃんと考えなさい。今回は特別に私も手伝ってあげるから』

『なんで、んなことすんだよ?』

『え? もちろん、それがジェイドのためだからよ。それに放っておいたら、一つも面白いことにならないじゃない。私は面白いことが好きなんだから』


 心の会話が繋がる。

 俺様は焦っている。

 まぁ、そうだよな。焦るわな。


 ジェイドは本気で、サウス・マータに大したことはさせないつもりでいるし、しないつもりでいる。


 そいつは分かってる。


 だが、それを分かってねぇヤツが1人いる。


 誰だと?

 

 ソンナやつ、1人しかいねぇよなァ?


 良いな? ジジイ。

 ぜってぇ自害なんざさせねぇ。


 ただ、穏便に済ます方法がマジで思い付かねえ。


ーーーー Norinαらくがき ーーーー

ルナ脳内:桃色のお花畑

ジャ脳内:血色のお花畑

ジェ脳内:新婚旅行&将来設計

ミサ脳内:初夜へのイメトレ


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