23-6アイシテルミッツ三帝会戦⑥

ーーーー ミシェリー・ヒート ーーーー


 なんや?

 空が赤いのは変わらんけど、雷ゴロゴロゆーとる。

 まだ雷鳴だけやけど、あ、雷落ちた。


 え? 落ちたやんな?


 なんで、光の柱が一本、二本、増えとんの!?


「敵味方、関係ねぇ技だから、人間にも当たっけど……」


 勇者生きとるやん。頑丈な身体しとるなぁ。

 まぁ、上半身起こすだけで精いっぱいみたいやけど。


「魔族特攻の雷柱。それが『βパルス』だ。魔族が当たれば、間違いなく死ぬっしょ! せいぜい、当たらねぇよーに、逃げるんだなァ!」


 うーわ! 最後の最後にやってくれよるわぁ!


 今、雷柱は四本……五本目ができた。


 それが? どーやって当たるって?


 柱、動くん?


 あ、動いた。


「に、にげろぉおお!」


 魔族一同見事に散開。


「ちょ! みんなウチ置いて逃げるんやめぇやぁ!」


 しかも、めっちゃウチ追い駆けてきょーるやん!

 

 あかん、雷柱六本に包囲されてもぉた。


「あ、死ぬ……」


 倒れ込む雷柱。

 これでぺしゃんこにされたら、魔族特効とか関係無く死ぬやつやん。

 

『Starting Halation × Homura』


 頭に響く音。

 ソレは『焔』。

 正しく言うなら、ナニかと焔や。


 空から渦巻く『焔』が、雷柱を捕まえとった。


「なんでエエとこばっかでウチを助けるよーに発動すんやねんコイツ……ゥヒィッ!?」


 いきなし雷柱一本放そうとしてくんなや!


 この『焔』ウチがビビるん見て楽しそうにユラユラ揺れとるな。


 でもな、唐突に雷柱を全部消すんはナシやで。


 ナニが起こったか理解できひん。


「は? 消えた? んなバカな! 注いだ魔力はまだまだっしょ! 最低でもあと5分は!」


 勇者が青褪めとる。


 この一気に消える感覚、『焔帝』やんな?


 魔法は相変わらず使えへん。


 でも……。


「そういうことね。ヒデオ、離れなさい。ここにいたら、巻き込むわ。どうなっても知らないわよ」


 ヒデオはビシッと敬礼して逃げるように離れた。


「いつもの『焔帝』とは感覚が違う。性質が違う? いえ、効果が違うと言った方が正しい? まぁ、使えば、解るわね」


 完璧やないけど、扱える。


 少なくとも、これから放つ一撃の制御だけは可能。


「だったら! この一撃に、全てをかける! 起動せよ【焔雪煌都】ユキノハレーション!」


 赤い空は、鮮やかな紅に染まる。


 ヒラヒラと舞う紅の雪は、次第に集まり、渦となる。


 集まれば集まるほどに風を巻き込み、焔の旋風を生み出した。


 誰がどう見ても、火炎の竜巻。


 それが、勇者と勇者軍、そして勇者軍に絡んでいた帝国軍にも襲い掛かる。


 通常であれば、即死。


 しかし、1つ疑念がある。


「この称号スキル、最初っから邪魔しかしてへんのよな……」


 定石の何かが起こりそうな度に、妨害しかしてこない。


 そして案の定……。


 火炎旋風が通り過ぎた先にはーー。


「ファッ!? はぅっ!? んん! んんん!?」


 一糸纏わぬ勇者モロモロの裸の姿やった。


「ちょ待てぇや! 鎧剥がした時はまぁだ分かるけど! そこから脱がす必要あらへんことないかぁ!?」


 ウチは誰にともなく文句言うけど、意味無いんは知っとる。

 でも、叫ばずにはいられへんやろ。


 もちろん、じっくり見たい気持ちはあるけどな?

 今はその時やないやろ。

 ウチにも気分ってもんがあるんやで?

 もっと、こぅ、リラックスした時とか、寝る前とか、風呂とか、そーゆー気分の時があるやろ。


「せめてワイバーンモバイルネットワークの記録媒体があれば……。ん? なんでこっちに戻って来とんねーん!?」


 ウチに考えてさせてくれる暇もくれんのかい!


 火炎旋風リターン。


 めっちゃウチ狙ってきとる。


 もう言うこと聞かへん。


 なんやねんコイツ。


 ここでウチまでひん剥かれたらどうなる思ぉてんねん。


 男どもの中で魔法も使えへんウチが同じ目に遭うたら、魔族と人類の立場逆転やん。


「イヤやぁああ! 薄い本になりとぉなあいィイ!」


 初代魔王のチゥ様が残した通称『薄い本』には、カワイイ魔族が人類に捕まったらどうなるかを記してあったんや。


 もうこれで終わった。

 何回目か知らんけど、今度こそ終わった。


「させねぇぜぃ! ヤロウどもぉ!」

「「「おぉう!!!」」」


 ヒデオと愉快な鉱夫達がウチの前で壁になってくれる。


 でも、火炎旋風通過……ま、瞬脱ぎやんな。


「いやんでぃ……」


 恥ずかしそうにモジモジすんなやぁ!


 壁の意味は無くて、火炎旋風が、私の上を通り過ぎる。


 暖かい風が、ウチの肌を撫でる。


 そして、涼しい風が、直に当たる。


 今、ウチ、裸んぼや。


 恥ずかしくて、顔上げられへん。


 火炎旋風? コイツ、ウチを通った瞬間消えたわ。


 結局、戦場をむちゃくちゃに荒しただけやったな。


 防衛戦という観点から見たら勝ちやろうけど、ウチからしたら大負けや。


 きっと、みんなに見られて……視線、いっぱい感じる。

 やだ、怖い、恥ずかしぃ。


 戦場で晒し首になるならまだしも、大した戦闘してないやん。


 それやのに、ただ裸にされるって、それもウチの称号スキルで……命取られる方が、よっぽど……。


「もう、大丈夫、です」


 おっきな、服を掛けられた。


 ウチは、目を開ける。


 戦場に立つ男達の目は、ウチに向いとる。


 でも、焦点は合っとらん。


 誰が、どう見ても『魅惑』の状態異常になっとる。


「テンテン……よく、間に合ったわね」


「お褒め、預かり、光栄……あだぁっ!」


 ウチはテンテンに拳骨を落とした。

 

 涙目で、無言の抗議を受けるけど、ウチは拳を温めながら、もうイっぱついる? とジェスチャーして見せる。


「そもそもテンテンが気ぃ失ぅとらんかったら、こんなことにならへんかったんやで? 褒めるんやったらシッシや。よぉやった。ウチから個人的にたっぷり礼させてもらうで。ナニが良いか考えときや」


 シッシは布で目隠ししたまま優雅にマッスルポーズ。

 それはかしこまりましたって翻訳でええんよな?


「テンテンには、どーんな罰を与えたろーかな?」

「ぴぃ!」


 ナニがピィや。カワイイ悲鳴出しよって。


「……お言葉ですが、総司令。罰、というのは少々厳しいんじゃないかと」


 シッシは目隠ししながらも、今度はちゃんと頭を下げてゆーてくる。


 ウチは戦場を見る。


 全ての者は、テンテンの力で『魅惑』に罹っている。

 勇者がちょいそろそろ切れそうな怪しいところやけど、テンテンの戦果であるのは間違いあらへんな。


「分かったわ。シッシの言い分を聞きましょう。テンテンには追って正式な沙汰を出すけれど、きちんとした賞罰を与えることにするわ」


 テンテンは首を傾げる。

 そらそやろな。他はどうか知らへんけど、魔王軍の賞罰規定としては、基本的に差し引きして、賞か罰か、どっちかを与える。

 

 今回のテンテンは特別や。

 ウチの私怨が入っとるからな。


「今、私が考えているのは、ジェイド様からテンテンへの絶対命令権の丸一日行使よ。分かりやすく言うなら、『テンテンは丸1日、ジェイド様からのどんな命令も必ず実行しなければならない』ということよ」


 目が点になるテンテンとシッシ。


「もちろん、現時点では案だし、ジェイド様がそれで良いと申されればの話。もし、実行される日が来たら、分かっているわね?」


 テンテンは、片膝を付き、顔を伏せて承諾した。


「はい。死ね、言われたら、死にます」


 カッコいいことゆーとるけど、口元ユルユルなんは分かっとるからな?

 ヨダレでバレバレやで。


「良いのですか総司令? いきなりご褒美になっていませんか?」


 耳打ちしてくるシッシ。


「だってジェイド様やで? 多分、何もせぇへんよ。それこそ『じゃあ、1日部屋でゆっくり過ごしてね』って言うと思うで」


 首を傾げるシッシ。

 あー、ジェイド様の素が超絶フランクなん理解してへん顔やな。


 ま、そのうち知られることになるやろうし、そのへんは放っとくわ。


 さて、あとは、勇者やな。

 

「お互いに、ツイてへんかったなー」


ーーーー Norinαらくがき ーーーー

Blu-rayでは、謎の光は全部取れます。

ヒデオ:ぃやんでぃ(〃ω〃)


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