23-7終わりと始まり

ーーーー ポン・デ・ウィング  ーーーー


 お互いツイてねえ?


 何がだよ。結局ソッチが勝ってっしょ。


「俺っちの負けだ。殺せ」


「嫌よ。もう戦闘は終わったわ。よって、魔王国憲法の捕虜規程に則り、勇者ポン・デ・ウィングを捕虜とする」


 抵抗……は意味ねぇわ。全然力入らんし。


 閣下はズタボロ。城まで退かせたは良いが、歩く程度ならともかく、ありゃしばらく動けんっしょ。


 ショーコも無事っぽいけど、捕虜だろ?

 

 あとはアイとロドラだけかよ?


 アイは、なんだアノ動き……。


 ロドラが無事なら良いけど……ん?


 なっ!? 空っ!? ナンダアレ!?


ーーーー ノウン・マッソー ーーーー


 あたし、今、サイコーの気分っ!


「ハハッ! ハハハッ! ハハハハハッ!」


 剣戟の嵐は決して止まることなく、アイも瞬きすらせず、笑って剣を振り続ける。


 ジェイド様から貰った称号スキル『マリッジゴールド【炉心融解】』の使い方も分かってきた。


 体の自由が利かない代わりに、限界を超える。

 目の前の敵に対して、どちらかが倒れるまで戦闘行為を止めない。


 あたしの自慢の筋肉がブチブチ言ってる。


 明日は何十年かぶりに筋肉痛だなっ。 

 

 完全に、実力は互角。


 勝っても負けても、きっと気分は清々しいと思う。


「あぁ! 楽しいねぇ! 不謹慎だけど、この時間が、永遠に続けば、良いのになぁ!」


「はははっ! 言えてるっ! あたしは、もうちょっと、イケるよっ!」


 ホントは、もう限界だけどなっ。

 限界突破したまま、ずっとヤり合うの、ただ楽しいから、続けてただけ。

 スキルの効果が切れそうだから、いつの間にか口だけは自由に動くようになってるしなっ。


「あたいも! もうちょっとだけ、イケる! だからぁ! 最後まで、突き抜けてやるぜ! お前も……来いよ、ノウン・マッソー!」


「アイ! だったら、一言、言っとくっ! またヤろうなっ!」


 アイは、驚いた顔をした後、少しだけ、寂しそうに笑った。

 きっと、あたしも同じ顔してるっ。


 分かってる。


 次が無いことくらい。


 それが、死合だもんなっ。


「あぁ! 約束だ! あたいとの!」


 アイは、突然アイスソードを投げ捨て、ゆっくりと歩いてあたしとの距離を取り、腰を落として構える。


 あたしは、何もしない。

 『マリッジゴールド』は、アイに合わせて、構えを取った。


「これが、最後の、魔王専用の必殺技だぁ! 『パワーイズパワー』起動!」


 空気が震える程の闘気。


 前魔王、バウアー様以上の力を感じた。


 以前のあたしなら、間違いなく、命乞いをするくらい。


 でも、『マリッジゴールド』のせいで、あたしには闘うしか道は無い。


 もちろん、タダじゃやられない。


 この数秒、ジッとしていたのは、この一瞬、この一撃のためだもんな。


 あたしの最後の一撃は、どんなヤツでも絶対にぶっ飛ばす。


 黄金に光るあたしの右手が、全てを教えてくれた。


「いくぜぇ! ノウン!」

「来なっ! アイ!」


 そして、あたしとアイの拳が交差する寸前……。


「私の話を聞きなさぁあい!」


 目の前が、真っ白になった。


ーーーー フーリム・D・カーマチオー ーーーー


 アイシテルミッツの丘に戻って来た私達。


 私は、散々戦闘を中止するよう警告したのに、ノウンも勇者アイも全部無視しちゃって、アッタマ来たからポチッてやったわ。


 大丈夫。

 非殺傷モードだから、気絶してるだけよ、多分ね。


 ジェイドから貰った『【宇宙要塞】ダイワクロス』ってスゴいの。


 空飛ぶ船なんだけど、かなり大きいの。

 ジェイドに教えてもらった地球の飛行機にも似ているわね。先端は丸くないわ。全体的には角張っている感じかな。


 魔族100人くらいが十分生活できるわね。

 食糧庫も立派よ。今は空っぽだけど。


 砲撃能力も凄まじいわ。


 軽くポチッただけなのに、アイシテルミッツの丘が真っ白になっちゃったもん。


 殺傷モードは、ちょっと怖くて使えないかな?


 それにしても、魔力で動いてるとは思うんだけど、どこにそんな魔力があるのかしら?


「む? フーリム、多分、今ので魔力切れなの」


「ふぇ?」


 ラナに言われた瞬間、ガタンとダイワクロスが傾く。


「ワレ、もぉ、無理ゾ……」


 同時に捕らえていた勇者ロドラも干からびた顔して倒れ込んだ。


 魔力、勇者から貰ってたんだね。


「でもどーしよ! ラナ! このまま墜ちたら死んじゃう!?」


 焦る私に、ラナは寄り添ってくれる。


「任せるの。今から、『逃』げるの」


 ラナは私の腰に手を回し、ロドラの首根っこを掴んで、シュタッと丘の上に立つ。


 そして、傾いて墜落しそうだったダイワクロスは消えた。


 私の中に戻った感覚がある。


 多分、何かの条件を満たせば、また召喚できそう。


 ジェイドと相談だね!


 あ、ドランも帰ってきた。


ーーーー ウーサー・ペンタゴン ーーーー


 ドランの背に乗ってアイシテルミッツの丘まで帰ってきたのである。


 勇者ロドラは、魔王代行と勇者ラナが捕縛。


 勇者ショーコは、我らが捕縛。


 勇者アイは、四天王ノウンとノビている。


 勇者ポンは、半裸の親衛隊隊長ヒデオが捕縛。


 そして勇者ネイは、ルナとジャックが連れてきた。


 誰しもが、無言で空を見る。


『あーあー、情けねぇなぁ。でも、ソレが結果だ』


 容赦ない勇者の言葉が、負けた勇者達に浴びせられる。


『僕としては壮観だね。みんな、よくやった。想定以上の成果だよ』


 そして我々には、惜しみない魔王からの拍手。


『でも安心しな。ここからは、俺の時間だ』


 黄昏の勇者の声に、サウス・マータの勇者は奮え、我々は震える。


『あとは、僕が頑張るだけか。んー、まだちょっと不利なんだよねー。負けちゃったら、ゴメンね』


 余計と不安を煽るノース・イートの魔王。


 その不安は敗北するかもしれないという不安ではない。


 なぜなら、ずっと含み笑いしているからである。


 不安を通り越して恐怖である。


 もはや、我々にできることは1つだけ。


 結果を見届ける。


 ただ、それだけである。


ーーーー Norinαらくがき ーーーー

前座、終わり!


魔王 VS 勇者


次回、1話で書き切るよ!

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