23-1アイシテルミッツ三帝会戦①

ーーーー ポン・デ・ウィング ーーーー


 俺っちは閣下やミーシャと事前に打ち合わせた通り、会敵後離脱、遅れて偵察して地形を確認した後、一万の兵を連れて来るために戻った。


 ミーシャにはもっと早くとか、状況に応じてとか色々言われたけど、無理っしょ。


 だって戦況なんか見えねぇっての。


 しかもなぁ、こいつぁ予想できねぇっしょ。


「閣下! ひとまず俺っちに掴まれ!」


 倒れていた閣下を、ノース・イートの勇者っぽい人間2人から掠め取るように奪い去る。


 空からの急降下、そこからの離脱。


 2人は呆気に取られた顔をしてんだが、なんだその目?


 なんで、哀しそうで、憐れんだ目をしてやがんの?


「ポン、よ。はやく、奴らを、奴らを殺すのである」


 閣下はか細く呟いた。


 魔族は殲滅。魔族に与する者も同罪。


 いつも閣下の言ってたことだもんな。


 じゃあ、計画通り、進軍開始だ。


ーーーー ルナ・ティアドロップ ーーーー


 ネイさんが翼の生えてる勇者に連れ去られました。


「良いの? 撃ち落とさなくて」


 ジャッくんに念の為聞いてみます。


「俺様の勘によると、あのジジイは向こうの陣営に置いといた方が爆弾になる。戦況的には不利だろうがな」


 私は頷きました。

 ジャッくんから衝撃的な話を聞き、ネイさんも事実であると認めましたから。


 これを公表すれば、間違いなくサウス・マータ陣営は崩壊します。

 それどころか、破滅すると思います。


 ただ、公表する手段がありません。

 タイミングを見誤れば、爆弾は爆発しない。


「だからこの件はジェイドに任せる。つーか、ジェイドが勝てば丸く収まんだろ」


「うん! そうすれば、みんなハッピーエンドだね!」


 ネイさんだけは、ハッピーになれないかもしれないけど、きっと今よりは良い。


 と、私は思います!


「つーかルナ、そろそろ下がるぞ。ここから先が、ウーサーの言ってた通り、ジェイドの予想してた集団戦だ」


「うん、これで裏切り者が分かるって話みたいだけど、ホントに私達が出なくて良いのかな?」


「俺様達が出たままだったら裏切り者が出てこねぇっつー話だろ」


 その時、世界に音が鳴りました。


・-・-- ・- ---- ・・・- 


・・- ・・・ -・-・・ ・・ --・


 それを聞いたジャッくんは天を仰ぎました。


 私は覚えられなかったので、このモールス信号を解読できません。


「この戦争が終わったら、あのモヒカンを刈り上げてやる」


 でも、私は悟りました。


 しばらくは、休憩でーす。


ーー ヒャッハー・エンドセントリー7世 ーー


 今日も我がモヒカンは反り立っている。


 実に立ちの良いモヒカン。


 今日は素晴らしい日になるだろう。


 いつぞやの文献で見たことがある。


 インデペンデンス・デイ。


 つまり、魔王国より独立した日。


 良い、素晴らしい響きだ。


 状況は理解している。


 ノース・イートが魔王ジェイドに統一され、サウス・マータなる異界の勇者が魔王より我らを解放せんがために進攻してくるとのこと。


 書簡が届いた時には目を疑ったが、ロゥガーイやキレーヌから異界間戦争が始まると聞き、全て真実と悟った。

 魔王の下僕に成り果てた哀れな者たちよ。

 我も今は下僕同然だが、牙は常に研いである。


 直ちに独立軍を編成し、アイシテルミッツの丘へと兵を進めてきたが、魔王ジェイドもアホとしか言いようがないな。


 援軍のためという嘘の軍編成をアッサリと許可したのだから。


 そして、見晴らしの良い丘に立つ。


 各軍、展開完了というところか。


 さぁ、どちらにつくべきか?


「悩ましい。実に、悩ましい。ハーッハッハ!」


 我は高笑いしながら、戦場を見下ろすのだった。


ーーーー ポン・デ・ウィング ーーーー


 魔王軍は3千、俺っちが1万、そんでもって、無茶振りだったはずの5千を引き連れてきた帝国軍。


 ちょいとミスったっしょ?


 5千は魔王が渋るだろうから、半数も来れば万歳的なことをミーシャも閣下も言ってたが、全部となると逆にやべぇって。


 勇者にも、魔王にも、どっちにも加担できる。


 つまり、帝国軍の動き次第で勝敗……はともかくとして損耗率が決まる。


 正直、俺っちの連れてきた部隊は掃討戦用だったんどけどなぁ。


 まぁ俺っちもいるから会戦に対応はできるが……。


 問題は俺っちの翼に穴開けてきた奴ら。


 重装兵士は少ないが、奴らにはコレをぶつけるのが正解。


 あとは魔王軍の司令官が俺っちと同等の力が無けりゃ、こっちの勝ちだ。


 数で、すり潰す。


 さぁ、帝国軍、勝ち馬は、コッチっしょ!


ーーーー ミシェリー・ヒート ーーーー


 やっぱ帝国が裏切り者やったんやな。


 援軍申請なんて、ええことするやん思っとったのに。


 ちなみに、許可したんはウチやから。


 5千なんて独立軍、普通は許可せん。


 ジェイド様から、裏切り者がどこかにいる可能性アリっちゅー話聞いとったからな。


 ウチは帝国軍がクロと踏んで許可したわ。


 おかげで、敵さんの兵力も想定内。

 

 勇者軍、甘々やろ?


 帝国に5千の兵出させたら、大体その2〜3倍の兵力でやってくる言うとるよーなもんやで。


 役に立つ数を裏切らせんとあかんからな。


 それとも、5千がそのまま通る思ぅてなかった?


 はんっ! ジェイド様考案のデラックスチョコバナナクレープホイップ盛々並に甘いな!


「あんのー、ミシェリー総司令? 心の声が漏れてますがー」

 

 ぷぇっ!? なんやてヒデオ!?


「ごっほん! んん! あーあー。そう、ゴメンナサイね。少し、はしたないところを見せたわ」


 私は全力で取り繕うが、謝るところは謝っておく。

 ヒデオも管理職。

 きちんとするべき時はきちんとしないとね。


「まぁおいらにしか聞こえてねぇとは思いますが……。帝国の裏切りは予想通りということですかい?」


 ふぅー。それなら被害は最小限やな。

 でもヒデオ、ちょいとちゃうんやで。


「現時点で、帝国はまだ裏切っていないわ。戦況次第で、どちらにも行けるようにしたの」


 ウチの独断でな。

 そのための魔王軍3千や。

 理由は1個だけや。


「どちらにも? 魔王軍に付かせるようにすりゃ良いんじゃねぇんですか?」


 ジェイド様ならそうしたやろな。


 でもな、ジェイド様の戦術は、味方の被害を殆ど出さんのんや。


 そしたらな、第2、第3の帝国みたいなんが出てくる。


「それじゃあかんのよ。帝国軍には、見せしめになってもらわんと」


 これからウチらで帝国軍を適度に追い立て、適度に勇者軍にぶつける。

 最終的には全てを。

 それでもって、裏切ろうとした者の末路を見せるんや。


 そのために、魔王軍は強過ぎず弱過ぎない戦力だけを敢えて持ってきたんや。


 勇者軍も、わざわざ裏切ってくれた帝国軍に全力で攻勢なんか仕掛けへん。

 少なくとも、すぐには。


 ただ、1個だけ問題があんねん。


「ウチ、今日いっぱい魔法やスキル使えへんからなぁ。『焔帝』も使えへん。ホンマどーしよ」


 『焔帝』使ぅて、勇者軍牽制して、帝国軍追い立てるつもりやったからな。


 そのせいで、今んとこ、ボロ負けしそうなくらい不利やもんな!


 ジェイド様、助けてくれんかなー? チラッ?


 ふふ、ちょいちょいジェイド様。


 冗談やて。


 冗談やのに、なんで?


 なんで『【焔雪煌都えんせつこうと】ユキノハレーション』って称号スキル光らせとんねーん!


ーーーー Norinαらくがき ーーーー

これがやりたかったシリーズ。


〘アイシテルミッツ三帝会戦〙


タイトル由来。

歴史より、アウシュテルリッツの戦いor三帝会戦、と授業では習うところ。


【焔帝】【天帝】【皇帝】が一同に集う集団戦&心理戦。

是非御笑覧くだしぁ。

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