22-3勇者VS勇者②

ーーーー ネイ・ムセル ーーーー


 危うい力を持つ勇者である。


 この『殺』という勇者の力、単なる力という点だけで見れば、吾輩をも上回る。


 そこの『月』と言い、ノース・イートには優秀な勇者が揃っておる。


 ただし、未熟。


 未熟ゆえに、吾輩には届かぬ。


 魔王になら届いたであろうに。


 魔王になら……。


 …………。もう、終わったことである。


 早く、全てを終わらせ、魔王を、撃滅する。


ーーーー ジャック・ザ・ニッパー ーーーー


 このジジイ、大して動かねぇ割に立ち回りがとんでもねぇ。


 キチッと死角からナイフ飛ばしてんのに、気配だけで察知して弾きやがる。


 しかも、急所狙いだけを的確にだ。


 そもそも急所以外のナイフ投擲は生身で受けてやがる。

 全部弾くとか、どういう肉体してんだよ。


 ドランの反射で片足イッてっからこの程度で済んでんだろーな。


 健在だったら絶対勝てねぇ。


 そう思わせる程には強ぇ。


 俺様は一旦距離を取る。


 んで、俺様の頬を眠気覚ましにぶっ叩く。


 いてぇ。


「ジャッくん!? 混乱した!? 叩いたら治るよ! 私が叩こうか!? 峰打ちだから死なないよ!」


 混乱してんのはてめぇだ。

 

 つーか、ルナの俺様に対する殺意高くね?


 ルナに対して殺意ねぇのに覚醒条件満たしてんだけど。


 相手からも殺意あれば覚醒すんだな。


 俺様は改めてジジイを見据える。


「多少、マシな目になりおったか」


 ジジイの視線が目の奥に刺さる。


 俺様の視線が、少しだけブレた。


 くっそ、まだ俺様はビビってんのか。


 ナニにビビってんのか俺様自身、なんとなくしか分かってねぇが。


 ジジイが足の治療をしようと手を伸ばす。


「させっかよ」


 俺様の渾身の一撃を、その手とから足に食らわそうと思ったが、一歩分、身体がズレるように動いて避けやがり、大剣の縦斬りが俺様にお見舞いされる。


 もちろん避ける。


 所々動きが見えねぇな。


 このジジイの覚醒能力か。


 10万どころじゃねぇだろ。


「気付きおったか。魔王に下ろうが、腐っても勇者であるな」


 言い返してぇところだが、事実だから言い返せねぇ。


 ルナは慌てて自分の体臭を嗅いでやがるが無視だ。


「吾輩の『戦闘時覚醒』と『天下100日』は連動しておる。一生で100日分の時間しか覚醒できん。とんでもないデメリットじゃ。しかし、更に10倍消費させることで、覚醒値の10倍の力を発揮できる。任意の時間だけであるがな」


 ……やっぱそんなところだろうよ。


 だが、10倍だぁ? 100万パワー出せんのかよ。


 ジェイドや四天王ノウンじゃねぇか。


 どっちも条件付きだが、ジジイはいつでも?


 勝てる訳がねぇ。


「そう思わせて退かせる。セコい考えしてんなぁジジイ!」


 渋い顔してやがる。


 俺様の心を読んだ上で返してやった。


 ザマァ。


 だが、対策はねぇ。


「であるなら仕方あるまい。10秒。心の根本から叩き折ってくれる」


 ここから先、ジジイの言う通りになった。


 俺様は、嘗てない程にボコボコにされ、地面に突っ伏した。


 あーあー、いつからだ?


 俺様が、こんなにも役立たずになっちまったのは。


ーーーー ルナ・ティアドロップ ーーーー


 ぴぃ!


「いやだー! 追い掛けて来ないでぇ! 『七星天の霹靂』、ソコォッ! あーん! また避けられたァー!」


 私は今、ネイさんに追い掛けられています。


 ジャッくんがフルボッコにされてダウンしているので、私が標的です。


 でも、ジャッくんでだいぶ力を使ったせいなのか、足取りが重いです。


 私の足でも、今はまだ逃げられています。


 そして、振り向きざまに一撃。


 また避けられました。


『七星天の霹靂』はジェイド君に貰った称号スキルです。

 どんな技なのか。

 メテオです。

 コロニー落としです。

 そのちっちゃい版です。

 起動まで30秒、とっても長いです。

 その間にジャッくんがボコボコにされましたが、あと4発、空に待機させています。


 結構大きくて、秒で地面に着弾してくれるのでかなり強いはずなのですが、ネイさん、なんで避けられるんですか!?


ーーーー ネイ・ムセル ーーーー


 なんじゃこの魔法は!?

 いや、称号スキルか!


 広範囲の大質量落下、爆発の範囲こそ広くはないものの、爆風の余波を受ければ足の動きが制限されおる。


 それも、一発爆風を受ける毎に足が重くなる。


 次、喰らえば危うい。

 その次は、直撃を受けるしかないのである。


 そもそも、10秒も『殺』の勇者に費やしてしまったのが誤算であった。

 

 10秒以内にカタをつけるつもりであったが、吾輩の見通しは甘かったと認めざるを得ぬ。


 じゃが、タダで終わるつもりもない。

 毛頭、負けるつもりもない。


 ここに立てば、良いのであるからな。


ーーーー ジャック・ザ・ニッパー ーーーー


 薄っすらと、声が聞こえる。


「そーれーは、さすがに卑怯だと思うなぁああ!?」


 ルナがブチ切れてやがる。


 ナニがあった?


 俺様は……そうだ、ジジイにボコされたんだった。


 生きてんだな。

 

 勇者が思いの外頑丈だったのか、ジジイに手加減されてんのかは分からねぇが。


「ふん、好きに言うが良い」


 んぁ? ジジイの声がすぐそこから……。


 俺様は俯せに倒れたまま目を開け、顔だけ上げる。


 辺り一面に大穴が3つ。

 空に4つのでかい岩の塊。


 ルナがブチキレるのも納得だな。


「『真』の勇者っつーのは、敵も盾にするただセコいだけのヤツみてぇだなぁ!」


 俺様を安全地帯の代わりにしやがって。


 ジジイの足を攫みながら叫んでやった。


 当のジジイはコッチなんて見向きもせず、風魔法の塊を俺の頭にぶち込んでくる。


 俺様は地面に顔面ダイブ。

 血の味しかしねぇ。


 それでも、顔を上げて言ってやる。


 ナニをだ?


 色々言ってやりたかったのに、言葉が出ねえ。


 頭が揺れてんのか、吐き気もひでぇ。


『後頭部に、風魔法による強力な打撃。即死しないのは、弱いとは言え、勇者ゆえであろうな。死なれると撃ち込まれて困ると言えば困るが』


 ジジイの声が遠い。

 俺様の手から、力が抜ける。


 ルナが何か叫んでやがるが、残念ながら聞こえてこねぇ。


 だがよ、遠くても聞こえてるぜ。

 ジジイの声は、ハッキリとなぁ!


『なんじゃコイツ。急に力を……回復魔法か!?』


 ちげーし。


 『射矢角』を起動させただけだ。


 俺様は、自力で立ち上がる。

 大した回復魔法は使えねぇからな。根性だ。


 使うつもりはなかったが、それで負けたら元も子もねえ。

 別に、読み方が分からなくて起動できなかった訳じゃねぇかんな。


 こんなおもしれぇ技、使わねぇと勿体ねぇだろ。


 ジジイの背中に突き刺した、俺様にしか見えねえ光。

 俺様の耳まで伸びる光の線が、ジジイの全てを曝け出す。


 つーかよ、ジェイド。

 シャレのつもりだろうが、シャレになんねぇぞこの称号スキル。

 

 まさか、ソレが目的かぁ?


 役立たずの俺様に、別の役割を与えて……。

 いや、そりゃ考え過ぎだな。

 

 だが、フッ、ありがとよ、ジェイド。


 『射矢角』と描いてイヤホーン。


 つまり、イヤホン・ジャックってな。


「なぁ、今ジジイがどういう状態なのか、俺様に教えてくれよ」


 俺様は嗤い、ジジイはその意味を理解して青褪めた。


ーーーー ルナ・ティアドロップ ーーーー


 ジャッくんが立った。

 頭から血がダラダラです。


 でも、ジャッくんは笑っています。


 ウサちゃんみたいに……というより、ジェイド君っぽい?

 

 私にさっき何て言ってたかなー? ぉん?


 激おこプンプンしている私を余所に、シュタッと私の横に立ってきます。


 すごく元気に見えるけど、ジャッくんの足はプルプルです。


 今にも膝が折れそうなので、回復魔法を掛けてあげます。


「ルナ、てめぇの魔法、残り4つの内、1つ落とせ。どこでも良い。当てる必要もねぇ」


「え? え?」


 急にどうしたのかな?


「……ジェイドから貰ったスキルがえげつねえことが判明した。とにかく早く落とせ」


 あ、なるほどね!


 私の『七星天の霹靂』もアレだもんね!


 ジャッくんもどーせ似たようなものだよね!


「うん、分かった!」

 

 私は深く考えることを止めて、即座にメテオを1発落とします。


 何かを察したネイさんが剣を構えて駆けて来ますが、遅いです。


 反応が、というより、足がです。


 メテオが落ちた瞬間、さらに遅くなりました。


 あれ? 素早さダウン的なデバフ入ってるのかな?


 どうしてジャッくん知って……。


「うん、私、分からない!」


 私は自分に言い聞かせます。


「おいルナ、どうし……まぁ良い。ついでだジジイ! てめぇの弱点教えろや! それこそ他人に知られたら自決モンのやっべぇヤツをなぁ!」


 なーんーで!


 ジャッくん!


 それ!


 私や他のみんなにも言っちゃイケナイヤツだと思うというか確信しちゃったと言うか、ん嗚呼ああ!


 てゆーかさぁ!

 

『全部、ジェイド君が悪いと思うなぁ!』


「ああルナ、俺様も、そう思う」


 うん、私、分からない!


 私が口にしてない言葉に、ジャッくんが返事したことなんて、私知らないもん!


「……正直、やべぇもん聞いちまった」


 あーん!


 私の決意を揺るがすこと言わないでぇ!


 ジャッくんの青褪め方、『昼メロ』系の芳ばしい薫りがするぅ!


 私の大好物なのにぃいいい!


 でも、絶対に、私からは、関わってやらないんだもんね!

 

ーーーー ネイ・ムセル ーーーー


 足が動かぬ。


 それは、勇者ルナの大魔法のせいか、足の傷を癒やす暇も無く悪化したゆえかは分からぬ。


 ただ、勇者ジャック。


 奴の反応を見る限り、知られてしまった。


 吾輩の秘密を。


 17年にも及ぶ、魔王との秘密を。


 どうするべきか。


 取るべき手段は限られておる。


「誰かに伝えられる前に、殺すのである」


 小さく呟いたつもりであったが、二人の勇者には聞こえていたようである。


「勇者ルナは生かす。勇者ジャックは殺す。それで文句は無いであろう。我が『天下百日』、その残り日数の総てを以て、必殺とせん!」


 1日1秒の消費を以て、『殺』を殺す。


 当然、反動は凄まじいものとなるであろう。


 数ヶ月は目を覚まさぬ可能性すらある。


 そうなった時、吾輩は勇者でいられるか?


 否、死して望もう。


 あの時、その覚悟が出来なかった吾輩が全て悪い。


 幸いにして、吾輩が再起不能になろうが、勇者は健在。


 全てを斬り裂く闘気を剣に纏わせ、万物さえも貫けぬ鎧を纏い、今、逝かん。


 土を蹴る。


 強力なデバフのせいで、思う速度は出ぬが、2人は反応できておらん。


 このまま、勇者ジャックを真っ二つにする。


 じゃが、どうしてであるか?


「なぜ、お主は、嘲笑っておる?」


 吾輩は、気付けば空にいた。


 そして、傷さえ付かぬはずの魔法の鎧が全て剥がされていた。


「やーっと俺様に完璧な殺意を向けて来やがったな? 苦労したぜぇ。『殺害衝動時覚醒』ってのは、相手の方が倍率良いんだよな。あと、俺様『防御貫通』持ちだから。魔法の鎧は意味ねぇし綺麗に剥いどいた。じゃ、あとはルナ、てめぇの仕事だ。今度こそ、キチッと当てろ。俺様じゃマジで殺しちまうからな」


「うん! 分かった! あと3発あるから! ちゃんと全部当てるね!」


「ん? おい、ルナそれ普通に死ぬんじゃーー」


 三度の衝撃。


 吾輩の意識は、最後の衝撃と共に、闇に落ちた。


 すまんかった、皆よ。


 すまんかった、アム。


ーーーー Norinαらくがき ーーーー

Another

ルナ:ジャッくん!? 混乱した!? 叩いたら治るよ! 私が叩こうか!? 峰打ちだからダメージ0だよ!

ジャック:じゃあ頼むわ

ルナ:【もろはのつるぎ】でみねうちしてあげる!

ジャ/ック:

━━╋⊂(*`-∀-)彡 スパッ!! (・Д| |・)

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