21-3龍の墓場⑧

ーーーー ウェスト・ハーラ 輪廻街道 ーーーー


 丈の短い浴衣のような服をきた少女が、星のように煌く道を駆ける。


「あれほど泣いておったのに、今はスヤスヤと……ゲンタ、オリシン……」


 少女は翼を広げ、赤子を抱っこ紐で包むように抱き、先に見える光の扉へ向かう。


『千桜龍サラン、このような形で託すことになってすまない。今まで、ありがとう。そして、我が子を頼む』


『サラン、あなたと共に過ごした日々、とても楽しかった。無茶なお願いを聞いてくれてありがとう。我が娘、ヌエをお願いしますね』


 2つの声に、少女は袖で目元を拭う。

 

 こちらの声は届かないと知っていたけれど、言わずにはいられなかった。


「ヌエは、任されよ。2人のことは決して忘れん。必ずや、立派に育てあげてみせようぞ」


 そして、少女は光の扉を抜けた。


ーーーー 千桜龍サラン ーーーー


 光の扉を抜けた先、そこは森じゃった。


 はて、不思議なことに、足を喰われた女子おなごが目の前におる。


 わらわより小さいのぉ。


 あと人間もおる。


 口から血を吹き出しておる者と、それを治す者。


 治癒魔法がなっとらん。それしきの魔力では血管すら修復できんわ。


 ぬぉ!?


 魔獣も二匹おるではないか!?


 一匹が黒焦げの尾を食べておる。


「……うまそうじゃ」


 おっと。走って飛んでと、激しい運動の後じゃったから思わずヨダレが出そうじゃった。


「パパを、たべちゃダメ!」


 パパ? ん? あの黒焦げのことかの?


 そう言えば、人間の姿をしているなら、妾の娘も今はこれくらいの子供じゃろうて。


 どっちに味方すべきが、ちょーっぴり悩ましいところじゃが、ここは、なんとなーしに……というか、かなーり妾に似ておるそこ娘に免じて、黒焦げの味方をしてやろうかの。


「さて、『エリクシール』起動」


 まずはこの娘を治療。


 でものぅ、これは予想外じゃろうて。

 

 立派な翼。

 これは、ドラゴンの翼ですのん。


「ママ?」


 まさか治した娘が龍種で、ここがサウス・マータで、黒焦げがドランで、この娘がフランだとは誰も思わんわぁ。


 翼を見て、顔も、よく見て……。

 どう見てもフラン。

 娘の顔、見間違える訳がないのじゃ。

 でも、信じれん。

 魂では、理解しとる。

 でも、頭が理解できとらん!


「んんんん? 妾、夢でも見とるんかのぉ? 生き別れになった娘のフランが見え……それどころか成長して……大きくなったのぅ。ところで、なんで足なかったん?」


「ママ、パパを……たすけて」


 そーいえば、ドランはどこじゃ?

 フランをこんな森に置いておくような旦那では無かったはずじゃが……。


 ピクリ、と、黒焦げが反応する。


「って食べられとるんかぁ! あんの黒焦げ、ドランかぇ!? かあああああ! わらわの旦那になんしよっとぉねぇえええええええん! フランの足を食ったのもおんめぇかぁ!? 『イージス』起動! ドランと妾達を守るのじゃ! 『エリクシール』ドランも! ついでにそこんの人間達も全回復じゃ!」


 黒焦げが全回復。

 やっぱドランだったのじゃ……。

 そいなら、フランも、モノホン!?

 夢じゃけど、夢じゃないんじゃー。


 むくりとドランが体を起こす。

 

「腕が……両方治って……なぜです……ッ!? サラン!? どうしてあなたが……夢では……無いのですね?」


 わー、モノホンのドランじゃー。


 再会の喜びどころか、何の感情も湧きもせんのは、あまりに突拍子もないからかのぉ?


「わらわもどーしてこーなっとるかはよぉ分からん! 詳しぃことはそんのでっかいのを片した後じゃな!」


 もしくは、そこんの大魔獣に対しての危機感ゆえか。


「俄然……負ける訳にはいかなくなりましたなぁ! 後で、全て、聞かせていただきます、我が愛しのサラン!」


 ちょっぴり、嬉しくなってしもーたわ。

 声も渋くなってしもーて。


「ふふっ、良いじゃろう。好きなだけ語り合うとするのじゃ。じゃが、ドランも妾がいなくなった後のこと、全部語り尽くしてもらうのじゃ」


「もちろん、で、ございます!」


 ドラン、涙を浮かべるでないわ。

 妾も、涙ぐんでしまうじゃろ。


「君らぁは戦力になるんかぇ? ならんのなら、できるだけ遠くに行くことを勧めるのじゃが」


 妾は人間に声を掛ける。


 二人共、手足の具合と魔力の確認をしておったよあじゃな。


「足を治してくれたのは、あなた。私、ショーコ・ライトニング。最大の感謝を」


「腹も魔力も回復したのである……感謝する。なぜフランの母がここにいるのかは、本人も分からぬようだが……。我らは勇者である。我が名はウーサー・ペンダゴン。傷が治った以上、足手まといにはならん。協力して、あんのゴハンジラとかいう魔獣をぶっころなのである」


 はぇー?

 勇者が、龍と?

 まぁ妾もそうじゃったし、ここ150年くらいでアリな時代になったんかぇ?

 じゃが、ドランってしばらーく四天王じゃったよな?


 まぁ、魔獣討伐は魔族でも人間でも共通目的じゃろ。


「協力して戦うとゆーなら、妾のステータスを見せるのじゃ。ステータスオープン」


サラン・ハミンゴボッチ Lv1000

『龍妃』『癒龍』『千桜』『イージス』『エリクシール』『回復・防御魔法限界突破』『物理・魔法耐性特大』etc

力:30000 魔力:30000(+300000)


「見ての通り、妾に戦う力は無い。じゃが、『防御』のみなら『獄』魔王の一撃すら、『回復』のみなら四肢欠損すら治せる妾の『癒』の力が主となるのじゃ。存分に使うておくんなし。ちなみに、今ここにおる全員、フルパワーでやり合うても、10分は余裕じゃろうな」


 妾は支援者であり、守護者でもある。

 扱う者次第で、戦はどちらにも転ぶのじゃ。


「これで勝てる! ……のであるか? ええい、やるしかないのである! ジェイド! 貴様、ちゃんと見ているな!? そちらの声が聞こえてこないということは何らかの電波障害でも起きているのだろうが、機械は動かせているようなのである! その調子で雑魚どもを少しでも惹きつけておくのである。あとは……我ら全員でどうにかするのである!」


 ウーサーという勇者は、ヘンテコな鉄塊に叫んでおるが、誰も何も言わぬ……。

 ウェスト・ハーラにそのようなもの無かったし、昔のノース・イートにも無かったはずじゃ。

 流行に、ついていけんのぉ。妾だけ? 妾だけかぇ?


「ウーサーよ、あなたが指揮を執ると?」


 ドランも困り顔の妾をスルーなのじゃ。

 ふっ、妾もついに行き遅れたか。ふふっ。

 

「不満か? ドランよ。恐らくではあるが、サランの手助けがあれば、我が限界を超えて『時』魔法を使える。そうなら……どうなるか分かるであろう?」


「……フフッ、いいでしょう」


 なーんか、勇者と仲良しよのー。

 ちょびっとジェラシーじゃ。


「……それでは、お待たせしました。むしろ、なぜ待っていたのですか?」


 ドランは、妾の展開する『イージス』に張り付く大魔獣に語り掛けておる。


 いや、妾のイージスじゃよ?

 そう簡単に壊されて……。


「面白いシロモノだったのでナ。解析してイタのだ。ソーレ!」


 大魔獣、爪捩じ込んで、開けたのじゃ。

 なんつー無理矢理、というか無茶苦茶な魔獣。


 ドランが黒焦げにされたのも納得じゃ。


 妾も黒焦げにされちゃうんかのぅ?


「ドラン、だいじょうぶかぇ?」

「問題ありません。サラン。私達の力、存分に見せ付けてくれましょうぞ!」


「ドラン! ゆくのである! 思いっきり、我らの分も、ぶちかましてやれえぇぇ!」


「ハッ……かしこまりましたァ!」


 ウーサーの号令でドランが突撃してもーた。


 勇者な上に人間なのに、ドランはゆーこと聞くんじゃな。


 実は勇者が魔王とか?

 いや、それは無いのじゃ。


 ん?


「んんんんっ!? ングッ!? 魔力の減りが激し過ぎるぇえ! ……んにあぁぁあ!?」


 魔力が吸い出される!?

 なんじゃこの吸引力は!?


「ふははは! 改めて自己紹介するのである! 我の名は、ウーサー・ペンタゴン! 『時』の勇者である。『時』は魔力があればあるだけ強く止められるのである」


「ヌグぅ!? う、動けン!」


 大魔獣も、妾も身動きが取れんよーになったのじゃ。


「ふふっ、サランよ。たーっぷり、使わせてもらうのであーる!」


 あ、ちょっとそれは予想外の使いみ……ちぃいいいい!?


「んんンんんっ! 体のナカをゴリゴリ抉られるようなヌかれ方じゃ……んぅううっ!」


 魔力の吸引力が全然落ちないのじゃ。

 

 これ、わらわ、モタナイんじゃよ? ドラン、ちょっと頑張るんじゃ。


 ひぁっ!?


 マジで、お頼みもーす!


ーーーー フラン・ハミンゴボッチ ーーーー


 ママがきた!

 

 うれしー! でも、どーなってるの?


 ママが、うさーに、まりょくだけじゃないナニかヌかれてる気がするの。


 さいごは、へんなところ、イッちゃう気がするの!


 それは、マズいって、ジェイドさまもゆーてる気がするの!


 ほしのまなこも、うんうんゆーてる。


 だから、はやく、かいじゅーたおーす!


 しょこたんが、かいじゅーのおめめツンツンしてる。

 あと、背中のピカピカも、見えないツルギでスッパスッパしてる!


「ここが分水嶺。ヨジラ……いえ、ゴハンジラのみに全力を注げるなら、あなたの攻撃手段くらい、潰せるわ」


 なんかしょこたん、ドヤ顔してる。

 なんか、かわいー。

 あとで言ってあげよ。


 まずは、フランもおてつだい。

 パパ、かいじゅーにブレスしてるけど、ぜんぜん効いてなさそーだから。


「パパ! フランも、てつだう! アレ、りべーんじ!」

「ぬぅ、本当はフランに手伝わせたくはありませんが、他に術は無さそうですな。分かりました。行きますよ、フラン!」


 ふっふーん!

 さいしゅーおーぎ!

 ぶとーかいのリベンジ!


 パパがおソラに大きなブレス。

 フランが腐乱をネリネリー。


 ジェイドさまよりなまえ、さずかったひっさつわざ!


「すべてを溶かせ。マジック・アシッド!」


 すべてを溶かす、フランのまほー。


 うけてみろ! パパをイジめたバツだもん!


ーーーー ドラン・ハミンゴボッチ ーーーー


 サラン、フラン、ウーサー、ショーコを回収した私は空へと羽ばたきます。


 ヨジラ改めゴハンジラは、ウーサーの時魔法により完全に動きを停めております。


 それでも背ビレから光線を放ってきたのですが、それは全てショーコが掻き消してくれています。


「サラン、あなたの力、凄すぎるわ。『高貴なる死神』が使いたい放題なんて……。光線は私に任せて」


 サランのイージスをいとも容易く貫通する光線でしたが、ショーコが居れば問題無いでしょうな。


 サラン、悲しそうな顔をしないで下さいませ。


 あなたはそこに居るだけで良いのです。


 しかし、見える大地の全てが腐食しているにも関わらず、ゴハンジラだけ無傷で立っているとは。


 湯気らしきものは出ているので、少しずつは溶けているのでしょうが……フランの足を喰われたことが原因でしょうな。


「直接、殴りに、行くかぇ? 少しなら……うぐっ、フランの最終奥義の中でも、溶けずに立てるじゃろう」


 悶え、苦悶の表情を必死に誤魔化すサランでございます。


 これ以上の負担は、サランにとって良くはありません。


 大人しくステイしておいてくださいませ。


 しかしながら、ゴハンジラの最期は突然でした。


「グゴゴァァァア!」


 突然、右足から溶け始めました。


「よくもぉ! ヨクモォー! キサマァ! 最期くらい、名を名乗れェィ!」


 ゴハンジラはしばし沈黙。


 そして、呟きます。


「魔王、ジェイド・フューチャーか。ノース・イートの魔王だト? この、バケモノめ。ごふっ!?」


 ゴハンジラは、口から血を吹き出し、前のめりに倒れ、フランの魔法で腐る大地に沈みました。


 一体、なんだったのでしょう?


 すると、私の背中に、見えない何かが乗りました。


 すぐに姿を見せます。


 蜘蛛型の、機械?


『〘通信障害、回復済。通信、開始シマス〙よくやった、ドラン、フラン。そしてサランよ』


 おぉ、やはりジェイド様でしたか。

 こうして再び背に乗っていただけるとは、感無量でございます。


『事情は何となしに把握している。我が名はジェイド・フューチャー。ノース・イートの魔王である。簡易の紹介ではあるが、許せ、サランよ』


 サランは平伏して拝聴しております。

 フラン、サランを見習うのです。機械をペタペタと触りまくるのは止めるのです。


「いえ、勿体ない無き御言葉でございますじゃ」


『サランの処遇については、本陣帰投の後、追って明示する。なに、しっかりと時間を稼いでくれたのだ。悪いようにはせんし、希望も聞こう。大抵の話は聞いてやれるので、熟考しておけ』


「ハッ、有難き幸せにございまする」


 フランはサランに首を掴まれて俯せにさせられましたな。


 意識、失っているのではないでしょうか?


『で、ウーサー、お疲れ』


「我に対しては軽過ぎなのではないか!? とゆーか、最後、ナニか、やったのであるな?」


 ジェイド様に口答え。

 ウーサーとはやはり相容れないですな。


『ボクハ、ナニも、シテナイヨ』

「ウソつけぇ! 棒読みではないか!?」


『実際、僕自身は、何もしていない。フランの攻撃によりゴハンジラは絶命した。それは事実だからね』


「なーんか、納得いかないのであーる。何かはぐらかしているような……」


 ジェイド様の苦笑いが聞こえてきます。

 私ならば、苦笑いで済んでいることこそが幸運でございましょうな。


『さて、勇者ショーコ・ライトニングよ』


 しかし、ジェイド様の重厚なる声が響きます。

 先程までは余興。


 今は、正しく魔王の声でございます。


「ハイ……」


 声が震えるのを堪えきれておりませんな。

 いえ、ウーサーとのやり取りで油断させてからの……ということも考えられます。


 いやはや、さすがジェイド様でございますな。


『せっかく救出の後、ドランが希望する場所に下ろしてやるとネイ・ムセルに言ってやったのに、ヤツはそれを拒否した。よって、ショーコを捕虜とする』


「ジェイド、捕虜というのは……」


『当然、害を為すつもりはない。なぜなら、そちらの捕虜を存外に扱えば、我々の捕虜も同様に扱われるからだ』


 捕虜交換の為、ということでございますな。


「ジェイド様、差し出がましく思いますが1つ疑問がございます」


『ドラン、許可する。申せ』


「現在の戦況はどうなっているのでしょう?」


『……簡潔に言おう。1つ優勢、2つ拮抗、1つは読めん、最後はそもそも見えんから分からん』


 ジェイド様ですら、読めない?

 そして、分からない?


『ギリに星ノ眼を渡したはずなのだが、まるで映らんのだ。状況を考えるに、ギリが一番危険だ。何せ魔法禁止エリアに飛ばされたからな』


 魔導師であるギリが魔法禁止エリア……。

 それは不味い状況ですな。


『という訳だ。捕虜とは言え、拷問するようなことは無い。ウーサーとドランに饗してもらうが良い』


 敵勇者を饗すのですか……。

 いえ、ジェイド様のことです。

 きっと何かしらの考えがあるのでしょう。


「ハッ、かしこまりました」


 私はチラリと背中を見ます。


 膝を抱えて落ち込む勇者ショーコに、ウーサーやフランが何で饗そうか相談しておりました。


 サランはその話を聞いてヨダレを垂らしておりますな。


 やるからには、全力でオモテナシをしてみせましょう。


ーーーー Norinαらくがき ーーーー

サラン・ハミンゴボッチ。

『召』の勇者の遺物により生き返らせた上で召喚された設定。


由来:ドラン、フラン、次……サクラ……サランや!

そんな感じで名前は決定。


キャラ:よくある『のじゃロリ和服枠』

あとまぁまぁなM気質。

だってねぇ? そうじゃないとねぇ?

フラン産めないでしょ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る