21-1龍の墓場⑥

ーーーー ウーサー・ペンタゴン ーーーー


 もー、いやなのである!


「「「「ぼ く も 混 ぜ て よ !」」」」


 空から四ツ首の蛾がやってきた。

 でかい。とにかくでかい。

 ヨジラ程ではないが、あんの大質量の身体、どうやって維持しているのであるか?


「モースギュドラ……もう、ムリよ……」


 ショーコの泣きそうな声。

 コヤツがソレか。ヨジラと並ぶ2大怪獣。

 もう名前に関してはツッコむ気にもならんわ。


「ぱぱぁ……」


 フランはドランに抱っこされており、その手は不安でギュッと握られていた。

 ドランは、無言のまま、モースギュドラを見ていた。


「ええいショーコ! 泣きたいのは我も一緒である! モース・ギュドラが何なのか! 簡単に説明するのである!」


 大体の見当は付くが、それでも聞かずにはいられん。


「ヨジラ程の耐久力は無いわ。代わりに、機動力は見ての通り。龍の墓場の端にいるならまだしも……ここから逃げ切るのは私でも不可能。攻撃力? ヨジラと同等よ。タイプは違うけど。幻惑、毒、麻痺、爆発の燐粉による攻撃よ。耐性が無ければ、秒殺ね」


 空飛んじゃっているのだからな。


 しかもヨジラと同等の攻撃力であるか。


 ふっ。フフッ。


 笑わずにいられるか!


 笑わなかったら、泣くしかないんだぞ!


「ウーサー、フランを、お願いします」


 ドランが神妙な顔で、フランを我に託す。


「やだ! パパ! いかないで! いかない……で」


 フランの手は、勢いを失い、地面に向けて垂れた。


「任せるのである」


 我はこう言う他無かった。


 ドランは龍化して羽ばたいた。


ーーーー ドラン・ハミンゴボッチ ーーーー


 消耗している中、ヨジラと同等の戦力との連戦。


 これはキツイですなぁ。


 ですが、勝機はあります。


 それは1点、速攻でございます。


「お、龍じゃーん! ヨジラ、食べ損なったんだー。ウケるー」

 

 頭の1つが笑います。

 喋りは流暢で、子供のようですな。


 ですが、油断しているように見えます。


 私、今、フラフラしながら周囲を飛行、旋回しております。

 モースギュドラに少しずつ近付きます。

 幻惑、毒、麻痺が悪化するように見えるフリをしながら。


 周囲に漂う燐粉が、ソレなのでしょう。


 私には、まるで効果がありませんが。


 恐らくは『魔王の忠臣』の効果でありましょう。


 常々疑問でした。


 なぜ、フランは私の龍鱗を無効化し、私はフランの腐敗が効かないのか。


 私達だけではなく、周囲の者にまで効果が及び、オンとオフを任意で切り替えられるようになったのか。


 考えの末、辿り着いた答えこそ、ジェイド様より授けられた『魔王の忠臣』が『状態異常無効化』である、ということでございます。


 ジェイド様が『状態異常無効化』をお持ちであるなら、全て辻褄が合います。


 そして、今、それが証明されました。


 武闘会で、ジェイド様がギリに攻撃を受けて腕を石化されておられましたが、決勝戦で治しておられましたことから、演技であることは見抜いておりましたよ。

 アレは呪いの一種ですので、本来すぐには治せません。

 ギリは知った上で見逃しているようですし、そもそもなぜジェイド様のステータスにも表示されないのか謎でございます。


 ともかく、私もフランも、全く異常は発生しておりません。

 ウーサーや勇者ショーコが少し苦しそうに見えます。


 であるなら、モースギュドラが私の状態異常無効化に気付かない内に、致命傷を与える。


 これしか、勝機はございません。


 なに、大丈夫でございます。


 フランを1人ぼっちに等させません。


 それが、我が妻であり、フランの母であるサランとの約束ですから。


ーーーー ショーコ・ライトニング ーーーー


 頭痛がひどい。


 吐き気はどんどん悪化するし、身体も麻痺して、動かなくなってきた。


 それは私だけでなく、ウーサーも一緒。


「大丈夫……であるか、ショーコ? フラン……は大丈夫……そうであるな?」


「うさー? しょこたん? だいじょーぶ?」


「ええ、なんとか」


 私は強がる。もちろん、ウーサーも。


 だってそうでしょう?


 足を食べられ、満身創痍にも近いフランに気遣われて……。


 生きて帰れたら、私、フランのお世話を頑張るわ。


 大丈夫、私がフランの足の代わりになるの。


 これからはどこでも一緒。


 寝る時だって、お風呂だって、トイ――。


「ショーコ? おい、ショーコ! しっかりするのである!」


 ハッ! イケナイ、幻覚を見ていたようね。


「なかなか、刺激の強い幻惑ね。ウーサーも気を付けて」


「なるほど、我がジェイドにイチャイチャを迫るシーンがさっきから浮かんでは消えるのは幻惑であったか……」


 あら? ウーサー、少し残念そうね?


「うさー? ジェイドさま、とったら1日くさいくさいの刑だよ?」


 フランが怖い顔をしている。

 でもカワイイ。


「いやいや、我はこんなナリをしているが、中身はおっさんであるからな。勇者召喚の際に幼女にされたのだ。その内知ることになるだろうから言っておくが、我に男色の気は無い」


 中身、おっさん?

 アイみたいなモノかしら?

 あの子も元は精霊とか妖精の類だったようだし。


「まぁ、ジェイド、見た目が可愛いから、有りといえば有りとも言えんことも……ヴッ……」


 さすがに限界ね。

 その話はまたいずれ。

 まずは、私もウーサーとご一緒させてもらおうかしら。


「「ゔぉおぇええぇえぇ……」」


 勇者補整でキラキラにしておいたわ。


「うさー、しょこたん、よしよし」


 フランの回復魔法声とナデナデで何とか立ち直った私達は、ようやく空を見上げる。


 モースギュドラがケタケタと嘲笑いながら、ドランと追いかけっこをしているわ。


 ドランは、フランと違い、毒などの影響を受けているように見える。


 フラフラしながら、何度も接近しては、あらぬ方向へ体当たりし、見当違いの方向へブレスを放っていた。


 でも、少しずつ、近付いているように見えるわ。


 モースギュドラ、油断しているの?


「なんだぁー、弱っちいナー。期待してソンしたー」

「ドラゴンのクセにー!」

「キャッハハッ! ザーコザーコ!」

「マダ? 爆発燐粉、マダ使っちゃダメー?」


 四ツ首のそれぞれから声がする。


 でも、その瞬間を待ってたと言わんばかりに、ドランは四ツ首の1つの頭を丸齧りした。


「あ、ギーくん喰わレタ(笑)」

「ヤッタね! 幻覚ノ燐粉撒けるからって、ワタシ達の最上位優先奪っちゃってサー!」

「近いヨ、爆発燐粉撒けないョー」


 首が1つ喰われそうなのに、残りの三ツ首は関係無さそうね。

 ドランも、予想より硬いのか、なかなか顎を閉じれない。

 ギリギリと、潰れていく音は聞こえているから、時間の問題でしょうけど。


 果たして、それだけの時間、与えてくれるかしら?


「幻惑が変な方向にイッチャってギーくんに行ったンじゃナイ?」

「ま、ギーくんはギュドラの中でも最弱だしー」

「龍如きニヤラれるナんてギュドラの中の面汚シ」


 それにしても仲間とは言えズタボロに言うのね。

 モースギュドラの生態が知れて良かったのかしら?


「でモどうスル? 頭3つになっチャッた。三銃士? 三大天? 名前も、モースュドラになっちゃっタ」

「小っちゃいユにする必要なくなくナイ? その内新しいギーくん生えてくるデショ」


 道理で楽観的な訳。また生えてくるの?

 再生能力が高い。ヨジラといい、ここの魔獣はおかしい。


「ネェ、毒も、麻痺も、効イテナイ気がするヨ?」


 頭の1つがそう言って、空気が変わった。


 1番反応が早かったのはドラン。


 噛み付いている頭に、さらに力を加え、骨の潰れる音が響き始める。


「それ以上イケない! どーたん、そっちの翼! ワタシこっち食べル!」

「あいあいさー!」

「ネェ、ゆーちゃん、オレは? 爆発燐粉は? どーするノー!?」

「らーくんは、黙ってテ!!」

「黙れって、そンナ、あッ……」


 頭の2つがドランの翼を食い千切る。

 と、同時に、頭中から血を吹き出して弾け飛んだ。

 そして、ドランも頭の1つを噛み潰し、翼を失い、落下する。


「さすがドランである。ドランは『龍鱗』による反射ダメージを与えられるからな。モースとやらの攻撃力はヨジラ並なのであろう? それが頭に返ってきたからああなった。ヨジラは反射ダメージを受けつつ攻撃を繰り出していたということでもあるがな」


 ヨジラの攻撃が控えめに見えたのはそういうことだったのね。


 モースギュドラがヨジラ程の知能を持っていなくて良かったというべきなのかしら?


「ゆーちゃん、どーたん……」


 でも、それは頭1つになったモースギュドラを何とかしてからね。

 もう、らーくんという頭だけになったけれど、爆発燐粉持ち。

 1番厄介な頭が残ったわ。


「おまえらぁあ! オレの名を言ってミろォオオ!」


 そして、悲鳴とも呼べる叫び声。

 さぁ、これからどうしたものかしら?


ーーーー ウーサー・ペンタゴン ーーーー


 オレの名を言ってみろ?


 頭3つ無くなって名前がだいぶ短縮されたようであるな。


「言えるかぁあああ!」


 ヨジラと言い、モースと言い、どーして大怪獣シリーズなのであるか?


「ぬぁぜだー!?」 


 なぜと申すか? 笑止!


「言えぬものは言えぬ!」


 こう言う外無いのである!


「そウか」


 やけに聞き分けが良いのである。


「ナラバ、死ねェー!」


 やっぱそのパターンであるな!


 爆発燐粉による爆撃。


 威力は、ジェイドの爆弾並に見えるのである。


 あーこれ死ぬわーのヤツである。


「大丈夫でございます」


 しかし、落ちてきて足下すら覚束ないドランが我らを覆うように龍の姿のままで盾となる。


「ドランよ、お前……」


「勘違いしないでください、ウーサー。全てはジェイド様の命令によるもの。そして、フランの為で……ございます」


 ドランはそれきり口を閉じ、モースの全ての鱗粉爆撃を受け切った。


ーーーー Norinαらくがき ーーーー

モース・ギュドラさんご登場。

大きな蛾で、首が4つ。

新種の魔獣ですね! 誰がどう見ても!

首が1つになってしまったからと言って、名前の短縮はNGですよ?


爆発燐粉のイメージ?

モ○ハ○のプリプリ爆撃機をご想像していただければ結構です。


テテテテン♪

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