17-4第七試合~第八試合

ーーーー ウーサー・ペンタゴン ーーーー


 棄権したいのである。


 諦めたら試合はそこで終了だと、ルナによく言われているが、これは諦めても良い事案であろう。


 ジャックが目の前で四肢が千切れる寸前にされたのであるぞ?


 もちろん、ジェイドの回復魔法で元通りである。


 なんであるか?

 どこの魔王もこんなチートばかり使えるのであるか?


 それに打ち勝ったとでも言うのであるか『サウス・マータ』の勇者共は。


 我は溜め息を吐く。

 冷静に考える。


 棄権したいのである。

 だが、この試合だけは投げ出すことはできないのである。


 治されたジャックに『射矢角』なる称号が付与された。全く読めぬが。

 恐らく称号スキル。

 なぜジェイドが称号スキルを付与できるのか、なぜ四天王だけではなく我々にも付与するのか。


 それは分からんのである。


 だが、その理由を今聞くことは出来んのである。


 今のところ、きちんと試合に参加した者全てに付与されている。


 であれば、我もやらない訳にはいかないのである。


 我の『時』魔法は強力な分、制約がキツいのである。


 新たに戦う力を与えてくれると言うなら、何だって構わんのである。


 ただ、問題が1つある。


「さて、どうやって戦うものか……」


 正直、我がジェイドに対抗する手段が無いのである。


 覚醒魔力100万の魔王を相手に、我の魔力12万でどう対抗する?


 この割合では、せいぜい四肢の一本を止めるのが精一杯である。

 しかも、我が全力で動きながらとなれば、指一本が精々だろう。


 他に止められるところはあるのか?


 内臓は体の動きを止めてからでなければ止められぬ。

 脳など、最後の最後でしか止められぬ。


 うむ。


 詰んだのである。


「どうしたウーサー。もう始めるぞ?」


 ジェイドが心配そうな目で見てくる。


 そんな目で見られると自棄になりそうである。


 ん? 目?


 ちょっと待て、閃いたのである。

 それも二つだ。


 クックック、ジェイドよ。


 この思い付きでどこまでやれるかは知らんが、覚悟するのである!


 ジェイドが爆弾を投げた瞬間、我は時を止めた。


「んぉ!? 目が!? 瞼が動かん!」


 ジェイドの瞼の『時』を止めたのである。

 我も走る程度の力は残っている。


「む? 爆発も起きない? 爆弾と瞼の時を止めたか!?」


「ククク、そうである。爆弾丸ごとであれば体力も魔力も保たんが、そこはジャックのおかげであるな。雷管のみ止めれば良いだけである!」


 僅かな魔力でジェイドを封殺。

 しかし、当然これで終わりではないのである。


「では、今までの礼を込めて、この爆弾は返品させてもらう!」


 我はジェイドに爆弾を投げ返した。

 同時に爆弾の時止めを解除する。


 これで、いくらでもジェイドの爆弾に対応できるぞ。


「ふふ、見事だウーサー! だが甘いな!」


 ジェイドは広範囲に火魔法を放ち、爆弾を爆発させた。

 爆風はリングを返して防いでいる。


 ジェイドは爆弾を用意した。

 我は爆弾の時を止める。

 ジェイドは投げずに、自分の周囲に五個、十個と爆弾を並べていく。


 我が全ての爆弾に『時』魔法を掛けると思っているのか?


 我は全ての爆弾の時止めを解除した。


「ふはははは! さっさと自爆するのである!」

「そこか、ウーサー!」


 思わず声を出してしまった。

 そのせいで場所がバレたが、移動すれば良いだけよ。


 そんなことより、なぜ爆発しない。

 最初の爆弾は設置してだいぶ時間が……。

 まさか!?


「導火線式と言っただろう。火を付けなければ、そもそも爆発せん。それに、ジャックはどうやって負けた?」


 そんなことを言いながら火魔法を起動するな!


 爆弾をこっちに蹴るな!


 変なスピンを掛けて曲がるようにしなくて良い!


 爆弾に追尾されている!?


 ぬあ! 目の前に爆弾軍団!?


「ってジェイド、貴様、見ているな!? 瞼は『時』で止めているはず!?」


「見えている。『星ノ眼』というスキルでな」


 そもそも、通じていなかった!?


「ウーサー、惜しい闘いだった。素晴らしい着眼点だったぞ」


 前にも後ろにも爆弾、爆弾。


 右も左も、爆弾、爆弾。


 上からも、降ってきた。

 嗚呼、もう、どうにでもなるのである。


ーーーー ミシェリー・ヒート ーーーー


 ウサペン……御愁傷様やな。


 分かるで。


 爆弾に囲まれた上、最後に蓋をするように爆弾を被せられたそのキモチ。


 絶望の中の絶望って感じやったもんな。


「おい、ミシェリー貴様。我のことを分かったつもりの顔をしているが、笑いを堪えているようにしか見えんぞ」


 おっと、バレてもうた。


「あら、そう見えたのならごめんなさい。でもウーサー。あなた、一番被害無いじゃない。笑顔だし。そんなに嬉しい? 新しい称号スキル」


「後頭部がハゲて、背中が丸焦げになっても一番の軽傷者であるか。爆弾ドームの内側いっぱい時魔法を掛けて背中を丸めて蹲ったからな。よくあの程度で済んだ……。スキルは……ふふ。『時を翔る白兎』も悪くないが、予知魔法が再使用可能になったことが大きいのである。素晴らしい。今後の我の活躍に期待するが良い。そして……まぁ、頑張るのである」


 ウチの肩をポンと叩いてリングから降りよった。

 めっちゃご機嫌やん。

 ルンルンの足取りやで。


 傷は治っとるんやけど、背中の服がパックリ空いて半ケツ見えとんの気付いとんかいな。


 お、ルナが上着羽織らせた。

 ナイスフォローやな。


 ウチはリングに上がる。


 みんなの視線が心配一色やけど、ウチのやることはただ1つや。


 派手に負ける。


 そのための指令は確認したからなぁ。

 さっきのジェイド様とギリの試合でゆーとったもん。


『ふふっ、次はギリか。そろそろ頃合いだと思うのだが、どう思う?』

『もうしばらく先かと。ミシェリーとの試合辺りではないでしょうか?』

『ふむ、では……。派手に盛り上げていこうではないか!』


 ジェイド様、この武闘会を盛り上げるために本気出すんやろ。

 ただ負けるんやない。

 派手に本気でヤって負けるんや。


 どうやって?


 方法はあるんやで。


 闇の混合魔法でな、『邪なるバリア、ミラージュフォース』ってのがあるんよ。

 これに火魔法を混ぜて自分にかけると、相手の魔法を反射するんや。

 それも、相手が何の魔法使うても、火魔法に変換して反射するんやで。

 風魔法で反射したかったら、闇と風魔法の混合魔法になるんや。

 まぁ、闇魔法をベースに反射したい属性を混ぜ混ぜするっちゅーことやな。


 これをジェイド様に掛ける。


 闇に火と風を混ぜて、ジェイド様の爆発魔法を再現や。


 一回反射したらもう反射せぇへんからな。


 確実に、ウチが撃った魔法はウチに返ってくる。


 ふふ、これで派手に負けるんや。


 そうすれば、ジェイド様の爆風の餌食にならんでええし、一石二鳥や!


 回数増えたら魔力消費ヤバ過ぎて二、三日動けへんようになりそうやけど、この試合だけなら何とかするで! 意地やな。


「こちらの準備はもうできた。ミシェリーよ。もう、始めて良いのだな?」

「はい、それでは……派手にやりましょう。『焔帝』起動」


 ジェイド様は爆弾を用意して右手で持ち上げ、ウチは炎を蛇のように身体に纏わせて構える。


 ウチは炎を分裂させ、さらに巨大化させ、7匹の炎蛇竜を作り出す。


 テスタロッサ・セブンス・ドラゴン。


 ウチの最大火力や。

 こいつらを多角的に襲わせてスタートやで。


 さすがにいっぺんに襲ったらジェイド様も動き回らざるを得んみたいやな。


 にしても、逃げ回りながらでも爆弾ポイポイしてくるんは流石やで。

 ジェイド様の手を離れた瞬間に火魔法ぶつけて爆発させてもろーたけどな。

 それでも十字爆風がウチの障壁貫通してくるもんやからヒヤヒヤやけど。

 奇跡的にウチ、まだ無傷やもん。


 ん? 無傷?


 まさか……。


 ウチはステータスを確認する。

 戦闘中にステータス見るなんて普通せえへんけど、今は普通やないし、ウチの予想通りなら見ても大したことない。


「ジェイド様……なぜ私に『邪なるバリア、ミラージュフォース(闇+火)』を」


 ウチに反射魔法が掛かっとる。

 ジェイド様にだけ聞こえる声で聞いたけど、返答はまさかの内容やった。


「我にも『邪なるバリア、ミラージュフォース(闇+火+風)』を掛けているだろう? つまり、そういうことだ」


 ウチが負ける気やからジェイド様も負ける気やて?


 なんでなん!?

 なんでジェイド様が負ける気なん!?


 はっ!

 まさか強過ぎたら、全部ジェイド様1人でええんちゃうかな? ってなりかねんから?

 それともウチならジェイド様に勝てるで、って人類軍に知らしめるため?


 どっちにしろダメや。

 ウチには荷が重過ぎるわぁ。

 他の魔王様ならともかく、ジェイド様の代わりは絶対無理や。


 帝都壊滅の一撃をいさめる力なんてウチにはあらへん!


「ジェイド様、申し訳ありませんが、その勝負。私に譲っていただきます」


 試合に負ける!

 それがウチの勝利や!


「むむ? そうか……では我も全力で勝ちに行こう!」


 ジェイド様、ボソッと「僕、もう疲れたんだけど」とか言わんでええで。


 ウチ、こう見えて耳がかなり良ぇんやで。


 まさかジェイド様がウチと一緒で喋りを変えとるとは思わんかったけど、魔王様のお仕事はしっかりヤってもらいますぅ。


 っちゅーか、調印式で素を出し過ぎちゃう?

 ルナに突然「やっほー、お疲れ」なんて声かけられた時はホンマビックリしたで。


 でもなんか嬉しかったわぁ。

 ジェイド様も苦労人やなんて、この会合と調印式で初めて知ったわぁ。


 それをウチにも、ほんの少し見せてくれたんが、ちょっと嬉しいんや。


 ウチの最初の想いは正しかったんやな。


 どんな中身でも、ジェイド様になら、身も心も捧げてええんちゃうかなって。


 でもな、この勝負は別や。

 何としても負ける。


 でもどうやって負けよ?


 今、まぁまぁな膠着状態になっとる。


 ジェイド様の爆弾は手が離れた瞬間ウチが爆破しとるし、ウチの炎竜の攻撃は全部避けられとる。


 ジェイド様、その回避なんなん?

 7面攻撃やで?

 回避にステータス全振りしとん?


 もっとも、ジェイド様の爆発させた爆弾のダメージはちゃっかり回復させとるな。

 自分の技や魔法は反射せぇへんもん。

 自爆はいっちゃんカッコ悪いで。


 にしても、派手は派手やけど膠着したまんまはちょっとダレるもんなぁ。


 あとウチの技でジェイド様に効きそうなん1つしかないんやけど。


 それ使うてもーたらウチ、ホンマまともに動けんよーに……。


 あ、ええやん。


 動けんでえぇやん。


 ウチが動けへんかったら、ウチが勝っても負けてもジェイド様の『勝ち』は無ぉなるやん。


「ジェイド様、コレを使えばまともに走ることができないくらい動けなくなりますすので、あとはヨロシクお願いします」

「おい待てミシェ……」


 ミシェリー卑怯だよ、なんて聞こえへんし聞いてへんもん。


 急にカワイイ喋りになってもウチには効かへんもん。


 怒っとらんからな?

 勇者にだけやのぅて、ウチにも優しくしてくれへんことを怒っとる訳やないからな?


「『焔帝』最終奥義、『フレンドリーファイア』起動」


 ウチの指先にロウソクみたいな小さな火が灯る。

 優しくジェイド様に向けて吹き掛けると、小さな火は羽虫が飛ぶように舞う。


 敵味方問わず、ウチのとある感情が一番強い者に向けて、この火は飛んでいくんや。


 対ウサペン用に『憎悪』の感情を溜め込んどったんやけど、もう薄れたしなぁ。

 とりあえず今は一番『慕っている者』に向けて飛ばしとる。

 何だかんだゆーても、ウチが一番慕っとるんはジェイド様やからな。


 ん?

 あら?

 ジェイド様から逸れて……どこ行くん?


 え? なんでラナに肩借りとるギリに翔んで……。


 あかーん!


 普通にあの火に当たったら死ぬ!


 ウチは慌ててギリに反射魔法を掛けた。


 結果……。


「ミシェリー様、対戦相手以外に魔法を放ったため反則負け」


 審判のテンテンに言われたウチは無傷。


 なんでって?


 ジェイド様が、ギリから跳ね返されたウチの奥義を空に蹴り上げたからや。


「ふぅ、反射魔法が無ければ危ないところだった。さすがに今の魔法はミシェリーが受けたとしても危うかっただろう。武闘会で本気を出さねばならないのは当然だが、全力を出す必要は無いのだぞ? まぁ結果として盛り上がったから良いがな」


 いや、ウチ火属性の耐性高いから自分の魔法反射しても掠り傷程度で済むんやけど。


 ちゅーか、1回反射された魔法は、2度と反射されへん性質を持つんやけどなぁ。


 ジェイド様、どうやって蹴り上げたん?


 しかも、この『【焔雪煌都】ユキノハレーション』って称号スキルなんやねん。


 あかん、頭パーになりそうや。


 後で、いや、明日から本気出して考えよ。


ーーーー Norinαらくがき ーーーー

新称号スキル一覧由来。

【時を翔る白兎】:時をかける〇〇&因幡の白兎

【焔雪煌都】ユキノハレーション:ス○ハレ






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