17-3第四試合~第六試合

ーーーー ラナ・ウェイバー ーーーー


 私は謎の覆面料理長。


 ラナ・ウェイバー?

 そんな元勇者は知らないの。


 これから、ジェイド様を華麗に倒すの。


 倒したいの。


 倒せたら良いな。


 そんなことを思った私、バカなの。


 さっきまで、目の前で繰り広げられた闘い。


 もはや伝説……いや、神話級なの。


 2体の龍を相手に、ものの数分で討伐勝利。


 噂には聞いていたの。

 歴代最強の魔王、バウアー以上だって。


 その噂は真実だって、見せつけられたの。


 それでも私は挑まなければならない。


 さっき、調印式の直前にね、ジャックとウーサーに会って話をしたの。


 私が生きていたことに驚いて、二人とも涙を浮かべるくらい喜んでくれたの。

 私が二人の面倒を最初だけ見てあげた勇者だったから。

 すぐに最前線に送り込まれてバウアーにやられちゃったの。


 とても懐かしい。

 泣いてくれても良かったのに。

 私だけが泣いて、バカみたいなの。


 二人とも、黙って抱き合ってくれたの。

少しの時間だけ、少しだけしか話せていないけど、それで二人は悟ってくれたの。

 大丈夫だって。

 もう、これから時間はたくさんあるからって。

 先にルナと私を引き合わせてくれたの。


 ルナとは初対面。

 本来、私の次の勇者だもの。


 話すと言っても、共通点はジェイド様くらい?


 でもね、ジェイド様のとんでもない情報を聞いたの。

 ルナからすれば、他愛もない話なの。


 ジェイド様は私とは違うけど他の勇者達と同じ元地球人。

 そして、私やギリ君の作る料理は地球料理が基本。

 地球からの勇者が飛び抜けて多いから、地球の情報って多いの。

 しかも、ジェイド様は博識。

 だから、きっと料理も詳しいはずだって。


 私は決心したの。


 挑むの。最強に。


 私の望みは『現代地球の新レシピ』だから。


 命を賭して、推して参るの。


ーーーー ギリ・ウーラ ーーーー


 無茶しおって。


 料理長ラナは、ジェイド様に挑み、徹底的に爆破された。


 威力は大したことないため、腕や血肉が吹き飛ぶことにはなっていないが……。


 煤だらけだな。


 まぁ、ハンデとして爆破の見える化のため、3秒後に爆発する爆弾の使用、そして十字爆風化、とは言うが、全くハンデでは無いし、よく1分もったと褒めてやりたいくらいだ。


 見ろ。会場の者共も、満身創痍のラナにスタンディングオベーションだ。


 さすが『逃』の勇者。

 広いとは言えんリングでよく逃げ回った。


 最後、ジェイド様の『十字爆弾クルクルロシアンルーレット』なる爆破魔法さえ無ければ、ラナが勝っていたとさえ思う。


 治療されたラナがこちらに歩んでくる。


「私はダメだったの。『【配管工作】スーパードカンドライバーズ』ってなに? こんなの、私いらないの……。だからギリくん、あとは任せたの」


 私は手を挙げ、そこにラナがハイタッチする。


「任せておけ」


 私はそう言って、リングに上がった。


「ふふっ、次はギリか。そろそろ頃合いだと思うのだが、どう思う?」


 頃合い? 何の話だ?

 まさか、まだ本気ではないと言うのか!?

 そろそろ本気を出すと?


 待て、さっきのドランとフランの試合では本気じゃなかったと言うのか?


 …………。答えは決まっている。


「もうしばらく先かと。ミシェリーとの試合辺りではないでしょうか?」


 こんなところで本気を出されては困るからな。


「ふむ、では……。派手に盛り上げていこうではないか!」


 いや、ジェイド様!

 こんなところで本気を出されては、本当に困るのだが!


 四隅の火、水、土、金の柱は何なのだ!?


「4つの側面と天井面に、透明な障壁を設置した。これで派手な魔法を発動し放題だ。さぁ、どこからでもかかってこい!」


 逃げ場が無い!?


 全方位爆破されたらひとたまりも……。


「巨大十字爆弾、火力最大! まずはこれを耐えてみよ」


 私と同じ背丈の爆弾がいくつもいくつも!?


 無理だ! こんなの! 死ぬだろう!?


「我のことは案ずるな。アンチ安全地帯はあるからな」


 誰もジェイド様の心配などしておらん!

 何語で話しているのだ!?

 分かる言葉で話せぉうわぁ!


 眩い爆風が迫る。

 私は風魔法と氷魔法で壁を作り、土魔法でリングをひっくり返して盾とする。


 魔法で作った壁は消し飛んだが、リングの壁はボロボロになったが耐えた。


 耐える……のか?


「ほぅ。畳返しか。よく耐えたなギリよ。だが……まだまだこれからよ」


 ジェイド様が何を言っているのかよく分からんが、あの爆破魔法の対処法を発見した。


 私は爆風を、土魔法でリングを捲って盾にする。

 その場には留まらず、どんどんリングを捲って移動してジェイド様に迫る。


 私の姿は見えていないが、リングが捲れるので場所は分かるだろう。


「良い策だが、場所がバレバレだぞ?」


 ジェイド様は先読みして、強力な爆風を捲った直後のリングに当ててくる。

 一瞬で消し炭となったが、そこに私はいない!


「私はここだ! ジェイド様、ゆくぞ! 闇魔法奥義! サターンナイトフィーバー!」


 ジェイド様の前では、私の魔法など児戯にも等しい。


 しかし、この魔法だけはどのような者にも通じる。


 毒、睡眠、麻痺、狂乱等々のありとあらゆる状態異常の中からランダムで1つ付与する魔法だ。


 しかも、この魔法はどれだけの耐性を持っていようが関係ない。


 耐性貫通、当たりさえすれば確定付与の奥義。


 私も数日魔法が使えなくなるため、実戦で使うことは無かったが、今なら使える。


 そして、この魔法を防ぐには、逃げるか、『状態異常無効化』しかない。


 常々疑問だった。


 なぜ、ジェイド様には魅惑や毒、ドランの龍鱗やフランのダメージを受けないのか。


 これが効かないのならば、『状態異常無効化』を持っている。


 なぜステータスに表示されないのかは分からないが、この一撃で全てを暴く!


「ジェイド様! かくごぉっぐふっ!」


 ジェイド様が爆発で飛ばしてきた無数の石片が、腹に直撃する。


 奥義の影響で魔法障壁はもう張れない。


 ノウンのように肉体が出来上がっている訳ではないから、もう闘うことはできんな。


「ふっ、よく……やった。ギリ……よ……ぐああああっ!?」


 なんだと!?

 私の魔法がジェイド様に効いている!


 何の状態異常だ?

 むむ、石化か!?

 ジェイド様の左腕が石になってゆく。


 ふふふ、そうか……。

 状態異常無効化ではなく、バカみたく状態異常耐性が高いだけなのだな?

 くくく、であれば……やれることはまだまだある!


 しかしだ。

 腕だけが石化……有り得るか?


 ……まぁ良い。


「ギリくん……」


 負けた私を心配そうに見る料理長ラナ。

 私は歩いて近寄り、手を上げてすれ違う。


 そして、小気味良い音で手と手を鳴らす。


 ハイタッチだ。


「ハーッハーッハッ! しばらくは『【魔王方陣】グルメグルーヴ』という称号スキルに免じて、色々と認め、見逃してやろう!」


 少しだけ、ほんの少しだけだが、今は魔王になるのを目指すより、料理の方が楽しいからな。


ーーーー ジャック・ザ・ニッパー ーーーー


 四天王ギリがジェイドの爆弾対処法を発見した上に、左腕を石にさせやがった。


 負けちまったが、大金星だろ。


 現に俺様がリングに上がるまで惜しみ無い拍手が鳴り続いてやがった。


 ドランのワイバーンモバイルシステムとやらで、全世界に中継されてるみたいだしな。


「おいジェイド。腕はそのまんまで良いのかよ」


 ジェイドの左腕は石化したままだ。

 ハンデのつもりか?


「うん? いつでも治せるが、このままの方が盛り上がるだろう? 我の全力とやりたいのであれば治すが……」


 ナめやがって。

 と言いたいところだが、全力でやっても瞬殺だろうしな。

 このままで良いか。


 そういや、1つ聞きたいことあったんだよな。


「1つ良いか?」

「なんだ。やっぱり治した方が良いのか?」

「いや。『異界』の勇者だ。戦ったのはジェイドだけだろ? どーなんだ? 強いのか? 俺様より」


 ジェイドは少し悩む。

 まぁ俺様とガチで戦ったことねぇから、聞いても分かんねぇか。


「勇者は特殊な能力がいくつかある。それを考慮に入れればだが……『異界』の勇者の方が遥かに強いな」


 んぁ?


「ジェイドォ、前言撤回だ。腕ぇ治せ。俺様の実力、きちっと見せてやらぁ」


「やる気になってくれたようで何よりだ。そうでなければ盛り上がらんからな。腕はこのままで良い。せっかくの勝ち抜き戦だ。ダメージを引き継いでも問題無かろう」


 後悔すんなよ。


「あぁ、分かった。じゃあ、殺さない程度に殺してやるぁ!」


 言ってる意味が分かんねぇと思われるが、俺様にとっちゃ間違いじゃねぇ。


 俺様は相手に対する『殺意』さえあれば覚醒条件を満たせるからな。


 元々殺す気で闘わねぇとジェイドには手も足も出ねぇだろぉから、どうやって殺意を練ろうか考えてた。

 それが省けて良かった……のか?


 まぁ良い。


 こうなっちまったら……。


「楽しもうぜぇ、ジェイド。勇者と魔王の殺し合いだぁ」


 あとは楽しむだけだしな。


「良い足だが、まだまだ甘いぞ?」


 俺様が懐まであと一歩に迫ったところで薄い膜みたいなもんにぶつかり、爆発して吹っ飛ばされる。

 俺様は空中で体を捻り、何とか上手く着地した。


「チッ、見える爆弾縛りじゃねぇのかよ」

「いや、これは元々我の体の周囲に展開している防御魔法……みたいなモノだ。魔法と錬金術を複合展開している」


 近付いたらドカンかよ。

 防御魔法だったら斬れるんだが、ジェイドの魔法は普通と違ぇからな。


 ……いや、今はいくら失敗しても良いんだから、斬れるだけ斬ってやっか。


 俺様はもう一度ジェイドに近寄ろうとするが、同じようにはさせてくんねぇ。


 目の前は爆弾だらけだ。


 横に切る。

 上だけ爆発して、下がその後誘爆した。

 爆風は多少マシ。

 至近距離だと痛ぇ。


 縦に切る。

 左右どっちも爆発した。

 爆風は熱いが、痛みはこっちの方がマシ。


 三つに切る。

 四つに切る。


 体力の続く限り切り続けた。


 ジェイドは爆弾を無限に投げてくる。

 右手だけで投げてくるからまだやり易いな。


 ただ、もう爆発しねぇ。

 爆弾の、仕組みを理解した。


 爆弾の上の一部。

 ここを切れば爆発しねぇ。

 まぁ、爆弾の上が妙に出っ張ってっからな。

 弱点は最初から見えてた訳かよ。


「見事だ、ジャックよ。よくぞこの爆弾の弱点を発見した」


 褒めんならもう爆弾投げてくんな!

 動けねぇんだよ!


「導火線式の雷管だからな。そこさえ切れば終了だ。しかし、周囲をよく見よ」


 俺様はチラッと周囲を見た。


「俺様が叩き斬った爆弾の成れの果てしか見えねぇなぁ!」

「こうすると、どうなると思う?」


ジェイドは爆弾を投げ続けながら火魔法を起動しやがった。


「あ……」


 おいバカやめろさすがにそれは死ぬ可能性というか死ぬしかないというか粉々に……。


「案ずるな。見た目は派手だが命だけは助かる威力だ」

「全然安心じゃねぇ! ふぁっ!?」


 火魔法は発射されていた。

 ゆっくり、俺様が切り捨てた爆弾達にな。


 どれだけ爆発したのか、俺様は知らねぇ。

 聞こえたのは俺様に迫り来る三発の爆発だけだ。


 ルナ曰く、花火のフィナーレみたいでキレイだったとよ。


 俺様にも『射矢角』とか言う称号スキルが付与された。


 だから許すって訳でもねぇが、ジェイドてめぇ絶対いつかこの借り返してやっからな!


ーーーー Norinαらくがき ーーーー

ジェイド、○ンバー○ン仕様。

でも、ほ○の○ー○ィのコピーボムの方が分かりやすいかも。


新称号スキル一覧由来

【炉心融解】マリッジゴールド:溶けるロリ心、マリッジブルー&マリーゴールド

【生贄之絆】:オリジナルなので割愛

【配管工作】スーパードカンドライバーズ:配管工で有名なあの方々の説明要る?

【魔王方陣】グルメグルーヴ:魔王にできないから攻め立てます。略しちゃダメよ!

【射矢角】:敢えて振り仮名無し。なので、現時点ではジャックも読めていません。





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